令子さんと彩の国さいたま芸術劇場へ向かい、14時過ぎに到着した。トリシャ・ブラウンの今までの公演のポスター展もやっており、どのグラフィックデザインも全く違う表情のものでおもしろかった。
15時半から、ずっと心待ちにしていたトリシャ・ブラウン・ダンス・カンパニーが開演。全ての明かりが消灯し、《Accumulation with Talking plus Watermotor》の映像が放映された。休憩をはさみ、《Set and Reset》(振付:トリシャ・ブラウン、美術+衣装:ロバート・ラウシェンバーグ、音楽:ローリー・アンダーソン)が始まった。私が今まで思い込んでいたダンスという領域を超えたパフォーマンスは、虜にさせ、一瞬も見逃すまいと目が釘付けになった。あの人たちは本当に人間なのか?と思うほど超越しているものを持っており、人形にしか見えなかった。見えないワイヤーにでも吊られている操り人形のように、宙をゆっくり回り、飛び、駆けていた。次に、《Present Tense》(振付:トリシャ・ブラウン、音楽:ジョン・ケージ、美術+衣装:エリザベス・マーレイ)は、ダンサーから音が出ているように私の目には映った。最後の作品《Groove and Countermove》(振付:トリシャ・ブラウン、音楽:デイヴ・ダグラス、美術+衣装:テリー・ウィンタース)は、一番エキサイトした作品で、クレヨン箱から飛び出してきたかのようにイエロー、ピンク、ブルー、グレー、パープル・・・と色鮮やかな衣装でパフォーマンスを繰り広げ、私はなんだかメルヘンな世界に行っていた。「股関節が柔らかい」と四谷の研究会で話が出たが、ずっと見ているとその柔軟さがはっきり捉えることができた。カーテンコールでは、オレンジ色の衣装を着たコレオグラファーのトリシャさんと素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたダンサーの方々が横一列に手を繋ぎ何度も何度も挨拶をし、観客は拍手を止めなかった。公演後、舞台裏に挨拶に行き、皆目をキラキラさせてベージュのワンピースを着て出てきたトリシャさんに興奮冷めやらぬ気持ちを各々伝えていた。私は「ありがとう!」とシンプルな言葉しか言えなかったが、あの時はなんだか感謝の気持ちでいっぱいだった。
トリシャさんはこの後、秘書のミッシェルさんと中谷芙二子さんと田坂さんと共に、ときの忘れものにもう一度来廊してくれた。オープニングでは、展示を落ち着いて見られなかったので、トリシャさんとミッシェルさんは2人で、この展示をじっくりと観覧していた。その後、私たちは「梅の花」に行き、トリシャさんは「Tofu Festival」と言って豆腐料理を堪能していた。今までの舞台でどこのホールが素晴らしかったか綿貫さんが聞くと、「パリオペラ座のガルニエ」と答えていた。トリシャさんは、「動いている車の上でも踊ったこともあるのよ。」と言っていた。
お別れのとき、トリシャは優しい声で「バーイ、レイコ」とハグしてくれた。名前を覚えてもらっていることにも感動し、一緒に過ごした時間は短かったものの、私たちは「世界うるるん滞在記」の別れのあのシーンのように名残惜しかった。同時にメカスさんのことを思い出した。また、トリシャ・ブラウン・ダンス・カンパニーに来日してもらえるよう、どなたにお願いをしたらいいのだろう・・・。