わがときの忘れものの存在理由の一つは、建築家・磯崎新先生の紙の上の仕事を残すことにあると思っています。
私が、磯崎新先生の版画「ヴィッラ」「空洞としての美術館」をエディションしてからかれこれ30年になります。その間に手がけた(エディションした)版画作品は約200点にのぼり、現在も磯崎新連刊画文集「百二十の見えない都市」の第二期を制作中です。
その磯崎新先生ですが、このところ国内での活動はほとんどメディアに露出していません。
磯崎新アトリエの活動の主軸が海外に移っていることがその大きな理由ですが、では海外ではどのようなプロジェクトが進行しているのか、先日大分のアートプラザで開催されている磯崎新展に植田実さんと出かけてじっくりと拝見してきました(上掲写真)。
そのレポートは、いずれ植田さんに書いていただくとして、磯崎ファンには嬉しい2008年になりそうです。
お正月、磯崎新先生から届いた手紙には、今年喜寿を迎えたのを機に「7つの場所と機会をとらえて、それぞれに、7つの主題の仕事から7作品を自選」した発表計画が記されていました。
「私自身は西欧由来の人文主義の末裔たらんとして、〈建築〉を実務をつうじて思考する道を歩んでまいりました。ある時期から、中国宋代以降の文人達の生きざまにも深く共感し、常に建築家の枠組みを超えるべく仕事の幅をひろげたいとも考えています。この機会に、これら全仕事のスペクトラムを御覧いただくべく自選して、それを展覧会、会議、印刷物、などとして、お伝えします。」とあります。
以下がその7つの場所と内容です。
2月中旬: アートプラザ(磯崎新展示室) 大分
『7つのヴィッラ』展(2月16日~2009年1月末)
4月下旬: 群馬県立近代美術館 高崎
―33年ぶりに本館が改装され、現代美術ギャラリーに再編されました。
『7つのアート・ミュゼアム』展(4月26日~6月22日)
―現代美術の置かれる場と空間と制度の半世紀にわたる探求。他に、『7つのミュゼアム・プロジェクト』および『7つの茶席』を同時に展示します。
6月上旬: ブレラ通りのイソザキ・アトリエ ミラノ
―10年にわたって賛否両論の渦中におかれたウフィツィ美術館のロッジアが本年着工することになります。『7つのUnbuilt』を発表します。
―旧来の世界の組み換えを提案したために実現することのなかったアイディア。
7月下旬: ハラミュージアムARC 伊香保
―これまでの現代美術棟に古典美術ギャラリーと収蔵庫を増築、あらたに彫刻庭園を加えて開館(7月26日)、コレクションが広い視野のもとに展示できることになりました。その設計及びコレクション展示に参画。磯崎新『7つのキューレーション』展を発表します(7月26日~9月23日)。
―領域を横断する協同作業、世代・国籍を超える展覧会など。
9月上旬: 中国国際建築芸術実践展 南京
―世界の15ヶ所から、25人の建築家を招待して、実際に建物をつくり、展覧会に見立てる。美術館、会議場、クラブ、ホテルに加えて20棟のヴィッラができます。建築=芸術を具現化する過程の実践がそのまま展覧会になるという現代中国が世界に発信するもっとも野心的な企画のひとつです。そのオープニングと同時に『7つのBuilt』をここで発表します。その他に、『7つの中近東プロジェクト』展が組まれます。―中国では昨年暮に深セン文化中心に(ライブラリーとコンサートホール)、中央美術学院美術館(北京)がともに完工。本年に正式開館します。
10月下旬: 有度山
―1991年にはじまり、2000年にいたる10年間、世界の諸都市において、ANY…ではじまるタイトルで、10回の〈建築〉をめぐる討議がなされました。英文の記録に加えて、この程日本語の全訳が多くのコメントを加えて刊行されました。前世紀最後の10年間の世界における思想が集約されています。これをふまえて、提案し、運営をしたひとりとして、21世紀にむけて建築的思考をはじめた世代の方々と討論する機会をつくりたいと考えています。『7冊の著作』および『7回のコンペティション・ジュリー、―7人の建築家を発見した』を発表します。
12月中旬: イソザキ・アテア(門) ビルバオ
―バスクの都市、ビルバオの旧市街の入口に上記の名称のついている都市広場ができあがります。グッゲンハイム・ビルバオのすぐ隣。ローマのスパニッシュステップと同じぐらいの大きさの階段広場。チリーダの遺作(最大のもの)が中央に設置されています。
『7つのOddデザイン』をみてもらいます。
―建築の極く一部、建築でない建築、消えることが予定されている建築、そんなプロジェクトのデザインです。
国内4箇所、海外3箇所ですが、全部を制覇とまではいかないまでも可能な限り見て回りたい。
ツアーも計画したいと思っていますので、ご期待ください。
磯崎新 Arata ISOZAKI磯崎新「還元 CLINIC」
1983 シルクスクリーン(刷り:石田了一)
Image Size 55.0×55.0cm
Sheet Size 90.0×63.0cm
Ed.75 Signed
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ご紹介する作品は1983年に制作された「還元」シリーズの中の一点です。
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