細江英公G3細江英公
Parque Guell 3
  1977
  Vintage Gelatin Silver Print
  37.1x55.0cm signed

ときの忘れものでは、写真の展覧会が増えてきましたが、先日、コレクターの坂本さんがホームページの掲示板に写真に関する質問を投稿され、それに対して、先日の細江英公展のギャラリートークで対談相手として細江先生からユニークなトークをひきだしてくださった原茂さんが的確なコメントを寄せてくださいました。転載させていただきます。
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坂本さんからの投稿
 基礎知識でたいへん申し訳ないのですが教えてください。
ヴィンテージプリントの貴重性がよくわかりません。写真は撮った当時のプリントが最高なのでしょうか。後のプリントが良いという可能性はないのでしょうか。またヴィンテージプリントというのは、1部だけなのでしょうか。
それともその時に100枚プリントすればすべてがヴィンテージプリントになるのでしょうか。
その作家の代表作のモダンプリントのほうが通常作品より価値があるのではないでしょうか。
版画も最初は複数あるのに価値があるのかなどいろいろな疑問があったと思います。写真もいろいろと疑問を持っている人が多いのではないでしょうか。

原茂さんの投稿
 ヴィンテージ・プリントの貴重性ということですが、これについては、たとえば、希少性、資料性、芸術性といったいくつかの視点から考えることができるかと思います。
 希少性ということでいえば、現在巨匠と言われている写真家たちが活躍した時代は、写真を美術品として販売することは一般的ではなく、版画のように枚数を決めてプリントするということはありませんでした。ですからヴィンテージ・プリントとは最初期の数枚(印刷原稿用、展示用、プレゼント用、保管用等)ということになります。希少性が高く高価で取引されることになります。
 その後、写真が美術品として取り扱われるようになると、同じ「プリント」として、版画の販売方法が参考にされるようになります。限定部数(エディション)を決めて、それ以上はプリントしないという形(厳密にはネガにハサミを入れる)を取って、希少性を担保するわけです(もっとも、今日でも限定部数を定めない写真家もいます)。この場合には、そのエディションされたものがヴィンテージといっていいわけですが、それ以外にはプリントが存在しないわけなので、改めてヴィンテージ・プリントとは言わない場合が多いようです。あくまでも、他に多くのプリント(作家が後にプリントしたモダン・プリント、作家以外のプリンターがプリントしたモダン・プリント、作家の死後著作権者の許可を得てプリントされたエステート・プリント等)がある中で、作家が撮影したと同時ないしは極めて近い期間にプリントされ、撮影時の作家の意図が最も良く反映されたプリントを、ヴィンテージ・プリントと呼ぶのが一般的かと思います。
 写真は撮った当時のプリントが最高かどうかということについては、資料性と芸術性に関わる問題かと思います。巨匠アンセル・アダムスは、ネガを楽譜、プリントを演奏に例えましたが、芸術性ということであれば、作家が同じネガから若いときにプリントしたものと円熟してからプリントしたもののどちらが優れているかを一概に決めることは難しいでしょう(グールドのゴールドベルク変奏曲の1955年モノラル録音と1981年デジタル録音を比べるようなものでしょうか)。けれども、資料性ということから言えば、やはり、「撮影時の意図」を最も表現しているものとして、ヴィンテージ・プリントの方がモダンプリントよりも優れているということになるでしょう。また、経済的合理性や環境問題の面でフィルムや印画紙の種類や質が年々落ちているために、モダンプ・リントではヴィンテージ・プリントのような「黒の締まり」や「豊富な階調」が出ていないということがあるようです。結果的に、現在のところ、作家自身によるプリントであっても、価格的には(芸術的ということではありません)ヴィンテージ・プリントを超えるようなモダン・プリントというのはまだないように思います。
 価格ということであれば、当然絵柄の問題は大きくなります。人気のない(芸術性に欠けると言うことでは全くありません)作品のヴィンテージ・プリントよりも、人気のある(代表作である、写真集に載っている等)作品のモダンプリントの方が高額で取引されることは少なくないと思います。
 拙速を尊ぶということで、素人に毛の生えたような人間が思いつくまま、とりとめないことを書いてしまいました。思い違いやあからさまな間違いなどあるかと思います。先輩方のご叱責ご訂正をお願いする次第です。
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坂本さん、原さん、ありがとうございます。
私たちも研鑽をかさね、少しでも写真の素晴らしさをお伝えできればと願っています。
今後の写真展の予定は、8月に昨年に続き「ジョック・スタージス新作展」を開催、その後もヤン・ソーデック、五味彬などを計画しています。

◆ときの忘れものの次回企画は、6月23日[月]―7月5日[土]まで「北郷悟展ー空からー」を開催します。本展のみは月曜も開廊しています。ぜひお出かけください。

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