以前、戸張孤雁の「千住大橋の雨」が某オークションに出品されたとき、そのカタログのデータ記載に不誠実な表記がされていたことを論じましたが、そういう傾向(オークションの乱立によるスタッフ不足、経験不足)は一向に改まる様子がない。
ミスは誰にでもあり(常に起こりうる)、私たちもしょっちゅうミスをやらかしていますが、公開の市場で、こういうことが続くと必ず顧客とトラブルとなり(既に多発している、私自身もう数回経験し、実害も蒙っている)、信用をなくし、やがて市場の縮小につながることを私は心配しています。
 つい先日も、新興の某オークションにわが愛する瑛九のフォトデッサンが出品されました。以下<>内がカタログに記載されたデータの全文です。
<愛  photo-dessin 29.5×22.5cm(46×39.3cm) 裏にサイン・タイトルあり

 金はないけれど(社長と税理士さんにこれ以上在庫を増やすなと厳命されている)、しかし瑛九じゃあねえ、買わずばなるまい、とスタッフの三浦さんに、当日会場で、必ずサインを確認してから競りに参加するよう依頼しました。
なぜそう言ったか。カタログの図版を見れば(瑛九に詳しい方なら)直ぐおわかりになると思いますが、その作品は瑛九のものとしてはCクラスのものです。そのCクラスの作品にサインがあるなんて、ちょっとヘンです(と思わなければプロとはいえない)。
 瑛九の生前、フォトデッサンはあまり売れなかった。せいぜい油彩を買ってくれたお客さんにおまけにつけるような按配だった。1960年3月瑛九が亡くなった直後に支援者たちの手でアトリエで悉皆調査が実施され、そのとき売れずに残っていたフォトデッサンの枚数が「705点」と確認されています。そのくらい売れずに残っていた。そのほとんがノーサインであったと思われます。
 営業妨害になるといけないので敢えて図版は掲載しませんが、瑛九のフォトデッサンにサインがあるのは少ないと思っていたほうが間違いありません。 
 案の定、下見で額を開けてもらったら、「裏にサイン」とあったのは、台紙の裏に都夫人の字で瑛九作とあっただけで、瑛九本人のサインではありませんでした。この場合、当該のカタログデータには二つの虚偽が書かれています。一つは、文字通り「瑛九のサイン」はなかったこと(夫人の裏書)。二つには、フォトデッサンが台紙に貼り付けてあったことです。
 結局、落札された方は書面入札された人だったようですが、果たして上記の正確な情報を確認された上での入札だったのでしょうか。
 敬愛する瑛九の作品が公開の市場で競られることは嬉しいのですが、誤った情報でその価格が競われることは、オークション会社のためにも、瑛九のためにもなりません。会場での参加者はサインがないことを知っているので高くは競りません。結果、誤記のまま残るカタログデータと安い落札価格の記録だけが残る。とても残念です。

 では、正真正銘の瑛九のサイン付作品をご紹介します。
瑛九「肖像」
瑛九 Q Ei「肖像」
 1950  Photo Dessin (Photogram)
 27.5x22.4cm signed by pen on the image
 *画面下にサインと年記、裏面にタイトル「肖像」


瑛九「鳥の夢」
瑛九 Q Ei「鳥の夢」
 1956年 lithograph
 Image Size 38.5×26.0cm
 画面右下にサイン
 *限定部数は不明
 *レゾネNo.23(瑛九の会 1974年)

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから

◆「瑛九のリトグラフ」についての連載が中断しており、お詫びします。
ここしばらくは多忙で書く時間が取れませんが、何とか再開したいと思っています。