根岸文子展」は、今日が最終日です。まだご覧になっていない方は、どうぞお出かけください。19時までです。
根岸さんへのインタビューも今回が最終回です。絵のモチーフなどについて伺いました。

Q:スペインに行って、作風など変化はありましたか?
根岸
:日本にいたときから、自分が風景画を描いていることに気がつきだしていました。筆跡を残したり、習字的なものが多かったのですが、スペインに渡って、同じモチーフを繰り返したり、もっと軽い感じになり、「形」の方に移動していきました。
スペインでは、版画家はほとんどいなくて、版画というのは技法の一つで、アーティストがいて、版画をやったり、油彩を描いたり、彫刻をしたりという人がほとんどです。スペインでも版画教室に通っていましたが、絵を描くチャンスがあって、それから絵を描き始めました。

Q:モチーフについて教えてください。どんなものからインスピレーションを得ますか。また、どうして、そのモチーフを描こうと思ったのですか?
根岸
:モチーフは風景です。海や山、川など自然を描いています。最近は、人間の体の一部を風景に加えたりしています。体には小宇宙みたいな感覚があります。小人になっていくと、鼻は山だったり、その山を越えると目があったりする。人間的なこだわりよりは、風景の一部として意識しています。目がどういう意味だからとかではなく、風景の一部として入れています。
舌ベロは特別です。ベロは、一度夢を見ました。嘘をついている人のベロが出て、キラキラ光っていてピンクですごく綺麗だったんです。それが忘れられなくて、モチーフにしたいなと思ってこだわっています。それ以来、夢からモチーフを取ろうと思って夢日記を書こうと思っていますが、舌ベロを超えるような夢は見ません。(笑)

Q:波紋についてはいかがですか?
根岸
:波紋は水のイメージです。私は結構内向的な性格なので、イメージを出すときに奥深くにいくとすごくいい気持ちになります。海の下に潜るとか、そういう感覚を味わいたいと思うのです。そういう想いで波紋を描いたりすると、描いているときの想像力で、自分でいい気持ちになるところへ入れる。青も同じような感覚で、青色を見ていると、違う世界に移動しやすい。そういう意味では、「波紋」は、別の世界への入り口のようなものです。
「SOKONASHINUMA」というタイトルもエンドレスという意味です。下に行くと言っても、自分で何かを探そうとして落ち込んでいるわけではないので、そういう意味で底がない。追求しているわけではなく、ただ下に潜りたい。
昔、心理学者の先生が書いた本で、子供の心理学教室みたいなものがあって、内向的な子と外交的な子の傾向が書かれていて、内向的な子の傾向が、私が描いているものにぴったりなことに気が付き、共感を覚えました。それからもっともっと池などを描くようになりました。
内向的な子は、自分が心地よいところにいくために、池に行き、舟に乗り、自分しかわからない道のりを辿り、自分の島に行き、合い言葉を言って鍵を開け、そこが自分の隠れ家になったりするんですって。内向的な子の、ひとりだけの空間を見つけるところに共感しました。
今回の「pink no planta peligrosa(ピンクの危険な植物)」のシリーズも、夢から得たものです。危険な葉っぱを描いています。昔からやっていることですが、夢を吸うような植物とか、ちょっと恐いような植物を描きたいなと思っていて、シリーズで描いています。これは、日記的に、スケッチ的にしたかったので、淡くて、一つひとつ軽くて、一時間に一作品描いたような雰囲気のものにしました。

Q:下書きはしますか?
根岸
:この「pink no planta peligrosa」のシリーズは、下書きと言うより、メモのようなものを元に描いています。そのままではなく、あくまでヒントのようなものです。他の作品は、下書きはしていません。直接描き始めます。

Q:繰り返し出てくるモチーフが言語のようなもので、それで物語を書くような感じですか?
根岸
:そうですね。

Q:ここまで描いたら終わりというのがありますか?
根岸
:あります。原稿用紙のマスが一杯になったらもう1字も書けないのと一緒で、ここまで描いたら、もうこれ以上描けないというふうになります。

根岸さんは、成り行きで画家になったというような言い方をなさっていましたが、実際は、かなり明確な意思をお持ちだったのだろうとお話を聞いていて感じました。今回のVACA展出品で、またひとつステップを上がったと思います。今後の展開がまた楽しみな根岸文子さんです。
negishi_67_menoaruhuukei-2"ME NO ARU FUKEI 2"
2008年 アクリル・板・箪笥の金具
52.0×38.5cm
サインあり
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