原茂さんが、「五味彬写真展」レポート番外編として、「Yellows」制作当時の「ヘアヌード」事情を調べてくださいましたので、ご紹介させていただきます。
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「日本カメラ博物館」のライブラリーで「アサヒカメラ」を漁ったついでに、1991年前後の「ヘアヌード」をめぐる記事をいくつかコピーしてきました。本来なら「朝日新聞」の記事索引を引かなくてはならないのでしょうが、とりあえずということでご勘弁を。
「ヘア」で警視庁が出版2社に”警告”
女性のヘアが写っている写真を掲載した2種の出版物について、警視庁防犯部は、6月10日、月刊誌『芸術新潮』〔1991年5月号 特集荒木経惟「私写真とは何か」〕(新潮社)と、写真集『ウォーターフルーツ―不測の事態』(朝日出版社)の責任編集者を呼んで口頭で”警告”し、『芸術新潮』からは始末書をとった(同誌は否定している)。
刑法のわいせつ罪を適用して摘発することは見送ったが、同様の出版物があふれることを牽制しての処置とみられている。『芸術新潮』は荒木経惟さん、『ウォーターフルーツ』は篠山紀信さん(モデルは女優の樋口可南子さん)の撮影作品である。
一方、6月15日に東京の出版社アイピーシーから出版された中村立行氏の写真集『昭和・裸婦・残景』は、大手書籍取次会社の東版が”自主規制”して新刊委託配本しなかったため、一部の書店に並ばない事態になっている。
中村さんの作品集には、戦後すぐに撮ったヘアの写ったヌードも含まれるが、すでに発表したものもあり、”警告”をめぐって過剰な反応と受けとめられている。(1991年8月号「ニュースラウンジ」)
再び「ヘア」で警視庁が雑誌『太陽』に”警告”
警視庁防犯部は、8月20日、ヘアなどが写っているヌード写真を特集して掲載した月刊誌『太陽』(平凡社)に対し、「わいせつ容疑での立件には至らないが、違法性は残る」として、発行責任者を呼び、口頭で”警告”した。
6月に『芸術新潮』(新潮社)と写真集『ウォーターフルーツ』(朝日出版社)に対し”警告”したのに続くもの。
『太陽』は7月号の特集。「100NUDES・100人の写真家による裸体と肉体の150年」で、土門拳、マン・レイらの作品を載せたが、その中にヘアや性器がはっきり見える写真が含まれていた。
一連の警告に対し、写真界には「今更なにを」という声も強い。(1991年10月号「ニュースラウンジ」)
荒木経惟氏の「写狂人日記」展で警視庁が展示作品を押収する
ヌードを掲載した雑誌や写真集に対して、このところ何度か”警告”を発している警視庁保安一課が、こんどは写真展会場に乗り込んで作品を押収するという、近頃あまり例を見ない強い姿勢を示した。
対象となったのは荒木経惟氏の「写狂人日記」展(4月1日~13日=東京・渋谷のEggGallery)その会期半ば、陳列作品にわいせつ図画にあたるものがあるとして、警視庁は家宅捜索を行い、証拠品として展示の35ミリスライド8点を押収した。また、別の数点についても「警告」を行い、ギャラリー側に取りはずしをうながした。同課によると、女性のヘアや性器がはっきり写っていたため、という。
この”事件”が明るみに出たのは4月21日。だが警視庁は、押収後も展示作品について会場から出てくる人々に意見をきいていた。意見を聞かれた男性のひとり(46)によると、刑事だと名のり、「まる見え、もろ出しのああいうヌードをわいせつだと思いませんか」とたずね「法律があるわけだから、何でも野放しというわけにはいかない」などと話していたという。(1992年6月号「ニュースラウンジ」)
荒木経惟氏ら5人 「ヘア」で書類送検
警視庁保安一課は5月26日、荒木経惟氏と、同氏の事務所のカメラマンら2人、東京・渋谷のギャラリー経営者らを女性2人の計5人を、わいせつ図画公然陳列と、同ほう助の疑いで書類送検した。6月号で既報のように、同課は荒木氏が4月初めに東京・渋谷のEggGalleryで開いた「写狂人日記」展に対し、作品にヘアが見えるものがあるとして家宅捜索を行い、スライド8点を押収していた。(1992年7月号「ニュースラウンジ」)
残念ながら、出版社の”自主規制”の形で断裁されてしまった『YELLOWS』についての記事は見つけることができませんでした。ジャーナリズムはどこに目をつけているのでしょうか。
ちなみに、この状況の中で、「アサヒカメラ」の当時の編集長であった藤沢正実は、1991年8月号の「編集室から」の中で「(前略)愛媛の撮影会の後の懇談会で、週刊誌などで取り沙汰されているヌードとヘアが話題になり、アサヒカメラはどういう姿勢をとるのか、と尋ねられました。わたしたちは、ことさらにヘアを見せるつもりもありませんが、作品づくり上の必然性が認められ、美しい出来ばえならば、頑なに拒むことはしない方針でやっています、とお答えしました。ただ、警察権力による規制などは、ご免こうむりたいものです。」と書いていました。
これが当時の(ひょっとしたら今もなお)日本の写真界の現実ということなのでしょう。その意味で、今回のホワイトで修正が施された五味彬先生の作品は、この時代の証言者として逆に貴重かと思います。HPだと分かりにくいかも知れませんが、実物はとても繊細に(綺麗に)ホワイトがかけられています。一見の、そして購入の価値アリです。
原 茂
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最後には、ちゃんと「五味彬写真展」の援護射撃までしていただいて、恐縮の至りです。ありがとうございました。
『月刊PLAYBOY』1991年4月号に掲載されたポスターカラー修正入りの作品です。
五味彬 Akira GOMI
「PLAYBOY 91-04-02」
1991 Polaroid Color
24.1x19.0cm
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
◆ときの忘れものは夏休み無しで、8月4日[火]―8月22日[土]「五味彬写真展」を開催しています。
今回は、ヘアヌード解禁前夜の1989~1991年に撮影された「Yellows」のプロトタイプと言える作品のヴィンテージプリントを中心に約30点を展示します。1991年イタリアの写真家トニ・メネグッツォと共作した写真集『nude of J』のために撮影されたカラーのポラロイド作品、同年『月刊PLAYBOY』6月号に掲載されたポスターカラーで修正が施されたカラープリント、仙葉由季の写真集『SEnBa』のために撮影されたポラロイドなどのヴィンテージのほか、『BRUTUS』に掲載された「ジャパニーズ・ビューティ」および『nude of J』より村上麗奈、小森愛のニュープリントなどをご覧いただきます。
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「日本カメラ博物館」のライブラリーで「アサヒカメラ」を漁ったついでに、1991年前後の「ヘアヌード」をめぐる記事をいくつかコピーしてきました。本来なら「朝日新聞」の記事索引を引かなくてはならないのでしょうが、とりあえずということでご勘弁を。
「ヘア」で警視庁が出版2社に”警告”
女性のヘアが写っている写真を掲載した2種の出版物について、警視庁防犯部は、6月10日、月刊誌『芸術新潮』〔1991年5月号 特集荒木経惟「私写真とは何か」〕(新潮社)と、写真集『ウォーターフルーツ―不測の事態』(朝日出版社)の責任編集者を呼んで口頭で”警告”し、『芸術新潮』からは始末書をとった(同誌は否定している)。
刑法のわいせつ罪を適用して摘発することは見送ったが、同様の出版物があふれることを牽制しての処置とみられている。『芸術新潮』は荒木経惟さん、『ウォーターフルーツ』は篠山紀信さん(モデルは女優の樋口可南子さん)の撮影作品である。
一方、6月15日に東京の出版社アイピーシーから出版された中村立行氏の写真集『昭和・裸婦・残景』は、大手書籍取次会社の東版が”自主規制”して新刊委託配本しなかったため、一部の書店に並ばない事態になっている。
中村さんの作品集には、戦後すぐに撮ったヘアの写ったヌードも含まれるが、すでに発表したものもあり、”警告”をめぐって過剰な反応と受けとめられている。(1991年8月号「ニュースラウンジ」)
再び「ヘア」で警視庁が雑誌『太陽』に”警告”
警視庁防犯部は、8月20日、ヘアなどが写っているヌード写真を特集して掲載した月刊誌『太陽』(平凡社)に対し、「わいせつ容疑での立件には至らないが、違法性は残る」として、発行責任者を呼び、口頭で”警告”した。
6月に『芸術新潮』(新潮社)と写真集『ウォーターフルーツ』(朝日出版社)に対し”警告”したのに続くもの。
『太陽』は7月号の特集。「100NUDES・100人の写真家による裸体と肉体の150年」で、土門拳、マン・レイらの作品を載せたが、その中にヘアや性器がはっきり見える写真が含まれていた。
一連の警告に対し、写真界には「今更なにを」という声も強い。(1991年10月号「ニュースラウンジ」)
荒木経惟氏の「写狂人日記」展で警視庁が展示作品を押収する
ヌードを掲載した雑誌や写真集に対して、このところ何度か”警告”を発している警視庁保安一課が、こんどは写真展会場に乗り込んで作品を押収するという、近頃あまり例を見ない強い姿勢を示した。
対象となったのは荒木経惟氏の「写狂人日記」展(4月1日~13日=東京・渋谷のEggGallery)その会期半ば、陳列作品にわいせつ図画にあたるものがあるとして、警視庁は家宅捜索を行い、証拠品として展示の35ミリスライド8点を押収した。また、別の数点についても「警告」を行い、ギャラリー側に取りはずしをうながした。同課によると、女性のヘアや性器がはっきり写っていたため、という。
この”事件”が明るみに出たのは4月21日。だが警視庁は、押収後も展示作品について会場から出てくる人々に意見をきいていた。意見を聞かれた男性のひとり(46)によると、刑事だと名のり、「まる見え、もろ出しのああいうヌードをわいせつだと思いませんか」とたずね「法律があるわけだから、何でも野放しというわけにはいかない」などと話していたという。(1992年6月号「ニュースラウンジ」)
荒木経惟氏ら5人 「ヘア」で書類送検
警視庁保安一課は5月26日、荒木経惟氏と、同氏の事務所のカメラマンら2人、東京・渋谷のギャラリー経営者らを女性2人の計5人を、わいせつ図画公然陳列と、同ほう助の疑いで書類送検した。6月号で既報のように、同課は荒木氏が4月初めに東京・渋谷のEggGalleryで開いた「写狂人日記」展に対し、作品にヘアが見えるものがあるとして家宅捜索を行い、スライド8点を押収していた。(1992年7月号「ニュースラウンジ」)
残念ながら、出版社の”自主規制”の形で断裁されてしまった『YELLOWS』についての記事は見つけることができませんでした。ジャーナリズムはどこに目をつけているのでしょうか。
ちなみに、この状況の中で、「アサヒカメラ」の当時の編集長であった藤沢正実は、1991年8月号の「編集室から」の中で「(前略)愛媛の撮影会の後の懇談会で、週刊誌などで取り沙汰されているヌードとヘアが話題になり、アサヒカメラはどういう姿勢をとるのか、と尋ねられました。わたしたちは、ことさらにヘアを見せるつもりもありませんが、作品づくり上の必然性が認められ、美しい出来ばえならば、頑なに拒むことはしない方針でやっています、とお答えしました。ただ、警察権力による規制などは、ご免こうむりたいものです。」と書いていました。
これが当時の(ひょっとしたら今もなお)日本の写真界の現実ということなのでしょう。その意味で、今回のホワイトで修正が施された五味彬先生の作品は、この時代の証言者として逆に貴重かと思います。HPだと分かりにくいかも知れませんが、実物はとても繊細に(綺麗に)ホワイトがかけられています。一見の、そして購入の価値アリです。
原 茂
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最後には、ちゃんと「五味彬写真展」の援護射撃までしていただいて、恐縮の至りです。ありがとうございました。
『月刊PLAYBOY』1991年4月号に掲載されたポスターカラー修正入りの作品です。
五味彬 Akira GOMI「PLAYBOY 91-04-02」
1991 Polaroid Color
24.1x19.0cm
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
◆ときの忘れものは夏休み無しで、8月4日[火]―8月22日[土]「五味彬写真展」を開催しています。
今回は、ヘアヌード解禁前夜の1989~1991年に撮影された「Yellows」のプロトタイプと言える作品のヴィンテージプリントを中心に約30点を展示します。1991年イタリアの写真家トニ・メネグッツォと共作した写真集『nude of J』のために撮影されたカラーのポラロイド作品、同年『月刊PLAYBOY』6月号に掲載されたポスターカラーで修正が施されたカラープリント、仙葉由季の写真集『SEnBa』のために撮影されたポラロイドなどのヴィンテージのほか、『BRUTUS』に掲載された「ジャパニーズ・ビューティ」および『nude of J』より村上麗奈、小森愛のニュープリントなどをご覧いただきます。
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