草間彌生と瑛九 第一回   深野一朗

永遠に進化する画家

大阪でセミナーがあり、壇上で喋るついでに、草間彌生の個展を観て来ました。

草間のドキュメンタリー映画『わたし大好き』のなかで描き続けていたマジック・ペンによるモノクロのシリーズ『愛はとこしえ』や、
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≒(ニアイコール)草間彌生~わたし大好き~
[DVD] (NEAR EQUAL KUSAMA YAYOI)

出版社/メーカー: ビー・ビー・ビー株式会社
メディア: DVD

昨年夏にNHKで放映されたドキュメンタリー番組『世界が私を待っている 前衛芸術家 草間彌生の疾走』のなかで描き続けていたアクリル絵具によるカラフルなシリーズ『わが永遠の魂』が観られます。

特に後者は、マドリッド(王立ソフィア王妃芸術センター)、パリ(ポンピドゥー・センター)、ロンドン(テート・モダン)、ニューヨーク(ホイットニー美術館)と、世界四都市のトップの美術館を巡回する大回顧展のために描き下ろされたシリーズで、日本ではお目にかかれないと思っていただけに、小躍りしてホテルから歩いてすぐの国立国際美術館に向かいました。(このシリーズ、NHKの番組では目標の100枚を達成するところで終わっていましたが、現在もなお描き続けられ、その数は140枚を超えたそうです!)
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会場内には夥しい数の反復と増殖が、ほぼ正方形に近い真四角なカンヴァスに納められて、整然と並びます。描かれているものは異常なのですが、カンヴァスのサイズと形、並べ方があまりに整然としていて、まるで何かの科学標本やサンプルの類を観ているようです。

ひとつはっきり言えることは、80歳を越してなお、草間が進化し続けているということです。
93年のヴェネツィア・ビエンナーレに草間を起用して、彼女を「世界のクサマ」に押し上げた立役者、建畠晢氏(京都市立芸術大学学長、埼玉県立美術館館長)は、図録の解説で書いています。
まず、『愛はとこしえ』について、「その即興的で軽やかな手の動きは従来の緻密なネット/ドットの作品には見られなかったもの」と指摘し、04年の森美術館での「クサマトリックス」展で初めて現れた「女性の横顔」が、このシリーズに繋がっていると言います。
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そして、『わが永遠の魂』については、「渡米以来の草間のタブローにほぼ一貫して維持されていたオールオーヴァーな構成が解体してきている」と指摘し、華やかな色彩、拡大した水玉、具象的、有機的形象の浮遊により、画面は「生命の讃歌」ともいる、よりナラティブ(物語性)なものになっていると言います。
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04年に「クサマトリックス」展を観た人の多くは、そこに草間の仕事の集大成を感じ、彼女がやりきった思いを強くしました。ところが、それから彼女は『愛はとこしえ』50枚を描ききります。我々は驚き、これこそ彼女の到達点だったかと反省させられます。マジック・ペン、モノクロ、即興的なドローイング。芸術家が最後にたどり着きがちな「素朴」な表現に、誰もがそう思ったのです。
ところが・・・・
その後も彼女は変わり続けました。まさに『わが永遠の魂』というタイトルどおり、彼女の進化は永遠に続きます。それを強く思い知らされたのが、展示の最後の方にある最新の自画像です。
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眼の中に鏡が嵌め込まれ、照明が反射して、観る人を妖しく照らします。
80歳を過ぎてこの創造力!!
彼女を反復や増殖、水玉や南瓜といった言葉だけで軽く語ることは決してできません。

今回の展示は僕にとって、彼女の進化を確かめるためのものとなりました。

ところで会場には、他の作品と離されるようにして、2010年の作品が2枚掛けられていました。
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お馴染の水玉ですが、形が従来の正円から、ややいびつなものになっています。
この二枚の絵を観ながら、僕は、ある一人の画家のことを考えていました。
1960年に48歳でこの世を去った画家、瑛九のことです。
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ふかのいちろう(つづく、ブログ「ジャージの王様」より転載)

*画廊亭主敬白
自分が感じたことを人に正確に伝えるのは難しい。
身銭を切って作品を買い、寸暇を惜しんで展覧会にかけつけ、作家の話を聞く。コレクターのかがみみたいな深野さんですが、ご自身のブログ「ジャージの王様」にいつも卓抜な作品論、作家論を書かれています。まるごとぜ~んぶいただきたいと思うほどですが、今回はわが<草間彌生と瑛九>なので、ぜひにとお願いして、今日、明日そして12日の3回にわけて転載させていただきます。
因みに3月10日は瑛九の命日であります。
どうぞお楽しみください。