浜田宏司の展覧会ナナメ読み No.4「ソウルアートツアー2013 <春>」

私事ですが、ここ数年アートフェアや企画展の打ち合わせで訪韓する機会が多くなっています。短い滞在の中で時間を見つけてはギャラリーや美術館を散策してソウルの現代美術の最新モードをリサーチしているのですが、最近では、日本に巡回しても話題を集めるであろうと思われる興味深い企画展に遭遇する確率が高くなってきています。しかも、アートに限らず、デザインやファッションなどカルチャー全般にわたってプログラムが展開している事に韓国経済を牽引するスピード感を感じます。この四月にソウルを訪れた際に観て、気になった展覧会をいくつか紹介しましょう。
Steidl1『How to Make a Book with Steidl』
Daelim Museum
2013.04.11.~2013.10.06.
http://www.daelimmuseum.org/eng/index.do

『STEIDL』は、1967年の創業のドイツの出版社です。企画-編集ー印刷ー製本ー出版と、本が誕生するまでの制作過程をすべて自社で手がける事により、クオリティーの高い書籍をリリースすることで知られ、世界中の写真家やハイブランドからの支持を集めています。
個人的にはEDWARD RUSCHAやJenny Holzerなど、アート関連のタイトルがお勧めではあるのですが、ファッション系のタイトルにも洋書店での立ち読みですますには惜しくついついアマゾンでポチッと購入してしまうほど、センスの良い造本とブックデザインが定評のパブリッシャーです。
その、STEIDL社の本の制作過程をテーマにした展覧会をまさか韓国で観る事になるとは、夢にも思いませんでした。場所はソウル市内の観光スポット景福宮からほどちかいロケーション。実際の製本過程で使われた素材や映像を多用した展示でSTEIDLの高い造本技術の魅力に迫ります。STEIDLファンではなくとも、「本」を愛する幅広い世代が楽しめる納得の展覧会でした。
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Steidl3

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michael lau1『{ARTOY} "since michael lau"』
SEJONG CENTER EXHIBITION HALL
※会期終了

マイケル・ラウ(MICHAEL LAU)は、香港在住のアクションフィギュア・アーティストです。十数年前に雑誌リラックス(休刊)で紹介され、日本国内で流行していたフィギュアブームの波に乗って人気に火がつき、話題を集めたアーティストです(渋谷のPARCOでも大規模な展覧会が開催されました)。しかし、過剰に熱しやすく冷めやすいのが日本人の性格なのか、日本国内では当時の人気はいずこへ・・・と思っていたら、アジアいや、世界的レベルで独自のポジションを確立した作家として人気を集めているようです。たとえば、NIKEの広告クリエイティヴやタイアップ限定モデルので制作。ティム・バートン監督による映画「アリス・イン・ワンダーランド」とのコラボフィギュアの発売。そして、今回の大回顧展。会場では、現在までに制作された数百体を数える作品の他に平面作品やデザイン画、3mにも及ぶ巨大モデルも展示されていました。実はこの展覧会、ソウル在住の友人がプロデュースしていて、展覧会実施に至った裏事情を聞く事が出来ました。本人曰く、ソウルのアートマーケットは欧米や日本と比較してまだまだ成長段階にあり、一般的な市民が、ギャラリーに足を運んだり作品を購入するにはもう少し時間を必要とする状況があるとの事。しかし、カルチャー寄りではあるものの、アート的な作品体験を通じて若い世代にアートに興味を抱く切っ掛けを作る事が展覧会を企画した最大の目的で、敷居の低いコンテンツを提供する事が韓国のアートマーケットの成長に繋がるプロセスだと力説していました。
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TIM0『Tim Burton Exhibition』
Seoul Museum of Art
※会期終了
http://sema.seoul.go.kr/global/exhibitions/exhibitionsView.jsp?seq=278&sType=DD&sStartDate=20010101&sEndDate=20130429&sSrchValu=


アメリカの映画監督ティム・バートン(Tim Burton)の回顧展がソウル市立美術館(SEMA)で開催されていました。
もう、衝撃の展覧会でした。 いろんな意味で。ティム・バートンといえば、「シザーハンズ」「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」「マーズアタック」「チャーリーとチョコレート工場」など、カルト的人気を誇る映画を次々にリリースしている映画監督です。
前期の代表作「シザーハンズ(1990)」公開以降、約四半世紀に渡って日本での人気を保ち続けています。また、その独特の映像美の原点となる絵コンテやドローイングの評価が高く、多くの画集を出版しています。
展覧会最終日前日という事もあり会場は激混み!チケットを購入してからなんと、2時間待ちでの入場となりました。今回の展覧会は2010年に開催され、話題を集めたMOMAの巡回展という事もあり、ドローイング、映画で使われた衣装やプロップ、オブジェ、写真作品、短編映画などの映像作品も多く展示され、膨大な物量とクラッシック的な雰囲気が漂う会場との相乗効果でまるでティム・バートンの映画の中に迷い込んでしまったような印象を受けました、見終わったあとしばらく呆然としてしまうほどの興奮を得た展覧会でした。

そして脳裏に浮かぶ疑問・・・。
「なぜ、この展覧会が日本で開催されなかったのか???」

実はこの展覧会情報をfacebookにエントリしたところ、元美術手帳編集長に速攻でリンクをシェアしていただき、また、友人知人からも多くの「イイネ!」の声があった事から、展覧会に対する注目の高さがわかります。集客的には絶対に成功する展覧会だとは思うのですが、美術館でなくとも新聞社とかなぜ呼ばなかったのでしょう(呼べなかったのか)。
最近は、海外の美術館で開催される展覧会の巡回展を引っ張ってくるような元気のいい主催者が少なくなっているようにも感じます。これも日本経済の低迷や東日本大震災の影響でしょうか、残念です。
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アジア圏に於いて、最も長く豊かな現代美術の歴史を誇りこの地域のアートシーンをリードしてきた東京も、うかうかしていると、「面白い展覧会を見るためにはソウルやシンガポールに行こう!」なんて、近隣諸国にその座を明け渡す日も近づいてくるのではないかなどと、日本のアートシーンの未来に憂いを抱くソウルの一日でした。

浜田宏司(Gallery CAUTION)

*画廊亭主敬白
久々の強力助っ人・浜田さんの登場です。
このところ韓国行きを頻繁に繰り返している浜田さん、ならあちらの様子もレポートしてよと頼んだ次第。ときの忘れものも10月にはソウルのアートフェアKIAFに出展しますのでいろいろ参考になります。
さて本日3日から6日まで四連休で画廊はお休みさせていただきます。スタッフたちもゆっくり休養をとってまた7日から元気に働いてくれるでしょう。
亭主と社長ものんびりさせていただきます。
ブログは執筆者の皆さんやスタッフのおかげで毎日更新です、明日は福井県勝山の街歩きイベントをご紹介します。どうぞお楽しみに。