毎日の気温の高低が激しくて老の身にはこたえます。
昨日は午前中に画廊で光嶋裕介さんと今秋10月に韓国のアートフェアKIAFに出品する新作についての打ち合わせを行ない、午後は社長と30年ぶりにある作家のもとを訪ねて作品を拝見してきました。
もう80歳を超えておられるのですが、今でも制作意欲は衰えずさまざまな新しいことに挑戦なさっている。亭主も「老」なんて言ってられません。

さて開催中の「五月の画廊コレクション~ベン・ニコルソン他」から、ベン・ニコルソンの作品をご紹介します。

ベン・ニコルソンベン・ニコルソン
「作品」
1968年
エッチング、鉛筆、ガッシュ、紙
イメージサイズ:30.0x28.0cm
シートサイズ:43.5x37.5cm
サインあり


画面いっぱいに引かれた線が形づくっているのは、重なり合ったふたつのカップです。
薄い水色のガッシュが大胆に縦に引かれ、作品の印象をより清々しいものにしています。
パソコンの画面では伝わりにくいのが残念(実際に作品の前に立って直に見ていただきたい)ですが、濃い線はエッチングによるもので、薄い線はニコルソンが鉛筆によって描いたものです。
2種類の線と版のいびつな形が響き合うこの作品は、ベン・ニコルソンらしい洗練された作品と言えるでしょう。

ベン・ニコルソンは1894年イギリスに生まれ、ロンドンのスレード美術学校で学びます。画家である父親ウィリアムの影響から重厚なリアリズム作品を出発点とし、1920年代には静物画や風景画をおもに描いていました。
やがてパリでジョルジュ・ブラックらに出会い、モンドリアンやドローネーらが名を連ねていた「アブストラクション・クレアション」(抽象=創造)に参加。これを契機にヘンリー・ムーアらと共に、抽象芸術グループ「ユニット・ワン」を結成し、イギリスに本格的な抽象美術の土壌を築きました。
1930年代末から戦後にかけてはセント・アイヴスで抽象化の進んだ静物画や風景画を描き、1950年代後半からはスイスで暮らし、生涯精力的に創作活動を続けました。

リアリズムから出発し、具象と抽象の間を揺れ動きながらその繊細な接点を探求し続けたニコルソンの作品は、単純であること、簡素であることの覚悟さえ感じます。
大きな声を上げることなくとも静かに堂々としている作品の潔さを、是非直接ご覧いただきたいと思います。

ベン・ニコルソン Ben NICHOLSON(1894-1982)
1894年、イギリスのバッキンガムシャー生まれ。両親が画家であった。 ロンドンのスレード美術学校で学んだあと、ヨーロッパ諸国やアメリカ各地を旅し、第一次大戦後もロンドンとパリを往復し、アルプ、ミロ、モンドリアンと出会う。 1933年からグループ「ユニット・ワン」に参加していたが、モンドリアンに出会うことで、抽象的構成主義への傾向が確固なものとなる。
1937年にはナウム・ガポらとともに「サークル」を出版し、イギリスに構成主義美術を広げた。抽象作品については、白い彫刻レリーフなど、幾何学的抽象作品を制作した。単なる絵画にとどまらず、彫刻的な要素をたぶんに含む作品が多く、しかも、白や淡い色のものなど、色彩が抑えられている作品が多い。1982年、歿。

◆ときの忘れものは、2013年5月1日[水]―5月11日[土] 「五月のコレクション展~ベン・ニコルソン他」を開催しています。※日・月・祝日休廊
五月のコレクション展魔方陣「五月のコレクション展~ベン・ニコルソン他」
出品:ベン・ニコルソン、阿部金剛、オノサト・トシノブ、馬場彬、鷲見康夫、斎藤義重、難波田龍起、セルジュ・ポリアコフ、草間彌生


こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから