亭主が画商になって初めて売った写真が荒木経惟の「浅草駒太夫」、1974年の秋、銀座・ギャラリープラネートでの現代版画センター・エディション展の折のオークションで飛び入りの荒木さんが提供してくれた大判の写真で、僅か数千円でした(今でも悔しい)。
そして初めて買った写真が奈良原一高の「消滅した時間」シリーズで、ウナックの海上さんが刊行した確か7点組のポートフォリオでした(これは高額で、支払いに四苦八苦しました)。
病気療養中の奈良原さんですが、東京国立近代美術館で初期代表作による「奈良原一高 王国」展が始まり、17日のオープニングには亭主も出席してきました。


「奈良原一高 王国 Narahara Ikko: Domains」
会場:東京国立近代美術館
会期:2014年11月18日(火)-2015年3月1日(日)
奈良原一高(1931年生まれ)は、戦後に登場した世代を代表する写真家の一人として知られます。彼が1958(昭和33)年に発表した「王国」は、北海道の修道院と、和歌山の女性刑務所という、それぞれ外部と隔絶された空間に生きる人間存在を見つめた作品です。ほぼ無名の新人の個展としては例外的な反響を呼び、鮮やかなデビューとなった1956年の個展「人間の土地」に続いて、極限状況を生きる人間というテーマを深化させた本作は、日本写真批評家協会賞新人賞を受賞するなど、奈良原の評価を確立するものでした。
●講演会
増田玲(東京国立近代美術館主任研究員/本展企画者)
日程:2014年12月13日(土)14:00~15:30
場所:東京国立近代美術館 地下1階講堂
聴講無料、申込不要(先着150名)
●ときの忘れもののブログでエッセイ「母さん目線の写真史」を連載中の小林美香さんによるギャラリートークもお正月に開催されます。
日程:2015年1月16日(金)18:00-19:00
参加無料(要観覧券)、申込不要
■奈良原一高
福岡県生まれ。中央大学法学部卒業後、早稲田大学大学院で美術史を専攻。在学中の1956年に、個展「人間の土地」を開催。1958年個展「王国」で、日本写真批評家協会賞新人賞受賞。その後滞欧し、帰国後の出版した写真集 『ヨーロッパ静止した時間』で、日本写真批評家協会賞作家賞、芸術選奨文部大臣賞受賞。1975年写真集 『消滅した時間』、1986年写真集『ヴェネツィアの夜』で日本写真協会賞年度賞。1996年紫綬褒章受章。2005年日本写真協会賞功労賞受賞。
----------------------------
ときの忘れものでは、今週末22日まで「瀧口修造展 III 瀧口修造とマルセル・デュシャン」を開催していますが、奈良原一高の写真作品「大ガラス」を展示しています。
また今月のWEB展では「大ガラス」「王国」「消滅した時間」シリーズをご覧になれます。

●奈良原一高「デュシャン 大ガラス」について
1973年撮影の連作80カットより、2014年のラムダプリント(※1)5点。
各35.5×43.0
表側マージンにスタンプ入り
MD-8
MD-11
MD-34
MD-50
MD-55
作品番号は、55カットのカラー図版を掲載した奈良原一高『デュシャン 大ガラス』に従っている(みすず書房、1992年。瀧口修造「シガー・ボックス」写真版も併載)。
奈良原一高は、1950年代初頭から瀧口修造の知遇を得、58年の結婚式では仲人を依頼するほど、親しく交流していた。70年からの米国滞在中、73年の「マルセル・デュシャン回顧展」の開会式に招かれて渡米した瀧口と、ニューヨークで再会した。その際、デュシャン「大ガラス」の撮影を打診され、帰国した瀧口から、フィラデルフィア美術館にもすでに連絡してあるからと、同年10月7日付けの書簡で重ねて依頼された。これを受けて、同美術館のキューレーター、アンヌ・ダノンクールの立ち会いのもと、二日間に亘って撮影が遂行された。その中から選ばれた80カットが、「デュシャン 大ガラス」の連作である。瀧口には当初、カラー・ポジフィルムの形で送られ、奈良原の帰国後の79年に、プリントも渡された。今回の展示作品5点は、本展のために、当時のフィルムから新たにプリント(ラムダプリント)されたもの。
瀧口の構想では、奈良原撮影の「大ガラス」の細部の写真と自らの断想(ないし詩)とを組み合わせて、「一種の〈絵本〉のようなものをつくる」(「私製草子のための口上」)はずであったが、「宙吊りのまま」(同)で、実現に至らなかった。しかし、「檢眼圖」の製作や「大ガラス」東京版レプリカの監修に当たって、随時この連作が参照され、活用されたのは間違いないだろう。
(※1)フィルムをデジタル化し、レーザー光線で印画紙に焼き付けたプリント
(文:土渕信彦)

来廊された夫人の奈良原恵子さん(中央)。
◆ときの忘れものは2014年11月5日[水]―11月22日[土]「瀧口修造展 III 瀧口修造とマルセル・デュシャン」を開催しています(*会期中無休)。

1月と3月に続く3回展です。
瀧口修造のデカルコマニー、ドローイング、《シガー・ボックス》、《シガー・ボックス TEN-TEN》、《扉に鳥影》、マルセル・デュシャンの《グリーン・ボックス》、オリジナル銅版画『大ガラス』、奈良原一高の写真《デュシャン 大ガラス》連作、瀧口修造・岡崎和郎《檢眼圖》をご覧いただき、瀧口とデュシャンとの交流の実相と精神的な絆の一端を明らかにします。
●デカルコマニー47点を収録したカタログ『瀧口修造展Ⅱ』(テキスト:大谷省吾)を刊行しました(2,160円+送料250円)。
2014年 ときの忘れもの 発行
64ページ 21.5x15.2cm
執筆:大谷省吾「瀧口修造のデカルコマニーをめぐって」
再録:瀧口修造「百の眼の物語」(『美術手帖』216号、1963年2月、美術出版社)
ハードカバー
英文併記
『瀧口修造展Ⅰ』と合わせご購読ください。
そして初めて買った写真が奈良原一高の「消滅した時間」シリーズで、ウナックの海上さんが刊行した確か7点組のポートフォリオでした(これは高額で、支払いに四苦八苦しました)。
病気療養中の奈良原さんですが、東京国立近代美術館で初期代表作による「奈良原一高 王国」展が始まり、17日のオープニングには亭主も出席してきました。


「奈良原一高 王国 Narahara Ikko: Domains」
会場:東京国立近代美術館
会期:2014年11月18日(火)-2015年3月1日(日)
奈良原一高(1931年生まれ)は、戦後に登場した世代を代表する写真家の一人として知られます。彼が1958(昭和33)年に発表した「王国」は、北海道の修道院と、和歌山の女性刑務所という、それぞれ外部と隔絶された空間に生きる人間存在を見つめた作品です。ほぼ無名の新人の個展としては例外的な反響を呼び、鮮やかなデビューとなった1956年の個展「人間の土地」に続いて、極限状況を生きる人間というテーマを深化させた本作は、日本写真批評家協会賞新人賞を受賞するなど、奈良原の評価を確立するものでした。
●講演会
増田玲(東京国立近代美術館主任研究員/本展企画者)
日程:2014年12月13日(土)14:00~15:30
場所:東京国立近代美術館 地下1階講堂
聴講無料、申込不要(先着150名)
●ときの忘れもののブログでエッセイ「母さん目線の写真史」を連載中の小林美香さんによるギャラリートークもお正月に開催されます。
日程:2015年1月16日(金)18:00-19:00
参加無料(要観覧券)、申込不要
■奈良原一高
福岡県生まれ。中央大学法学部卒業後、早稲田大学大学院で美術史を専攻。在学中の1956年に、個展「人間の土地」を開催。1958年個展「王国」で、日本写真批評家協会賞新人賞受賞。その後滞欧し、帰国後の出版した写真集 『ヨーロッパ静止した時間』で、日本写真批評家協会賞作家賞、芸術選奨文部大臣賞受賞。1975年写真集 『消滅した時間』、1986年写真集『ヴェネツィアの夜』で日本写真協会賞年度賞。1996年紫綬褒章受章。2005年日本写真協会賞功労賞受賞。
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ときの忘れものでは、今週末22日まで「瀧口修造展 III 瀧口修造とマルセル・デュシャン」を開催していますが、奈良原一高の写真作品「大ガラス」を展示しています。
また今月のWEB展では「大ガラス」「王国」「消滅した時間」シリーズをご覧になれます。

●奈良原一高「デュシャン 大ガラス」について
1973年撮影の連作80カットより、2014年のラムダプリント(※1)5点。
各35.5×43.0
表側マージンにスタンプ入り
MD-8
MD-11
MD-34
MD-50
MD-55
作品番号は、55カットのカラー図版を掲載した奈良原一高『デュシャン 大ガラス』に従っている(みすず書房、1992年。瀧口修造「シガー・ボックス」写真版も併載)。
奈良原一高は、1950年代初頭から瀧口修造の知遇を得、58年の結婚式では仲人を依頼するほど、親しく交流していた。70年からの米国滞在中、73年の「マルセル・デュシャン回顧展」の開会式に招かれて渡米した瀧口と、ニューヨークで再会した。その際、デュシャン「大ガラス」の撮影を打診され、帰国した瀧口から、フィラデルフィア美術館にもすでに連絡してあるからと、同年10月7日付けの書簡で重ねて依頼された。これを受けて、同美術館のキューレーター、アンヌ・ダノンクールの立ち会いのもと、二日間に亘って撮影が遂行された。その中から選ばれた80カットが、「デュシャン 大ガラス」の連作である。瀧口には当初、カラー・ポジフィルムの形で送られ、奈良原の帰国後の79年に、プリントも渡された。今回の展示作品5点は、本展のために、当時のフィルムから新たにプリント(ラムダプリント)されたもの。
瀧口の構想では、奈良原撮影の「大ガラス」の細部の写真と自らの断想(ないし詩)とを組み合わせて、「一種の〈絵本〉のようなものをつくる」(「私製草子のための口上」)はずであったが、「宙吊りのまま」(同)で、実現に至らなかった。しかし、「檢眼圖」の製作や「大ガラス」東京版レプリカの監修に当たって、随時この連作が参照され、活用されたのは間違いないだろう。
(※1)フィルムをデジタル化し、レーザー光線で印画紙に焼き付けたプリント
(文:土渕信彦)

来廊された夫人の奈良原恵子さん(中央)。
◆ときの忘れものは2014年11月5日[水]―11月22日[土]「瀧口修造展 III 瀧口修造とマルセル・デュシャン」を開催しています(*会期中無休)。

1月と3月に続く3回展です。
瀧口修造のデカルコマニー、ドローイング、《シガー・ボックス》、《シガー・ボックス TEN-TEN》、《扉に鳥影》、マルセル・デュシャンの《グリーン・ボックス》、オリジナル銅版画『大ガラス』、奈良原一高の写真《デュシャン 大ガラス》連作、瀧口修造・岡崎和郎《檢眼圖》をご覧いただき、瀧口とデュシャンとの交流の実相と精神的な絆の一端を明らかにします。
●デカルコマニー47点を収録したカタログ『瀧口修造展Ⅱ』(テキスト:大谷省吾)を刊行しました(2,160円+送料250円)。
2014年 ときの忘れもの 発行64ページ 21.5x15.2cm
執筆:大谷省吾「瀧口修造のデカルコマニーをめぐって」
再録:瀧口修造「百の眼の物語」(『美術手帖』216号、1963年2月、美術出版社)
ハードカバー
英文併記
『瀧口修造展Ⅰ』と合わせご購読ください。
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