芳賀言太郎のエッセイ
「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」 第19回
Japanese on 1600km pilgrimage to Santiago Vol.19
第19話 雨の中 ~寒波の中のメセタ~
10/17(Wed) Fromista – Carrion de los Condes (20.8km)
10/18(Thu) Carrion de los Condes – Terradillos de los Templarios (27.1km)
10/19(Fri) Terradillos de los Templarios – Sahagun (14.0km)
イングランドで開催されたラグビーワールドカップでの日本代表の活躍は記憶に新しいところである。そのラグビーにおいて現在世界ランキング1位であり、今大会の優勝国のニュージーランド、通称オールブラックスは試合前にある儀式を行う。ハカと呼ばれるこの試合前のパフォーマンスはマオリの戦士が戦いの前に、自らの力を誇示し、相手を威嚇する踊りをルーツにしているが、これは、対戦を望んでくれた、また受け入れてくれたチームに対して敬意を表すものである。現在のハカには、最後に首を切るようなジェスチャーが含まれていて、かつて問題になったこともあったが、これは「自分の首をかけて戦う決意を示すもの」である。
よく足を運ぶワインショップでオーナーがニュージーランドについて話しをしていた。ニュージーランドはワインの産地としても有名であり、日本人も数多くワイン造りに携わっている。中でも「KUSUDA WINES」の楠田浩之さんは、今や世界的に評価されるワイン生産者として有名である。
そのニュージーランドの学校では、体育の授業でラグビーが日本のサッカーのように普通に行われる。高校生にもなると、オールブラックスとは言わないまでも、立派な体格を持った学生もいることだろう。あのような骨格を持つ人間を相手にタックルをされたらひとたまりもないなと思う。ニュージーランドの日本人留学生は大変である。
フロミスタから歩き出してすぐ、雨が降り出す。雨だろうが何だろうが目的の町までは辿り着かなくてはならないのが巡礼である。バックからレインウェアを取り出し、羽織ってまた歩き出す。雨は1日中降り続いた。こんなに雨が降るのは巡礼中で初めてである。これまではほとんど晴れの日ばかりで、たとえ雨が降ったとしてもすぐに止んだ。初めて体験する本格的な雨と寒さで体力が奪われる。通る町ごとにバルを見つけて雨宿りである。バルでのカフェ・コン・レチェが体を温めてくれる。休み休み歩いていく。
巡礼路
虹が見える
アルベルゲ
内部
今日の目的地のCarrion de los Condesに着いても雨は降り続いている。外に出ることもできないのでベッドの上で寝袋にくるまりじっとしているしかない。温かいシャワーを浴びたときようやく生きていると実感することができた。
夕方になり、雨が上がった。町を散歩する。たくさんの教会や修道院のある町である。町のはずれの修道院礼拝堂はスリットになったステンドグラスからの光が幻想的で美しかった。現代的でありながらも普遍的な美しさを備えているように感じた。修道女たちが礼拝堂に来て、あなたは巡礼者ですかと質問された。Siと答えると手を合わせてスペイン語で何か言葉をかけてくれた。おそらく「神のご加護があるように」と言ってくれたのであろう。このときには不思議とすんなりとその言葉を受け入れることができた。というより、本当に何かを受けとったように思った。挨拶の一つの形式としてではなく、その言葉、行為に純粋な何かを感じたのだ。それは日本での生活やこれまで歩いてきた巡礼路での体験とは意を異にする感覚であった。修道女たちの日々の敬虔な生活から醸し出される何かなのだろうか。その不思議な感覚は正面のライトに照らされた十字架に架けられたイエスのイコンによってより助長されたのかもしれない。
修道院
キリストのイコン
ステンドグラス
修道女たち
次の日も朝から雨が降り続いた。8:00まで外の様子を伺っていたが、止みそうにはないので歩き出す。本当に辛い1日であった。体力の消耗も激しく、心はすてに折れている。今日の宿まで、生きるために歩いているという状況であった。天候は心に大きな影響をあたえるものである。雨の日のどんよりとした分厚い灰色の空は人間の活力や希望といった心のエネルギーを吸い取っているのではないだろうか。だんだんと悲しい気持ちにさえなってきてしまった。そして、なにより一人で巡礼しているため、強い孤独を感じた。
宿の食事も薄くて硬い肉とパン、それにスープと簡素であり、沈んだ気分のまま食事を終えるとすぐに寝袋にくるまり、寝た。
雨の道
雨の道
アルベルゲ
アルベルゲ 食堂
翌日は晴れた。そして、目的地のSahagunにはすぐに着いた。サアグーンは殉教者聖ファクンド(SAN FAGUN)に由来するローマ時代からの宿場町である。イスラム勢力のイベリア半島進出によって荒廃するが10世紀にアルフォンソ3世が再興し、11世紀にはアルフォンソ6世が、クリュニー修道会と共に街を拡大する。アルフォンソ6世は町と聖職者に自治権を与え、移住する人々への税を免除する。フランス商人、ムデハル人(レコンキスタ後もイベリア半島に残ったムスリム)、ユダヤ人といった人種や文化の違う人々が移住し、町は文化の中心地となり、結果的に修道院と町は突出した富を獲得することになった。『スペインのクリュニー』と呼ばれるほどの繁栄を誇ったという。
サン・ティルソ教会
回廊
祭壇
壁
窓
町を歩き、レンガ造りの教会に足を運ぶ。これまで見てきたロマネスクの教会とは趣が異なり、イスラムの香りがする。アルハンブラ宮殿のような壮麗な空間ではないが、ところどころにイスラム建築の断片が垣間見える。
他の地域にはないレンが造りとなっているのは、付近から良い石材が採れないため。帯状の盲窓(ロンバルド帯)や幾何学模様のチェス柄などがムデハル様式を良く表している。その代表と言えるのがサン・ティルソ教会。12世紀に石造りで基壇や壁の一部が築かれ、その後に煉瓦を用いて完成された。数多くのアーチ窓を持つ鐘楼と、幾何学的に連続するアーチ装飾が特徴的。この地域の最も古い時代の煉瓦によるロマネスク建築である。少し離れた丘の上に建つサン・ロレンツォ教会はそれから1世紀下った13世紀にもの。こちらは総煉瓦造りで、鐘楼もより拡大されている。
夕食は宿の食堂でとることにする。温かいスープが心から美味しいと思った。
スープ
歩いた総距離1028.8km
(はが げんたろう)
コラム 僕の愛用品 ~巡礼編~
第19回 音楽プレイヤー
iPod nano 17,800(現行モデルである第7世代の価格)
スティーブ・ジョブスはリーバイス501のコインポケットからこのiPod nanoを取り出した。衝撃的なプレゼンテーションでナノという名にふさわしいプロダクトである。強度のあるアルミ合金を使用し、縦長で楕円にカーブ形状は手にフィットし、操作性を快適である。
音楽は人間と密接に関係している。陸上競技ではサブグラウンドで選手たちがイヤホンをしながら、ウォーミング・アップをしている場面を良く見かける。サッカー選手がスタジアムまでのバスから降りる時も音楽を聴いている。
別にスポーツ選手が音楽好きということではないだろう。世界最高レベルのスポーツ競技者が、その最高の舞台で競技と関係のないことをしているはずがない。音楽を聴くのは、トレーニングをしたりストレッチをしたりするのと同じレベルで、アスリートにとって必須のものなのだ。
スポーツと音楽は密接に関係している。テンションを上げるときもあれば、リラックスさせるときもある。きっと、身体のパフォーマンスを最大にするためには、目からの情報や頭からの指令を一旦キャンセルして、身体内部の感覚を研ぎ澄まさなければならないからだろう。まさに「考えるな、感じろ」である。音楽はそのために最も有効な手段の一つに違いない。
それはアスリートに限らない。今の自分のベストを生きるため、自分自身を取り戻すためには、目に見える世界からの刺激や、ともすれば過剰になり暴走する人間の知恵の働きを解除しなければならない。昔なら、宗教儀式がその働きを果たしたのであろうが(ラグビーワールドカップでの試合開始前のパフォーマンスはまさにそれである)。今日では、iPodで音楽を聴くというのがそれにとって代わっているのではないか。そんな風に考えると、音楽に集中しているアスリートの姿が、瞑想する修道士に見えてくる。この巡礼を通して、世界のどのような場所においても宗教と音楽のない場所は存在しないのではないかとそう思った。
実は、このiPod nano は故障してしまい、使用していない。アップルショップに持って行き、もし直るのであれば、修理に出してみようとこの文章を書いていてふと思った。
iPod nano
■芳賀言太郎 Gentaro HAGA
1990年生
2009年 芝浦工業大学工学部建築学科入学
2012年 BAC(Barcelona Architecture Center) Diploma修了
2014年 芝浦工業大学工学部建築学科卒業
2015年 立教大学大学院キリスト教学研究科博士前期課程所属
2012年にサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路約1,600kmを3ヵ月かけて歩く。
卒業設計では父が牧師をしているプロテスタントの教会堂の計画案を作成。
大学院ではサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路にあるロマネスク教会の研究を行っている。
●今日のお勧め作品は、吉田克朗です。
吉田克朗
「Work "46"」
1975年
リトグラフ
Image size: 44.8x29.3cm
Sheet size: 65.6x50.4cm
Ed.100
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
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●展覧会のご案内/彫刻家の北郷悟先生が銀座で個展を開催します。


「北郷悟展 ―成層圏―」
会期:2015年11月16日(月)~28日(土)
11:00~18:30(日曜祝日休廊)
会場:ギャラリーせいほう(中央区銀座8-10-7 )
◆ときの忘れもののブログは下記の皆さんのエッセイを連載しています。
・大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
・frgmの皆さんによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
・石原輝雄のエッセイ「マン・レイへの写真日記」は毎月5日の更新です。
・笹沼俊樹のエッセイ「現代美術コレクターの独り言」は毎月8日の更新です。
・芳賀言太郎のエッセイ「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」は毎月11日の更新です。
・土渕信彦のエッセイ「瀧口修造とマルセル・デュシャン」は毎月13日の更新です。
・野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。
・森下泰輔のエッセイ「 戦後・現代美術事件簿」は毎月18日の更新です。
・新連載・荒井由泰のエッセイ「いとしの国ブータン紀行」は毎月19日の更新です。
・新連載・藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は毎月22日の更新です。
・小林美香のエッセイ「母さん目線の写真史」はしばらく休載します。
・「スタッフSの海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。
・森本悟郎のエッセイ「その後」は毎月28日の更新です。
・植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」は、更新は随時行います。
同じく植田実のエッセイ「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」は終了しました。
「本との関係」などのエッセイのバックナンバーはコチラです。
・「美術館に瑛九を観に行く」は随時更新します。
・飯沢耕太郎のエッセイ「日本の写真家たち」は英文版とともに随時更新します。
・浜田宏司のエッセイ「展覧会ナナメ読み」は随時更新します。
・深野一朗のエッセイは随時更新します。
・「久保エディション」(現代版画のパトロン久保貞次郎)は随時更新します。
・「殿敷侃の遺したもの」はゆかりの方々のエッセイ他を随時更新します。
・井桁裕子のエッセイ「私の人形制作」は終了しました。
・故・木村利三郎のエッセイ、70年代NYのアートシーンを活写した「ニューヨーク便り」の再録掲載は終了しました。
・故・針生一郎の「現代日本版画家群像」の再録掲載は終了しました。
・故・難波田龍起のエッセイ「絵画への道」の再録掲載は終了しました。
・ときの忘れものでは2014年からシリーズ企画「瀧口修造展」を開催し、関係する記事やテキストを「瀧口修造の世界」として紹介します。土渕信彦のエッセイ「瀧口修造とマルセル・デュシャン」、「瀧口修造の箱舟」と合わせてお読みください。
・「現代版画センターの記録」は随時更新します。新たに1974年10月7日の「現代版画センターのエディション発表記念展」オープニングの様子を掲載しました。
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「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」 第19回
Japanese on 1600km pilgrimage to Santiago Vol.19
第19話 雨の中 ~寒波の中のメセタ~
10/17(Wed) Fromista – Carrion de los Condes (20.8km)
10/18(Thu) Carrion de los Condes – Terradillos de los Templarios (27.1km)
10/19(Fri) Terradillos de los Templarios – Sahagun (14.0km)
イングランドで開催されたラグビーワールドカップでの日本代表の活躍は記憶に新しいところである。そのラグビーにおいて現在世界ランキング1位であり、今大会の優勝国のニュージーランド、通称オールブラックスは試合前にある儀式を行う。ハカと呼ばれるこの試合前のパフォーマンスはマオリの戦士が戦いの前に、自らの力を誇示し、相手を威嚇する踊りをルーツにしているが、これは、対戦を望んでくれた、また受け入れてくれたチームに対して敬意を表すものである。現在のハカには、最後に首を切るようなジェスチャーが含まれていて、かつて問題になったこともあったが、これは「自分の首をかけて戦う決意を示すもの」である。
よく足を運ぶワインショップでオーナーがニュージーランドについて話しをしていた。ニュージーランドはワインの産地としても有名であり、日本人も数多くワイン造りに携わっている。中でも「KUSUDA WINES」の楠田浩之さんは、今や世界的に評価されるワイン生産者として有名である。
そのニュージーランドの学校では、体育の授業でラグビーが日本のサッカーのように普通に行われる。高校生にもなると、オールブラックスとは言わないまでも、立派な体格を持った学生もいることだろう。あのような骨格を持つ人間を相手にタックルをされたらひとたまりもないなと思う。ニュージーランドの日本人留学生は大変である。
フロミスタから歩き出してすぐ、雨が降り出す。雨だろうが何だろうが目的の町までは辿り着かなくてはならないのが巡礼である。バックからレインウェアを取り出し、羽織ってまた歩き出す。雨は1日中降り続いた。こんなに雨が降るのは巡礼中で初めてである。これまではほとんど晴れの日ばかりで、たとえ雨が降ったとしてもすぐに止んだ。初めて体験する本格的な雨と寒さで体力が奪われる。通る町ごとにバルを見つけて雨宿りである。バルでのカフェ・コン・レチェが体を温めてくれる。休み休み歩いていく。
巡礼路
虹が見える
アルベルゲ
内部今日の目的地のCarrion de los Condesに着いても雨は降り続いている。外に出ることもできないのでベッドの上で寝袋にくるまりじっとしているしかない。温かいシャワーを浴びたときようやく生きていると実感することができた。
夕方になり、雨が上がった。町を散歩する。たくさんの教会や修道院のある町である。町のはずれの修道院礼拝堂はスリットになったステンドグラスからの光が幻想的で美しかった。現代的でありながらも普遍的な美しさを備えているように感じた。修道女たちが礼拝堂に来て、あなたは巡礼者ですかと質問された。Siと答えると手を合わせてスペイン語で何か言葉をかけてくれた。おそらく「神のご加護があるように」と言ってくれたのであろう。このときには不思議とすんなりとその言葉を受け入れることができた。というより、本当に何かを受けとったように思った。挨拶の一つの形式としてではなく、その言葉、行為に純粋な何かを感じたのだ。それは日本での生活やこれまで歩いてきた巡礼路での体験とは意を異にする感覚であった。修道女たちの日々の敬虔な生活から醸し出される何かなのだろうか。その不思議な感覚は正面のライトに照らされた十字架に架けられたイエスのイコンによってより助長されたのかもしれない。
修道院
キリストのイコン
ステンドグラス
修道女たち次の日も朝から雨が降り続いた。8:00まで外の様子を伺っていたが、止みそうにはないので歩き出す。本当に辛い1日であった。体力の消耗も激しく、心はすてに折れている。今日の宿まで、生きるために歩いているという状況であった。天候は心に大きな影響をあたえるものである。雨の日のどんよりとした分厚い灰色の空は人間の活力や希望といった心のエネルギーを吸い取っているのではないだろうか。だんだんと悲しい気持ちにさえなってきてしまった。そして、なにより一人で巡礼しているため、強い孤独を感じた。
宿の食事も薄くて硬い肉とパン、それにスープと簡素であり、沈んだ気分のまま食事を終えるとすぐに寝袋にくるまり、寝た。
雨の道
雨の道
アルベルゲ
アルベルゲ 食堂翌日は晴れた。そして、目的地のSahagunにはすぐに着いた。サアグーンは殉教者聖ファクンド(SAN FAGUN)に由来するローマ時代からの宿場町である。イスラム勢力のイベリア半島進出によって荒廃するが10世紀にアルフォンソ3世が再興し、11世紀にはアルフォンソ6世が、クリュニー修道会と共に街を拡大する。アルフォンソ6世は町と聖職者に自治権を与え、移住する人々への税を免除する。フランス商人、ムデハル人(レコンキスタ後もイベリア半島に残ったムスリム)、ユダヤ人といった人種や文化の違う人々が移住し、町は文化の中心地となり、結果的に修道院と町は突出した富を獲得することになった。『スペインのクリュニー』と呼ばれるほどの繁栄を誇ったという。
サン・ティルソ教会
回廊
祭壇
壁
窓町を歩き、レンガ造りの教会に足を運ぶ。これまで見てきたロマネスクの教会とは趣が異なり、イスラムの香りがする。アルハンブラ宮殿のような壮麗な空間ではないが、ところどころにイスラム建築の断片が垣間見える。
他の地域にはないレンが造りとなっているのは、付近から良い石材が採れないため。帯状の盲窓(ロンバルド帯)や幾何学模様のチェス柄などがムデハル様式を良く表している。その代表と言えるのがサン・ティルソ教会。12世紀に石造りで基壇や壁の一部が築かれ、その後に煉瓦を用いて完成された。数多くのアーチ窓を持つ鐘楼と、幾何学的に連続するアーチ装飾が特徴的。この地域の最も古い時代の煉瓦によるロマネスク建築である。少し離れた丘の上に建つサン・ロレンツォ教会はそれから1世紀下った13世紀にもの。こちらは総煉瓦造りで、鐘楼もより拡大されている。
夕食は宿の食堂でとることにする。温かいスープが心から美味しいと思った。
スープ歩いた総距離1028.8km
(はが げんたろう)
コラム 僕の愛用品 ~巡礼編~
第19回 音楽プレイヤー
iPod nano 17,800(現行モデルである第7世代の価格)
スティーブ・ジョブスはリーバイス501のコインポケットからこのiPod nanoを取り出した。衝撃的なプレゼンテーションでナノという名にふさわしいプロダクトである。強度のあるアルミ合金を使用し、縦長で楕円にカーブ形状は手にフィットし、操作性を快適である。
音楽は人間と密接に関係している。陸上競技ではサブグラウンドで選手たちがイヤホンをしながら、ウォーミング・アップをしている場面を良く見かける。サッカー選手がスタジアムまでのバスから降りる時も音楽を聴いている。
別にスポーツ選手が音楽好きということではないだろう。世界最高レベルのスポーツ競技者が、その最高の舞台で競技と関係のないことをしているはずがない。音楽を聴くのは、トレーニングをしたりストレッチをしたりするのと同じレベルで、アスリートにとって必須のものなのだ。
スポーツと音楽は密接に関係している。テンションを上げるときもあれば、リラックスさせるときもある。きっと、身体のパフォーマンスを最大にするためには、目からの情報や頭からの指令を一旦キャンセルして、身体内部の感覚を研ぎ澄まさなければならないからだろう。まさに「考えるな、感じろ」である。音楽はそのために最も有効な手段の一つに違いない。
それはアスリートに限らない。今の自分のベストを生きるため、自分自身を取り戻すためには、目に見える世界からの刺激や、ともすれば過剰になり暴走する人間の知恵の働きを解除しなければならない。昔なら、宗教儀式がその働きを果たしたのであろうが(ラグビーワールドカップでの試合開始前のパフォーマンスはまさにそれである)。今日では、iPodで音楽を聴くというのがそれにとって代わっているのではないか。そんな風に考えると、音楽に集中しているアスリートの姿が、瞑想する修道士に見えてくる。この巡礼を通して、世界のどのような場所においても宗教と音楽のない場所は存在しないのではないかとそう思った。
実は、このiPod nano は故障してしまい、使用していない。アップルショップに持って行き、もし直るのであれば、修理に出してみようとこの文章を書いていてふと思った。
iPod nano■芳賀言太郎 Gentaro HAGA
1990年生
2009年 芝浦工業大学工学部建築学科入学
2012年 BAC(Barcelona Architecture Center) Diploma修了
2014年 芝浦工業大学工学部建築学科卒業
2015年 立教大学大学院キリスト教学研究科博士前期課程所属
2012年にサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路約1,600kmを3ヵ月かけて歩く。
卒業設計では父が牧師をしているプロテスタントの教会堂の計画案を作成。
大学院ではサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路にあるロマネスク教会の研究を行っている。
●今日のお勧め作品は、吉田克朗です。
吉田克朗「Work "46"」
1975年
リトグラフ
Image size: 44.8x29.3cm
Sheet size: 65.6x50.4cm
Ed.100
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
-----------------------------
●展覧会のご案内/彫刻家の北郷悟先生が銀座で個展を開催します。


「北郷悟展 ―成層圏―」
会期:2015年11月16日(月)~28日(土)
11:00~18:30(日曜祝日休廊)
会場:ギャラリーせいほう(中央区銀座8-10-7 )
◆ときの忘れもののブログは下記の皆さんのエッセイを連載しています。
・大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
・frgmの皆さんによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
・石原輝雄のエッセイ「マン・レイへの写真日記」は毎月5日の更新です。
・笹沼俊樹のエッセイ「現代美術コレクターの独り言」は毎月8日の更新です。
・芳賀言太郎のエッセイ「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」は毎月11日の更新です。
・土渕信彦のエッセイ「瀧口修造とマルセル・デュシャン」は毎月13日の更新です。
・野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。
・森下泰輔のエッセイ「 戦後・現代美術事件簿」は毎月18日の更新です。
・新連載・荒井由泰のエッセイ「いとしの国ブータン紀行」は毎月19日の更新です。
・新連載・藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は毎月22日の更新です。
・小林美香のエッセイ「母さん目線の写真史」はしばらく休載します。
・「スタッフSの海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。
・森本悟郎のエッセイ「その後」は毎月28日の更新です。
・植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」は、更新は随時行います。
同じく植田実のエッセイ「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」は終了しました。
「本との関係」などのエッセイのバックナンバーはコチラです。
・「美術館に瑛九を観に行く」は随時更新します。
・飯沢耕太郎のエッセイ「日本の写真家たち」は英文版とともに随時更新します。
・浜田宏司のエッセイ「展覧会ナナメ読み」は随時更新します。
・深野一朗のエッセイは随時更新します。
・「久保エディション」(現代版画のパトロン久保貞次郎)は随時更新します。
・「殿敷侃の遺したもの」はゆかりの方々のエッセイ他を随時更新します。
・井桁裕子のエッセイ「私の人形制作」は終了しました。
・故・木村利三郎のエッセイ、70年代NYのアートシーンを活写した「ニューヨーク便り」の再録掲載は終了しました。
・故・針生一郎の「現代日本版画家群像」の再録掲載は終了しました。
・故・難波田龍起のエッセイ「絵画への道」の再録掲載は終了しました。
・ときの忘れものでは2014年からシリーズ企画「瀧口修造展」を開催し、関係する記事やテキストを「瀧口修造の世界」として紹介します。土渕信彦のエッセイ「瀧口修造とマルセル・デュシャン」、「瀧口修造の箱舟」と合わせてお読みください。
・「現代版画センターの記録」は随時更新します。新たに1974年10月7日の「現代版画センターのエディション発表記念展」オープニングの様子を掲載しました。
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