「いとしの国ブータン紀行」第4回
アートフル勝山の会 荒井由泰
民族衣装はブータンの心
私自身の仕事が繊維関連であることから、ブータンの織物の素晴らしさに惚れ、15年余りまえにニューヨークでブータンの布を購入したこともある。今回ブータンを旅して、民族衣装の持つ力を改めて強く感じた。男性用は丹前のようなゴ、女性用は巻きスカートのようなキラ(テュゴという上着と併用)で正装には男性はカムニ(身分によって色が違う。一般人は白)、女性はラチューという肩掛けの着用が必要。ガイドさん・ドライバーさん(男性)はゴを着て、空港に出迎えてくれ、その後ずっとゴのままだった。暑いときはゴの上の部分を脱ぎ、肌着を見せていた。長めの黒ソックスに革靴が決まりのようだ。ゴそしてキラの素材は絹、木綿、ウールがあるが、様々なデザインがあり、なかなかオシャレである。現在も各地で手織りで生産されているが、一部インドから機械織りの織物が入ってきている。もちろん、価格は大きく違う。ゾンや寺院に入るときは地元の人は制服でもある民族衣装姿が義務であり、宗教心の篤さも表現するように思う。ブータンの風景も民族衣装がアクセントとなり、旅の感動を提供してくれる。一方、民族衣装を義務化することにより、民族衣装用の生地(織物)づくりを含め、伝統工芸が守られている。GNH(総国民幸福量)の4つの柱の一つに「伝統文化の保護と推進」があり、その考え方に基づき民族衣装の義務化が行われている。伝統文化を守るためにはある程度の義務化は必要に違いない。日本では和服とくに男性用については明治の時代に放棄したことで、多くの伝統そして産業が失われてしまった。女性の着物はまだ残っているものの、生地や仕立ての産地・産業は大きく縮小したままである。今になって、「和装復興」と言っても、手遅れの観がする。
ちなみに、GNH(Gross National Happiness)の4つの柱は1 持続可能な社会経済の発展 2 環境保全 3 伝統文化の保護と促進 4 良き統治 である。
ブータンのキラ・ゴ売り場に並ぶ生地
ゴを試着するブータンの青年
ゴを着た筆者(左端)とキラを着た同行のいとこ達そしてガイドさん(右から2番目)
敬虔な仏教徒
ブータンを旅するとダルシンという縦型の経文旗やルンタという五色の旗が至るところで眼にする。これらの旗は風にはためくたびに書いてあるお経や平和への祈りなどが捧げられるという。まさに「祈り」が山々に、そして水田や川のある風景に満ちている。ブータンではチベット仏教が国教で、学校や施設の朝礼では必ず祈りの言葉を捧げられていたし、子供の僧侶もたくさん見かけた。また、標高3000メートルの絶壁の岩肌に沿うように建立されているタクツアン僧院を訪れた時にも、麓の駐車場から3時間近くかかるにも関わらず、正装で寺院に入り、お供え物を用意し、祈る姿を見ることができた。輪廻転生を信じ、生きているうちに徳を積む(お寺に通い、祈りを捧げ、マニ車を回す)ことで来世が良くなるという。この気持ちがブータンの高い幸福度と関係あるようだ。また、農家を訪れた際、二階の一番良い場所に大きな仏間があり、仏教が生活の中で大きな位置を占めていることを実感した。そして、殺生をきらい、生き物を大切にする姿も至る所にみられた。一番驚いたのは街中や寺院に野犬がたくさんおり、それも日中は安心しきったようにたむろして堂々と寝そべっている。それを誰も追い払おうとしない。えさはどうしているのだろうか。野犬は夜に活動するようで、夜中になると犬の吠える声がきこえる。寝そべる野犬や猫、それにのんびりと草を食んでいる牛や馬はブータンの思い出深い風景だ。農家では牛を飼っているが、あくまで牛乳目的で、自らとさつはしないとのことだ。また、絹織物につかう蚕(かいこ)も、日本では繭(まゆ)のままさなぎを殺して利用しているが、ブータンでは成虫(蛾)が出てきた繭を使っている。そのため紬(つむぎ)の絹織物が中心となってしまうようだ。これらすべてが、ブータン国民のやさしさ、気遣いの深さとつながっているのだろう。
ダルシンのはためく風景
ルンタのある風景
絶壁に建つタクツアン僧院
農家の大きな仏間
大きなマニ車と寝そべる野犬たち
今回のツアーとは:「かっこちゃんと行く・ブータンの旅」
今回、いとこから誘われたのは「かっこちゃんと行くたんぽぽツアー:ブータンの旅」だ。「かっこちゃんて誰?」というのが正直なところで、資料をもらっても判然としないまま、旅に参加した。かっこちゃんとは「山元加津子さん」で、昨年やめられたが、長い間、養護学校の先生をされ、障害者教育に多大の実績をあげられ方だ。現在は作家・講演活動をされている。実は参加されている方は全て、彼女の支援者であり、ファンなのだ。毎年、海外旅行を計画され、それも途上国などあまり、皆さんの行かない場所に出かけており、募集前に希望者がいっぱいになる人気のツアーなのだ。彼女と同じ時間を過ごしたいという気持ちがあふれていた。実際、オーストラリアそしてイスラエルから2組の夫婦も参加され、まさに強い絆でつながれたグループであった。そこに門外漢の私ということで、戸惑いがあったが、何回か開かれた彼女の講話や参加者の皆さんとの交流を通じて、「かっこちゃん」の熱く、やさしい思いや支援者のあたたかい気持ちが分かり、ブータンの方々の気遣いのように、すがすがしい気持ちで旅をすることができた。かっこちゃんの話をきき、今まで心の片隅にあった障害者に対する偏見みたいなものがすっかり消え去った。「大好き」と思う強い気持ちが「魔法の言葉」のようだ。「大好き」が障害者の心を開き、健常者が持っていない能力を引き出すのだ。やっぱり人との出逢いが旅の楽しみの一つだ。「かっこちゃん」の活動に興味のある方、インターネットで検索してみて下さい。
かっこちゃんツアーの面々たち
犬にも慕われるかっこちゃん
ブータンの悩み
ブータンは北は中国、東西南はインドという大国にはさまれた小国ということもあり、いつひねり潰されるかもしれぬ脅威のなかに存在している。国の存立を守るため、また安全保障の視点で、GNHなどを世界に提案するなど、世界に発信し続けてきたのだろう。優秀な官僚達の世界戦略もあって、現在の「幸福の国」のイメージを確保できている。一方、ホテルのロビーではWIFIが使え、また、多くの若者がスマホを使用しており、さらにはテレビも衛星放送で多くのチャンネルが視聴できる現実があり、世界の情報・刺激が押し寄せてきている。今後とも人々の欲望は大きくなるに違いない。先日もブータンの若者の薬物汚染のニュースが流れていた。今回のツアーでまわった限りでは、まだマイナス面が大きく出ていないように感じたが、時間の問題かもしれない。ブータンの国民の力で桃源郷・幸せの国・ブータンが今後とも続くことを願ってやまない。
(あらいよしやす)
*勝山左義長まつりプレミアムツアー(2016年2月28日~29日)
荒井さんが会頭をつとめる勝山商工会議所主催のツアーを12月10日のブログでご紹介しています。
亭主も社長たちと参加します。ぜひご一緒しませんか。
●今日のお勧め作品は、ムハマド・ユヌスです。
ムハマド・ユヌス
「(作品)」
油彩、キャンバス
イメージサイズ:66.0×66.0cm
シートサイズ:71.5×71.3cm
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
アートフル勝山の会 荒井由泰
民族衣装はブータンの心
私自身の仕事が繊維関連であることから、ブータンの織物の素晴らしさに惚れ、15年余りまえにニューヨークでブータンの布を購入したこともある。今回ブータンを旅して、民族衣装の持つ力を改めて強く感じた。男性用は丹前のようなゴ、女性用は巻きスカートのようなキラ(テュゴという上着と併用)で正装には男性はカムニ(身分によって色が違う。一般人は白)、女性はラチューという肩掛けの着用が必要。ガイドさん・ドライバーさん(男性)はゴを着て、空港に出迎えてくれ、その後ずっとゴのままだった。暑いときはゴの上の部分を脱ぎ、肌着を見せていた。長めの黒ソックスに革靴が決まりのようだ。ゴそしてキラの素材は絹、木綿、ウールがあるが、様々なデザインがあり、なかなかオシャレである。現在も各地で手織りで生産されているが、一部インドから機械織りの織物が入ってきている。もちろん、価格は大きく違う。ゾンや寺院に入るときは地元の人は制服でもある民族衣装姿が義務であり、宗教心の篤さも表現するように思う。ブータンの風景も民族衣装がアクセントとなり、旅の感動を提供してくれる。一方、民族衣装を義務化することにより、民族衣装用の生地(織物)づくりを含め、伝統工芸が守られている。GNH(総国民幸福量)の4つの柱の一つに「伝統文化の保護と推進」があり、その考え方に基づき民族衣装の義務化が行われている。伝統文化を守るためにはある程度の義務化は必要に違いない。日本では和服とくに男性用については明治の時代に放棄したことで、多くの伝統そして産業が失われてしまった。女性の着物はまだ残っているものの、生地や仕立ての産地・産業は大きく縮小したままである。今になって、「和装復興」と言っても、手遅れの観がする。
ちなみに、GNH(Gross National Happiness)の4つの柱は1 持続可能な社会経済の発展 2 環境保全 3 伝統文化の保護と促進 4 良き統治 である。
ブータンのキラ・ゴ売り場に並ぶ生地
ゴを試着するブータンの青年
ゴを着た筆者(左端)とキラを着た同行のいとこ達そしてガイドさん(右から2番目)敬虔な仏教徒
ブータンを旅するとダルシンという縦型の経文旗やルンタという五色の旗が至るところで眼にする。これらの旗は風にはためくたびに書いてあるお経や平和への祈りなどが捧げられるという。まさに「祈り」が山々に、そして水田や川のある風景に満ちている。ブータンではチベット仏教が国教で、学校や施設の朝礼では必ず祈りの言葉を捧げられていたし、子供の僧侶もたくさん見かけた。また、標高3000メートルの絶壁の岩肌に沿うように建立されているタクツアン僧院を訪れた時にも、麓の駐車場から3時間近くかかるにも関わらず、正装で寺院に入り、お供え物を用意し、祈る姿を見ることができた。輪廻転生を信じ、生きているうちに徳を積む(お寺に通い、祈りを捧げ、マニ車を回す)ことで来世が良くなるという。この気持ちがブータンの高い幸福度と関係あるようだ。また、農家を訪れた際、二階の一番良い場所に大きな仏間があり、仏教が生活の中で大きな位置を占めていることを実感した。そして、殺生をきらい、生き物を大切にする姿も至る所にみられた。一番驚いたのは街中や寺院に野犬がたくさんおり、それも日中は安心しきったようにたむろして堂々と寝そべっている。それを誰も追い払おうとしない。えさはどうしているのだろうか。野犬は夜に活動するようで、夜中になると犬の吠える声がきこえる。寝そべる野犬や猫、それにのんびりと草を食んでいる牛や馬はブータンの思い出深い風景だ。農家では牛を飼っているが、あくまで牛乳目的で、自らとさつはしないとのことだ。また、絹織物につかう蚕(かいこ)も、日本では繭(まゆ)のままさなぎを殺して利用しているが、ブータンでは成虫(蛾)が出てきた繭を使っている。そのため紬(つむぎ)の絹織物が中心となってしまうようだ。これらすべてが、ブータン国民のやさしさ、気遣いの深さとつながっているのだろう。
ダルシンのはためく風景
ルンタのある風景
絶壁に建つタクツアン僧院
農家の大きな仏間
大きなマニ車と寝そべる野犬たち今回のツアーとは:「かっこちゃんと行く・ブータンの旅」
今回、いとこから誘われたのは「かっこちゃんと行くたんぽぽツアー:ブータンの旅」だ。「かっこちゃんて誰?」というのが正直なところで、資料をもらっても判然としないまま、旅に参加した。かっこちゃんとは「山元加津子さん」で、昨年やめられたが、長い間、養護学校の先生をされ、障害者教育に多大の実績をあげられ方だ。現在は作家・講演活動をされている。実は参加されている方は全て、彼女の支援者であり、ファンなのだ。毎年、海外旅行を計画され、それも途上国などあまり、皆さんの行かない場所に出かけており、募集前に希望者がいっぱいになる人気のツアーなのだ。彼女と同じ時間を過ごしたいという気持ちがあふれていた。実際、オーストラリアそしてイスラエルから2組の夫婦も参加され、まさに強い絆でつながれたグループであった。そこに門外漢の私ということで、戸惑いがあったが、何回か開かれた彼女の講話や参加者の皆さんとの交流を通じて、「かっこちゃん」の熱く、やさしい思いや支援者のあたたかい気持ちが分かり、ブータンの方々の気遣いのように、すがすがしい気持ちで旅をすることができた。かっこちゃんの話をきき、今まで心の片隅にあった障害者に対する偏見みたいなものがすっかり消え去った。「大好き」と思う強い気持ちが「魔法の言葉」のようだ。「大好き」が障害者の心を開き、健常者が持っていない能力を引き出すのだ。やっぱり人との出逢いが旅の楽しみの一つだ。「かっこちゃん」の活動に興味のある方、インターネットで検索してみて下さい。
かっこちゃんツアーの面々たち
犬にも慕われるかっこちゃんブータンの悩み
ブータンは北は中国、東西南はインドという大国にはさまれた小国ということもあり、いつひねり潰されるかもしれぬ脅威のなかに存在している。国の存立を守るため、また安全保障の視点で、GNHなどを世界に提案するなど、世界に発信し続けてきたのだろう。優秀な官僚達の世界戦略もあって、現在の「幸福の国」のイメージを確保できている。一方、ホテルのロビーではWIFIが使え、また、多くの若者がスマホを使用しており、さらにはテレビも衛星放送で多くのチャンネルが視聴できる現実があり、世界の情報・刺激が押し寄せてきている。今後とも人々の欲望は大きくなるに違いない。先日もブータンの若者の薬物汚染のニュースが流れていた。今回のツアーでまわった限りでは、まだマイナス面が大きく出ていないように感じたが、時間の問題かもしれない。ブータンの国民の力で桃源郷・幸せの国・ブータンが今後とも続くことを願ってやまない。
(あらいよしやす)
*勝山左義長まつりプレミアムツアー(2016年2月28日~29日)
荒井さんが会頭をつとめる勝山商工会議所主催のツアーを12月10日のブログでご紹介しています。
亭主も社長たちと参加します。ぜひご一緒しませんか。
●今日のお勧め作品は、ムハマド・ユヌスです。
ムハマド・ユヌス「(作品)」
油彩、キャンバス
イメージサイズ:66.0×66.0cm
シートサイズ:71.5×71.3cm
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
コメント