スタッフSの海外ネットサーフィン No.35

「Art Stage Singapore 2016」
Sands Expo and Convention Centre, Singapore


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 読者の皆様こんにちは、東京が雪でてんやわんやになっていた中、熱帯気候の中で汗を流して参りました、スタッフSこと新澤です。

 古くは2012年のBAMA以来、フェア出発時には何かと雨に降られていた自分ですが、今回はついに雪に降られてしまいました。ここ最近は晴れ間が続いていたというのに、出発当日の朝に、ピンポイントに。天気予報で前もって降る事自体は分かっていましたが、今回は普段出張で使っているスーツケースに加え、海上輸送に間に合わなかった作品も脇に抱えての出発だったため、正に重労働でした。嫌な予感がして前日から寝付けず、開き直って飛行機の中で寝ればいいやと徹夜して朝6時に出発するも、高々10cmあるかないかの積雪に都心の交通網は大混乱。通常であれば1時間で到着出来る羽田空港まで辿り着くのにかかった時間、実に2時間半。自分と同じようにほぼ始発で家を出られていた作家兼スタッフの秋葉シスイさんと空港で落ち合い、なんとかチェックインすることができました。

IMG_0595出発時の最寄りのバス停の様子。
風が強く、電柱の片側だけに雪が積もってました。

 しかしここで悲報が。なんと今回は初海外出張な新人スタッフの松下さんが、高速バスが間に合わずにチェックインが締め切られてしまい、予定の便に乗れませんでした。何とか交渉して別の便に振り替えてもらいましたが、深夜12時発の飛行機まで空港内で立ち往生する羽目に。自分と秋葉さんが搭乗出来た本来の便も2時間ほど滑走路で待ちぼうけを食らったらしいのですが、自分は睡眠不足を解消しようと搭乗直後に寝入っていたため、目が覚めたら既に飛んでいた、という感じでしたが。
 幸い日本を発った後は大過なく物事が進み、シンガポール到着からホテルにチェックインするまでスムーズに行きました。この日は現地入りするだけの予定だったので、ホテル到着後は一足先にシンガポールに到着しており、フェア会場でもあるマリーナベイサンズに宿泊している社長と亭主へ移動経路の確認がてら地下鉄で会いに向かったのですが、ここで誤算が。ずばりホテルから会場までが遠い! 前回のシンガポールでのフェアではホテルと会場の間は4駅だったのですが、今回は乗り換え込みで実に8駅。フェア期間中複数のルートを試してみましたが、結局どれも30、40分はかかってしまい、毎日フェアの前後に一苦労が入ることとなってしまいました。シンガポールのような亜熱帯気候だと、1キロ程度でも外を歩くのはしんどかったです。次回は是非会場近くに宿を確保せねば。
 社長夫妻を散々待たせた上で合流を果たし、この日の晩は小龍包で有名なディンタイフォンという中華料理店で夕食をご馳走になりました。台湾に本店を構え、シンガポールだけでも無数の支店を持つチェーン店ですが、お手軽な価格で味も美味しいお店でした。日本にも店をだしているので興味のある方は是非おでかけください。個人的には小龍包の中のスープが熱すぎない事が一番ポイントが高かったです。

RIMG0293_600ディンタイフォン マリーナベイサンズ店
来店者に番号を割り振って電光掲示板で呼び出すほどの繁盛振り。
店の前の人だかりは全て案内待ちのお客です。
ですが回転は早いので、よほど人数が多くなければすぐに入れます。

 あけて翌日、エアコンをキンキンに効かせた部屋で毛布に包まって目を覚まし、ホテルロビーで秋葉さんと無事到着できた松下さん(空港からほぼ直行)と合流して会場であるSand Expo and Convention Centreへ。
今回のフェアは各ブースの壁面が4mと通常よりも1m高く、どんなモノかと思っていたのですが、実際に見ると思った以上に高く、また広さも今まで割り振られたブースの中でも指折りの大きさでした。周りのブースも大型作品が多く展示されており、ときの忘れものの出展作品の中では最大サイズである葉栗剛の〈男気〉シリーズや、秋葉シスイの100号サイズの新作が普通に見える…とは言い過ぎですが、それくらいブースのサイズを活かした作品が多かったです。
 そんな50平方メートル近い大ブースに収まった5つの木箱を現地の配送スタッフにあれやこれやと注文を付けつつ開梱し、今回も設営に手を貸していただくべく、遥々シンガポールまで来ていただいたブックギャラリーCAUTIONの浜田さんの指示を受けながら設営作業を開始。
 そしてここで第二のハプニング! 一体何がどうしてそうなったのか、何と秋葉シスイの油彩の梱包の中に他の作品の外箱が二つも入れられているという、何とも言い難い事態が判明。作品の表面がデリケートだからこそ、隙間を設けて作品を入れているのであって、そこに何か入った日には、そりゃ作品だって無事では済みません。この作品も凹みと傷がついてしまっており、残念ながら展示することは適わずとなりました。無念!
 とはいえそれでその他の手を止めるワケにもいかず、いつもの如くテキパキと壁面のレイアウトを割り出し、次から次へと平面作品を展示していく浜田さんと秋葉さんに対し、画廊の男手二人は葉栗先生の大作用の台座の組み立てと、長崎美希さんの小作品展示用の棚の取り付けに四苦八苦、ある程度形になる頃には浜田さんが殆どの作品を展示されてしまうという体たらくでした。後で「男二人は仕事が遅い!」と叱られてしまいました。
 この日は葉栗さんの大作を除いた作品の準備だけで終了となり、夕食はシンガポールの画廊に挨拶回りに出ていた社長と亭主と合流し、再びディンタイフォンへ。前の日は入店するなりラストオーダーだったので、一度しか注文できず、結果食べきれないほど色々と頼んでしまいましたが、この日は夕方に名古屋からいらした葉栗剛さんと長崎美希さんの木彫師弟も加え、のんびりと過ごせました。
 
 18日を移動、19日を設営に費やし、いよいよVIPプレビューが開かれる20日。朝のうちに葉栗さんの大作二点を準備して設営完了。此度の展示は以下のように相成りました。

RIMG0067_600ブース全景。
葉栗剛の大作シリーズ〈男気〉は、当初はブースの中ほどに設置していましたが、作家の葉栗さんの意見もあってブースの入口に持ってくることに。通路を歩いていると、必ず天狗の鼻先と出っ張った腹が見えるように。

RIMG0215_600ブースに入って時計周りに常松大純の立体、秋葉シスイの油彩

RIMG0072_600上と同じ壁にナム・ジュン・パイクの油彩
ブース外から見て正面の壁は建築家のドローイング特集として安藤忠雄

RIMG0071_600安藤忠雄から続いてル・コルビジエ、フランク・ロイド・ライト、光嶋裕介、隣の壁に移ってもう一度安藤忠雄

RIMG0083_600ストレージスペースと柱、そして消火器の収納で変則的な形になってしまった部分には草間彌生

RIMG0092_600最後に柱の通路面に、長崎美希の〈ああちゃん〉シリーズ

葉栗(浜田撮影)葉栗作品は会場でも他を圧していたのですが。
(浜田さん撮影)

 展示スペースがひたすらに大きいので、全体的にこじんまりして見えるのが困りものです。来年参加する時は、もっと大きな作品か、或いは数を揃えるか、悩ましいです。
浜田シンガポール
浜田さんが撮影した他のブースを見ると、皆さん大作ばかりです。

浜田シンガポール
こういう大作が他にもごろごろ。

浜田シンガポール
小山富美夫ギャラリーのブース。

浜田撮影

 ともあれ準備は万端で迎えたプレスカンファレンス開始時間。
 報道関係者のみなので数こそ多くはありませんでしたが、それでもブースの前を通りかかるとちょっと驚かれて写真を撮影されていく姿は中々に心をくすぐります。
葉栗
当日の18:00に掲載されたニュースサイトの記事でも葉栗さんの大作がトップを飾り、先が明るいと感じさせてくれました。

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VIPプレビューの時間になると、来場者の数は一気に増加。

 葉栗剛の大作は面白いけど、サイズが大きすぎて…という声は2014年のシンガポールアートフェアの時も聞いていましたので、今回は〈男気〉(天狗)、〈男気〉(般若)と《龍虎次郎》の小サイズ作品も持参。最初は展示の予定はなかったのですが、話を向けると見たいという方が多かったので、収納していた木箱を台座に展示。一昨年のシンガポールアートフェアで大作をご購入された方がいらっしゃり、三点の作品を一目見るなり「買います」と即決。めでたく今フェアの売り上げ第一号となりました。

RIMG0171_600来場者のご子息と葉栗剛の〈男気〉(天狗)、〈男気〉(般若)と《龍虎次郎》。
大作の二点も作品と同じポーズで写真を撮っている方が沢山いらっしゃいました。

 これを皮切りに一気に作品が売れ始め、バタバタアタフタしている間に、草間彌生、安藤忠雄、長崎美希と次々と作品が売れていき、気が付けば初日が終了していました。
 2日目以降は一般公開+正午開場とあって、流石に初日ほどの人出はありませんでしたが、フェア自体の知名度に加えSingapore Art Weekの一環として地下鉄などでも宣伝されているので周知されているのか、全日に渡って人の入りが途絶えることはなく、会場全体が常に熱気に包まれていました。
 また以前からネットでお取引のある方、2014年のシンガポールアートフェアで作品をご購入くださった方たちが多数ブースに来てくださり、展示作品をお褒めいただき、また今後への期待のお言葉もいただきました。

RIMG0336_600以前から安藤忠雄や草間彌生の作品をご購入いただいているマダム(中央)には今回もたくさんお買い上げいただきました。左に写っている旦那様は建築家で安藤忠雄の大ファン。自らデザインした自宅も安藤風のデザインになってらっしゃるとか。
(背景に注目! 三回目の展示換え)

RIMG0339_6002014年のシンガポールアートフェアで葉栗剛の大作をご購入いただいたご婦人(右)に伺うと、作品は現在自宅の玄関で来客の出迎え役をしているとのこと。

RIMG0353_600同じく2014年のシンガポールアートフェアで秋葉シスイの油彩をご購入いただいたMr. Tさん。
今回もご家族と一緒にブースを訪ねてくださいました。
娘さんは日本語を勉強中で、先日初めての試験を受けられたそうで。合格をお祈りしております。
(背景に注目! 既に100号は売れてしまい納品後の壁には?)

 プレビューに続き、秋葉シスイさんの100号の大作《次の嵐を用意している(21)》が売れ、続いて壁面に展示していた安藤忠雄先生の版画が2点とも売れてしまい、慌てて棚板を買ってきて代わりに展示したドローイング2点も売れてしまい、シートで持っていった《安藤忠雄版画集1998》も全点売れ、安藤人気の高さを実感しました。
 最終日には葉栗剛の大作<男気>《天狗…》も買い手が付き、総じて言えば成功に終われたのではないかと愚考するものであります。
 とはいえ、平穏無事に終われたわけでは(自分で書いていて悲しいですが)もちろんなく、初日に完売した葉栗剛の小作品3点、こちらは会期2日目の夜に納品と相成ったのですが、ここで第3のアクシデントが! 何と納品先で作品を開梱したところ、面の一つが破損してしまっていたのです! 納品先へは秋葉さん、松下さんと自分で向かったのですが、これには三人とも茫然自失。慌ててお客様に事情を話し、ご厚意に甘えて対応する猶予をいただけました。納品で上を向いていた気持ちも一気に消沈、重い溜息で一日を締める結果に。
 自分の想定と対応の甘さもあり、今回も社長と亭主の綿貫さんには相当なご心労をお掛けしてしまいました。シンガポール在住のKさんの助けがなければ果たしてどうなっていたやら、この場も借りてお詫びと御礼を申し上げます。

 フェア終了の翌日は元々納品などがあった場合のために、飛行機は夜の22時出発のものを予約し、日中は予定を開けてあったのですが、結局葉栗剛の<男気>《天狗…》以外はお客様が持ち帰るか、会期中にこちらから出向いて納品してしまい、<男気>《天狗…》は現地の配送サービスに納品してもらうよう話がついたので、1日自由時間となってしまいました、ですので、この日はチェックアウト時間である12時ギリギリまで惰眠を貪り、その後は去年の11月の記事で話題に挙げたNational Gallery Singaporeに行ってまいりました。前日掲載の浜田さんの記事も合わせてご覧ください。元々用途の違う建物、しかもそれを二つ繋げて美術館としているので、かなりクセのある構造をしており、個人的には収蔵物以上に建物自体に興味を惹かれました。また、シンガポールの中心部にありながら、建物の目前には広い芝生の空間が広がっており、大変見晴らしが良かったです。

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National Gallery Singaporeの屋上からの眺め。
天気が良い時は中々の絶景です。
シティホール側の屋上にはレストランとバーがあり、この景色を楽しみながら飲食ができるようになっています。

RIMG0403_600ときの忘れもの亭主おすすめのサラダバー。
11:00から14:30の間、時間制限なしに食べ放題です。

RIMG0406_600サラダバーのある屋上レストランからの眺め。
エアコンの効いた室内でサラダを摘みながらの優雅なひと時を堪能させていただきました。

RIMG0410_600ギャラリー開館時に話題になった裁判所とシティホールを繋ぐ構造体。

RIMG0415_600裁判所側の天井はガラスで覆われています。
ちなみに裁判所とシティホールの間には渡し廊下がかかっているのですが、高所恐怖症の自分は真ん中を歩かないと怖くて渡れませんでした。

RIMG0395_600シティホールの屋上は空中庭園にもなっており、池の底は光を館内に取り入れるためにガラス張り。屋外作品の展示もありました。


 シンガポールの茹るような暑さも堪えましたが、そこから一晩で真冬の日本に帰ってくると寒さも一入です。雪まで降っているのだからそりゃ寒くて当然ですが、皆様も体調管理にはよくよくお気をつけてお過ごしください。

(しんざわ ゆう)

●今日のお勧め作品は、葉栗剛です。
haguri_12_1.jpg葉栗剛
<男気>《鬼/烏天狗》
2015年
木彫、楠木、アクリル
H. 235cm
サインあり


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◆スタッフSの「海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。