山口長男とM氏コレクション展」は昨日盛況のうちに終了しました。
ネットや人づてで知った方、作家のご遺族など初めてのお客様も多く、「こんな所にこんな画廊があったなんて」と驚かれる方もありました。
RIMG0220
終了30分前、
山口長男の名作と記念撮影。

10月18日のブログに書いたとおり、思わぬ優品が転がり込んでくる幸運もあり(おかげさまで駒井哲郎「悪僧」は二点ともお嫁入り先が決まりました)、私たちにとって実りの多い展覧会でした。
大枚はたいてお買い上げいただいたお客様には心より御礼を申し上げます。

今日23日(日曜)と明日24日(月曜)は休廊ですので、ご注意ください。

明後日25日は、チェコ出身の建築家アントニン・レーモンドの命日です。

レーモンド(Antonin Raymond, 1888年5月10日 - 1976年10月25日)が亡くなってちょうど40年の記念の年でもあります。
先日刊行された『磯崎新と藤森照信のモダニズム建築談義』(六耀社)のサブタイトルに「戦後日本のモダニズムの核は、戦前・戦中にあった。」とあり、天才イソザキ先生と建築探偵にして建築史家フジモリ先生が8人の建築家を縦横無尽に論じています。
その第一章が「アントニン・レーモンドと吉村順三」です。
全編を通じてお二人の対談になっていますが、出てくる人名、団体、建築作品に簡潔な註がついており、その最初(*1)がレーモンドに関連して井上房一郎さんです(15ページ)。
ペレに次いでコンクリート打ち放しによる建築表現をなしたのが日本で仕事をしていたレーモンドであり、ル・コルビュジエに先駆けていたことを論証したスリリングな対談であり、専門家でなくとも面白く読めます。

レーモンドは、絵画作品もたくさん遺しています。
raymond_01_work1500
アントニン・レイモンド Antonin RAYMOND
《作品》
1957   紙に水彩   21.0x27.5cm   Signed


アントニン・レーモンド_色彩の研究_600
アントニン・レイモンド Antonin RAYMOND
色彩の研究
紙に油彩
64.1x51.6cm
Signed and dated

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

アントニン・レーモンド Antonin RAYMOND (1888-1976)
チェコ出身の建築家。フランク・ロイド・ライトのもとで学び、帝国ホテル建設の際に来日。その後日本に留まり、レーモンド事務所を開設、モダニズム建築の作品を多く残す。前川國男、吉村順三、ジョージ・ナカシマなどの建築家がレーモンド事務所で学んだ。 聖路加国際病院、東京女子大学礼拝堂、群馬音楽センターなどの他に、堀辰雄「風立ちぬ」や川端康成の「掌の小説」にも登場する軽井沢の聖パウロカトリック教会もレーモンドの設計である。
没後もその意志を継ぎ「レーモンド設計事務所」は今も活動している。 2007年神奈川県立近代美術館で「建築と暮らしの手作りモダン アントニン&ノエミ・レーモンド」が開催された。
---------------------------
亭主がレーモンドの名と建築を知ったのは1961年、浅間山麓の高原地帯(嬬恋村)から高崎高校に入学した年でした。
入学して間もなく亭主はマンドリンに出会い、このこのブログで幾度も言及している井上房一郎さんの知遇を得ます。レーモンドの有名な麻布笄町にあった自邸をコピーしたのが井上さんの自宅(現・高崎哲学堂)で、ことあるごとに呼ばれたり、こちらから押しかけたりしました。井上さんが社長をつとめていた井上工業が施工してレーモンドの畢生の名作、群馬音楽センターが高崎の町に完成したのが、その年の7月でした。
井上さんが戦後間もなく創立に尽力した地方初のオーケストラ、群馬交響楽団の本拠として建築された群馬音楽センターには井上さんの「高崎に音楽、美術、そして哲学の場をつくりたい」という夢がこめられています。
レーモンドに音楽センターの、磯崎新先生に群馬県立近代美術館の設計をゆだねたのが井上さんでした。
20150809_TMO-10[群馬音楽センター]
1961(昭和36)年に高崎市民の寄付金を基にして建てられた[群馬音楽センター]は、日本に於けるモダニズム建築の代表の一つとされ、群馬県を代表する文化施設の一つです。構造形式は最大スパン60mの鉄筋コンクリート折板構造で、内部は地下1階・地上2階で構成されています。
磯崎新先生をして「日本におけるモダニズムのもっとも良質な部分をこの建物でみることができる。」と言わしめた名作です。

2007_TMO
群馬音楽センター内観

レーモンド_群馬音楽センター_綿貫撮影群馬音楽センター二階ロビー

レーモンド_軽井沢_教会600[聖ポール教会](現・軽井沢聖パウルカトリック教会)
1934年竣工 軽井沢
1935年に英国人ワード神父によって設立されたカトリック教会で、軽井沢の歴史的建造物となっています。
傾斜の強い三角屋根、大きな尖塔、打ち放しのコンクリートが特徴で、レーモンドの故郷チェコのお隣り、スロバキア地方の伝統なデザインを取り入れています。
内部の屋根を支えるトラスは、荷重が素直に流れていくような、すっきりとした構成となっています。この丸太を使った小屋組みはレーモンド設計の他の住宅や事務所でも見られますが、まだもののない時代に、最小限の材料で作ろうと考案された架構だそうです。構造がそのまま内部の意匠にもなっています。

-----------------------------
昨日22日は藤本貴子さんのエッセイ「建築圏外通信」でしたが、明日24日は彦坂裕さんと八束はじめさんのリレー連載「建築家のドローイング」の第12回ヒュー・フェリス(Hugh Ferriss)〔1889-1962〕が掲載されます。

という風にいつの間にか建築関連の連載が多くなってしまったこのブログですが、開廊以来、「建築家のドローイングと版画」をメインにしてきた必然の結果でもあります。

先日、光嶋裕介さんの紹介で、建築史家の田所辰之助さんにお目にかかる機会がありました。
田所さんから建築関連のイベントをご案内いただいたので、ご紹介します。

●連続シンポジウム 分離派建築会誕生100年を考える 第1回「分離派」とは何か
分離派100年研究会_第1回シンポジウム
日時:2016年10月30日(日)13:00-17:30
会場:東京大学工学部1号館15号講義室
   東京都文京区本郷7-3-1
定員100名(先着順)
入場料無料(申込不要)

開会:加藤耕一(東京大学 准教授)
趣旨説明:河田智成(広島工業大学 教授)
第1部|美術界における分離派
・池田祐子(京都国立近代美術館 主任研究員)
・水沢勉(神奈川県立近代美術館 館長)
第2部|分離派と建築
・河田智成(広島工業大学 教授)
・足立裕司(神戸大学 名誉教授)
・コメント:福田晴虔(九州大学 名誉教授)
第3部|討論 「分離派」とは何か
・足立裕司・池田祐子・河田智成・水沢勉
・モデレーター:田所辰之助(日本大学 教授)
閉会:田路貴浩(京都大学 准教授)

「過去建築圏」からの分離を求めて東京大学を卒業する学生たちが分離派建築会を結成して、まもなく100年を迎える。この運動は、20世紀への世紀転換期ヨーロッパ美術界におけるアカデミズムからの分離運動に刺激されて、建築における芸術性の解放を目指した若者たちによる瑞々しい運動として、近代建築の歴史に刻まれている。本シンポジウムを起点とする一連の企画は、分離派建築会発足100年を見据えて、現代建築に通じる重大な岐路のひとつであったこの運動の実態と意味とを問い直すことを目的としている。その端緒として、今回は、ヨーロッパにおける分離派(Secession / Sezession)と日本の分離派建築会のあいだにある西洋と日本との距離、美術と建築との距離を問い、分離派建築会をめぐるコンテクストを探ることにする。それによって、近代建築運動が孕んでいた問題と可能性を再考する機会としたい。(広報資料より)
--------------------------
●吉田鉄郎没後60周年記念展
吉田鉄郎展ポスター
会期:2016年10月29日[土]~11月26日[土]
会場:日本大学理工学部お茶の水校舎1階ロビー(旧お茶の水スクエア)
時間:10:00~17:00
入場無料

日本大学建築系学科卒業生の会である日本大学桜門建築会(通称:桜建会)は、戦後復興期において日本大学教授としてその設計教育の礎を築き、日本の建築文化に関する優れた論考を残した建築家・吉田鉄郎(1894~1956)の没後60年を記念して、吉田鉄郎の足跡をたどる展覧会「吉田鉄郎没後60周年記念展」を開催いたします。
吉田鉄郎は、東京・大阪の両中央郵便局の設計者として知られ、戦前期には日本のモダニズム建築の創生期を担った逓信省営繕課を舞台に活躍し、指導的役割を果たしました。本展覧会では、NTTファシリティーズの協力のもと逓信省関連の代表的作品をはじめ、吉田鉄郎の足跡のもうひとつの側面をなす住宅作品に光を当て、馬場牛込邸、馬場烏山別邸といった主要作の図面資料などを展示します。シンポジウムでは、一連の業績を振り返りながら、その人となり、また、私たちがいま吉田鉄郎から学ぶべきことは何か、などの点をめぐって考えていきたいと思います。
また、本展覧会にあわせて、「ものづくり」の楽しさ・おもしろさを学生と卒業生が一緒に体験することを目的として、日本大学の在学生および卒業生が応募できる「桜建デザイン・コンクール」の完成作品の展示を行います。日本大学から発信されるこのふたつの展示によって、吉田鉄郎による合理的なモダニズム建築からはじまり、自らの手によりストラクチュアル・アートを実現するためのデザイン・技術へと継承される、デザインとエンジニアリングの両面を持つ日本大学の過去と現在を示す、桜建会の活動を象徴づける試みとなります。みなさんの積極的な参加を期待しています。

シンポジウム(桜門建築会交流会)
2016年11月1日(火)
日本大学理工学部駿河台校舎1号館6階CSTホール
・17:00~18:30 吉田鉄郎没後60周年記念展シンポジウム
 テーマ:建築家・吉田鉄郎の足跡とその今日的意義-建築のスタンダ-ドを求めて-
 講演者:
 川向正人(建築史家/東京理科大学名誉教授)
 観音克平(郵政建築研究所)
 田所辰之助(建築史家/日本大学理工学部建築学科教授)
・18:30~19:00 桜建デザイン・コンクール表彰式

ご興味のある方、ぜひお出かけください。