小林美香のエッセイ「写真集と絵本のブックレビュー」第12回
サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)「Japanese Photography: From Postwar to Now」と日本写真の研究プロジェクト
(図1)
「Japanese Photography: From Postwar to Now」展 会場入口
2月に1週間ほどサンフランシスコに滞在し、サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)で開催されている展覧会「Japanese Photography: From Postwar to Now」(会期は2017年3月12日まで)(図1)を見てきました。この展覧会は、美術館の収蔵作品を展示するコレクション展であり、戦後から現代までの日本写真の展開を概観し、Kurenboh Collection(現代美術ギャラリー空蓮房を主宰する谷口昌良氏が寄贈した写真作品)を紹介するという意図を持つものでもあります。SFMOMAでは、キュレーターのサンドラ・S・フィリップス(2017年現在では名誉キュレーター)の企画により「Daido Moriayma: Stray Dog」(1999)と、「Shomei Tomatsu: Skin of a Nation」(2004)が開催され、これらの展覧会を契機として森山大道、東松照明、深瀬昌久、畠山直哉、石内都など、第二次世界大戦後に活躍してきた写真家の作品に重点を置いて蒐集が続けられており、Kurenboh Collectionの寄贈により、日本の写真コレクションは若い世代の写真家の作品も含む幅の広いものになっています(SFMOMAのウェブサイトで作品を検索、閲覧することができます。)
展示会場は、時系列に沿って歴史を辿るというよりも、「アメリカと日本の関係」、「田舎(地方)の描写」、「近代都市という概念」、「写真界への女性の進出」、「自然災害が日本に与えてきた影響」といったテーマに沿って、異なる世代の作家の作品を緩やかに結びつけ、相互に見比べることができるように構成されています。また、東日本大震災以降に津波の被害や原発、放射能の問題を扱った作品も数多く紹介され、現代写真の展開の中でもひときわ重要な転換点として扱われていることが伺われました。
現代美術を含む多様な作家の作品を紹介することに重点を置いていること、Kurenboh Collectionに収められた作品が、写真家のシリーズ全体を把握できるような点数で構成されているものではないこと、さらに展示空間の物理的な制約もあり、日本の写真の文脈に通じていないアメリカの観客には、作品の内容や意図が一見してすぐに把握しやすくはないだろうと思われる部分もあります。しかし、すでに名を知られている世代の作家の作品の間に、アメリカではまださほど名の知られていない若手、中堅の写真家の作品が織り交ぜられることによって現代写真の展開の厚みが示されているように感じられました。写真作品を読み取るための手がかりとして、関連する写真集も併せて会場の中で展示されていたことも、写真集を軸とする日本の写真への関心を反映しています。(図2、3)
(図2)
「田舎(地方)の描写」に関連する作品を展示した展示室
(図3)
写真集を収めたケース
今回のSFMOMAの訪問には、このコレクション展に並行して現在構想されている日本写真の研究プロジェクトのために、近年刊行された写真集をリサーチ・ライブラリーに寄贈するという目的がありました。SFMOMAは、数年前から所蔵作品に関連する研究成果をオンラインで公開するプロジェクトに取り組んでおり、日本写真の研究プロジェクトは、2013年に公開されたロバート・ラウシェンバーグ研究プロジェクトに続く第二弾のプロジェクトとして構想が進められています。
私が写真集の寄贈を考えた理由として、2008年に3カ月間Patterson Fellowshipの助成金を受けて客員研究員として、美術館に収蔵されている日本の写真家の作品研究に携わった経験から、SFMOMAが森山大道、東松照明の展覧会などを始め、欧米において日本写真の研究、展示をリードしてきた、他に類を見ない機関であることを実感し、美術館でのさらなる作品や資料の蒐集が。この研究プロジェクトの立ち上げに欠かせないと考えたからです。写真集やアートブックを専門とする出版社やギャラリー、ディストリビューター、写真家の方々に個人的なお願いとして寄贈を申し出たところ、75冊もの写真集を提供して頂くことができました。
「Japanese Photography: From Postwar to Now」の展示方法にも示されているように、写真集は展示されている写真作品(プリント)のシリーズとしての全体像を把握するための資料としての重要性を持つのみならず、造本やデザイン、構成などにおいて精緻でユニークな特徴を具えた写真集はそれ自体が作品としての価値を持っています。この作品としての価値を多くの人に伝え、広めていくことに、今後も微力ながらも貢献できればと考えています。
(図4)
リサーチ・ライブラリーの書庫 Kurenboh Collectionとして寄贈された日本の写真集の棚
(図5)
今回寄贈した写真集を載せたブック・カートと名誉キュレーターのサンドラ・S・フィリップスさん
(こばやし みか)
●今日のお勧め作品は、エドワード・スタイケンです。
作家と作品については、小林美香のエッセイ「写真のバックストーリー」第32回をご覧ください。
エドワード・スタイケン
「Brancusi, Voulangis, France」
1922年頃(1987年プリント)
ゼラチンシルバープリント
33.2x27.0cm
Ed.100
裏にプリンターと遺族のサインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
◆「普後均写真展―肉体と鉄棒―」は本日が最終日です。
普後均さんは13:00~ラスト19:00まで在廊の予定です。
皆さんのご来廊をお待ちしています。
作家と作品については大竹昭子のエッセイ、及び飯沢耕太郎のエッセイをお読みください。

ときの忘れものでは初となる普後均の写真展を開催します。新作シリーズ〈肉体と鉄棒〉から約15点をご覧いただきます。
出品作品の詳細な画像とデータは2月18日のブログをご覧ください。
《〈肉体と鉄棒〉より 11》
2010年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 12》
2013年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 14》
2012年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 15》
2003年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:35.8×44.8cm
シートサイズ:40.6×50.8cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 16》
2012年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 17》
2013年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 18》
2012年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 19》
2008年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 20》
2013年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:35.8×44.8cm
シートサイズ:40.6×50.8cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 21》
2003年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:35.8×44.8cm
シートサイズ:40.6×50.8cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 22》
2013年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
◆小林美香のエッセイ「写真集と絵本のブックレビュー」は毎月25日の更新です。
サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)「Japanese Photography: From Postwar to Now」と日本写真の研究プロジェクト
(図1) 「Japanese Photography: From Postwar to Now」展 会場入口
2月に1週間ほどサンフランシスコに滞在し、サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)で開催されている展覧会「Japanese Photography: From Postwar to Now」(会期は2017年3月12日まで)(図1)を見てきました。この展覧会は、美術館の収蔵作品を展示するコレクション展であり、戦後から現代までの日本写真の展開を概観し、Kurenboh Collection(現代美術ギャラリー空蓮房を主宰する谷口昌良氏が寄贈した写真作品)を紹介するという意図を持つものでもあります。SFMOMAでは、キュレーターのサンドラ・S・フィリップス(2017年現在では名誉キュレーター)の企画により「Daido Moriayma: Stray Dog」(1999)と、「Shomei Tomatsu: Skin of a Nation」(2004)が開催され、これらの展覧会を契機として森山大道、東松照明、深瀬昌久、畠山直哉、石内都など、第二次世界大戦後に活躍してきた写真家の作品に重点を置いて蒐集が続けられており、Kurenboh Collectionの寄贈により、日本の写真コレクションは若い世代の写真家の作品も含む幅の広いものになっています(SFMOMAのウェブサイトで作品を検索、閲覧することができます。)
展示会場は、時系列に沿って歴史を辿るというよりも、「アメリカと日本の関係」、「田舎(地方)の描写」、「近代都市という概念」、「写真界への女性の進出」、「自然災害が日本に与えてきた影響」といったテーマに沿って、異なる世代の作家の作品を緩やかに結びつけ、相互に見比べることができるように構成されています。また、東日本大震災以降に津波の被害や原発、放射能の問題を扱った作品も数多く紹介され、現代写真の展開の中でもひときわ重要な転換点として扱われていることが伺われました。
現代美術を含む多様な作家の作品を紹介することに重点を置いていること、Kurenboh Collectionに収められた作品が、写真家のシリーズ全体を把握できるような点数で構成されているものではないこと、さらに展示空間の物理的な制約もあり、日本の写真の文脈に通じていないアメリカの観客には、作品の内容や意図が一見してすぐに把握しやすくはないだろうと思われる部分もあります。しかし、すでに名を知られている世代の作家の作品の間に、アメリカではまださほど名の知られていない若手、中堅の写真家の作品が織り交ぜられることによって現代写真の展開の厚みが示されているように感じられました。写真作品を読み取るための手がかりとして、関連する写真集も併せて会場の中で展示されていたことも、写真集を軸とする日本の写真への関心を反映しています。(図2、3)
(図2)「田舎(地方)の描写」に関連する作品を展示した展示室
(図3)写真集を収めたケース
今回のSFMOMAの訪問には、このコレクション展に並行して現在構想されている日本写真の研究プロジェクトのために、近年刊行された写真集をリサーチ・ライブラリーに寄贈するという目的がありました。SFMOMAは、数年前から所蔵作品に関連する研究成果をオンラインで公開するプロジェクトに取り組んでおり、日本写真の研究プロジェクトは、2013年に公開されたロバート・ラウシェンバーグ研究プロジェクトに続く第二弾のプロジェクトとして構想が進められています。
私が写真集の寄贈を考えた理由として、2008年に3カ月間Patterson Fellowshipの助成金を受けて客員研究員として、美術館に収蔵されている日本の写真家の作品研究に携わった経験から、SFMOMAが森山大道、東松照明の展覧会などを始め、欧米において日本写真の研究、展示をリードしてきた、他に類を見ない機関であることを実感し、美術館でのさらなる作品や資料の蒐集が。この研究プロジェクトの立ち上げに欠かせないと考えたからです。写真集やアートブックを専門とする出版社やギャラリー、ディストリビューター、写真家の方々に個人的なお願いとして寄贈を申し出たところ、75冊もの写真集を提供して頂くことができました。
「Japanese Photography: From Postwar to Now」の展示方法にも示されているように、写真集は展示されている写真作品(プリント)のシリーズとしての全体像を把握するための資料としての重要性を持つのみならず、造本やデザイン、構成などにおいて精緻でユニークな特徴を具えた写真集はそれ自体が作品としての価値を持っています。この作品としての価値を多くの人に伝え、広めていくことに、今後も微力ながらも貢献できればと考えています。
(図4)リサーチ・ライブラリーの書庫 Kurenboh Collectionとして寄贈された日本の写真集の棚
(図5)今回寄贈した写真集を載せたブック・カートと名誉キュレーターのサンドラ・S・フィリップスさん
(こばやし みか)
●今日のお勧め作品は、エドワード・スタイケンです。
作家と作品については、小林美香のエッセイ「写真のバックストーリー」第32回をご覧ください。
エドワード・スタイケン「Brancusi, Voulangis, France」
1922年頃(1987年プリント)
ゼラチンシルバープリント
33.2x27.0cm
Ed.100
裏にプリンターと遺族のサインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
◆「普後均写真展―肉体と鉄棒―」は本日が最終日です。
普後均さんは13:00~ラスト19:00まで在廊の予定です。
皆さんのご来廊をお待ちしています。
作家と作品については大竹昭子のエッセイ、及び飯沢耕太郎のエッセイをお読みください。

ときの忘れものでは初となる普後均の写真展を開催します。新作シリーズ〈肉体と鉄棒〉から約15点をご覧いただきます。
出品作品の詳細な画像とデータは2月18日のブログをご覧ください。
《〈肉体と鉄棒〉より 11》2010年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 12》2013年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 14》2012年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 15》2003年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:35.8×44.8cm
シートサイズ:40.6×50.8cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 16》2012年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 17》2013年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 18》2012年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 19》2008年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 20》2013年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:35.8×44.8cm
シートサイズ:40.6×50.8cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 21》2003年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:35.8×44.8cm
シートサイズ:40.6×50.8cm
Ed.15
サインあり
《〈肉体と鉄棒〉より 22》2013年撮影(2016年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:44.8×35.8cm
シートサイズ:50.8×40.6cm
Ed.15
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
◆小林美香のエッセイ「写真集と絵本のブックレビュー」は毎月25日の更新です。
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