●建築家の遠藤現さんから、世田谷区三宿の「登録有形文化財 萩原家住宅」の公開のご案内をいただきました。
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1924年に祖父の遠藤新が設計した、世田谷区三宿の萩原邸が3月18、19、20日の連休に、一般公開されることになりました。
併せて同敷地内でヴァイオリンスクールを開かれている、施主のお孫さんの淑子さんによるミニコンサートも企画されています。
皆様お誘いあわせの上、ぜひ足をお運びください。
どうぞよろしくお願いいたします。
詳細はAtelier HAGIWARAのサイトをご覧ください。ご参加にはお申し込みが必要です。
なお期間中の3月19日(日)の正午にBS朝日「百年名家」でも萩原邸が紹介されます。
こちらもぜひご覧ください。

遠藤 現  遠藤現建築創作所
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ときの忘れものは「小野隆生コレクション展」を開催しています。
会期:2017年3月7日[火]―3月25日[土] *日・月・祝日休廊

本展では、1970年代の初期作品から2000年代の近作まで、油彩・テンペラ・素描など約15点を選びご覧いただきますが、いい機会なので私どものコレクションの中からこのブログで数回にわけてご紹介します。
(実際の展示の様子はコチラをご覧ください。)

先ずは小野隆生の初期作品(1970~80年代)をご紹介します。
ono07
小野隆生
《残像図》
1976年  油彩
23.0×16.2cm(SM号)
サインあり
*この絵を見て直ぐに「戦艦ポチョムキン」を思い浮かべた人は相当な映画好きですね。
小野さんの絵のタイトルが映画からきていることが多いのも周知の事実。

制作された1976年は小野さんが洲之内徹さんの銀座・現代画廊で初個展を開催した年です。
小野さんの才能を最初に見出したのはMORIOKA第一画廊の上田浩司さんと洲之内徹さんでした。
洲之内徹の名をたからしめたのは雑誌「芸術新潮」の連載エッセイ”気まぐれ美術館”ですが、もちろん小野さんについても書いています。
後に『帰りたい風景 気まぐれ美術館』(昭和55年初版、新潮社)の冒頭に<三浦さんと小野クン 小野隆生・三浦逸雄・川俣豊子>として掲載されています。
文庫本にもなっていますので、ぜひお読みください。
州之内書籍表紙2-2
洲之内徹
『帰りたい風景 気まぐれ美術館』
表紙は小野隆生の油彩

この文庫本刊行のとき、新潮社の装丁室からときの忘れものに電話がかかってきました。
新潮社「文庫の表紙に小野隆生作品を使いたいので、ご遺族の連絡先を教えてください」
亭主「小野先生はイタリアでお元気ですよ」
新潮社「えっ、生きているンですか」
亭主「そんな歳じゃあありませんよ」
などという珍妙なやりとりがあったのですが、表紙には小野先生の姉弟像が使われました。
あの姉弟像を見て、大正時代の作家かと勘違いしたらしい(笑)。
それくらい、日本を離れて(イタリア)、ある意味忘れられてしまった。

ついでに他の文庫本もご紹介しましょう。
州之内書籍表紙
洲之内徹
『気まぐれ美術館』
こちらは正真正銘、はるか昔に亡くなられた松本竣介の素描。
新潮社が知っていたかどうかわかりませんが、二人とも岩手にゆかり、小野さんが敬愛するのが竣介でした。

洲之内さんが小野さんをどういう風に見ていたか、単行本には収録されていない1976年初個展のパンフレットから再録しましょう。
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「画廊から」  洲之内 徹
 今年の一月、若い小野さん夫妻は、一匹の犬をつれてローマから帰ってきて、当分、独り者の市村修君の家で居候をしていた。犬が飼えるのを条件に部屋を探しているが、なかなか見つからず、見つかるまでそうしているのだと聞いて、私は、その犬というのはイタリー産の由緒ある血統の犬か何かだろうと思ったのだが、よく聞いてみると、小野さんが日本を出る前に町で拾った仔犬をイタリーへつれて行き、こんどまたそれをつれて帰ってきたので、名前もムクというのであった。変った人だなとそのとき思ったが、考えてみると、ごく当り前のことのようでもある。可愛がっている犬を、自分の行くところどこへでもつれて行くというのは、むしろ自然だろう。
 小野さんの仕事も、初め見たとき、ずいぶん変っているような気がしたが、これまた、格別変ってはいないのかもしれない。すくなくとも小野さん自身には、変ったことをしているという意識はなさそうである。例えば、小野さんは、いま自分は物の輪郭に非常に興味があると言うのだが、そういうところから客観に迫ってみようとしているのかもしれない。
 それはともかく、小野さんの精緻を極めた仕事を見て私が最初に感じた驚きは、この人は何のためにこんなことをやっているのか、ということであった。途方もない無意味ではないかという疑問を持った。物をレンズが映すように見ようとすること、眼がレンズを模倣するということに、「描く」ということに慣れた私の常識は一種の倒錯を感じるのだ。だが、それが倒錯であってもなくても、私が倒錯を感じるそこのところに、逆に、私の古びた常識の上皮を剥がしにくる何かがあり、いまではそれが小野さんの仕事の、私にとっての烈しい魅力になっているようである。
      1976年 現代画廊「小野隆生 油絵展」パンフレットより
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洲之内さんの死後、アパートに遺された作品群は一括して洲之内コレクション「気まぐれ美術館」として宮城県美術館に収蔵されました。
1994年開催の宮城県美術館の「洲之内コレクションー気まぐれ美術館ー」図録には146点が収録されています。洲之内コレクションには、佐藤哲三、梅原龍三郎、松本竣介海老原喜之助野田英夫、浅井忠、難波田龍起萬鉄五郎、靉光、恩地孝四郎、吉岡憲、青木繁、北脇昇、長谷川利行、藤牧義夫、村山槐多ら日本近代美術史を彩る作家たちとともに、まだ20歳代の小野さんの初個展の頃の作品も含まれています。いかに洲之内さんが小野さんを高く評価していたかがわかります。
ご存知の通り、洲之内さんはいい作品は自宅アパートに隠し(保管し)、他のどうでもいいような作品を客に売った。だから宮城の洲之内コレクションができたわけです。そのため多くの顧客(コレクター)と喧嘩別れしてしまったのはよく知られています。
コレクターとしては一流でしたが、画商としては・・・・・・・
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ono05《肖像図・啄木》
1970年代
油彩・画布
イメージサイズ:33.5×24.0cm
フレームサイズ:38.8x30.0cm
サインあり

ono06《剽窃断片図(フェルメール)》
1976年
油彩
イメージサイズ: 33.0x24.3cm
フレームサイズ:49.5x40.4cm
サインあり
*この作品は、アートフェア東京に出品します。

ono03《肖像図ランボー》
1976年
油彩・画布
33.3×24.3cm
サインあり

ono08《詩人の肖像(F.カフカ)》
1976年
油彩・キャンバス
33.5×24.5cm
サインあり

ono01《Il vangelo di S Giovanni》
1976年頃
テンペラ・キャンバス
49.0x15.5cm
サインあり

ono02《女性像》
テンペラ、キャンバス
90.5×72.5cm(F30号)
サインあり

ono04《青年像》
1990年
テンペラ、画布
100.0x70.0cm(40号)
サインあり


●「小野隆生の絵を銀座の資生堂ギャラリーで見たのは、もう10年ほども前だろうか。覚えているのは絵を目にした瞬間に私の足が、すこし震えたことである。」
(大倉宏『「貴種」に正対する目』より)

●「オブジェと人物。私はある時、小野作品に対して、この双方に同じような眼差しを向けていたことに気付かされたのです。たしかに、人物を描いたものは、肖像画の体裁を成しています。でも、ある特定の人物の姿をとらえた、いわゆる肖像画とはちがってモデルがなく、その人物の性格や感情が見る側に直接的に伝わることはありません。そのためか、画家の頭の中で静かに熟成された人物像は、どこか凛とした佇まいの静物画(オブジェ)を思わせるのです。」
池上ちかこのエッセイより、2009年05月09日)

●「小野作品には、キャンバス作品にも何処か未完成な感じがあるが、この未完成さが日本絵画の伝統を継承する最大の特徴ではないかと思う。」
小泉清のエッセイより)

●「久しぶりにコレクションの肖像画を並べてみた。ふと、これから「小野隆生はどこへ行くのだろうか?」との想いがよぎった。イタリアの片田舎のゆったりとした時間のなかで描き続けられる肖像画が、グローバル経済の中で揺れ、少子高齢化社会を迎え閉塞感のある日本とどのように関わるのか?また、日本のアイデンティティが問われ、日本にとって文化こそ最後の砦になるかもしれない時代にどのように関わるのか?・・・私にとって興味津々だ。コレクターの一人として、こらからも小野隆生という風に吹かれて、今という時代を一緒にゆっくり歩いていこうと思う。」
荒井由泰のエッセイより、2007年4月26日)

◆ときの忘れものは「小野隆生コレクション展」を開催しています。
会期:2017年3月7日[火]―3月25日[土] *日・月・祝日休廊
201703_ONO
岩手県に生まれた小野隆生は、1971年イタリアに渡ります。国立ローマ中央修復研究所絵画科を卒業し、1977~1985年にイタリア各地の教会壁画や美術館収蔵作品の修復に携わり、ジョットやティツィアーノらの作品に直接触れ、古典技法を習得しました。1976年銀座・現代画廊で初個展開催。資生堂ギャラリー[椿会展]に出品。「ライバルは500年前のルネサンスの画家たち」との揺るぎない精神でテンペラ画による肖像画を描き続けています。
2008年には池田20世紀美術館で「描かれた影の記憶 小野隆生展 イタリアでの活動 30年」 を開催しました。
本展では、小野の1970年代の初期作品から2000年代の近作まで、油彩・テンペラ・素描など約15点をご覧いただきます。