森本悟郎のエッセイ その後

第36回 合田佐和子 (3) C・スクエアで見せたかったこと


C・スクエアで第60回目の企画となる「記憶ファンタジー 合田佐和子展」は2003年12月1日が初日だった。既述のように、そのちょうど1週間前まで「合田佐和子 影像 ―絵画・オブジェ・写真―」展(渋谷区立松濤美術館)が開催されているというタイトなスケジュールのなか、合田さんは自宅では出品作品が搬出を待つように整えてあり、会場では展示作業の指揮にもあたるという、まことに親身な対応ぶりだった。思い返せば最後の、ほんとうに元気な姿を目にしていたのだった。

01「記憶ファンタジー 合田佐和子展」ポスター

じつは松濤美術館での個展はC・スクエアのそれより後に決まったものだったが、ぼくたちは美術館との会期の重なりや展示内容の重複を避けることに努めた。わけても内容については、松濤を経験した人が見ても新たな発見があるようなものにしたいと考えた。それは合田佐和子という作家を振り返るのでなく、今まさに生成しつつある作品の現場を見せる、というところに焦点を当てようということだった。展示作品は極力新・近作に絞り込むこととし、ほかでは見られないような試みについても作家と一緒に検討した。
合田さんが作品制作のモチーフとするためにポラロイドで撮影した石や花の写真をスキャンし、C・スクエアがもっていた大判プリンターでB0大(1030×1456mm)に拡大して、タブローのように見せたのもその試みのひとつだった。写真をもとに描く合田さんの絵画は、独特の色遣いや省略法によって他に類例を見ない個性的な作品になるのだが、極端に拡大されたポラロイド写真はそのまま合田さんのペインティングのようにぼくの目には映った。それは合田さんの創作の秘密を垣間見るような思いでもあった。

02会場風景-1 ※左の大きな5点が拡大したポラロイド写真


03会場風景-2


04会場風景-3

個展の1年後、巖谷國士美術論集出版記念展「封印された星 瀧口修造と日本のアーティストたち」でも合田さんの作品はC・スクエアの壁面を飾った。そのときも作品集荷と返却に合田邸を訪ねている。ただそれ以後、展覧会に足を運んではいたものの、お目に掛かる機会が次第になくなっていった。2012年5月に地元鎌倉で個展(「合田佐和子展 ミルラ」GALLERY B)というので、秋山祐徳太子さんと出かけたが、体調不良との由で作家は不在だった。──そして連載第34回の「ラスト・シーン」展の話に戻るのである。

05「封印された星」展 会場風景 中央の2点が合田作品


具合が良くないとも、電話では元気そうだったとも、いろいろと人づてに聞いていたのだが、昨年2月、突然訃報が舞い込んだ。その月初めには井上洋介さんの逝去があり、気分が沈んでいたところへ追い打ちをかけられたのだった。
合田さんと井上さんはキャラクターも表現上も対極にあるように見えるが、ともに画家・イラストレーターとして活躍しながら、たとえば寺山修司の天井桟敷の美術を担当するなど、カテゴライズできないほど幅広い活動をしたことなど、共通項はいろいろある。
合田さんが生前最後の展覧会を開いたのはみうらじろうギャラリーで、今後も年に1回ぐらいの割で開催するとのこと。興味のある方はホームページ(http://jiromiuragallery.com)に注視されたい。
もりもと ごろう

森本悟郎 Goro MORIMOTO
1948年名古屋市生まれ。1971年武蔵野美術大学造形学部美術学科卒業。1972年同専攻科修了。小学校から大学までの教職を経て、1994年から2014年3月末日まで中京大学アートギャラリーC・スクエアキュレーター。展評、作品解説、作家論など多数。現在、表現研究と作品展示の場を準備中。

●今日のお勧め作品は、関根伸夫です。
関根伸夫「位相ー大地」シルク関根伸夫 「位相ー大地Ⅱ」
1986年 シルクスクリーン
58.7×78.4cm
Ed.75 Signed

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◆森本悟郎のエッセイ「その後」は毎月28日の更新です。