継続は力なり
国際アートフェア参戦レポート


光嶋裕介
(建築家)

 ニューヨークは、やはり、ニューヨークだった。ニュージャージー生まれの僕にとって、ニューヨークは子供の頃から親しみをもっている街であり、最も好きな都市のひとつである。そんなニューヨークに仕事として行くことになったのは、昨年の春。イースト・リバー沿いの36番埠頭にて毎年開催される「Art on Paper」というアートフェアに「ときの忘れもの」画廊が出展することがきっかけで、今年も二年連続して参加させてもらうことになった。

 昨年より幾分寒さが緩和されていたのか、アートフェア前日の嵐(1日ズレていたら、大変だった)以外は、連日天気にも恵まれて、会場は活気付いていた。まずは、何よりアートフェアの意義について、考えさせられた。つまり、芸術が美術館の中で鑑賞するだけのものではなく、日々の生活の中にある暮らしにとって身近なものであるという感覚だ。そこは、容赦なく厳しい市場原理が貫かれた世界でもある。だから、アートフェアの来場者たちも、自らの予算があり、自らの美意識(あるいは、テイスト)に対して高いハードルを設定している。そのため、広い会場に並べられた無数の作品の中から「これだ!」と思うものには、みんなゆっくり立ち止まり、十分に吟味したうえで、購入もしてくれる。

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IMG_9398「Art on Paper」ときの忘れものブース


 この「Art on Paper」というのは、その名の通り、紙に特化してアートフェアであり、福井県・武生に行って越前和紙を自分で漉いている僕の作品には、ぴったりなのだ。2014年に六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーにて開催された《ガウディ×井上雄彦》のオフィシャル・ナビゲーターをやらせてもらったのがご縁で、自分のドローイングを描くための紙づくりをするようになった。

 これは、何も思い付きではない。建築家の僕にとって、白紙の紙は、どうにも息苦しい。何故なら、とても綺麗で、文字通り何もないからだ。しかし、建築を設計する時の「敷地」がひとつとして同じものがないように、ドローイングを描くための紙も「白紙」のものを画材屋で購入するのではなく、自らつくるのはどうか?と考えるようになり、2015年からはじめたやり方である。要するに、僕の場合、ドローイングを描く前の段階から創作がはじまっており、世界に一枚しかない紙から幻想都市風景を想像(創造)するのだ。

 このことは、畳一畳分ある新作の和紙ドローイングを目にした来場者の多くの人が共感してくれた。サイズとしては過去最大の作品だったので、お客さんの「引き」は強かった。ただ、購入するかしないかは、また別の話。四日間、声が枯れそうになるほどひっきりなしに来場者たちと話していると、購入の決め手は、最初に気に入った「深度」であり、そこから予算、飾りたい場所などが考慮されていくという流れが一般的。ここのところが「厳しい目」で査定され、瞬時にハートを掴んだ人だけが、「じっくり」と作品を見てくれるのだ。僕は、この十数秒の「ため」を確保してから、「This is my work」という一言から対話をはじめるようにしている。すると、十中八九「wow, amazing!」という言葉とともに、目が輝き、どうやって描いたの?下書きするの?ここには実在する建築はあるの?などなど生き生きした対話がスタートする。

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 今年は、家族連れのお客さんが多かったように思う。そして、驚いたことに、美術館のキュレーターだというお母さんと僕の作品の前でお話していたら、六歳の娘さんが僕の作品をえらく気に入ってくれて、その場でスケッチブックを取り出した。なんと、いきなり「模写」をはじめたのである。更に鞄から色鉛筆まで取り出して、色も載せたのだ。きっと、僕の白黒のドローイングは、彼女の目には色鮮やかな風景として映っていたのだろう。売れる・売れないは、多分に運の良さも必要だが、来場者たちと交わすこうした交流は、作品をつくり続ける作家にとって、たいへん貴重な意見交換の場所でもある。昨年、僕のドローイングを購入してくれた方々とも再会し、ライターの方から取材を受け、アーティストの方には「感動したから君の似顔絵を描きたい」と言われたり、大学教授の方から「うちでアーティスト・トークしてくれないか?」などの依頼を受けたり、今年も実り多き時間であった。

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 やはり、二年連続して出展することの意味は、大きいと思う。そのためには、良い作品をつくり、売れなければならない、という当たり前の結論に辿りつく。ニューヨーカーたちにアピールして、知ってもらわないと何もはじまらない。そして、回を重ねることで見えてくることもあるし、予測不能なこともまだまだ多い。けれども、大前提としてニューヨークのアートフェアに出展することは、日本だけで作品発表するのとは、大きく意味合いが変わってくる。いささか大袈裟な言い方になるが、世界の目に曝されることで、作品は鍛えられるように感じている。そこから新しく見えてくることは沢山ある。そのような学びの場に作家として参加させてもらったことの意義は計り知れない。しかし、繰り返しになるが、それらをちゃんと消化し、自分のものにすること。そして、より良い作品をつくり続けることでしか、既に購入してくれたコレクターの方々への恩返しもできない。だから、さらに制作に没頭する決意を胸に、帰りの飛行機に乗る際は心の中で「また来年!」と誓ったのである。
こうしま ゆうすけ

光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA(1979-)
建築家。一級建築士。1979年米国ニュージャージー州生。1987年に日本に帰国。以降、カナダ(トロント)、イギリス(マンチェスター)、東京で育ち、最終的に早稲田大学大学院修士課程建築学を2004年に卒業。同年にザウアブルッフ・ハットン・アーキテクツ(ベルリン)に就職。2008年にドイツより帰国し、光嶋裕介建築設計事務所を主宰。
神戸大学で客員准教授。早稲田大学などで非常勤講師。内田樹先生の凱風館を設計し、完成と同時に合気道入門(二段)。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの全国ツアーの舞台デザインを担当。著作に『幻想都市風景』、『みんなの家。』、『建築武者修行』、『これからの建築』など最新刊は『建築という対話』。
公式サイト:http://www.ykas.jp/

●本日のお勧め作品は光嶋裕介です。
20180330_15_koshima_ulf2017光嶋裕介
《幻想都市風景2017-01》
2017年
和紙にインク
198.5×100.0cm
サインあり


20180330_koshima_ulf2017-2_72dpi光嶋裕介
《幻想都市風景2017-02》
2017年
和紙にインク
198.5×100.0cm
サインあり


20180330_Urban Landscape Fantasia2018 - 01光嶋裕介
《幻想都市風景2018-01》
2018年
和紙にインク
45.0×90.0cm
サインあり


20180330_05光嶋裕介
《ベルリン》
2016年
和紙にインク
45.0×90.0cm
サインあり


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●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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