光嶋裕介のエッセイ「幻想都市風景の正体」

01-身体で考える
~スケッチとドローイング~


建築家は、身体で考える生き物である。
頭であれこれ考えることには限界があり、
言葉にならないものは、表現できないものだ。
だから、言葉ではない「非言語」というカタチで
自由に思考するためには、やはり、
身体で考えることが建築家の大切な資質である。

具体的にはどういうことか?
それは、身体全体で目の前の空間を感じ、
皮膚感覚で感じたままに、視覚情報を介して、
自らの中に立ち上がった風景を描くのだ。
ペンを持って、紙に描くといっても、大きく分けて二つある。

ひとつは、目の前の風景をそのまま描く「スケッチ」。
何も、見た通りに描く必要など全然ない。
ただ、感じた通りに描く必要がある。
そのためのコツは、やっぱり頭を使って描くこと。
要するに、目の前の風景と対話しながら描くのである。
地球の放つエネルギーをヒシヒシと感じながら、
あるいは、建築や自然の美しさを自らの身体を通して
描き出せばよいのである。
記憶の定着のためのスケッチに対して、
自らの内側から手探りで掘り出して描くのが「ドローイング」。
このときは、目の前の風景を描くのではなく、
自分の心象風景を描くのである。
ドローイングの面白さは(少なくとも私にとっては)
何を描くか自分でさえも「わからない」というところにある。
それは、なぜなら、ドローイングを描く行為は、
自分で自分を「発見していく」ことに他ならないからだ。
どういういうことか?
目の前の風景をスケッチすることと、
内的な心の風景をドローイングすることの相違点は、三つある。
まず、スケッチが建築家にとって、インプットであるのに対して
ドローイングがアウトプットであるということ。
次に、スケッチは、描き始めたときから大方の「完成予想図」が
薄っすら見えているのに対して、
ドローイングは、描きながら生まれる造形と造形の関係性や、
画面の中の余白とのバランスによって、動き続けるために、
完成の瞬間は、そのときにならないとわからないということ。
最後に、スケッチは、目の前の風景を描くので、
太陽の光が不可欠であるのに対して、
ドローイングは、室内で人工照明の下で描くため、
太陽の光を必要としないということだ。
私の場合、ドローイングを描くのは設計の仕事を終えて、
寝る前の深夜であるため、自然光は一切ない場所で線を紡ぎ出す。

TOKI-1


TOKI-2


TOKI-3光嶋裕介
《幻想都市風景2016-04》
2016年
和紙にインク
45.0×90.0cm
Signed


TOKI-4《幻想都市風景2016-04》部分


ここまで、
スケッチとドローイングの相違点についてばかり書いてきたので、
最後に共通点についても書いておこう。
それは、ともに「模範解答がない」ということに尽きる。
何をどのように描けば「正解」であるというものがなく、
自らの身体で、考え続けるしかないのである。
また、ごくごく当たり前のことかもしれないが、
スケッチとドローイングを描きながら身体で考えることが、
むろん楽しい行為であり、ずっと継続していくことができるということは、
描くことによって、いつも新しい自分を発見する手助けになっていて、
少しでも今までに見たことのない風景を自分に見せてくれるのも、
自分が風景と同化して、気持ちよく描いているときなのだ。
だからこそ、
スケッチも、ドローイングも、今なお、やめられない。
こうしま ゆうすけ

光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA(1979-)
建築家。一級建築士。1979年米国ニュージャージー州生。1987年に日本に帰国。以降、カナダ(トロント)、イギリス(マンチェスター)、東京で育ち、最終的に早稲田大学大学院修士課程建築学を2004年に卒業。同年にザウアブルッフ・ハットン・アーキテクツ(ベルリン)に就職。2008年にドイツより帰国し、光嶋裕介建築設計事務所を主宰。
神戸大学で客員准教授。早稲田大学などで非常勤講師。内田樹先生の凱風館を設計し、完成と同時に合気道入門(二段)。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの全国ツアーの舞台デザインを担当。著作に『幻想都市風景』、『みんなの家。』、『建築武者修行』、『これからの建築』など最新刊は『建築という対話』。
公式サイト:http://www.ykas.jp/

*画廊亭主敬白
建築家として大活躍されている光嶋裕介さんの2年ぶりの個展をこの秋(11月を予定)開催します。
2016年のときは自ら越前和紙の本場で紙漉きに挑戦し、45.0×90.0cmの大判和紙に描いた作品を出品しましたが、今は遥かにそれを上回る畳一畳サイズの超特大サイズの和紙を漉き、それに描くという冒険に取り組んでいます。光嶋さんはtwitterで日々少しずつ描き進んでいる様子を実況中継していますが、このブログでも毎月13日更新、個展開催の日まで「幻想都市風景の正体」を書き継いでいただくことにしました。
本日5月13日は亭主の敬愛する井上房一郎さんの誕生日(1898年5月13日生れ - 1993年7月27日没)です。このブログでは<井上房一郎さんのこと>として関連記事を掲載しています。明治、大正、昭和、平成を生きた文化のパトロン、井上さんの助手だった熊倉浩靖さんに「井上房一郎先生 生誕120年にあたって」をご執筆いただきました。明日14日のブログに掲載しますのでぜひお読みください。

●今日のお勧め作品は、光嶋裕介です。
20180513_Urban Landscape Fantasia2018 - 01
光嶋裕介《幻想都市風景2018-01》
2018年 和紙にインク
45.0×90.0cm サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

◆ときの忘れものは没後70年 松本竣介展を開催しています。
会期:2018年5月8日[火]―6月2日[土]
11:00-19:00  ※日・月・祝日休廊

ときの忘れものは生誕100年だった2012年に初めて「松本竣介展」を前期・後期にわけて開催しました。あれから6年、このたびは小規模ですが素描16点による「没後70年 松本竣介展」を開催します。
201804MATSUMOTO_DM

「没後70年 松本竣介展」出品作品を順次ご紹介します
13出品No.6)松本竣介《作品》
1946年2月
紙にペン、墨、水彩、コラージュ
Image size: 15.5x29.5cm
Sheet size: 23.5x32.3cm
サインあり
※『松本竣介素描』(1977年、株式会社綜合工房)口絵

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

●本展の図録を刊行しました
MATSUMOTO_catalogue『没後70年 松本竣介展』
2018年
ときの忘れもの 刊行
B5判 24ページ 
テキスト:大谷省吾(東京国立近代美術館美術課長)
作品図版:16点
デザイン:岡本一宣デザイン事務所
税込800円 ※送料別途250円


◆光嶋裕介のエッセイ「幻想都市風景の正体」は毎月13日の更新です。

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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