佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」
第17回 ときの忘れものでの秋の展覧会の構想について1
最近はもっぱら福島の大玉村に来て、「染め場とカフェ」の計画に取り組んでいる。設計をするのも工事をするのも自分だけではないが、構想をめぐらせてみると、やってみたいことはけっこうあり、他のプロジェクトでは試みる機会すら得られないような面白そうな造作やオブジェクトを各所で実験ができそうである。素材で言えば、コンクリート、木、そして水、布、藍という色といった要素が、既存の民家の古材と取り合いながら互いにせめぎ合う状況を実現させたい。

「染め場とカフェ」の初期スケッチ。現段階のデザインや作り方はこのスケッチとは大きく異なるものであるが、こんなボヤっとした部材の取り合いの感じはどこかに維持したいとも思っている。「染め場とカフェ」の整備の事情については下記リンクにて。
https://camp-fire.jp/projects/view/68881
そんな素材、部材間の取り合いへの興味が自分にあるのかと改めて思ったのは、ある友人から自分の持つカメラについて指摘を受けてのことであった。自分が普段持っている一眼レンズは35mmの単焦点であるのだが、そんな狭い画角のレンズを持っている建築家はいないだろうと言われた。ほう、確かにこのレンズではとても建物全体や部屋全体を一枚で収めることはできない。いわゆる建築写真の広角のすこしアオリの効いたものであるのは知っていた。けれども、自分はどうもその全体を把握してしまう写真にあまり面白みを感じず、もちろんそんな広角のレンズも時には必要であるので持ってはいるが、普段持ち歩いているのは小さな部分、対象の素材感の細部を見つめることができるようなレンズであった。
そして、そんな持ち歩くカメラのレンズ選定は、どうやら自分の建築のデザインの注力の仕方の反映でもあったことに気づかされた。部材の取り合いや、拮抗の様に注視し、それをある種の建築表現としようという意欲が自分にはあることが多く、一方で”空間”というものはそんな取り合いが組み合わされた幾多の部材によって囲まれることで生まれるのだろう、そんな風に考えていた。それゆえに、インドのシャンティニケタンでの家作りでも家具や木工造作をバラバラと散布し、その遠隔的な造形の連関や、組み合わせをウンウンと考え込んたのを思い出す。いわゆる計画学的な対処療法から始める設計屋との”空間”の作り方は異なるものであり、ときにはそのことを揶揄されたこともあったが、自分では全く卑下することなく開き直ってはいる。
インド・シャンティニケタンでの家の吹き抜け空間に架構した木工造作の細部。
=
秋に、ときの忘れもので、展覧会をやらせていただく機会をいただいた。そこではぜひ自分が建築を作る、作ろうとするときに考えていることを直截に表現したいと思っている。ギャラリーの中で、展示するモノ同士が互いに呼び合っているような、群像劇を催したい。群像劇なので、「おーい」と展示のモノたちが叫び合っているようなザワめいた状況を目指したい。
展示するのは、ドローイングと、木工を中心とした家具スケールの立体である。ドローイングは、立体を作るためのある種の見取り図、あるいはヒントでもあれば、ドローイングそれ自体が建ち現れた立体と造形の呼び合いを繰り広げてほしい。家具スケールの立体群においては、上で書いた部品間の取り合いはもちろん、異なる素材部品がそれぞれ異なる制作者によって、異なる履歴をもって作られ、それらのアッセンブル、同居関係を繰り広げてみたい。つまり、共作という平和的な制作プロセスではなく、拮抗状態ともいうべきの、睨めっこのバチバチの現場であろうか。そしてその現場が、確信犯めいた演出で終わらないためにも、立体とその立体に関連するドローイングとの間の齟齬、矛盾の関係が必要であるなと予感している。言葉では、どうやら今はこの程度の言い回ししかできなさそうでもあるので、ともかく実際の制作でそれを表現してみたいと思うのである。

布と色と木の呼び合いを備えた家具スケールのモノのドローイング。具体的な立体での取り合いと整合させることもあれば、整合を意図せずにその物体間の越境を試みることもある。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。
*今秋、ときの忘れものでは佐藤研吾さんの個展を開催します。どうぞご期待ください。
●本日のお勧め作品は、平井進です。

平井進
《作品》
1968年 油彩
73.0×61.0cm
サインあり

左から)
オノサト・トシノブ《波形の十二分割》
平井進《作品》
瑛九《作品-B(アート作品・青)》
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

第17回 ときの忘れものでの秋の展覧会の構想について1
最近はもっぱら福島の大玉村に来て、「染め場とカフェ」の計画に取り組んでいる。設計をするのも工事をするのも自分だけではないが、構想をめぐらせてみると、やってみたいことはけっこうあり、他のプロジェクトでは試みる機会すら得られないような面白そうな造作やオブジェクトを各所で実験ができそうである。素材で言えば、コンクリート、木、そして水、布、藍という色といった要素が、既存の民家の古材と取り合いながら互いにせめぎ合う状況を実現させたい。

「染め場とカフェ」の初期スケッチ。現段階のデザインや作り方はこのスケッチとは大きく異なるものであるが、こんなボヤっとした部材の取り合いの感じはどこかに維持したいとも思っている。「染め場とカフェ」の整備の事情については下記リンクにて。
https://camp-fire.jp/projects/view/68881
そんな素材、部材間の取り合いへの興味が自分にあるのかと改めて思ったのは、ある友人から自分の持つカメラについて指摘を受けてのことであった。自分が普段持っている一眼レンズは35mmの単焦点であるのだが、そんな狭い画角のレンズを持っている建築家はいないだろうと言われた。ほう、確かにこのレンズではとても建物全体や部屋全体を一枚で収めることはできない。いわゆる建築写真の広角のすこしアオリの効いたものであるのは知っていた。けれども、自分はどうもその全体を把握してしまう写真にあまり面白みを感じず、もちろんそんな広角のレンズも時には必要であるので持ってはいるが、普段持ち歩いているのは小さな部分、対象の素材感の細部を見つめることができるようなレンズであった。
そして、そんな持ち歩くカメラのレンズ選定は、どうやら自分の建築のデザインの注力の仕方の反映でもあったことに気づかされた。部材の取り合いや、拮抗の様に注視し、それをある種の建築表現としようという意欲が自分にはあることが多く、一方で”空間”というものはそんな取り合いが組み合わされた幾多の部材によって囲まれることで生まれるのだろう、そんな風に考えていた。それゆえに、インドのシャンティニケタンでの家作りでも家具や木工造作をバラバラと散布し、その遠隔的な造形の連関や、組み合わせをウンウンと考え込んたのを思い出す。いわゆる計画学的な対処療法から始める設計屋との”空間”の作り方は異なるものであり、ときにはそのことを揶揄されたこともあったが、自分では全く卑下することなく開き直ってはいる。
インド・シャンティニケタンでの家の吹き抜け空間に架構した木工造作の細部。=
秋に、ときの忘れもので、展覧会をやらせていただく機会をいただいた。そこではぜひ自分が建築を作る、作ろうとするときに考えていることを直截に表現したいと思っている。ギャラリーの中で、展示するモノ同士が互いに呼び合っているような、群像劇を催したい。群像劇なので、「おーい」と展示のモノたちが叫び合っているようなザワめいた状況を目指したい。
展示するのは、ドローイングと、木工を中心とした家具スケールの立体である。ドローイングは、立体を作るためのある種の見取り図、あるいはヒントでもあれば、ドローイングそれ自体が建ち現れた立体と造形の呼び合いを繰り広げてほしい。家具スケールの立体群においては、上で書いた部品間の取り合いはもちろん、異なる素材部品がそれぞれ異なる制作者によって、異なる履歴をもって作られ、それらのアッセンブル、同居関係を繰り広げてみたい。つまり、共作という平和的な制作プロセスではなく、拮抗状態ともいうべきの、睨めっこのバチバチの現場であろうか。そしてその現場が、確信犯めいた演出で終わらないためにも、立体とその立体に関連するドローイングとの間の齟齬、矛盾の関係が必要であるなと予感している。言葉では、どうやら今はこの程度の言い回ししかできなさそうでもあるので、ともかく実際の制作でそれを表現してみたいと思うのである。

布と色と木の呼び合いを備えた家具スケールのモノのドローイング。具体的な立体での取り合いと整合させることもあれば、整合を意図せずにその物体間の越境を試みることもある。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。
*今秋、ときの忘れものでは佐藤研吾さんの個展を開催します。どうぞご期待ください。
●本日のお勧め作品は、平井進です。

平井進
《作品》
1968年 油彩
73.0×61.0cm
サインあり

左から)
オノサト・トシノブ《波形の十二分割》
平井進《作品》
瑛九《作品-B(アート作品・青)》
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◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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