光嶋裕介のエッセイ「幻想都市風景の正体」

06-次元を変える
~微分と身体~


ドローイングを描くことの意味について考えている。
毎晩、毎晩、少しずつ作品を描き進めながら、いつも考えている。
もちろん、問いの設定からして、曖昧すぎる上に
そもそも、正解がないわけだから、
「わからない」から考え続けている、としか今は言えない。

6-1

がしかし、
建築家として設計を生業にしている者としては、
日常的に三次元の空間に対して向き合っていることと、
紙に描く二次元のドローイングとの関係性については、
やはり、思うところがある。
それは、想像力を使うことで
思考の「次元を上げたい」と、いうことだ。

6-2

つまり、
空間に思考を巡らせるときは、「時間」について考えて、
ドローイングを描いているときは、空間について考えている。
では、
ドローイングを描きながら空間のことを考えているということは、
三次元の空間的思考が「微分」されて二次元のドローイングとして
「何か」が立ち上がっているのだろうか?
これが、まだ明確には、わからない。

6-3

微分しているということは、
そこに「微分係数」というものが存在する。
その係数がバシッと数式で表せたら問題解決なわけだが、
それができないのである。
扱っているものの大部分が、非言語の領域であり、
対象が「美」であるからだろう。
しかし、手がかりはきっと、ある。

6-4

それが身体と関係している気がしてならない。
なぜなら、私の手が、つまり身体が描いたドローイングは、
鑑賞者の視覚によって感知され、
空間全体の何か「響き」として
皮膚感覚のようなもので感じられるのもまた、人間だからだ。
逆に、空間を知覚し、時間を感じることができるのも
また人間の身体ではないだろうか。
この「描く」という行為を通して、
「次元を変化させる」ということは、
私たちの身体がどのように働くことで可能なのだろうか?
このことを私は、
頭のみならず、手を動かしながらじっくり考え続けたいと思う。
そのヒントは、見る者たちが発見してくれるのかもしれない。
こうしま ゆうすけ

光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA(1979-)
建築家。一級建築士。1979年米国ニュージャージー州生。1987年に日本に帰国。以降、カナダ(トロント)、イギリス(マンチェスター)、東京で育ち、最終的に早稲田大学大学院修士課程建築学を2004年に卒業。同年にザウアブルッフ・ハットン・アーキテクツ(ベルリン)に就職。2008年にドイツより帰国し、光嶋裕介建築設計事務所を主宰。
神戸大学で客員准教授。早稲田大学などで非常勤講師。内田樹先生の凱風館を設計し、完成と同時に合気道入門(二段)。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの全国ツアーの舞台デザインを担当。著作に『幻想都市風景』、『みんなの家。』、『建築武者修行』、『これからの建築』など最新刊は『建築という対話』。
今秋11月8日~18日にときの忘れもので新作個展を開催します(会期中無休)。
公式サイト:http://www.ykas.jp/

◆光嶋裕介のエッセイ「幻想都市風景の正体」は毎月13日の更新です。

●今日のお勧め作品は、光嶋裕介です。
20180613_03
光嶋裕介
《幻想都市風景2016-03》
2016年 和紙にインク
45.0×90.0cm サインあり
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