小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第19回

今、日本の翻訳文学界では空前の韓国文学ブームが起こっています。
まだまだ小さかった書店の売場も、今では晶文社「韓国文学のオクリモノ」亜紀書房「となりの国のものがたり」など、韓国文学のシリーズを中心に日々拡大しております。

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シリーズだけでなく単発の翻訳も力強く、中でも『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)は、発売一か月で5万部突破と、驚異的な売れ行きです。

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かくいう私も一昨年の夏、パク・ミンギュ『ピンポン』(白水社)で韓国文学のすさまじさに改めて衝撃を受けました。翻訳は斎藤真理子さん。現在の韓国文学を支える一人です。

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この本を売りたくて売りたくて近隣の書店さんと共に読書感想文の冊子を作ったりしました。
その感想文に、いま確認したら「この本を読み終えるまで、2度本を閉じました。読書を中断するために本を閉じることはあります。でも、そうじゃないのに閉じた本は久しぶりでした。本を閉じて、家の天井を見上げました。そして、落ち着こうとしました。落ち着かないと、この物語に「何か」を持って行かれそうだったからです。その「何か」とはなんだったんでしょう。」と、書いていましたが、この気持ちは、あれから1年以上経っていますが、まざまざと思い出せます。

しかし、『ピンポン』についてはいろいろなタイミングで語って来たので、今日違う本をご紹介。
『こびとが打ち上げた小さなボール』(河出書房新社)

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作者のチョ・セヒは、今ブームになっている若い世代の韓国文学の書き手よりは、ひとつ上の世代の作家です。初出は1975年。まだ軍事政権だった時代の韓国で、発禁の恐れを抱えながらも読み継がれ、今もロングセラーとなっている作品です。
連作短篇の形式となっており、それぞれに主人公がおり、虐げられた者たちと虐げる者たち、そして、その家族や労働運動などの抵抗を描くことで、作品世界に厚みがあります。
1度クオンさん主催の読書会に招かれて、この小説を取り上げたのですが、まったく時間が足りず、再読、再再読以上に耐えうる作品だということがよく分かりました。
その小説の冒頭2ページを引用してみます。写真ですが。

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どうでしょう?謎めいた出だしですよね。ちなみに、この数学教師、最後の章にだけ、もう一度登場します。同じような光景で。しかし、違う点が一つだけあるのです。
不思議な寓話のような章は、最初と最後の2章だけ。
それ以外の短編は、ギリギリと追い詰めるような筆致のリアルな小説です。
そのリアリズム小説を読み終わったときに、この異質な二つの章から感じる違いは何か?そこに高い文学性を感じた一冊でした。ぜひみなさんにも味わっていただきたい小説です。

そんな『こびとが打ち上げた小さなボール』『ピンポン』を含む、韓国文学フェア、当店でも開催中です。2月中旬まで!

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こちらもぜひよろしくお願いいたします!
おくに たかし

■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。

*画廊亭主敬白
小国さんのお店「BOOKS青いカバ」はときの忘れものから数分の近くにあり、いつ行っても客がいる。駒込の街にすっかり溶け込んでいます。こまめに毎日twitter発信を続け、イベントも頻繁に開いています。
昨日2月4日はわがときの忘れものにとって歴史的な日となりました。
Desktop 49.3%に対して Mobile 50.7%、このブログのアクセスがついにモバイルが50%を超えました。机の上のパソコンを開いてという時代でなくなりつつあるのですね・・・・

1月23日に亡くなったメカスさんを偲び本日からジョナス・メカス上映会(DVD)を開催します。
2005年10月メカス会期:2019年2月5日[火]―2月9日[土]
代表作「リトアニアへの旅の追憶」は毎日上映するほか、「ショート・フィルム・ワークス」、「営倉」、「ロスト・ロスト・ロスト」、「ウォルデン」の4本を日替わりで上映します。
上映時間他、詳しくはホームページをご覧ください。
2月9日夜のトーク「メカスさんを語る」(ゲスト:飯村昭子さん、木下哲夫さん)は既に満席となり受付を終了しました。
「リトアニアへの旅の追憶 Reminiscences of a Journey to Lithuania」
監督:ジョナス・メカス Jonas Mekas
1972年作品/1950~1972年撮影(モノクロ&カラー/87分)
[ジョナス・メカス自身による解説]
この映画は3つの部分から構成されている。
まず第一の部分は、私がアメリカにやって来てからの数年、1950~53年の間に、私の最初のボレックスによって撮られたフィルム群から成っている。そこでは、私の弟アドルファスや、そのころ私達がどんな様子であったかを見ることができる。ブルックリンの様々な移民の混ざりあいや、ピクニック、ダンス、歌、ウィリアムズバーグのストリートなどを。
第二の部分は、1971年に、リトアニアで撮られた。ほとんどのフィルム群は、私が生まれた町であるセミニシュケイを映しだしている。そこでは、古い家や、1887年生まれの私の母や、私たちの訪問を祝う私の兄弟たるや、なじみの場所、畑仕事や、他のさして重要ではないこまごまとしたことや、思い出などを、見ることになる。ここでは、リトアニアの現状などというものは見ることはできない。つまり、27年の空白の後、自分の国に戻って来た「亡命した人間」の思い出が見られるだけなのである。
第三の部分はハンブルクの郊外、エルンストホルンへの訪問から始まる。私たちは、戦争の間l年間、そこの強制労働収容所で過ごしたのだった。その挿入部分の後、われわれは私たちの最良の友人たちの一部、ペーター・クーベルカ、ヘルマン・ニッチ、アネット・マイケルソン、ケン・ジェイコブスと共に、ウィーンにいる。そこでは、クレムスミュンスターの修道院やスタンドルフのニッチの城や、ヴィトゲンシュタインの家などをも見ることができる。そしてこのフィルムは、1971年8月のウィーンの野菜市場の火事で終わることになる。 
 ジョナス・メカス

●上映会の会期中、メカスさんの著書を特別頒布します。
『ジョナス・メカス―ノート、対話、映画』表紙ジョナス・メカス ノート、対話、映画
著者:ジョナス・メカス
訳:木下哲夫、編:森國次郎
A5判 336ページ
せりか書房
価格:4,700円
1949年、肌寒いニューヨーク港に難民として降り立ったジョナス・メカス。入手したボレックスでニューヨークを、友人たちを、自らを撮り続けてきたメカスが語る、リトアニアへの想い、日記映画とニューヨークのアヴァンギャルド、フィルム・アーカイヴスの誕生…「ここに集められた文章は、どれも思い出であり、わたしの人生の一部である」。
主要作品のメカス自身による解説とコメンタリーを収録。

メカスどこにもないところからの手紙どこにもないところからの手紙
著者:ジョナス・メカス
訳:村田郁夫
19.5×12.8cm 199ページ
書肆山田
価格:2,500円

●本日のお勧め作品はジョナス・メカスです。
mekas_32_tokyo_03ジョナス・メカス Jonas MEKAS
"Nick Ray, Spring Street, New York. 1978"
1978年 (2013年プリント)
アーカイバルインクジェットプリント
イメージサイズ:34.0×22.8cm
シートサイズ :39.8×29.1cm
Ed.7   サインあり
■ニコラス・レイ Nicholas (Nick) Ray(1911~1979)
アメリカ人映画監督。1950年代アメリカ映画の隠れた巨匠であり、ヌーヴェルヴァーグの作家たちから尊敬を受けた監督として知られる。代表作はジェームス・ディーン主演の「理由なき反抗」。
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●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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