遠方の女性の方からお電話をいただいた。
「札幌の▲▲と申します。突然で恐縮ですが、ネットでいろいろ探していたら、ときの忘れものさんのページに行き着きました。亡くなった父が駒井先生の作品を大事にしていたものですから・・・・」

ピンときた亭主は「もしかしたら▲▲■■さんのお嬢さんですか」と尋ねた。
電話口で絶句された気配があり「なぜ父の名をご存知なのですか」

もうはるか昔になりますが▲▲■■さんはある版画コレクターの会に属し、よく知られた方でした。

昨秋、横浜美術館で「駒井哲郎―煌めく紙上の宇宙」展が開催されましたが、出品作品の多くは世田谷美術館の<福原コレクション>からでした。
担当の学芸員が図録の表紙に選んだのが福原コレクションの中でも色彩が煌めくような「時間の玩具」という作品でした。
実は「時間の玩具」という作品は二つあります。
最初の「時間の玩具」は1952年制作のモノクロ作品で第29回春陽会展に出品されました。
もう一点の「時間の玩具」は1970年のカラー作品です。
横浜美・駒井哲郎展図録横浜美術館「駒井哲郎―煌めく紙上の宇宙」展図録表紙、会期:2018年10月13日~12月16日


サイズは大きいし(シートの長辺が50cm近くあります)、色彩は輝くばかり。誰が見ても駒井先生の代表作と思うでしょう。
ところが、この作品、長い間、制作の経緯や限定部数すらわからず謎でした。
駒井先生の生前1973年に美術出版社から刊行された『駒井哲郎銅版画作品集』にはなぜか収録されていません。自選作品集ですから駒井先生の意志で削除されたのでしょう。
没後の1979年に同じく美術出版社から刊行された『駒井哲郎版画作品集』にはさすがにこれだけの名作、はずすわけにはいかず収録されましたが、データには限定部数の記載がありません。
亭主が知る限り、生前の主だった展覧会にも出品された形跡はありません。

2000年4月に福原義春さんのコレクションが世田谷美術館に寄託され「駒井哲郎展 福原コレクション」が開催されたときに初めて限定部数(福原コレクションは18/30)が30部だったことが判明しました。
世田谷美術館のオープニングの会場には旧蔵者のSさんもいました(Sさんの証言と提供された資料により詳細が判明した)。

冒頭に電話に戻りますが、▲▲■■さんのご遺族が大切に守ってきた駒井作品は、ありがたいことにときの忘れもののコレクションになりました。
亭主にとっては生涯二度目の幸運、今回の「時間の玩具」の限定番号は3/30です。
600駒井哲郎
「時間の玩具」
1970年
アクアチント(カラー)
イメージサイズ:38.5×23.0cm
シートサイズ:49.0×32.3cm
Ed.30  サインあり

この色彩豊かな「時間の玩具」、1970年に30部刷られ、Sさんが参加していたコレクターの会の人たちに頒布されたことがわかっています。
亭主の駒井資料ファイルの中には、その名簿もあります。
いずれ詳しく書きたいのですが、今回は時間がありません。
まずは、すばらしい駒井作品が入手できたことをご報告する次第です。
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来年は駒井哲郎生誕100年にあたります。
ときの忘れものはささやかですが記念の展覧会を計画し、少しづつ準備を進めています。

●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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