画廊では卓抜な表現力と、深い人間観察に基づいて描かれた7人の作家(細江英公、五味彬、E.J.ベロック、ジョセフ・コーネル、小野隆生、森村泰昌、三上誠 )による肖像画14点を展示しています。
細江英公、五味彬の写真からは、ストレートに見る者を見返すかのような強烈な視線を感じます。
■細江英公(b.1933) の「薔薇刑 作品32」は三島由紀夫をモデルに撮った文字通り細江の代表作。三島の視線の激しさを引き出し、真正面から捉えた細江のカメラが凄い。この作品ほど世界に流布した日本の写真はないでしょう。
細江英公 Eikoh HOSOE
「薔薇刑 作品32 Ordeal by Roses #32」
1961年(printed later)
ゼラチン・シルバー・プリント
51×61cm Signed
2012年05月10日のブログで、飯沢耕太郎さんが「細江英公の演劇的想像力」と題して細江先生の作品世界を簡潔に論じています。
<1933年生まれの細江英公と、彼の同世代の写真家たちは、1950年代に純粋な「戦後世代」として登場してきた。彼らの上の世代の木村伊兵衛、土門拳、名取洋之助などは、第二次世界大戦以前から写真家として仕事をしていた。だが、細江や1959年にともに写真家グループVIVOを結成する東松照明、奈良原一高、川田喜久治らは、戦後になって大学に進学し、写真を撮影し始めた世代である。彼らは、土門や木村の影響を受けて写真家として出発しながらも、1950年代後半になると、それぞれの方向性を模索し始める。こうして、現実をストレートに描写する「リアリズム写真」や、新聞や雑誌を舞台に社会的なメッセージ性の強い写真を発表する「報道写真」とは一線を画する、新たな写真表現のスタイルが芽生えていった。
その中でも、1960年代以降に個性的、実験的な写真を次々に発表し、最も尖端的な領域を切り拓いていった一人が細江英公である。舞踏家、土方巽とその仲間たちをモデルに、エロスの世界を追求した「おとこと女」(1960年)、作家、三島由紀夫の耽美的な幻想世界を映像化した「薔薇刑」(1961~62年)、ふたたび土方巽をモデルに、東北の農村の土俗的な神々との交歓を見事に描き切った「鎌鼬」(1965~68年)など、彼のこの時期の作品群は、今なお見る者を震撼とさせる強烈なパワーを発している。
細江英公の作品世界の特徴をひと言でいいあらわせば、そのたぐいまれな演劇的想像力の発露ということになるだろう。細江は写真家であるとともに、モデルとともに現実世界のただ中に虚構の舞台を立ち上げ、そこに反リアリズム的な劇的空間を組み上げていく演出家でもある。とはいえ、彼の「演劇」はあらかじめ設定されたシナリオによって演じられるわけではなく、むしろモデルの生理的反応、無意識の身振りを積極的に取り込んでいくものだ。細江の写真を見ていると、次に何が起こるかわからない衝動に身をまかせつつ、シャッターを切っていることがよくわかる。
細江の演劇的想像力は、彼が70歳代になった2000年代以降も衰えるどころか、さらに奔放に伸び広がっているように見える。近作の「春本・浮世絵うつし」(2007年)や「Villa Bottini」(2009年)のシリーズを見ても、その創作意欲はよりみずみずしさを増しているようだ。偉大な巨匠としての細江の作品だけでなく、むしろ現在進行形の彼の仕事に注目すべきだろう。
(飯沢耕太郎)>
一方、■五味彬(b.1953) は日本大学芸術学部写真学科を卒業後、1977年渡仏、ローレンス・サックマン、ミッシェル・ベルトンに師事。1983年帰国後はファッション誌『流行通信』『エル・ジャポン』などを中心に活躍します。93年日本初のCD-ROM写真集『YELLOWS』を発表し、2000年までに14タイトルを発表。1997年には東京都写真美術館で《アウグスト・ザンダーと五味彬》展を開催しました。
今回出品するのは「Yellows」連作の中からと、村上麗奈シリーズのコンタクトプリント。
五味彬 Akira GOMI
"8P_UP・AC"
1991年
ヴィンテージ・ゼラチン・シルバー・プリント
86.0×68.0cm Signed
五味彬 Akira GOMI
《村上麗奈 CP vintage 1989-17》
1989CA
ヴィンテージ・ゼラチン・シルバー・プリント
12.2x10.3cm Signed
「Yellows」については森下泰輔さんが2016年2月18日ブログ「戦後・現代美術事件簿」第7回<ヘアヌード解禁前夜「Yellows」と「サンタ・フェ」>で以下のように紹介しています。
<「Yellows」を撮り始めた動機を五味は次のようにいう。
「世紀末の日本人の体型がどうだったのかという記録として1989年に娘が生まれる時、娘に残せるものはないかと撮り始めた作品です。母は原宿で小さな店をやっていた。土地柄ファッションデザイナー、カメラマンなど業界の人が多いので、僕は宣伝のため毎月仕事で撮ったファッション誌を母の店に置いていた。
母はそれを見るたびに「お前はなぜ外人さんしか撮らないんだい? 竹下通りの女の子たちは背も高くて、手足も長いしお母さんたちと違って外人さんみたいだよ」。そうだ、今の日本人の体型を記録しておけば娘がおばちゃんになった時大きな価値が出る」。
89年の「BRUTUS」誌上で村上麗奈と小森愛ヌードを撮影・掲載。五味は100人のイエローズを撮影し終えてから出版を考えていたのだが、91年半ばには53人しか撮影していなかったという。だが、その母が末期がんに侵されており、余命3か月の宣告を受けていたため、せめて母の存命中にと、そのシリーズを出版しようとしたのだ。ところが、ヘアが引っかかりマガジンハウス幹部の判断で印刷後の土壇場で出版中止に追い込まれた。1991年、へアヌード解禁前夜の混乱ぶりがよくあらわれている一幕である。
五味のもとに印刷製本された同写真集見本が届いたのは母が亡くなって6日後だったという。 (森下泰輔)>
◆ときの忘れものは「眼差しの肖像画コレクション」を開催しています。
会期:2019年8月23日[金]―9月7日[土] *日・月・祝日休廊
卓抜な表現力と、深い人間観察に基づいて描かれた7人の作家による異色の肖像画コレクションをご覧いただきます。
出品作家:細江英公、五味彬、E.J.ベロック、ジョセフ・コーネル、小野隆生、森村泰昌、三上誠
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
細江英公、五味彬の写真からは、ストレートに見る者を見返すかのような強烈な視線を感じます。
■細江英公(b.1933) の「薔薇刑 作品32」は三島由紀夫をモデルに撮った文字通り細江の代表作。三島の視線の激しさを引き出し、真正面から捉えた細江のカメラが凄い。この作品ほど世界に流布した日本の写真はないでしょう。
細江英公 Eikoh HOSOE「薔薇刑 作品32 Ordeal by Roses #32」
1961年(printed later)
ゼラチン・シルバー・プリント
51×61cm Signed
2012年05月10日のブログで、飯沢耕太郎さんが「細江英公の演劇的想像力」と題して細江先生の作品世界を簡潔に論じています。
<1933年生まれの細江英公と、彼の同世代の写真家たちは、1950年代に純粋な「戦後世代」として登場してきた。彼らの上の世代の木村伊兵衛、土門拳、名取洋之助などは、第二次世界大戦以前から写真家として仕事をしていた。だが、細江や1959年にともに写真家グループVIVOを結成する東松照明、奈良原一高、川田喜久治らは、戦後になって大学に進学し、写真を撮影し始めた世代である。彼らは、土門や木村の影響を受けて写真家として出発しながらも、1950年代後半になると、それぞれの方向性を模索し始める。こうして、現実をストレートに描写する「リアリズム写真」や、新聞や雑誌を舞台に社会的なメッセージ性の強い写真を発表する「報道写真」とは一線を画する、新たな写真表現のスタイルが芽生えていった。
その中でも、1960年代以降に個性的、実験的な写真を次々に発表し、最も尖端的な領域を切り拓いていった一人が細江英公である。舞踏家、土方巽とその仲間たちをモデルに、エロスの世界を追求した「おとこと女」(1960年)、作家、三島由紀夫の耽美的な幻想世界を映像化した「薔薇刑」(1961~62年)、ふたたび土方巽をモデルに、東北の農村の土俗的な神々との交歓を見事に描き切った「鎌鼬」(1965~68年)など、彼のこの時期の作品群は、今なお見る者を震撼とさせる強烈なパワーを発している。
細江英公の作品世界の特徴をひと言でいいあらわせば、そのたぐいまれな演劇的想像力の発露ということになるだろう。細江は写真家であるとともに、モデルとともに現実世界のただ中に虚構の舞台を立ち上げ、そこに反リアリズム的な劇的空間を組み上げていく演出家でもある。とはいえ、彼の「演劇」はあらかじめ設定されたシナリオによって演じられるわけではなく、むしろモデルの生理的反応、無意識の身振りを積極的に取り込んでいくものだ。細江の写真を見ていると、次に何が起こるかわからない衝動に身をまかせつつ、シャッターを切っていることがよくわかる。
細江の演劇的想像力は、彼が70歳代になった2000年代以降も衰えるどころか、さらに奔放に伸び広がっているように見える。近作の「春本・浮世絵うつし」(2007年)や「Villa Bottini」(2009年)のシリーズを見ても、その創作意欲はよりみずみずしさを増しているようだ。偉大な巨匠としての細江の作品だけでなく、むしろ現在進行形の彼の仕事に注目すべきだろう。
(飯沢耕太郎)>
一方、■五味彬(b.1953) は日本大学芸術学部写真学科を卒業後、1977年渡仏、ローレンス・サックマン、ミッシェル・ベルトンに師事。1983年帰国後はファッション誌『流行通信』『エル・ジャポン』などを中心に活躍します。93年日本初のCD-ROM写真集『YELLOWS』を発表し、2000年までに14タイトルを発表。1997年には東京都写真美術館で《アウグスト・ザンダーと五味彬》展を開催しました。
今回出品するのは「Yellows」連作の中からと、村上麗奈シリーズのコンタクトプリント。
五味彬 Akira GOMI"8P_UP・AC"
1991年
ヴィンテージ・ゼラチン・シルバー・プリント
86.0×68.0cm Signed
五味彬 Akira GOMI《村上麗奈 CP vintage 1989-17》
1989CA
ヴィンテージ・ゼラチン・シルバー・プリント
12.2x10.3cm Signed
「Yellows」については森下泰輔さんが2016年2月18日ブログ「戦後・現代美術事件簿」第7回<ヘアヌード解禁前夜「Yellows」と「サンタ・フェ」>で以下のように紹介しています。
<「Yellows」を撮り始めた動機を五味は次のようにいう。
「世紀末の日本人の体型がどうだったのかという記録として1989年に娘が生まれる時、娘に残せるものはないかと撮り始めた作品です。母は原宿で小さな店をやっていた。土地柄ファッションデザイナー、カメラマンなど業界の人が多いので、僕は宣伝のため毎月仕事で撮ったファッション誌を母の店に置いていた。
母はそれを見るたびに「お前はなぜ外人さんしか撮らないんだい? 竹下通りの女の子たちは背も高くて、手足も長いしお母さんたちと違って外人さんみたいだよ」。そうだ、今の日本人の体型を記録しておけば娘がおばちゃんになった時大きな価値が出る」。
89年の「BRUTUS」誌上で村上麗奈と小森愛ヌードを撮影・掲載。五味は100人のイエローズを撮影し終えてから出版を考えていたのだが、91年半ばには53人しか撮影していなかったという。だが、その母が末期がんに侵されており、余命3か月の宣告を受けていたため、せめて母の存命中にと、そのシリーズを出版しようとしたのだ。ところが、ヘアが引っかかりマガジンハウス幹部の判断で印刷後の土壇場で出版中止に追い込まれた。1991年、へアヌード解禁前夜の混乱ぶりがよくあらわれている一幕である。
五味のもとに印刷製本された同写真集見本が届いたのは母が亡くなって6日後だったという。 (森下泰輔)>
◆ときの忘れものは「眼差しの肖像画コレクション」を開催しています。
会期:2019年8月23日[金]―9月7日[土] *日・月・祝日休廊
卓抜な表現力と、深い人間観察に基づいて描かれた7人の作家による異色の肖像画コレクションをご覧いただきます。出品作家:細江英公、五味彬、E.J.ベロック、ジョセフ・コーネル、小野隆生、森村泰昌、三上誠
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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