スタッフSの海外ネットサーフィン No.78
「the United States Holocaust Memorial Museum」


 読者の皆様こんにちは。2019年も残すところ後5日、営業日に至っては2日となりました年の暮れ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今年も年末年始は冬眠(寝正月)予定のスタッフSこと新澤です。

 先月末、ローマ法王が来日し、広島と長崎の被爆地を訪れたことがニュースになりました。そんな原爆投下と並んで世界大戦の惨劇として有名なナチスのホロコースト、民族浄化というお題目で600万(諸説あり)のユダヤ人が虐殺された記憶を風化させないために、世界各地でホロコースト記念博物館が運営されています。今回紹介させていただくアメリカのワシントンDCにあるUnited States Holocaust Memorial Museum(アメリカ合衆国ホロコースト記念博物館)は、そんな中でも最大規模を誇る博物館です。

20191226_1壁全面に展示された、ホロコースト犠牲者たちの家族/肖像写真。AR(拡張現実)技術を使用しており、スマートフォンにダウンロードしたアプリを通してこれらの写真を見ると、それぞれの名前や背景を読み取ることができる。

 博物館は1972年にカーター大統領の呼びかけにより設立が決定し、1993年4月22日に連邦政府の寄贈した土地に民間からの183億円にも及ぶ寄付金で設立されました。アメリカ国内には現在も1000を超える人種差別団体が存在することを考えると、設立決定から開館までの21年という時間にも紆余曲折があったのだろうなぁと想像せずにはおれません。
 全4階の建物は、4階から1階に向かうルートで、なぜドイツが戦争に向かったのか、ナチス・ドイツの台頭から国民の洗脳、組織的な大虐殺へ至った経緯が分かるように展示されています。最後にはユダヤ人を連合国軍が解放する様子が展示されており、ヨーロッパや日本にあるホロコースト博物館とは違う、戦勝国アメリカの視点からの展示を見ることができます。同盟国であった日本人が掲載されている「劣等人種一覧」などは序の口で、アウシュビッツ収容所で処分前のユダヤ人を「収納」した3段ベッドという名目の「物置棚」、壁一面のガラスケースの中に積みあがった粗末な靴の山、「死の天使」などと呼ばれたナチス将校にして医師ヨーゼフ・メンゲレによる人工シャム双生児の実験映像など、方向性を問わずショッキングな資料が数多く展示されており、軽い気持ちで見学するにはいささか向かない場所ではあります。
 ちなみに更に陰鬱な事実として、2009年には黒人の警備員が白人至上主義者に射殺されるという、あまりにも皮肉が効き過ぎている事件も発生しています。

 何やら自分で書いていて鬱になってきしたが、何だってこの博物館を記事に選んだかというと、ときの忘れものの取り扱い作家の一人、ジョナス・メカスの人生にホロコーストが大いに関わっているからです。リトアニアの農家に生まれたメカスは、故郷がソ連、次いでドイツに占領される中で地下活動を行い、結果ウィーンへの脱出中にナチスに捕らえられ、強制労働キャンプに送られました。1945年にキャンプを脱走し、その後はヨーロッパの難民キャンプを転々とし、終戦後の1949年にアメリカに亡命。NYで工場勤務する傍ら、16mmカメラを用いた映像日記の制作を開始しました。1950年代からハリウッド映画に対する批判としてニューヨークなどでさかんになった実験映画の文化を支え、自らも多くの映像作品を作り続け、20世紀を代表する映像作家・詩人として、2019年1月に惜しまれながら亡くなりました。
 この博物館では戦争経験者によるトークやインタビューの記録映像も数多く収蔵していますが、メカス氏も亡くなる半年前に、6時間以上にも及ぶインタビューを受けていました。
 Aパートは4時間16分、Bパートは2時間9分に及ぶロングインタビューです。
Oral history interview with Jonas Mekas
20191226_2https://collections.ushmm.org/search/catalog/irn619022

 自分は亡くなった祖父母が戦争経験者で、父母は終戦直後に生まれた団塊世代、自身が生まれたのは高度成長期も終わりを迎えた1970年後半と、戦争というものは既に過去の「記録」です。自分のような人間が今後増えることはあれ減ることはない(といいなぁ)ことを考えれば、このようなアーカイヴの重要度は益々上がっていくことでしょう。

 年末年始にお時間があれば、ご覧になってみてはいかがでしょうか。

(しんざわ ゆう)

博物館公式ホームページ

-------------------------------------------------
◎昨日読まれたブログ(archive)/2010年04月15日|ギャラリー100年~高村光太郎はギャラリストの祖
-------------------------------------------------

●今日のお勧めはジョナス・メカスです。
lennon ジョナス・メカス Jonas MEKAS
《ジョン・レノンとヨーコ・オノ、ベッドイン》

 2009年
 CIBA print
 35.4×27.5cm
 signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください