佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第36回

東京の現場現況報告

 今この原稿を書いているのは、まさに師走の下旬にさしかかろうとしている頃だ。世の中では忘年会だのクリスマスの気分が広がっているようだが、当方はまったくその気配はない。東京・吾妻橋の現場がなかなかにギリギリだ。果たして納まるのか?この原稿が公開されている来年始にはもっと目処が立っているだろう、そう思いたい。
 現場では、主な仕上げ工事を当方自身で担当している。好きでやっていることでもあるが、そうしなければ出来ないカタチがあると考えているから、そうしている。設計者と施工者を分けるか、あるいは同一とするかもまた、設計における判断の一つであり、また施工を行う者がどんな技術・技量を持つのが良いかの選択も行なっている。高度な技術を持った者が作ることが必ずしも良いとは限らない。素人かあるいはそれに毛が生えたくらいの技量のヒトが作った方が良いものになることもある。全てはモノの仕様、デザイン次第であり、作るヒトと作られるモノとのふさわしい関係を模索することが重要であると思う。

 内壁の大部分に漆喰を塗った。通常、漆喰の中塗り材として使われる砂漆喰に、大玉村から運んできた籾殻を混ぜ、それを仕上げとした。砂漆喰はあらかじめ繊維材と骨材が調合された材料で、食い付きが良いので施工が難しくない。ただもちろん平滑な面を出すのは難しいので、ならばと、さらに籾殻を混ぜ合わせてより粗荒な表情を出した。これが乾いたあと、さらに柿渋をウエスで撫でるように塗っていこうと考えているが、それは現場全体がもう少し見えてから判断するつもりである。

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 他の部材との取り合いなどが楽になる左官の壁が、一方で少々厄介なのは下地のズレによるヒビ割れが生まれることである。そレに対する工夫として、下地としたベニヤ一枚ずつに目地を取って割付けを行なっている。粗荒な仕上げにしたのも、ヒビ割れが入っても見えづらくなることを意図したものである。

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 下地板の施工は大工さんにお願いした。その方が素早くて合理的である。
 目地には大玉村で染めた藍染めの布と柿渋染めの布を重ね合わせて貼っている。かなり深淵な表情が出ていて、まさに覗き込まないとその中身が分からないようなモノになっている。

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 割付け図はあらかじめ作成し、一部は既存との取り合いなどで現場にて修正を加えた。作図の作業では、現場での墨出し方法と作業手順を想定しながらおこなうので、それに応じてデザイン自体も無駄が削ぎ落とされていく。

 左官工事がひと段落した後、この原稿を書いている今現在は、造作家具の制作である。現場に入ってもらっている地元の大工さんの作業場を少しお借りし、カンナがけでの材料取りから進めている。

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 材料であるクリの板材は、これもまた大玉村から運び込んだものだ。村の製材所で丸太を賃挽きしてもらい、挽いた板を自宅にて乾かして取っておいたものだ。若干まだ生乾きの部分もあるが、そんな荒材を自分で整えていけばその木目、ミミの形などそれぞれの板の特徴をおおよそ把握ができ、各所の納め方のアイデアをそこから得られる。自分で作業を行うことは、その作業時間の中で同時にデザインの詳細検討ができるという大きな利点がある。そしてそのアイデアと知見は、もちろん次に繋がる。

 以上、いくつか紹介したように、内装の仕上げでは、調達ができるいくつかの素材を組み合わせることに特に注力している。そしてその多くを福島県の大玉村から、東京の現場へと持ち込んでいるのであるが(前回の投稿に詳しい。)、そんな意図を先日、福島民報社に取材していただいた

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 福島県には、福島民報と福島民友という2つの地方紙がある。県内に地方紙が2つあるのはたしか、福島と沖縄の2県だけらしい。福島県に住む人々の多くが民報か民友を取り、必要があれば全国紙も購読するという具合に、地方紙の浸透率はかなり高い。なので個人的にはかなり重要なメディアである。記事ではかなり大玉村PR事業の趣に重点が置かれているが、間違いではないので、その期待に応えられるよう、ひとまずは内部造作の充実を図りたい。

 クリ材でピンホールカメラを作った一昨年末の個展から、もう一年が経ってしまった。けれども、その間にいくつか自分が扱うことができる素材が増えたのを実感している。具体的には真鍮、銅、鉄。向こう一年はそれらの素材をもう少しじっくりと扱ってみようかと考えている。そろそろカメラも再び作りたくなってきた。
さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。

◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●本日のお勧め作品は、佐藤研吾 です。
sato-15佐藤研吾 Kengo SATO
《囲い込むためのハコ2》
2018年
クリ、アルミ、柿渋
H115cm
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◎昨日読まれたブログ(archive)/2016年11月16日|粟生田弓『写真をアートにした男 石原悦郎とツァイト・フォト・サロン』
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