佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第37回

喫茶野ざらし仕上げ工事と、それから先

 先月(2020年1月)下旬、東京墨田区の吾妻橋に「喫茶野ざらし」がオープンした。年末年始もおよそ不休で仕上げ、什器の工事を続けていたので、ようやく、といったところである。

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 建物の既存躯体を除く店内のおよそ全ての各所に設計者と共同者自ら手を入れており、今回はあまり既製品を持ち込まなかった。先月の投稿で記した籾殻入りの漆喰荒壁と、藍染+柿渋布を仕込んだ眠り目地。作り付けの長椅子にはクリの無垢板と浮造りの杉板、そして藍染めのクッションを配置。机は9mmφの丸鋼を組み合わせて脚を造り、クリ45tと柾目スギ60tで作った天板を支えている。細い部材を使い、また溶接技術も決して高度ではないが、部材の接合部のカネ(直角)にこだわることなく数多く組み合わせることで荷重を分散させている。

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(制作した什器一覧。およその大きさと構造方法を決めた上で、細部の造形は制作者それぞれの手に拠るものとしている。もちろんそうした方法で制作できる人間は限られてはいるが、作業時間を考えてもその方が合理的である。)

 そのほかの椅子は古道具屋で購入したもので、どれも背もたれはついていないもの。代わりに作り付けの背もたれを床から立ち上がらせている。椅子という機能をどのように解体して組み立て直すか、さらに全てを作り込むのではなく、他の外からやって来る部品とどのように組み合わさるかを模索した結果でもある。

202001佐藤研吾3(Photo:Mai Shinoda)

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 照明器具もこのプロジェクトのために制作している。自在鉤の構造システムで上下可動する鉄フレームに、藍染めと柿渋を組み合わせた布が付き、下部の真鍮を鋳造して組み合わせた鉄部品をつり降ろしている。壁掛け照明も真鍮、鉄、染めた布の組み合わせで電球を囲むシェードを制作した。(共同制作者:渡辺未来、河原伸彦)

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(壁掛け照明は周囲の壁面に光がバウンドするように考慮している。壁面は籾殻を濃淡つけて配布することで、表面の陰影をより深く見せるようにしている。(壁面仕上:瀬辺茂))

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 喫茶野ざらしの外観はかなり込み入っている。新しいものと古いものがファサードに混在しているが、高さ3Mの大きな観音鉄扉が視認性を高めている。

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(Photo: Mai Shinoda)
看板はおよそ300mm四方柿渋と蝋引きをして染めた布を丸鋼9mmφが支持する形とした。この部分はまさに野ざらしであるので、今後の表情の変化が楽しみなところでもある。(鉄部:河原伸彦、染色布:渡辺未来、ロゴデザイン:植田正)

 手で作る冗長性と合理性を併せ持つ制作方法は、やはりインドのさまざまな人々の大地から生え出たような制作風景から学んだところがとても多い。
 今月もこれからインド(とバングラデッシュ)に行くが、それは自分自身の制作感覚、工作の感性というべきものを更新するためでもある。

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喫茶野ざらし
用途:喫茶店、イベントスペース
建築:改修
構造:木造二階建
床面積:約80m2
デザイン:In-Field Studio
施工:北條工務店、In-Field Studio、中村仲製作所、Davo.
什器制作:佐藤研吾、河原伸彦(鉄部溶接-机、照明器具)、渡辺未来(染色、布-照明器具、クッション)[ https://www.instagram.com/watanabemiku8 ]、瀬辺茂(染色、仕上-照明器具、内装壁)
さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。

◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●お知らせ
【ことばのポトラック vol.17】「藍ではじめる~福島県大玉村 の試み」
開催日時:2020年3月8日(日)16:30開場、17:00開演
会場:北千住BUoY 2Fカフェ
   東京都足立区千住仲町49-11 2階
   東京メトロ千代田線・日比谷線/JR常磐線/東武スカイツリーライン
   「北千住」駅出口1より徒歩6分、西口より徒歩8分
料金:2000円
ゲスト:歓藍舎メンバー<野内彦太郎(農家)、林剛平(回遊するヒト)、佐藤研吾(建築家)>
司会進行:大竹昭子&堀江敏幸
(以下、大竹昭子さんより)
来たる3月8日に佐藤研吾さんと彼の仲間にご出演いただき、東日本大震災の直後にはじめて継続してきた「ことばのポトラック」第17回を開催いたします。
佐藤研吾さんとは<ギャラリーときの忘れもの>の彼の写真展「囲い込みとお節介」で知り合いました。
その後、福島県大玉村の歓藍社をお訪ねして野内彦太郎さんや林剛平さんにお会いし、東日本大震災が災害だけでなく、新しい人間関係をもたらしたことをうれしく思いました。
大震災から10年目の節目の年に、村落と都市が結びつく試みについて語ることができるのが楽しみです。
会場は佐藤さんが設計した北千住のBUoYです。
詳細は以下をご覧ください。
http://kotobanopotoluck.blogspot.com/

●本日のお勧め作品は、佐藤研吾 です。
sato-26佐藤研吾 Kengo SATO
《季節を考える》
2018年
印画紙
23.5×23.5cm
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

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◎昨日読まれたブログ(archive)/2016年11月16日|粟生田弓『写真をアートにした男 石原悦郎とツァイト・フォト・サロン』
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●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。