佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第40回

福島でブレイクその2

 先月の投稿以降も、結局首都圏はおろか、村の外へもほとんど出かけることなく一ヶ月が過ぎた。COVID-19に関係なく、都市というものから少し距離を置いてみようとそもそも考えていた自分としては、正直なところ、なにやら少しばかりの心の充実もある。(春の和やかな風がそんな気持ちにさせているのかもしれない。こちらは桜が散って新緑が芽吹きはじめた。山の色は日に日に活気付いている。)朝、安達太良山の中腹の仮住まいから麓へ下り、あちこちでトラクターをゴンゴンと動かされている田園の中を走り抜け、フタを開けてみたらなんとも言えない動物の痕跡が感じられる家屋の改修をセッセとやって、夜山の中の仮住まいへ帰って寝る。そんな生活を続けている。

20200527佐藤研吾1
新拠点改修(解体)の状況。家の健康診断ともいうべきか、実は解体仕事が一番楽しい。家が何十年の歳月をどのように生きてきたのか、人がどんな生活と思惑を持っていたのか、この土地の大工さんはどんな人なのか、とてもよく分かってしまう。

 東京にいる人々とは主にweb会議などでやり取りを行っており、大学の講義やイベントもオンラインで聴講ができるようになった。普段はそういうことに半ば億劫になる性分でもあったので、離れて対面できない代わりにそうしたオンラインで接続できるようになったのは、正直なところ自分にとってはありがたい。コロナによって社会がどうなるか、の議論がちらほらSNSなどで散見されるが、デジタライズによる急速な社会制度の刷新は無いにせよ、いくらか峻別された前時代的なやり取りが効率化されていくのだろうなと思う。日頃、失われた過去のモノコト(古道具から歴史まで)に思いを馳せがちな自分は、そんな社会の効率化を残念がりながらも同時に有り難がるのだろう。いささか卑怯で素朴な人間だなと我ながら感じ入る。
 この連載は「大地について―インドから建築を考える―」というタイトルが付いている。ときどき回によっては肝心の「インド」に一切ふれることなく文章を書き連ねてしまっているものもあるが、いちおう毎回このタイトルを気にしながら執筆をしている。インドにいる友人らとも時折SNSでやり取りをしている。インドでは日本とは異なる形でのロックダウンが起きていると聞いたが、あれだけ人と人の接触の機会が多いインドでどんな都市の状況が生まれているのだろうか。世の中が止まってしまっても、どんな状況でもなんとかその場を凌ぐインドの人々の工夫の有様を、こういう時にこそ学びたかった。そう、インドへは学びに行っているのだ。もちろんなんらかの仕事や研究の目的で訪れているのだが、毎回自分の内には無い何かを学ぼうとしている。そしてその何かを持って帰り、高揚感が冷めないうちにアイデアのタネをまいておく。そんなアイデア、工夫のタネの採集者、シードハンターとして自分は異なる土地の移動を愉しんでいる。
 訪れた先々の土地の歴史が気になってしまう、出会った人々の昔が気になってしまうのも、「何かの工夫を学びたい」の衝動であるから仕方がないのだ。歴史には一つ一つの物事、人々の因果があり、それぞれの人の生い立ちは無論、膨大な工夫の集積である。そして数多の工夫の亡霊らしきを背負っているようなモノのあり方、それをデザインと呼びたい。廃墟であろうが、荒れ地であろうが、主体性なきモノの現れにはなんらかの因果と順序がある。それがたとえ偶有的であったとしても。
 「シャンティニケタンの風景について」の論を始めるつもりが、ブレイクを2稿続けてやってしまった。自分のケツを叩くためにも写真を一枚貼っておこう。

 
20200507佐藤研吾2
シャンティニケタンのR・タゴールの住宅である建設中のウッダヤン。完成時期から推測して、ビシュバ・バロティ大学が設立した1920年前後と思われる。Rabindra Bhavana Archiveより。
さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。

◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●本日のお勧め作品はハ・ミョンウンです。
ha_50_mini-15ハ・ミョンウン 河明殷 Ha Myoung-eun
"MINI 3022 series (15)"
2015年 ミクストメディア
30x22x3cm  Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

*画廊亭主敬白
臨時休廊(在宅勤務)41日目
佐藤研吾さんのエッセイにあるビシュバ・バロティ大学はタゴールがつくった大学ですが、亭主も少年時代、留学を夢見たものでした。佐藤さんはインド、東京、福島を往還しながら墨田区吾妻橋にアート・福祉・農業の文化交流拠点"喫茶野ざらし"をつくり、その改装資金をクラウドファンディングで集めようと四苦八苦していました。目標額(200万円)にやっと届いたようですが(亭主もやきもきしていました)、かたや喫茶店売り上げがこのコロナウイルスの影響で落ち込むなど苦戦が続いているようです。皆さんのご支援をお願いする次第です。
さて4連休が明け、今日から再びスタッフたちは電話会議で打ち合わせて、明日からの没後60年 第29回瑛九展の最後の調整。画廊は臨時休廊のまま、WEB展でのスタートとなります(画廊にお運びいただく場合は事前にご予約ください)。
連休中もたくさんのメールをありがとうございました。ご注文、お問合せには各担当者から順次返信いたしますので、少々お待ちください。

-------------------------------------------------
◎昨日読まれたブログ(archive)/2008年01月12日|映画「おそいひと」
-------------------------------------------------

◆ときの忘れものは新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、当面の間、臨時休廊とし、スッタフは在宅勤務しています。メールでのお問合せ、ご注文には通常通り対応しています。

◆ときの忘れもののブログは作家、研究者、コレクターの皆さんによるエッセイを掲載し毎日更新を続けています(年中無休)。
皆さんのプロフィールは奇数日の執筆者は4月21日に、偶数日の執筆者は4月24日にご紹介しています。

◆ときの忘れものは版画・写真のエディション作品などをアマゾンに出品しています。

●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。