Artists Recently 第5回/光嶋裕介
建築と自然を手で思考する
今年も気がつけば師走になり、思い返してみると、
春先の思い出が遠く昔のように感じられたり、逆に
つい最近のように思えたりもする、なんとも不思議
な時間感覚のなかにいる。
もちろん、2020年という年はCovid-19によるパン
デミックの起きた年とした世界中が記憶することに
なるだろう。世界中の人々がこれほどまでに「ひと
つのこと」の当事者として、それも「同時に体験」
したことが今まであっただろうか。
コロナ禍にあって、私は時間の流れが遅くなったこ
とについて考えるようになった。移動を制限され、
ステイホームすることで、家族と過ごす時間が増え、
日常における過ごし方について、大袈裟な言い方を
すると、生き方について深く思考することの大切さ
を噛みしめるようになった。
生きることにとって働くことは大きく関係する。仕
事をするとはどういうことか、働くとは何を意味す
るのか。ハンナ・アレントを読み直して、お金の介
在する商品とは違った価値について、考えるように
なった。
というのも、自粛期間中ずっと家にいることで、い
つになく沢山のドローイングを描くことができたか
らだ。いつもの福井県武生に行って和紙を漉くこと
ができなくて、京都に出向いて野口さんに金箔を押
してもらうこともできなかったので、家にあるパス
テルで紙に抽象的な色の世界を背景として「先」に
描いてみた。あらかじめマスキングテープで描きた
い場所を確保し、パステルを塗りたぐった後にテー
プを剥がしてペンで描いていく。そうしてできたパ
ステルを背景とした「白いヴォイド」にペンを走ら
せて、幻想都市風景を描いていく。驚いたことに、
描かれたものの多くには植物的なモチーフが自然と
現れてきた。これは、なぜか。
まだ厳密にはわからないけど、描いていて煉瓦やガ
ラスといったソリッドな素材で構成された建築群を
描くだけでは不自由な気がしてきて、どこか得体の
知れない生命的で、有機的な草木を描くことで、建
築と自然の関係性について手で思考するようになっ
ていた。いや、より正確には、今もドローイングを
通して、建築と自然の関係性について考えているの
だ。
そもそも、コロナが人間による自然への過剰な関与、
あるいは地球に対する搾取によって引き起こされた
と思えば、人間至上主義による過ちであり、近年の
異常気象、気候変動問題から明らかなように、自然
への敬意の欠如がその原因の大きな割合であるよう
に思えてならない。
自然ではないものが自然とどのように付き合うか。
建築というハードもそうだが、資本主義や自由主義
経済といったソフトとしてのシステムの暴走もまた、
傍観しているだけではいけないと改めて考えさせら
れる。ひとりでできることは僅かかもしれない。で
も、その小さな一歩をそれぞれが踏み進めて、みん
なで連携していくことができるか、今私たちは帰路
に立たされている。大事なのは、自分のことだけで
はなく、未来のことを思える想像力だと感じている。
この想像する力を持っているからこそ人間が人間で
あるわけで、今こそ人間至上主義を脱却し、これか
らの地球と人間の共生の道筋を示せるようにしたい。
分断ではなく共生のひとつの可能性として、私はド
ローイングのなかで建築と自然の理想的な関係性を
思考しながら描きたいと思っている。
光嶋裕介(建築家)
※自粛期間中に描いたドローイングは、ただいま東
京都の荏原中延駅から徒歩7分のところにある「隣
町珈琲」で2021年1月末まで展示されています。
こちらは、経済学者の平川克美氏が主催する新しい
学舎であり、ご縁あって私が内装設計をさせてもら
った。ぜひお近くにお越しの際は、直接ドローイン
グを見てもらえたら何より嬉しいです。
http://tonarimachicafe.jp/cn2/2020-11-122.html
■光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA(1979-)
建築家。一級建築士。1979年米国ニュージャージー州生。1987年に日本に帰国。以降、カナダ(トロント)、イギリス(マンチェスター)、東京で育ち、最終的に早稲田大学大学院修士課程建築学を2004年に卒業。同年にザウアブルッフ・ハットン・アーキテクツ(ベルリン)に就職。2008年にドイツより帰国し、光嶋裕介建築設計事務所を主宰。
神戸大学で客員准教授。早稲田大学などで非常勤講師。内田樹先生の凱風館を設計し、完成と同時に合気道入門(二段)。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの全国ツアーの舞台デザインを担当。著作に『幻想都市風景』、『みんなの家。』、『建築武者修行』、『これからの建築』など。2020年3月に『増補 みんなの家。』が筑摩書房より、文庫化される。
●本日のお勧め作品は光嶋裕介です。
光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA
"ベルリン"
2016年
和紙にインク
45.0×90.0cm
Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
建築と自然を手で思考する
今年も気がつけば師走になり、思い返してみると、
春先の思い出が遠く昔のように感じられたり、逆に
つい最近のように思えたりもする、なんとも不思議
な時間感覚のなかにいる。
もちろん、2020年という年はCovid-19によるパン
デミックの起きた年とした世界中が記憶することに
なるだろう。世界中の人々がこれほどまでに「ひと
つのこと」の当事者として、それも「同時に体験」
したことが今まであっただろうか。
コロナ禍にあって、私は時間の流れが遅くなったこ
とについて考えるようになった。移動を制限され、
ステイホームすることで、家族と過ごす時間が増え、
日常における過ごし方について、大袈裟な言い方を
すると、生き方について深く思考することの大切さ
を噛みしめるようになった。
生きることにとって働くことは大きく関係する。仕
事をするとはどういうことか、働くとは何を意味す
るのか。ハンナ・アレントを読み直して、お金の介
在する商品とは違った価値について、考えるように
なった。
というのも、自粛期間中ずっと家にいることで、い
つになく沢山のドローイングを描くことができたか
らだ。いつもの福井県武生に行って和紙を漉くこと
ができなくて、京都に出向いて野口さんに金箔を押
してもらうこともできなかったので、家にあるパス
テルで紙に抽象的な色の世界を背景として「先」に
描いてみた。あらかじめマスキングテープで描きた
い場所を確保し、パステルを塗りたぐった後にテー
プを剥がしてペンで描いていく。そうしてできたパ
ステルを背景とした「白いヴォイド」にペンを走ら
せて、幻想都市風景を描いていく。驚いたことに、
描かれたものの多くには植物的なモチーフが自然と
現れてきた。これは、なぜか。
まだ厳密にはわからないけど、描いていて煉瓦やガ
ラスといったソリッドな素材で構成された建築群を
描くだけでは不自由な気がしてきて、どこか得体の
知れない生命的で、有機的な草木を描くことで、建
築と自然の関係性について手で思考するようになっ
ていた。いや、より正確には、今もドローイングを
通して、建築と自然の関係性について考えているの
だ。
そもそも、コロナが人間による自然への過剰な関与、
あるいは地球に対する搾取によって引き起こされた
と思えば、人間至上主義による過ちであり、近年の
異常気象、気候変動問題から明らかなように、自然
への敬意の欠如がその原因の大きな割合であるよう
に思えてならない。
自然ではないものが自然とどのように付き合うか。
建築というハードもそうだが、資本主義や自由主義
経済といったソフトとしてのシステムの暴走もまた、
傍観しているだけではいけないと改めて考えさせら
れる。ひとりでできることは僅かかもしれない。で
も、その小さな一歩をそれぞれが踏み進めて、みん
なで連携していくことができるか、今私たちは帰路
に立たされている。大事なのは、自分のことだけで
はなく、未来のことを思える想像力だと感じている。
この想像する力を持っているからこそ人間が人間で
あるわけで、今こそ人間至上主義を脱却し、これか
らの地球と人間の共生の道筋を示せるようにしたい。
分断ではなく共生のひとつの可能性として、私はド
ローイングのなかで建築と自然の理想的な関係性を
思考しながら描きたいと思っている。
光嶋裕介(建築家)
※自粛期間中に描いたドローイングは、ただいま東
京都の荏原中延駅から徒歩7分のところにある「隣
町珈琲」で2021年1月末まで展示されています。
こちらは、経済学者の平川克美氏が主催する新しい
学舎であり、ご縁あって私が内装設計をさせてもら
った。ぜひお近くにお越しの際は、直接ドローイン
グを見てもらえたら何より嬉しいです。
http://tonarimachicafe.jp/cn2/2020-11-122.html
■光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA(1979-)
建築家。一級建築士。1979年米国ニュージャージー州生。1987年に日本に帰国。以降、カナダ(トロント)、イギリス(マンチェスター)、東京で育ち、最終的に早稲田大学大学院修士課程建築学を2004年に卒業。同年にザウアブルッフ・ハットン・アーキテクツ(ベルリン)に就職。2008年にドイツより帰国し、光嶋裕介建築設計事務所を主宰。
神戸大学で客員准教授。早稲田大学などで非常勤講師。内田樹先生の凱風館を設計し、完成と同時に合気道入門(二段)。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの全国ツアーの舞台デザインを担当。著作に『幻想都市風景』、『みんなの家。』、『建築武者修行』、『これからの建築』など。2020年3月に『増補 みんなの家。』が筑摩書房より、文庫化される。
●本日のお勧め作品は光嶋裕介です。
光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA"ベルリン"
2016年
和紙にインク
45.0×90.0cm
Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
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営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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