Artists Recently 第9回/藤江民
表体Ⅴ 1981年
「TADのベスト版コレクション+」富山県美術館 2020.9.19-11.3
撮影:柳原良平
1年前の春初めての作品集を刊行しました。ちょうど正にコロナウイルスが世界中で一気に蔓延しはじめた頃。作品整理を始め3年、編集に入り2年。おまけにプライべートの雑務もありかつてなく実務仕事の嵐に翻弄されまくりました。昨年は富山県美術館 でTADのベスト版コレクション展に40年前の拙作がその後初めて展示されました。資料の白黒写真からゲストキューレターが目に留められたようす。筆触の転写を繰り返すことで筆跡を身体性から遠ざけ、その上で絵画の要素にしているという風に気づかれたとか。 基本的な絵画制作法に関し見知らぬ方が作品を見て言及して下さったことは奇跡的。版画に近いこの制作法はこれまで「絵画とは違う」と言われたりしました。他には大きな絵画を木枠にはらずに丸めて外に持ち出し「トライアル」したことも。制作を継続するためにも絵画は基本一人で扱えるべきと私なりに考えた末です。でも絵は丸めたらダメともよく言われましたが。そう言えば40年前の拙作は美術館で状態よく保存されていて時間が巻き戻ったようにドキドキしました。とは言え平面表現の在り方は様々であり作品も経年のうちに様々な人生をたどると思います。 私は経年変化はそれはそれだと思っています。
銅版画 21-6 36×36㎝ 2021年
40年前に富山市内の印刷所で見つけた菊全サイズの電動プレス機でのリトグラフ制作はもう体力的にできませんが、銅版画制作は寒くて体が動きにくい冬の制作です。大画面の絵画と銅版画の画面との接点がわからないと言われることがあります。ここ数年のエッチングでは制作意図は絵画と同じつもりです。絵画では隣接しているのに重なって見える筆触が作る絵画空間、銅版画では記号に見えるラインの連なりが勝手に重なって発生する空間。どちらも最終的な全体像は未決定です。そして部分を見ると偶然に出会っている筆跡の無関係の関係が面白いと思っています。どこか違う世界のことを描いているのではなく、「絵が在るとしたら平面すれすれに発現するもの」と考えています。コロナ禍で多くの方が大変に困難な状況にさらされている折、個人的には人と接することは少なくてさほど変わりない日々なので今はこれからのさらなる老いを見据え制作の環境を立て直し中です。
この冬は市内でも130㎝という積雪を記録しました。仕事場の裏庭畑から残雪の立山連峰と剣岳を見上げフキノトウ、白菜の菜花、ウドなど採取すると冬の大雪で固くなった身体と気分が解されるようです。
菜花
(20210405 ふじえ たみ)
■藤江民 Tami FUJIE (1950-)
富山県に生まれる。1972年明治大学文学部(1973年卒業)在学中に東京版画研究所で刷師・女屋勘左衛門からリトグラフの指導を受ける。1975年第43回日本版画協会展で新人賞を受賞、同年白樺画廊で初個展を開催する。フィルムに描いた原画を転写した亜鉛版をリトグラフの版にする手法を用いて、スピード感のある抽象作品を制作。1977年までは版画(リトグラフ)による発表が多かったが、並行して、フィルムに描画したインクや絵具を紙に写し取るモノタイプも制作している。 1978年に富山に帰郷、以降の発表は和紙にオリジナル手法で制作した絵画、キャンバスに描いた絵画の発表を続ける。東京・村松画廊、ギャラリー手、ギャラリーなつか、ギャラリートキ、福井・アートサイト、富山・ギャラリーナウ、マイルストーンアートワークスなどで個展開催。1978年第12回日本国際美術展、「81富山の美術」展(富山県立近代美術館、84,86.88.90,91年にも出品)、2000年「とやま 版―越中版画から現代の版表現まで」(富山県民会館)、2013年太閤山アートビエンナーレ2013などに出品。 自作については<大判の雲肌麻紙に油絵具のタッチを写し取り、あるいは和紙の表面を剥がしさらに描きます。画面の大きさのなか身体的な強い圧力により絵具を和紙に滲みこませ、和紙を剥がした部分は薄く光を透かします。絵画は大部分で予測不可能に進行していきます。驚きと新鮮さとともに様々な方向に意識を展開させてくれる絵画を求めています。>と述べている。
『藤江民作品集』
著者:藤江 民(ふじえたみ)
発行日:2020年4月10日
発行者:勝山敏一
発行所:桂書房
執筆:
藤江 民/見たことのない絵を「発現」させたい
光田由里/藤江民 自在さを伝えにいく絵画
島 敦彦/藤江民ー構築されない奥行を求めて
編集:椎名節
デザイン:大石一義(大石デザイン事務所)
プリンティングディレクション:熊倉桂三
印刷・製本:株式会社山田写真製版所
サイズ、頁:29.5×21.0 143ページ
©Tami FUJIE Printed in Japan
*ときの忘れもので扱っています。
価格:3,300円(税込み)
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●作家が近況を語るArtists Recentlyは毎月15日の更新です。
●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
表体Ⅴ 1981年「TADのベスト版コレクション+」富山県美術館 2020.9.19-11.3
撮影:柳原良平
1年前の春初めての作品集を刊行しました。ちょうど正にコロナウイルスが世界中で一気に蔓延しはじめた頃。作品整理を始め3年、編集に入り2年。おまけにプライべートの雑務もありかつてなく実務仕事の嵐に翻弄されまくりました。昨年は富山県美術館 でTADのベスト版コレクション展に40年前の拙作がその後初めて展示されました。資料の白黒写真からゲストキューレターが目に留められたようす。筆触の転写を繰り返すことで筆跡を身体性から遠ざけ、その上で絵画の要素にしているという風に気づかれたとか。 基本的な絵画制作法に関し見知らぬ方が作品を見て言及して下さったことは奇跡的。版画に近いこの制作法はこれまで「絵画とは違う」と言われたりしました。他には大きな絵画を木枠にはらずに丸めて外に持ち出し「トライアル」したことも。制作を継続するためにも絵画は基本一人で扱えるべきと私なりに考えた末です。でも絵は丸めたらダメともよく言われましたが。そう言えば40年前の拙作は美術館で状態よく保存されていて時間が巻き戻ったようにドキドキしました。とは言え平面表現の在り方は様々であり作品も経年のうちに様々な人生をたどると思います。 私は経年変化はそれはそれだと思っています。
銅版画 21-6 36×36㎝ 2021年40年前に富山市内の印刷所で見つけた菊全サイズの電動プレス機でのリトグラフ制作はもう体力的にできませんが、銅版画制作は寒くて体が動きにくい冬の制作です。大画面の絵画と銅版画の画面との接点がわからないと言われることがあります。ここ数年のエッチングでは制作意図は絵画と同じつもりです。絵画では隣接しているのに重なって見える筆触が作る絵画空間、銅版画では記号に見えるラインの連なりが勝手に重なって発生する空間。どちらも最終的な全体像は未決定です。そして部分を見ると偶然に出会っている筆跡の無関係の関係が面白いと思っています。どこか違う世界のことを描いているのではなく、「絵が在るとしたら平面すれすれに発現するもの」と考えています。コロナ禍で多くの方が大変に困難な状況にさらされている折、個人的には人と接することは少なくてさほど変わりない日々なので今はこれからのさらなる老いを見据え制作の環境を立て直し中です。
この冬は市内でも130㎝という積雪を記録しました。仕事場の裏庭畑から残雪の立山連峰と剣岳を見上げフキノトウ、白菜の菜花、ウドなど採取すると冬の大雪で固くなった身体と気分が解されるようです。
菜花(20210405 ふじえ たみ)
■藤江民 Tami FUJIE (1950-)
富山県に生まれる。1972年明治大学文学部(1973年卒業)在学中に東京版画研究所で刷師・女屋勘左衛門からリトグラフの指導を受ける。1975年第43回日本版画協会展で新人賞を受賞、同年白樺画廊で初個展を開催する。フィルムに描いた原画を転写した亜鉛版をリトグラフの版にする手法を用いて、スピード感のある抽象作品を制作。1977年までは版画(リトグラフ)による発表が多かったが、並行して、フィルムに描画したインクや絵具を紙に写し取るモノタイプも制作している。 1978年に富山に帰郷、以降の発表は和紙にオリジナル手法で制作した絵画、キャンバスに描いた絵画の発表を続ける。東京・村松画廊、ギャラリー手、ギャラリーなつか、ギャラリートキ、福井・アートサイト、富山・ギャラリーナウ、マイルストーンアートワークスなどで個展開催。1978年第12回日本国際美術展、「81富山の美術」展(富山県立近代美術館、84,86.88.90,91年にも出品)、2000年「とやま 版―越中版画から現代の版表現まで」(富山県民会館)、2013年太閤山アートビエンナーレ2013などに出品。 自作については<大判の雲肌麻紙に油絵具のタッチを写し取り、あるいは和紙の表面を剥がしさらに描きます。画面の大きさのなか身体的な強い圧力により絵具を和紙に滲みこませ、和紙を剥がした部分は薄く光を透かします。絵画は大部分で予測不可能に進行していきます。驚きと新鮮さとともに様々な方向に意識を展開させてくれる絵画を求めています。>と述べている。
『藤江民作品集』著者:藤江 民(ふじえたみ)
発行日:2020年4月10日
発行者:勝山敏一
発行所:桂書房
執筆:
藤江 民/見たことのない絵を「発現」させたい
光田由里/藤江民 自在さを伝えにいく絵画
島 敦彦/藤江民ー構築されない奥行を求めて
編集:椎名節
デザイン:大石一義(大石デザイン事務所)
プリンティングディレクション:熊倉桂三
印刷・製本:株式会社山田写真製版所
サイズ、頁:29.5×21.0 143ページ
©Tami FUJIE Printed in Japan
*ときの忘れもので扱っています。
価格:3,300円(税込み)
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●作家が近況を語るArtists Recentlyは毎月15日の更新です。
●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
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営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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