佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第54回

秋田市文化創造館での展示制作

前回投稿で記した秋田県秋の宮での滞在制作に続いて、およそ1ヶ月弱経って再び秋田を訪れた。今回は直接、秋田市文化創造館に向かい、秋の宮での制作に用いたピンホールカメラと暗室(の骨組み)などを展示室に運び入れた。それらはそのままではバラバラとなかなかまとまらないので、1泊2日の弾丸で、いくつかの什器を現場で作ってきた。

展示室では、展覧会のリ・オープンに向けて大規模な設営の真っ最中であった。展示構成は建築家の海法圭さんによるもの。単管で組まれた大きな構造物と、目の良いスギの細角材を組み合わせて作られた様々な展示用什器が館内各所に配置され、引き続き専門の職人さんらによって制作準備が進められていた。なかなか緊張感のある現場である。
自分も小規模ながら何回か現場をやったりして、だんだんと作業や道具の段取りができるようになってきてはいるが、専門の、とくに美術のインストールに関わる職人さんのそれは遥かに巧みで、とても学ぶことが多い。道具を収納、移動する箱や作業台まで様々に工夫が散りばめられている。自分は彼らの邪魔にならない場所で、コツコツと作業を始めた。

車から展示物と材料、道具を運び出し、什器制作にとりかかる。使う材料はもちろん、秋田で以前調達したナラ材とスギ材である。今回はその材料の縛りを自分に課していた。新たに買い足すことが無くなるので、自ずと材料の歩留まりを気にしつつ、それに応じた作るもののデザインを考える。周囲の什器の制作レベルはとても高い。自分はというと、制作の精度もいささか適当で強引なところもあったり、さらに、扱う木材は生木の時点で製材したのでグネグネと曲がりくねり、バキバキとヒビが駆け巡っている。なかなかに困難な戦いを強いられた。

けれども、そんな野暮な趣がここではむしろ良い方向に働いていたかもしれない。彫刻、とは決して言えない代物だが、なにか格闘の痕跡は滲み出てしまっている。実はこの格闘の痕跡が現れることは予期もしていた。何なら、そのために丸太で調達した木材を生木のまま製材したのでもあった。

202107佐藤研吾IMG_1859(現場ではこの欠き込み程度の加工をして、組み立てた)

202107佐藤研吾IMG_1867(展示の様子。来月、さらに手を加える予定である)


制作したモノたちは、それぞれのスケールは違うが、並ぶとより似たような形をしているのがわかる。けれどもこれは単なる形態の類似ではなく、むしろそれぞれを参照し合って出来た形である。2,100mm 立方の暗室のフレーム、700mm立方の木製ピンホールカメラ、そして140mm立方の住居モデル。このプロジェクトの始まりでは単なる立方体の形から構想を始めていたが、それぞれの制作物=メディアを作り、調整しながら、孔をあけ、窓を作り、窓を飛び出させ、足を生やしたりの工夫を繰り返した。異なる制作物を同時に進める時、それぞれの造形アイデアに引っ張られ、また意図的に参照することもあれば、意識して別の造形を挟み込むこともある。終わりのないメタモルフォーゼのような感覚であるが、暗中模索という言葉のほうが、むしろその制作現場での心境を表しているかもしれない。

202107佐藤研吾IMG_1862

それらの立方体模型に加えてもう一つ、秋の宮の地形をコンターで表現したモデルも持参した。秋の宮の地勢をわかりやすく示しているので、鑑賞する方々にとっては良い展示物かもしれないが、出展者である自分にとっては実はこのコンターモデルを支える什器のほうが重要である。撤収直前に作ったこの什器は、不安定なコンターモデルが作り出す山の稜線を必死に追跡し、モデルの重心を見極めながらいくつかの接点で支持している。使用した材料は、秋の宮の川で拾った流木だ。
この展示では「山のかたち」が大きなテーマになっている。このコンターモデルを支える什器は、コンターモデルによって抽象化された山の立体造形を、現地の履歴を備えた木端で支持する接点を結ぶことで、さらに抽象化させようと試みている。「山のかたち」という途方もない対象に向かって半歩でも歩みを繰り出し続けよう、というのがこの展示にかかる自分の心持ちである。

202107佐藤研吾IMG_1883
(設営作業中の展示室の写真。竹林のような風景に紛れて佇む成果物の見え方が思いの外良いなと思っている。)
さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。

・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●展覧会のご案内
200年をたがやす
オープンスタジオ期間「つくる」:2021年3月21日(日)~6月18日(金)
展示期間「みせる」:2021年7月1日(木)~9月26日(日)
会場:秋田市文化創造館ほか
主催:秋田市
企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた
全体監修:服部浩之(インディペンデントキュレーター/秋田公立美術大学准教授)
佐藤研吾「アキタノユメのイエ計画」
マタギ修行のために秋田・秋の宮へ移り住んだある友人の生活を起点に、マタギの山を視る眼差しと手つきを学びながら、彼のあるかもしれない秋田のイエの計画を練るーその構想を展開させていくプロセスを、自作カメラによる写真撮影とスケッチ、手記などによって捉え、アーカイブすることを試みます。

●本日のお勧め作品は瑛九です。
qei_113_kazari瑛九 Q Ei
《カザリ》
1956
リトグラフ
36.0x24.5cm
Ed.8
都夫人の裏書あり
※レゾネNo.51
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。