<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第104回

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岩場である。
ひとつの大きい岩盤というより、いくつもの岩が集まったような、
岩の集合体のような場所だ。
足場が悪くて歩きにくそうなそこを四人の人間が歩いている。
観光に来たのだろうか。
男性ひとりに女性三人。子ども連れの夫婦である。

先頭を切っているのは父親で、岩の上に佇んで海面を見下ろしている。
父のいる場所に急ごうとしているのは小さいほうの娘だ。
なにかいるぞ、と父親が叫ぶ。
え、なになに? 
危なっかしい足取りで駆け寄っていく娘。

その後ろには大きいほうの娘がいて、彼女もその後に続くだろうが、
母親はどうだろう。
彼女は岩のあいだに彫像のように立っている。
右の肩にバッグをかけ、手には棒切れのようなものを下げている。
岩は腰から下が隠れるほど高く、彼女はその場所から動く気配はない。

ところで、岩と書いたがこれは自然の岩だろうか疑問が浮かぶ。
表面が削ったように丸みを帯びている。
かといって人工物とも思えない。
そしてその岩のあいだからは、まっすぐな流木が天にむかって突き出している。
いくつかに枝わかれている先端部が根っこのほうだろう。
どうしてこんな奇妙な格好になったのか。
大きな波がざぶんと押し寄せて流木を持ち上げ、逆さに突き立てたのか。

よく見ると、あたりにはほかにも流木が落ちている。
どれも長く、太く、何かの残骸のようにも感じる。
沖合いには船舶の影がいくつか見えるが、
そのうちのいちばん右側の貨物船は姿が鮮明でマストが二本突き出ている。
そのマストが岩場に突っ立っている流木に重なり、
この空間が船のようにも、孤島のようにも見えてくる。

実はそこにいるのは彼らだけなのである。
残されたたったひとつの家族なのだ。
でも、彼らはまだその事実に気がついていない。
間もなく日没が来てあたりは暗くなり、身動きがとれなくなる。
そのときはじめて脱出の手だてがないことに気づき、
この木に白い布を結びつけて助けを呼ぶだろう。

大竹昭子(おおたけあきこ)

●作品情報
横地美穂著『椰子の実』(蒼穹舎)p. 3
愛知県 渥美半島 伊良湖岬, 2017
Irago, Aichi

●作家紹介
横地美穂(よこち・みほ)
1989年愛知県田原市西山町生まれ。静岡文化芸術大学卒業。

●写真集のお知らせ
表紙横地美穂 写真集「椰子の実」
刊行日:2021年7月9日
部数、サイズ等:400部 A4変型 上製本
頁:モノクロ80ページ 作品75点
編集:大田通貴
装幀:加藤勝也
価格:4,180円(税込)


●ときの忘れものは8月24日(火)~9月1日(水)まで夏季休廊中です。

●本日のお勧めは大竹昭子です。
otake-44大竹昭子 Akiko OTAKE
《ローマ/ジャニコロの丘より》
2001年撮影(2002年プリント)
Type-Cプリント
35.5×43.0cm
Ed.1
サインあり
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WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
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