小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第53回

12月×日
「外来種を好きになる」ここ数日読んでいる『「自然」という幻想――多自然ガーデニングによる新しい自然保護』(草思社文庫)のなかの章見出しのひとつ。
この本は「自然保護」がテーマの本だけど、その言葉でイメージされがちな、在来種をなんとか守る、人間の手が加えられる前の自然に戻す、というような取り組みを一蹴する。もはや、人間が地球で活動をしている以上、「手つかずの自然」というものは幻想に過ぎない。それよりもより柔軟に、温暖化によって地球が変わっていくのなら(もちろん温暖化を止める取り組みは否定せず)それにあわせて生態系を移転させることも厭わない。都市の中の自然も自然なのだ、という非常にラディカルな試みを描いている。
あとがきにも書かれているが、我々が日本の原風景と思いがちな、秋に黄金色に輝く田んぼの風景。あの稲穂だって、そもそもは「外来種」なのだ。人間はそうやって様々なものを取り入れて生きていく。それが悪なのではない。結果として、悪い作用を及ぼす外来種もいるが、もちろん環境にも人間にも益を与える外来種も多数ある。「結局のところ、敵は外来種ではない。敵は私たちなのだ。」人間だって同じようなものだ。「外来種」につきまとう負のイメージを考え直すことになった。
次は『はじめて学ぶ環境倫理─未来のために「しくみ」を問う』(筑摩書房)を読もう。
最近なんか読書傾向変わってる気がするな…。
12月×日
CoCo壱の客数が前年比減少で、客単価は増加というネット記事を読む。
どうやらトッピングの値上げをして客単価を上げている構造らしい。
言われてみれば、これから先どう考えても客数は減るのだから、どうやって客単価を上げるかしか商売としてやっていくすべはないのだろうな、とあらためて。ただ取るべき選択は、商品単価を単純に上げるというCoCo壱流もあるだろうけど、古書店としては如何にして買い上げ点数を上げて、客単価を上げるかの方が重要だと思う。だって、商品供給がこれから先もうなぎのぼりだろうから。
いま本を手放す世代の多くが「読みたいけど目が悪くなって読めないんだよ」と仰る。だとしたら本屋として売るべきは、ハズキルーペなのか?
12月×日
古本屋にとってカップルは縁起が悪いというのは、よくあるジンクスだけれど、今日は一日そんな感じ。もちろんしっかり本を見てくれる人たちはいいが、なんか勘違いしてるのでは?という人たちもいる。さんざん本を撫で回したあげく、晴れやかな顔で帰られると、申し訳ないが「帰り道ケンカしますように。」と星に願う。
12月×日
想像力を保つためには顔と人が見えなくてはならない。
1人殺せば人殺しで1000人殺せば英雄、というのはそれが統計か個人かの差が大きい。
もちろん統計になりたくはないのだが、一方でその個人が特定される(イメージをもたれる)ということの窮屈さもある。つまり匿名でいたいということと個人でいたいというせめぎ合いで出来ている社会。だから、ひょっとしたら、アバターってめちゃくちゃ可能性あるのかもしれない。完全に匿名でありながら、アバターという個人性と歴史を背負うことで、信頼が生まれる世界。そこではどんな本屋があり得るだろう。
(おくに たかし)
●小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
*画廊亭主敬白
ブログ連載53回目となった青いカバの小国さん、今年もどうぞよろしくお願いいたします。
ときの忘れものは昨日4日より、新年の営業を開始しました。
今年は元日早々に国内のお客様からヘンリー・ミラーを、海外からもジョナス・メカスの作品をそれぞれネットでご注文いただきました。ありがとうございます。
三が日を皆様はいかがお過ごしでしたか。
亭主と社長はコロナ前は温泉やら映画などに毎年行っていたのですが、今年は市中感染を避け、ほとんど家にこもりきりでした。それでも空いている時間をみつけて初詣に出かけました。
自宅の近くの武野神社と満行寺、駒込の富士神社、天祖神社と吉祥寺、五つも回りスタッフたちの健康と安全を祈願してきました。御神籤も引いたのですがいろいろあって(笑)、吉祥寺で引いた「大吉」には<志を高く持ち 神仏を敬い よく理非をわきまえ 道を誤らなければ 思いのままに 幸せは来る>をあったので、それを信じて頑張りたいと思います。
今年の企画については、昨日のブログに尾立が書いておりますので、よろしくお引き立てください。
●本日のお勧めは中村潤です。
中村潤 Megu NAKAMURA
《縫いの造形 8》
2019
紙、刺繍糸、シナベニヤ板
45.0×31.0×20.0cm
Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています。WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。

12月×日
「外来種を好きになる」ここ数日読んでいる『「自然」という幻想――多自然ガーデニングによる新しい自然保護』(草思社文庫)のなかの章見出しのひとつ。
この本は「自然保護」がテーマの本だけど、その言葉でイメージされがちな、在来種をなんとか守る、人間の手が加えられる前の自然に戻す、というような取り組みを一蹴する。もはや、人間が地球で活動をしている以上、「手つかずの自然」というものは幻想に過ぎない。それよりもより柔軟に、温暖化によって地球が変わっていくのなら(もちろん温暖化を止める取り組みは否定せず)それにあわせて生態系を移転させることも厭わない。都市の中の自然も自然なのだ、という非常にラディカルな試みを描いている。
あとがきにも書かれているが、我々が日本の原風景と思いがちな、秋に黄金色に輝く田んぼの風景。あの稲穂だって、そもそもは「外来種」なのだ。人間はそうやって様々なものを取り入れて生きていく。それが悪なのではない。結果として、悪い作用を及ぼす外来種もいるが、もちろん環境にも人間にも益を与える外来種も多数ある。「結局のところ、敵は外来種ではない。敵は私たちなのだ。」人間だって同じようなものだ。「外来種」につきまとう負のイメージを考え直すことになった。
次は『はじめて学ぶ環境倫理─未来のために「しくみ」を問う』(筑摩書房)を読もう。
最近なんか読書傾向変わってる気がするな…。
12月×日
CoCo壱の客数が前年比減少で、客単価は増加というネット記事を読む。
どうやらトッピングの値上げをして客単価を上げている構造らしい。
言われてみれば、これから先どう考えても客数は減るのだから、どうやって客単価を上げるかしか商売としてやっていくすべはないのだろうな、とあらためて。ただ取るべき選択は、商品単価を単純に上げるというCoCo壱流もあるだろうけど、古書店としては如何にして買い上げ点数を上げて、客単価を上げるかの方が重要だと思う。だって、商品供給がこれから先もうなぎのぼりだろうから。
いま本を手放す世代の多くが「読みたいけど目が悪くなって読めないんだよ」と仰る。だとしたら本屋として売るべきは、ハズキルーペなのか?
12月×日
古本屋にとってカップルは縁起が悪いというのは、よくあるジンクスだけれど、今日は一日そんな感じ。もちろんしっかり本を見てくれる人たちはいいが、なんか勘違いしてるのでは?という人たちもいる。さんざん本を撫で回したあげく、晴れやかな顔で帰られると、申し訳ないが「帰り道ケンカしますように。」と星に願う。
12月×日
想像力を保つためには顔と人が見えなくてはならない。
1人殺せば人殺しで1000人殺せば英雄、というのはそれが統計か個人かの差が大きい。
もちろん統計になりたくはないのだが、一方でその個人が特定される(イメージをもたれる)ということの窮屈さもある。つまり匿名でいたいということと個人でいたいというせめぎ合いで出来ている社会。だから、ひょっとしたら、アバターってめちゃくちゃ可能性あるのかもしれない。完全に匿名でありながら、アバターという個人性と歴史を背負うことで、信頼が生まれる世界。そこではどんな本屋があり得るだろう。
(おくに たかし)
●小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
*画廊亭主敬白
ブログ連載53回目となった青いカバの小国さん、今年もどうぞよろしくお願いいたします。
ときの忘れものは昨日4日より、新年の営業を開始しました。
今年は元日早々に国内のお客様からヘンリー・ミラーを、海外からもジョナス・メカスの作品をそれぞれネットでご注文いただきました。ありがとうございます。
三が日を皆様はいかがお過ごしでしたか。
亭主と社長はコロナ前は温泉やら映画などに毎年行っていたのですが、今年は市中感染を避け、ほとんど家にこもりきりでした。それでも空いている時間をみつけて初詣に出かけました。
自宅の近くの武野神社と満行寺、駒込の富士神社、天祖神社と吉祥寺、五つも回りスタッフたちの健康と安全を祈願してきました。御神籤も引いたのですがいろいろあって(笑)、吉祥寺で引いた「大吉」には<志を高く持ち 神仏を敬い よく理非をわきまえ 道を誤らなければ 思いのままに 幸せは来る>をあったので、それを信じて頑張りたいと思います。
今年の企画については、昨日のブログに尾立が書いておりますので、よろしくお引き立てください。
●本日のお勧めは中村潤です。
中村潤 Megu NAKAMURA《縫いの造形 8》
2019
紙、刺繍糸、シナベニヤ板
45.0×31.0×20.0cm
Signed
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています。WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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