アートや建築のある日常に向かって(3)

坂山毅彦


アートのある暮らしを提案する銀座 蔦屋書店は2022年4月で開店5周年を迎えました。昨年は、私共の企画により安藤忠雄さん、隈研吾さんの大型建築作品集を刊行させていただきました。その先で迎えた5周年という節目に、建築書フロアは「Next leaders」をテーマとし、これから更なる活躍が期待される次の世代の建築家にスポットを当てていきます。

その第一弾として、重松象平さん、田根剛さん、杉山幸一郎さんという3人の建築家を紹介するフェア展示(会期 4/1-5/8)を開催しています。彼らはいずれも、海外で建築実務の経験を積みそのまま海外を拠点に活動をしているという共通点があります。それ自体は決して新しいことではないのかもしれませんが、ITプラットフォームが発展しリアルタイムに彼らの活動が日本に伝わる状況と相まって、今、特筆すべき働き方と捉えました。

202204銀座蔦屋展示風景1
202204銀座蔦屋展示風景2銀座 蔦屋書店内 展示風景


重松象平さんはレム・コールハースのOMA勤務から現在はOMAニューヨークの代表、そしてOMAのパートナーとして活動しています。昨年末に重松さんにとって初の作品集となる『OMA NY:search term』(Rizzoli)が出版され、本展はその内容を中心に紹介しています。圧倒的なボリュームの図版は、都市の複雑な状況に対し、search term=検索ワードのタイトル通り多角的な調査検討が重ねられた設計プロセスの集積です。

銀座蔦屋・重松
重松象平『OMA NY search term』(Rizzoli)より


田根剛さんはデヴィッド・アジャイのオフィス勤務や共同設計体での活動を経て、現在はパリでAtelier Tsuyoshi Tane Architectsを主宰されています。田根さんもたくさんのイメージの集積を展示くださいました。しかしその内容は重松さんのそれとは様相が異なります。例えば土器や古墳の画像が見て取れるように、歴史・記憶を掘り起こす考古学的なアプローチにより見出された、その土地の文脈で建築を思考するという田根さんのスタンスがよく表れています。

銀座蔦屋・田根剛田根剛 考古学的リサーチのコンセプト画像群


杉山幸一郎さんはアトリエ・ピーター・ズントー勤務を経て、スイスのクールで土屋紘奈さんとatelier tsuを共同主宰されています。杉山さんは抽象的なドローイングと、少ない構成要素によるオブジェクトを出展されています。例えばいかにも書店に似つかわしい「Library 01」というオブジェは木組みによる台座とブックエンドに文庫本が納められる本棚として見ることができますが、木という原材料からなる薄い紙と厚い板がただただ交互に寄せ集められた物体にも見えます。他の作品も同様に実際のスケールでも、スケールを逸脱して捉えることもできるような作品に思えますが、このモノの捉え方に杉山さんの建築的思考が重ねられるのではないでしょうか。

杉山幸一郎 Library 01-a
Library 01 杉山幸一郎 2020年 スプルース材、ブナ材、アルミ


「海外を拠点に活動をしているという共通点」と括りましたが、以上のようにその実はむしろ多様で、この位相の違いこそが今回3名を同時に紹介する見どころになればと考えています。日本国内ですら、多くの建築家がそれぞれの設計思想をもって建築をつくっています。それが環境・文化・経済などあらゆる要素が異なる世界的スケールで展開されているのですから、建築はかくあるべき、というような既成概念はちっぽけなものであると実感します。

他方で、日本人建築家が作る建築という視点も大切にしたいです。以前、世界的に活躍されている建築家の西沢立衛さんが「自分は日本らしさを意識なんてしていないけれど、海外の人からはどれも日本らしい建築だと言われる」と、おっしゃられていたことを覚えています。思えば今年1月に開催された杉山さん初の個展が「スイスのかたち、日本のかたち」(ときの忘れもの)というタイトルでした。本展では3者3様の日本らしさも見比べられる機会になれば幸いです。
さかやま・たけひこ

坂山毅彦(さかやま・たけひこ)
1978年北海道生まれ。2003年東京都立大学大学院修士課程建築学専攻修了。椎名英三建築設計事務所を経て、2008年坂山毅彦建築設計事務所設立。2013年から代官山 蔦屋書店建築コンシェルジュ。2017年から銀座 蔦屋書店建築コンシェルジュ。第二回「これからの建築士賞」受賞(2016年)
2019年9月8日ブログ/アートや建築のある日常に向かって(1)
2019年9月16日ブログ/アートや建築のある日常に向かって(2)
2022年4月9日ブログ/アートや建築のある日常に向かって(3)

●展覧会のご案内
Next Leaders 重松象平、田根剛、杉山幸一郎
会期:2022年4月1日(金) - 5月8日(日) *終了日は変更になる場合があります。
会場:銀座蔦屋書店・建築 BOOK売場
問い合わせ先 03-3575-7755/ info.ginza@ccc.co.jp

*田根剛さんによるトークイベントも開催予定です。国内外で重要なプロジェクトを手掛ける田根さんのお話を直接伺うことのできる機会になります。多くの方のご参加をお待ちしております。
https://eventmanager-plus.jp/get/7e107b6b940e57dd644f019f03eed1ddf0f274e9bee66388018a90fa28ad01f1

重松 象平(しげまつ・しょうへい)
建築家。国際的建築設計集団OMAのパートナーおよびニューヨーク事務所代表。1973年福岡県生まれ。九州大学工学部建築学科卒後オランダに渡り、1998年よりOMAに所属。2006年ニューヨーク事務所代表、2008年よりパートナーとなる。

田根 剛(たね・つよし)
建築家。1979年東京生まれ。 2002年北海道東海大学建築学科卒業。 2003年デンマーク王立アカデミー客員研究員。 ヘニング・ラーセン、デビット・アジャイの事務所を経て、 ドレル・ゴッドメ・田根(DGT. )をフランス・パリに設立。 DGT. での10年の活動を経て、2017年Atelier Tsuyoshi Tane Architectsとして独立。

杉山 幸一郎(すぎやま・こういちろう)
建築家。2007年 日本大学理工学部卒業 2012年東京藝術大学大学院修了。2014–21年アトリエ ピーター ズントー。2021年– atelier tsu 共同設立。2022年ときの忘れものにて 初個展。
https://store.tsite.jp/ginza/event/architectural-design/25209-1547280303.html

【杉山幸一郎展 カタログのご紹介】
杉山幸一郎展図録表紙『杉山幸一郎展 スイスのかたち、日本のかたち』図録
21.0×14.8cm、48頁、日英2か国語
発行年:2022年
発行元:有限会社ワタヌキ/ときの忘れもの
執筆:杉山幸一郎
デザイン:川村格夫
杉山幸一郎の初個展の図録。建物の表層を抽象化して線や色の面に置き換えて表現しようと試みた水彩ドローイングシリーズ〈Line & Fill〉や、ドローイングを立体化したオブジェクト、小さな建築のようで家具としても使える作品群等、出品作品34点の作品を収録。
価格 880円(税込)送料250円

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊ですが、4月15日(金)~24日(日)「中村潤展 うろうろをへて こつこつのはて」は会期中無休です。
坂山毅彦「銀座蔦屋書店の5周年記念 海外で活躍する日本人建築家」

4月20日:銀座蔦屋書店の5周年
海外で活躍する日本人建築家を数点ずつ展示したい(担当:坂山毅彦)
田根剛、重松象平、杉山幸一郎さん(+αあるかないか)