生誕110年 オノサト・トシノブ展
小此木美代子(大川美術館学芸員)
桐生の地で制作をつづけ、抽象絵画の先駆者として活躍したオノサト・トシノブ(小野里利信・1912-1986)は、今年6月、生誕110年を迎えます。大川美術館は1989(平成元)年の開館以来、これまでに3回の回顧展を開催してまいりました。前回の生誕100年展から10年ぶりの本展は、「みんなのオノサト・トシノブ」として開催しています。(2022年6月19日まで)

今回は、《自画像》(1933年頃)や、1950年代中期の「ベタ丸」にいたる戦前戦後の模索時代の作品など、新発見の作品を含めた約120点を、下記の7章構成にてご覧いただく回顧展となりました。
Ⅰ-1模索-戦前
Ⅰ-2模索-戦後
Ⅱ 「ベタ丸」誕生
Ⅲ 分割する円
Ⅳ 「版画家」オノサト・トシノブ
Ⅴ-1無限の色面 1970年代
Ⅴ-2無限の色面 1980年代
また、初期から晩年までの作品群はもちろんのこと、書簡や、桐生の若い画家たちの個展に寄せた直筆原稿、レコードジャケットの表紙、企業の広報誌、桐生の老舗菓子店のしおりやオノサト・トシノブ美術館(現在長期休館中)のパンフレットにいたるまで、オノサトが桐生に生きた時代の空気を伝える新出資料もあわせて紹介しています。
戦争、そしてシベリア抑留を経て、桐生に戻って来たオノサトは、アトリエを訪れる若い画家たちに、東京の団体展にとらわれず、自分たちの手によって、桐生から新しい美術の発信を提唱しました。その気運がひとつのかたちとなって結成されたのが、1954(昭和29)年の「グループ10」(新井理夫、新井盛治、有村真鐵、オノサト・トモコ、 大橋正夫、加藤武志、中村善一、野村喜義、宮地佑治)でした。翌年1955(昭和30)年までのわずか2年の活動ではありましたが、この間、オノサトのアトリエで気軽な作品の批評会や会合などが行われたと伝わります。桐生倶楽部と東京神田のタケミヤ画廊で2度グループ展を開催しています。
こうした活動の周辺に寄り添ったオノサト。彼らの個展に寄せた直筆原稿や書簡からは、オノサトがいかに桐生の若い画家たちにカリスマ的な存在感を放っていたかがうかがい知れます。なめらかですこし丸みを帯び、均一に配された文字からもまた、オノサトの息づかいが伝わってくるようです。


展示風景写真は3点とも撮影:木暮伸也
一方、この展覧会の最後には、出品作に加え、桐生の地元紙・桐生タイムス社の協力を得て「みんなのオノサト・トシノブ」コーナーを設けました。このコーナーでは、桐生の各所で親しまれてきたオノサト作品を、作品にまつわるエピソードとともに持ち寄っていただきました。オノサトの個展の際にレセプションを手伝った方、自身のお店の入口に飾っている方々、オノサトのアトリエで本人に作品を選んでもらったという方、等々。桐生において、それぞれの場所でオノサト作品との出会いがあり、長らく親しまれてきたことが、このコーナーを通じても感じ取っていただけるのではと思っています。
「芸術は、何時の時代でも新しい意味を発見し大衆のもっている常識的な考えを打ちやぶってゆくという、特別の意味をもっているものです。」オノサト・トシノブ「画家の立場から」、『日本の名画100選 月報8』(三一書房)1966年8月
オノサトは多くの文章を残した画家としても知られるところですが、彼の絵画に囲まれながら、こうした文章にあらためて接すると、オノサトにとって、絵を描くことと、今を生きることは、つねに重なり合っていたことがいっそう身近に読み取れるかもしれません。
桐生の街が、いまも四方をなだらかな山々に囲まれ、四季折々の豊かな自然に恵まれ、冬はからっ風にさらされ、夏は猛暑となる風土であること。その変わらぬ自然の様は、オノサトが求めた「不変の絵画」へとつながっていく重要な要素でもあったはずです。
コロナ禍、そして戦時の今を生きる私たちにとって、オノサト・トシノブの絵画はどのようにとらえられるでしょうか。オノサトの生活があったすぐ隣の山の中腹にある当館にて、ぜひ多くの方々にオノサト・トシノブの絵画世界を体感していただきたいと思っています。
(おこのぎ みよこ)
●「生誕110年 みんなのオノサト・トシノブ展」
会期:2022年4月23日~6月19日 *休館日:月曜
主催・会場:大川美術館


*画廊亭主敬白
松本竣介の充実したコレクションで知られる群馬県桐生市の大川美術館でオノサト・トシノブ先生にとって10回目となる美術館での回顧展が開催されています。
1971年山形県酒田の本間美術館「オノサト・トシノブ展」
1989年練馬区立美術館「オノサト・トシノブ展」
1992年長野県信濃美術館「オノサト・トシノブー円を描いた画家」展
1993年桐生・大川美術館「円の生命力―オノサト・トシノブ展」
2000年群馬県立近代美術館「抽象のパイオニア オノサト・トシノブ展」
2005年桐生・大川美術館「織都・桐生に生きた抽象画家 オノサト・トシノブ展」
2012年山梨県・須玉美術館「特別展 オノサト・トシノブ生誕100年」
2012年桐生・大川美術館「生誕100年 オノサト・トシノブ」
2014年山梨県・須玉美術館「コレクション展~オノサト・トシノブ50年の軌跡~」
2022年桐生・大川美術館「生誕110年 みんなのオノサト・トシノブ展」
うち今回を含め4回もの回顧展を開催してきたのが大川美術館で、2016年にも「オノサト・トシノブと戦後桐生の青春~1950年代を中心に」という特集展示もしています。オノサト・ファンとしては感謝あるのみ。このときも小此木先生に寄稿していただきました。
桐生の森の中に建つ大川美術館、ちょっと遠いですがオノサトと松本竣介の名作群を同時に見られる機会です、ぜひお出かけください。先日、ときの忘れもののスタッフMも桐生まで出かけ、感激のおももちで帰ってきました。のちほどレポートを掲載します。
実は、全国の美術館で質量ともに最も充実したオノサト・コレクションを有するのは意外にも東京都現代美術館です。「多くの人に見て欲しい」と資生堂名誉会長の福原義春氏が油彩、水彩約120点を寄贈したのですが、残念なことに一部が公開されたのみです。
いつの日か東京都現代美術館でオノサト展が開催されることを期待しています。
ときの忘れものは開廊以来、オノサト作品を多数扱ってきました。画廊にお出でになればいつでも油彩、水彩、版画をご覧いただけます。以下、お勧めのオノサト作品です。
オノサト・トシノブ
「白い大小の円」
1955
キャンバスに油彩
24.5×33.5cm
Signed
オノサト・トシノブ
「作品(黒とグレー)」
1958
水彩
18.8×28.2cm
Signed
オノサト・トシノブ
「二つの丸」
1958
水彩
28.0×36.0cm
Signed
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊
小此木美代子(大川美術館学芸員)
桐生の地で制作をつづけ、抽象絵画の先駆者として活躍したオノサト・トシノブ(小野里利信・1912-1986)は、今年6月、生誕110年を迎えます。大川美術館は1989(平成元)年の開館以来、これまでに3回の回顧展を開催してまいりました。前回の生誕100年展から10年ぶりの本展は、「みんなのオノサト・トシノブ」として開催しています。(2022年6月19日まで)

今回は、《自画像》(1933年頃)や、1950年代中期の「ベタ丸」にいたる戦前戦後の模索時代の作品など、新発見の作品を含めた約120点を、下記の7章構成にてご覧いただく回顧展となりました。
Ⅰ-1模索-戦前
Ⅰ-2模索-戦後
Ⅱ 「ベタ丸」誕生
Ⅲ 分割する円
Ⅳ 「版画家」オノサト・トシノブ
Ⅴ-1無限の色面 1970年代
Ⅴ-2無限の色面 1980年代
また、初期から晩年までの作品群はもちろんのこと、書簡や、桐生の若い画家たちの個展に寄せた直筆原稿、レコードジャケットの表紙、企業の広報誌、桐生の老舗菓子店のしおりやオノサト・トシノブ美術館(現在長期休館中)のパンフレットにいたるまで、オノサトが桐生に生きた時代の空気を伝える新出資料もあわせて紹介しています。
戦争、そしてシベリア抑留を経て、桐生に戻って来たオノサトは、アトリエを訪れる若い画家たちに、東京の団体展にとらわれず、自分たちの手によって、桐生から新しい美術の発信を提唱しました。その気運がひとつのかたちとなって結成されたのが、1954(昭和29)年の「グループ10」(新井理夫、新井盛治、有村真鐵、オノサト・トモコ、 大橋正夫、加藤武志、中村善一、野村喜義、宮地佑治)でした。翌年1955(昭和30)年までのわずか2年の活動ではありましたが、この間、オノサトのアトリエで気軽な作品の批評会や会合などが行われたと伝わります。桐生倶楽部と東京神田のタケミヤ画廊で2度グループ展を開催しています。
こうした活動の周辺に寄り添ったオノサト。彼らの個展に寄せた直筆原稿や書簡からは、オノサトがいかに桐生の若い画家たちにカリスマ的な存在感を放っていたかがうかがい知れます。なめらかですこし丸みを帯び、均一に配された文字からもまた、オノサトの息づかいが伝わってくるようです。


展示風景写真は3点とも撮影:木暮伸也
一方、この展覧会の最後には、出品作に加え、桐生の地元紙・桐生タイムス社の協力を得て「みんなのオノサト・トシノブ」コーナーを設けました。このコーナーでは、桐生の各所で親しまれてきたオノサト作品を、作品にまつわるエピソードとともに持ち寄っていただきました。オノサトの個展の際にレセプションを手伝った方、自身のお店の入口に飾っている方々、オノサトのアトリエで本人に作品を選んでもらったという方、等々。桐生において、それぞれの場所でオノサト作品との出会いがあり、長らく親しまれてきたことが、このコーナーを通じても感じ取っていただけるのではと思っています。
「芸術は、何時の時代でも新しい意味を発見し大衆のもっている常識的な考えを打ちやぶってゆくという、特別の意味をもっているものです。」オノサト・トシノブ「画家の立場から」、『日本の名画100選 月報8』(三一書房)1966年8月
オノサトは多くの文章を残した画家としても知られるところですが、彼の絵画に囲まれながら、こうした文章にあらためて接すると、オノサトにとって、絵を描くことと、今を生きることは、つねに重なり合っていたことがいっそう身近に読み取れるかもしれません。
桐生の街が、いまも四方をなだらかな山々に囲まれ、四季折々の豊かな自然に恵まれ、冬はからっ風にさらされ、夏は猛暑となる風土であること。その変わらぬ自然の様は、オノサトが求めた「不変の絵画」へとつながっていく重要な要素でもあったはずです。
コロナ禍、そして戦時の今を生きる私たちにとって、オノサト・トシノブの絵画はどのようにとらえられるでしょうか。オノサトの生活があったすぐ隣の山の中腹にある当館にて、ぜひ多くの方々にオノサト・トシノブの絵画世界を体感していただきたいと思っています。
(おこのぎ みよこ)
●「生誕110年 みんなのオノサト・トシノブ展」
会期:2022年4月23日~6月19日 *休館日:月曜
主催・会場:大川美術館


*画廊亭主敬白
松本竣介の充実したコレクションで知られる群馬県桐生市の大川美術館でオノサト・トシノブ先生にとって10回目となる美術館での回顧展が開催されています。
1971年山形県酒田の本間美術館「オノサト・トシノブ展」
1989年練馬区立美術館「オノサト・トシノブ展」
1992年長野県信濃美術館「オノサト・トシノブー円を描いた画家」展
1993年桐生・大川美術館「円の生命力―オノサト・トシノブ展」
2000年群馬県立近代美術館「抽象のパイオニア オノサト・トシノブ展」
2005年桐生・大川美術館「織都・桐生に生きた抽象画家 オノサト・トシノブ展」
2012年山梨県・須玉美術館「特別展 オノサト・トシノブ生誕100年」
2012年桐生・大川美術館「生誕100年 オノサト・トシノブ」
2014年山梨県・須玉美術館「コレクション展~オノサト・トシノブ50年の軌跡~」
2022年桐生・大川美術館「生誕110年 みんなのオノサト・トシノブ展」
うち今回を含め4回もの回顧展を開催してきたのが大川美術館で、2016年にも「オノサト・トシノブと戦後桐生の青春~1950年代を中心に」という特集展示もしています。オノサト・ファンとしては感謝あるのみ。このときも小此木先生に寄稿していただきました。
桐生の森の中に建つ大川美術館、ちょっと遠いですがオノサトと松本竣介の名作群を同時に見られる機会です、ぜひお出かけください。先日、ときの忘れもののスタッフMも桐生まで出かけ、感激のおももちで帰ってきました。のちほどレポートを掲載します。
実は、全国の美術館で質量ともに最も充実したオノサト・コレクションを有するのは意外にも東京都現代美術館です。「多くの人に見て欲しい」と資生堂名誉会長の福原義春氏が油彩、水彩約120点を寄贈したのですが、残念なことに一部が公開されたのみです。
いつの日か東京都現代美術館でオノサト展が開催されることを期待しています。
ときの忘れものは開廊以来、オノサト作品を多数扱ってきました。画廊にお出でになればいつでも油彩、水彩、版画をご覧いただけます。以下、お勧めのオノサト作品です。
オノサト・トシノブ「白い大小の円」
1955
キャンバスに油彩
24.5×33.5cm
Signed
オノサト・トシノブ「作品(黒とグレー)」
1958
水彩
18.8×28.2cm
Signed
オノサト・トシノブ「二つの丸」
1958
水彩
28.0×36.0cm
Signed
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●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
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