久保貞次郎先生の思い出「本物を手にする喜び」

久保貞次郎の会  川口真寿美


私にとって久保先生の思い出はそのまま仲間との思い出であり、今につづくものです。特別なエピソードというより、些細な出来事の一つひとつが仲間との会話の中でよみがえる。そんなゆるく暖かい感覚なのです。

始まりはもちろん跡見学園。久保先生のまわりにはいつも熱量の高い学生がたくさんいて何かを吸収しようという気概に溢れているようでした。先生もよく「魂が吸いとられる」とおっしゃっていられたのを覚えています(笑)。
私もいつしか吸いとるべく一員に加わり、美術館、画廊、アトリエなどをフィールドワークとした授業に勤しみました。
そんな中、衝撃的だったのは「これは贋作ですね」-ー倉敷の大原美術館で絵画を見ながらのひと言。たしかセザンヌ(?)の作品の前で放たれた言葉だったと思います。私自身、頭の中が真っ白になってしまい、以降、事の顚末は覚えていないのです。そう言えばアレはどうなったのでしょう。これを機会に覚えている人を探すとしましょう。

何をもってニセモノかははっきり言ってわかりませんが、自分が本物だと思えばそれでも良いような気もするし…
少なくとも久保先生が教えて下さった「本物を手にする喜び」は「本物を手にした時」にとても幸せに感じるということ。

私にとってH.ミラーの「いつも愛を」はそんな作品です。ミラーの訃報に接した時、何としてもあの「愛」が欲しいと思ったのです。
1980年の6月、私の誕生月に久保先生に請い、以来、我が家のリビングの特等席に掛っています。

※大原美術館での事ーセザンヌではなくゴッホ。のちに当時の同行者が曖昧な記憶を正してくれました。
かわぐち ますみ

久保先生別荘の前にて 久保先生と世話人4人軽井沢の久保先生別荘の前にて、 久保先生と世話人4人 1991年

川口真寿美2022年10月ストライプハウスギャラリーにて、川口真寿美さん

「クボテーって誰?——希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」
     会期:2022年10月15日[土]~10月29日[土] *日曜休館
     会場:ストライプハウスギャラリー
        STRIPED HOUSE GALLERY
        〒106-0032 東京都港区六本木 5-10-33
        Tel:03-3405-8108 / Fax:03-3403-6354
     主催:久保貞次郎の会
連絡先:久保貞次郎の会 kubosadajironokai@gmail.com
出品:靉嘔、泉茂、磯辺行久、内間俊子、瑛九、エメット・ ウィリアム、小田 襄、大浦信行、オノサト・トシノブ、桂 ユキ、北川民次、木村利三郎、草間彌生、島 州一、竹田鎮三郎、野田哲也、ナム・ジュン・パイク、奈良原 一高、細江英公、ヘンリー・ミラー、吉原英雄、
久保貞次郎の会_案内状_表面1280

久保貞次郎の会_案内状_宛名面1280

久保貞次郎の会について
2018年に久保貞次郎(1909年5月12日 - 1996年10月31日没)の業績を振り返り、後世に伝えるため、跡見短大の教え子が発起人となり、『久保貞次郎の会』 を設立し、活動を展開しています。
第1回久保貞次郎の会(2018年)
01建築家井上祐一先生をナビゲータに栃木県真岡市の久保講堂久保記念観光文化交流館(旧久保邸)を見学 し、参加者との交流を行い、靉嘔先生にもご参加頂きました。

第2回久保貞次郎の会(2019年)
1-24 第1部 集合写真フランク・ロイド・ライト設計の自由学園明日館を見学、細江英公先生と栗田秀法先生(名古屋大学大学院教授)の講演会を行いました。
因みに真岡の久保講堂(国登録有形文化財)や久保家の住宅(現存せず)はライトの高弟・遠藤新の設計です。

第3回「クボテーって誰?——希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」(2022年)
AAA_03602022年10月15日(土)~10月29日(土)、久保先生と縁の深かった六本木のストライプハウスギャラーにて展覧会を開催します。
出品作品(60点)はすべて会員たちが持ち寄ったものです。小コレクター運動を唱導し、オークションで楽しく作品をわかちあうよろこびを教えてくれた久保先生への敬意をこめて、全点を入札方式で頒布します。入札リストをご希望のかたは、メールにてお申込みください。
e-mail: kubosadajironokai@gmail.com
皆さまのご参加をお待ちしています。
教え子たちのエッセイ「久保貞次郎先生の思い出」を5回にわたり掲載します(第1回秀坂令子のエッセイは10月8日のブログに掲載しました。)
栃木県真岡市の久保先生の広大なお屋敷は久保記念観光文化交流館となっていますが、同館の長瀧光子先生が10月17日ブログに「真岡市ゆかりの美術評論家・久保貞次郎 久保記念観光文化交流館(旧久保邸)より」をご寄稿くださいました。久保先生の生涯と業績、記念館の活動について丁寧に解説していただきました。