
スペイン・アストゥリアス州・ヒホン
2023年7月15日 根岸文子
私の住んでいるマドリッドは今年の6月はとても涼しい過ごしやすい月でした。夏の予想では、大変暑い夏になるとのことでしたが、間違えであってほしいい、このまま涼しい夏になるかも、と心の奥で期待をしていたものの、やはり7月になって猛暑がやってきました。カラッと乾燥しているので、日陰にいるとなんとなく過ごせてしまうんですが、40度近くになると、そうもいきません。7月に入るとマドリッドの人たちは、9月の初めまでバケーションモードに入っていきます。
そんな7月、私達はスペインの北、アストゥリアス州ヒホン市と言う大西洋に面した港町に作品の展示に行ってきました。毎年の夏の行事としてヒホン市ではMetrópoli-Gijónという大きなイベントが行われています。その中のJapan-townの一角に私:根岸文子と夫:カルロス ムニィスのKIMONOの作品と叔父:大河原淳行の短歌を展示しました。

車に作品を積んでマドリッドを出発し北上します。朝食を取ると、ちょっとしたサンドウィッチのつもりが特大のスパニッシュオムレツサンドが出てきました。ちょっと都会を離れると何もかも、物の大きさも、スペイン語のアクセントもまわりの風景も変わってきます。 首都マドリッドの位置するイベリア半島のど真ん中はドン・キホーテの話で知られるカスティージャ台地で、乾いた黄色い地平線に囲まれたスペインらしい風景です。その台地を通り抜けアストゥリアス州に向かいます。段々と緑が増え、山々が現れます。そこが、アストゥリアス州です。もちろん気温も今まで40度近かった温度が、20度ちょっとで、ひんやりといい空気です。ここアストゥリアス州は山脈と大西洋に囲まれた特別な地方で、8世紀イスラム勢力がイベリア半島の南から北上してきた時も、高い山脈が邪魔をして侵入してこれなかった場所だと言われています。北ヨーロッパのセウタ文明とゲルマン民族・西ゴード民族の古代キリスト教文明の色濃い場所となっています。ロマネスク様式の小さな教会やローマ時代の橋などが点在する小さな町々は、ピコス・デ・エウロパと呼ばれる高い山々に囲まれています。


さて、私たちの向かったヒホンという街は、そのピコス デ エウロパ山脈と大西洋に挟まれた以前工業の街だった場所です。現在では、マドリッドの人達がやってくる夏の避暑地として親しまれている小さな港町です。この町の第一の特徴は、人々です。親切で、親しみやすく、外から来た私たちを大歓迎してくれるような人柄です。
そんなヒホンの街そして、その人々にあたたかく歓迎され、招待されたのが夏の大イベントMetrópoliです。大きな敷地の中には、コンサート会場がいくつかあり、小さな遊園地のようなものもあります。その中にJapan-townというコミック文化を集めた施設がありました。コミック文化を集めたこのイベントにJapan-townという名前がついている事からも想像できると思いますが、日本が世界に発信する文化で、そして日本の輸出産業で、いかにマンガ・アニメが重要な存在であるかが想像できます。小さい時から、テレビで馴染んできたマンガがこんなに世界中に浸透していたなんて、改めて驚かされました。そして日本語の喋れる外国の若者の増加には驚かされます。

そして、もう一つのJapan-townの目的は、マンガ・アニメ以外の日本文化の発信です。そういう目的で、私たちのKIMONOの作品、短歌で私たちの東洋と西洋を結ぶプロジェクトの紹介をしてきました。


そしてイベント開催中に、2回ほど、スペイン人ライターのホルへ アロンソ メンデス氏と日本、スペインの文化についての対談をしました。ホルヘ氏は、熱心にスペイン語の岡倉天心で知られる岡倉覚三作の『茶の本』をスペイン人の聴衆に薦めていました。このヒホンという小さな街には、日本を専門にした出版社:SATORIがあり、SATORIの編集長に坂口安吾の『戦争と一人の女』を強く薦めていただきました。短い滞在ではありましたが私の方が、学ばせていただいたような旅、そして今後も東洋と西洋の橋のような存在になれるよう努めていきたいなぁと感じることのできた旅でした。

(ねぎし ふみこ)
■根岸文子 Fumiko NEGISHI
1970年東京生まれ。1993年女子美術大学絵画科版画コース卒業後、スペインに渡る。スペイン美術大学の版画工房で学ぶ。スペイン国内版画展で新人賞、モハカ絵画奨学コース(スペイン)等を受ける。99、01、04、07、09年ときの忘れもので個展。02年エガン画廊(マドリッド)で個展、またマドリッド国際アートフェアに同画廊より出展、GENERACION 2002、2005グループ展に参加(カッハマドリッド)。06年ギャラリーすどうで二人展開催。2016 在西日本大使邸で個展。2017スペイン・バレンシア市 Galeria cuatro、2019スペイン・マドリッド市 Galeria HG Contemporary で個展。KIMONO-JOYA展へアーティストとして、また企画に参加している。日本と西洋を結ぶ国際的なアーティストが日本の羽織を題材に制作した作品の展覧会であり、2015年スペイン・バヤドリード市、Palacio de Pimentel、2019年在日スペイン大使館などでの展覧会を展開している。
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