三上豊「今昔画廊巡り」
第15回 調布画廊
何年かぶりに京王線の調布駅におりた。駅が地下になっていることは体験していたが、外に出て様子がすっかり変わっていたことに驚いた。目当ての調布画廊の場所へは駅から数分、マンションの1階(調布市布田1-43ー3)だったが、「ここだ」とは確信はもはやもてなかった。
調布画廊は、美術評論家針生一郎がいた場所だ。彼がずっと案内状に200字ほどのミニ作家論を書き続けた画廊だからだ。画廊の主は重岡依里さん、彼女は20歳ごろ日本文学校で針生一郎と出会ったそうだ。調布画廊は1985年開廊だが、重岡さんはその前に信天画廊でマネージャーをしていて、そこの企画に針生さんが関わっていた。信天画廊のオーナーが1年たらずで亡くなり、重岡さんは展示場所を維持するために調布に立ったというわけだ。
展示のスペースはそれほど広い感じではなかった。1989年の『美術手帖年鑑』には壁面11メートルとある。画廊はいつも話し声が聞こえるような感じだった。2週間の期間で企画展を開催していた。リストから作家名をあげてみる。靉嘔、飯塚八朗、内海信彦、大沢昌助、柏木喜久子、金山明子、上條陽子、楠本正明、小島信明、佐藤多持、多田正美、みのわ淳、山本直彰、吉野辰海、渡辺豊重らが並んでいる。これら作家の名前が収録されているのが、『針生一郎と調布画廊』なる冊子だ。針生さんが亡くなった1周忌にあたる2011年に調布画廊が発行した。そこには案内状のミニ作家論も全て掲載されている。異色の画廊記録集だ。針生さんらしい文をひとつあげると、50年代末、芸大の日本画教官たちが「異端でも才能ある学生池田準を自己防衛と先制排除のため、退学処分とした」と紹介を始める。遺作展への文だが、権威への対抗心と才能への無防備の信頼がみてとれる。針生さんのアジテーションだ。冊子の奥付けを見ると画廊の住所は、布田1-10―3となっている。
上記冊子以外にも、調布画廊が手がけたメディアに『POSI』なる季刊美術雑誌があった。1992年4月に創刊号をだしている。定価1030円。奥付けの住所が、調布市布田1-43―3となっているので、ある時期に移転をしているようだ。重岡さんは画廊と同時に地域紙『月刊ちょうふとーく』にも携わっていて、メディアが好きなようだった。『POSI』創刊号だが、作家の荻野アンナが戸谷成雄にインタビュー、特集は「企業は芸術を支えるか?」、針生さん、岩渕潤子、室伏哲郎、根本長兵衛らが執筆している。ほかにもハンス・ハーケ(青木淳執筆)、粉川哲夫、内海信彦、大榎淳ら、権威・権力に一言ある執筆者が並んでいる。
新日本文学会を発売元にしているのも、針生さんの関係だろう。だが、創刊号にはある程度広告も入っていたが、9号で休刊となった。季刊雑誌は忘れた頃にやってくるので、自転車操業になる以前に資金の用意が十分でないと続かない。90年代はまだ印刷費は高く、いまのような自己発信もままならなかった。それでも調布画廊は針生さんとともにポジティブな姿勢を貫いたといえよう。
手元にある2016年12月の展覧会案内状では、画廊の住所は布田1―9-3になっていた。いつこちらに移転したのだろう。日をかえて、当該住所へ行ってみると、学習塾になっていた。近くの食堂で聞き込み。すると「コロナ前までは画廊はありましたね。私もなんどか行ったことがあります」と。地元の人が通う画廊だった。

現在の調布市布田1-43、この辺りに画廊があった。

2000年代は、調布市布田1-9、この辺りに画廊があった。

『針生一郎と調布画廊』表紙

『POSI』創刊号表紙
(みかみ ゆたか)
■三上 豊(みかみ ゆたか)
1951年東京都に生まれる。11年間の『美術手帖』編集部勤務をへて、スカイドア、小学館等の美術図書を手掛け、2020年まで和光大学教授。現在フリーの編集者、東京文化財研究所客員研究員。主に日本近現代美術のドキュメンテーションについて研究。『ときわ画廊 1964-1998』、『秋山画廊 1963-1970』、『紙片現代美術史』等を編集・発行。
・三上豊のエッセイ「今昔画廊巡り」は毎月28日の更新です。次回更新は2024年8月28日です。どうぞお楽しみに。
●本日のお勧め作品は瑛九、粟津潔です。
瑛九《春》
1951年 エッチング(作家自刷り)
イメージサイズ:12.0×8.8cm シートサイズ:22.0×14.5cm
限定15部(4/15)
自筆サインあり
*林グラフィックプレス・カタログNo.122(自刷りなしと記載)
粟津潔《黒の椿》
1981年
木版
作品サイズ:14.5×10.0cm
額装サイズ:32.0×26.0cm
Ed.1000
サインあり
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●取り扱い作家たちの展覧会情報(7月ー8月)は7月1日ブログに掲載しました。
●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。

〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
第15回 調布画廊
何年かぶりに京王線の調布駅におりた。駅が地下になっていることは体験していたが、外に出て様子がすっかり変わっていたことに驚いた。目当ての調布画廊の場所へは駅から数分、マンションの1階(調布市布田1-43ー3)だったが、「ここだ」とは確信はもはやもてなかった。
調布画廊は、美術評論家針生一郎がいた場所だ。彼がずっと案内状に200字ほどのミニ作家論を書き続けた画廊だからだ。画廊の主は重岡依里さん、彼女は20歳ごろ日本文学校で針生一郎と出会ったそうだ。調布画廊は1985年開廊だが、重岡さんはその前に信天画廊でマネージャーをしていて、そこの企画に針生さんが関わっていた。信天画廊のオーナーが1年たらずで亡くなり、重岡さんは展示場所を維持するために調布に立ったというわけだ。
展示のスペースはそれほど広い感じではなかった。1989年の『美術手帖年鑑』には壁面11メートルとある。画廊はいつも話し声が聞こえるような感じだった。2週間の期間で企画展を開催していた。リストから作家名をあげてみる。靉嘔、飯塚八朗、内海信彦、大沢昌助、柏木喜久子、金山明子、上條陽子、楠本正明、小島信明、佐藤多持、多田正美、みのわ淳、山本直彰、吉野辰海、渡辺豊重らが並んでいる。これら作家の名前が収録されているのが、『針生一郎と調布画廊』なる冊子だ。針生さんが亡くなった1周忌にあたる2011年に調布画廊が発行した。そこには案内状のミニ作家論も全て掲載されている。異色の画廊記録集だ。針生さんらしい文をひとつあげると、50年代末、芸大の日本画教官たちが「異端でも才能ある学生池田準を自己防衛と先制排除のため、退学処分とした」と紹介を始める。遺作展への文だが、権威への対抗心と才能への無防備の信頼がみてとれる。針生さんのアジテーションだ。冊子の奥付けを見ると画廊の住所は、布田1-10―3となっている。
上記冊子以外にも、調布画廊が手がけたメディアに『POSI』なる季刊美術雑誌があった。1992年4月に創刊号をだしている。定価1030円。奥付けの住所が、調布市布田1-43―3となっているので、ある時期に移転をしているようだ。重岡さんは画廊と同時に地域紙『月刊ちょうふとーく』にも携わっていて、メディアが好きなようだった。『POSI』創刊号だが、作家の荻野アンナが戸谷成雄にインタビュー、特集は「企業は芸術を支えるか?」、針生さん、岩渕潤子、室伏哲郎、根本長兵衛らが執筆している。ほかにもハンス・ハーケ(青木淳執筆)、粉川哲夫、内海信彦、大榎淳ら、権威・権力に一言ある執筆者が並んでいる。
新日本文学会を発売元にしているのも、針生さんの関係だろう。だが、創刊号にはある程度広告も入っていたが、9号で休刊となった。季刊雑誌は忘れた頃にやってくるので、自転車操業になる以前に資金の用意が十分でないと続かない。90年代はまだ印刷費は高く、いまのような自己発信もままならなかった。それでも調布画廊は針生さんとともにポジティブな姿勢を貫いたといえよう。
手元にある2016年12月の展覧会案内状では、画廊の住所は布田1―9-3になっていた。いつこちらに移転したのだろう。日をかえて、当該住所へ行ってみると、学習塾になっていた。近くの食堂で聞き込み。すると「コロナ前までは画廊はありましたね。私もなんどか行ったことがあります」と。地元の人が通う画廊だった。

現在の調布市布田1-43、この辺りに画廊があった。

2000年代は、調布市布田1-9、この辺りに画廊があった。

『針生一郎と調布画廊』表紙

『POSI』創刊号表紙
(みかみ ゆたか)
■三上 豊(みかみ ゆたか)
1951年東京都に生まれる。11年間の『美術手帖』編集部勤務をへて、スカイドア、小学館等の美術図書を手掛け、2020年まで和光大学教授。現在フリーの編集者、東京文化財研究所客員研究員。主に日本近現代美術のドキュメンテーションについて研究。『ときわ画廊 1964-1998』、『秋山画廊 1963-1970』、『紙片現代美術史』等を編集・発行。
・三上豊のエッセイ「今昔画廊巡り」は毎月28日の更新です。次回更新は2024年8月28日です。どうぞお楽しみに。
●本日のお勧め作品は瑛九、粟津潔です。
瑛九《春》1951年 エッチング(作家自刷り)
イメージサイズ:12.0×8.8cm シートサイズ:22.0×14.5cm
限定15部(4/15)
自筆サインあり
*林グラフィックプレス・カタログNo.122(自刷りなしと記載)
粟津潔《黒の椿》1981年
木版
作品サイズ:14.5×10.0cm
額装サイズ:32.0×26.0cm
Ed.1000
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●取り扱い作家たちの展覧会情報(7月ー8月)は7月1日ブログに掲載しました。
●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。

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TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
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JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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