三上豊「今昔画廊巡り」

第20回 紀伊國屋画廊


 今回は少し回り道をする。上野は東京国立博物館の裏手に「東京文化財研究所」がある。別に上野に行かなくてもいいのだが、アナログ系の私はついこう書いてしまう。パソコンから入っていただき、項目の「東文研 総合検索」をクリックする。はじめてデジタル系の案内をするので、読みにくい面があるかと思いつつ先へ。検索したい項目、たとえば「紀伊國屋画廊」を入れると、「検索結果」一覧に図書や売立目録、展覧会カタログなどが件数とともに表示される。下の方に「文化財関係文献の検索」に114件とあり、そこをクリックすると内容がでてくる。ここで注意しなければいけないことがある。紀伊屋画廊は紀伊屋画廊でも登録されているのだ。

 ふと私は高校1年生のとき紀「伊」國屋が読めなくて恥をかいたことを思い出す。「國」の異体字を考慮に入れる必要があり、「紀伊国屋画廊」では検索結果は760件、内「美術展覧会開催情報」709件が登録されている。別々に検索せずとも、「クイックサーチ」画面の下の「異体字検索をする場合は・・・」をマークすれば両方合わせて出てくるようになっている。

 709件の展覧会名をツラツラみていると傾向がみえてくる。しかしながら、この画廊は、戦前期には新宿と銀座にあり、近代美術の研究者の多くは銀座を扱っている。だが、新宿もその展覧会歴をみると負けてはいない。1927年店舗2階に開廊、洋画を主に扱うが、今和次郎の考現学の展示やプロレタリア系の美術、写真、映画、演劇などの展覧会も開催している。1935年6月には藤田嗣治が小品51点を展示していたりする。銀座については、大谷省吾の論文「銀座紀伊國屋ギャラリーという場所」(『昭和期美術展覧会の研究 戦前編』2009 中央公論美術出版社)に詳しい。

 1964年、紀伊國屋本社ビルが新宿の今の場所、新宿3丁目17―7に新築される(移転当時の表記は「東京都新宿区角筈1の826」)。設計は前川國男。書店以外にホールと画廊が4階に併設され、1階と地階は名店街となった。このブログでは64年以降についてふれていく。顧問格に坂崎乙郎、その後は宝木康範がいたと聞いたことがあるが、リーフレットの文章を記憶している程度だ。70年代初頭は企画で運営されていた。団体展系では行動美術の新人展が定期的に開催されている。ホールがあることで、伊藤熹朔の舞台美術やホールの壁面レリーフの作者向井良吉の展覧会もあった。米倉斉加年や安野光雅の挿絵の展示、浜いさを、四谷シモンの人形展、赤瀬川原平、南伸坊の名前もみえる。司修、木村光佑の版画、久里洋二のアニメーション、小山田チカエ、一木平蔵、黒田悠子の絵画、現代美術系では菅木志雄、醍醐イサムらが発表をしている。

 会場の中央に長椅子があり、タブローはヒートンで吊り下げる展示、床はソフトなカーペットと記憶する。ときどき画廊担当の矢島さんにお茶を出していただいた。彼女は紀伊國屋の制服より私服が似合っていたような。この柔らかな空間は普通のタブローが似合っていた。それでも1974年から断続的に開催された「次元と状況」展は刺激的だった。先の木村のほかに、島州一、下谷千尋、眞板雅文、松本旻、若江漢字らが版画などに取り組み、普段と異なる作品の表情をみせていた。

 この画廊スペースは、そもそもホールのホワイエの一部としてつくられ、スペースの対面にはショウルーム的な壁面もあった。そこを入れると壁面スペースが広がるわけで、65年の『美術手帖年鑑』では壁面45メートル、1日18000円、67年の年鑑では壁面34メートルとなっていたりする。

 かつては同じ4階に美術書のコーナーもあり、営業に行くと美術書担当の方に厳しい声をかけられたり、万引きを目撃したりもした。時にスーパーの紀ノ国屋とまちがってトートバックを求める人もいる。書店に様々な本が並ぶように、紀伊國屋画廊は、ジャンルを超えた発表があった場だった。2012年7月ごろには閉廊となり、現在は旅行ガイドのコーナーとなっている。ホールの方は盛況のようだ。

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藤田嗣治の小品展目録部分 資料提供=東京文化財研究所

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1964年当時のホワイエ付近の展示 右奥が画廊スペース

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画廊は現在旅行ガイドのコーナーになっている

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現在の新宿紀伊國屋書店ビル

(みかみ ゆたか)

■三上 豊(みかみ ゆたか)
1951年東京都に生まれる。11年間の『美術手帖』編集部勤務をへて、スカイドア、小学館等の美術図書を手掛け、2020年まで和光大学教授。現在フリーの編集者、東京文化財研究所客員研究員。主に日本近現代美術のドキュメンテーションについて研究。『ときわ画廊 1964-1998』、『秋山画廊 1963-1970』、『紙片現代美術史』等を編集・発行。

・三上豊のエッセイ「今昔画廊巡り」は毎月28日の更新です。次回更新は2025年1月28日です。どうぞお楽しみに。

●本日のお勧め作品は、島州一です。
shimak03島州一 Kuniichi SHIMA
「ゲバラ」
1974年
布にシルクスクリーン(刷り:小峰プロセス)
Image size: 69.0×99.0cm
Sheet size: 103.1×125.1cm
Ed.50   サインあり
*現代版画センターエディション
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◆「生誕90年 倉俣史朗展 Cahier
会期=2024年12月13日(金)~12月28日(土) ※日・月・祝日休廊
出品全作品の詳細は12月9日ブログに掲載しました。
75_Kuramata Shiro_案内状 表面
(映像制作:WebマガジンColla:J 塩野哲也)
※クリックすると再生します。
※右下の「全画面」ボタンをクリックすると動画が大きくなります。

●パリのポンピドゥー・センターで開催されているシュルレアリスム展にはときの忘れものも協力し瀧口修造のデカルコマニーを貸し出し出品しています。カタログ『SURREALISME』の仏語版は完売し、現在は英語版を発売しています。ご注文の方はメール(info@tokinowasuremono.com)または電話(03-6902-9530)でお問合せください。
サイズ:32.8×22.8×3.5cm、344頁 22,000円(税込み)+送料1,500円
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ときの忘れものは本日最終営業日です。
明日12月29日(日)~新年2025年1月6日(月)まで冬季休廊いたします。
●新年の営業は1月7日(火)からです。
メール等のお問い合わせには1月7日以降に順次返信いたしますので、少々お時間をいただきます。

●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。