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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」
第19回 2014年8月1日

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仰向けになって、両手を広げ、やや不機嫌な顔で宙を見つめている。女の子のようだ。

そのとなりには、横を向いて寝ている子どもがいて、こちらは男の子。女子のほうが少し年齢が上だから、兄弟かもしれない。

膝を折り曲げた女の子の両脚は右に傾いている。さっきまで体をそちら側(つまり男の子と反対側)にむけて、横向きに寝ていたのだ。ふっと目が開き、足はそのままに、折り畳んでいた上半身を開いて仰向けの姿勢になった。

女の子を眠りから覚ましたのは、木々のあいだから射し込む光だった。虫メガネで集めたような鋭い光線が、葉のあいだを抜け、目蓋を直撃し、それを振り払うように、あらっぽく衝動的に左手を開いたのだ。

右手は寝ているあいだずっと敷物の上だったが、左手の方は開いた瞬間、反対側にあるものに触れた。右側にあるものと感触がちがい、暖かでやわらかい。

彼女は薄目をあけてむかってくる光を見つめながら、左手が触れているものを感じとっている。それがなにかは半分わかりかかっているが、腕はどけないし、そちらを見ることもしない。

腕に下に感じる静かな生命と、瞳に射し込む光という、真逆の存在が心を波立たせ、腕を上げたり下したりして弟の胸を叩く。気づいた彼がむずかるが、やめない。

光にそそがれる視線はなにも見ていないし、自分がどこにいて、なにをしているかも、わかっていない。その身に理性が灯るまで、彼女はエネルギーが暴れるに任せるだろう。だれのなかにも眠っている、幼なきころの、半人間のような虚ろな状態。
(おおたけ あきこ)

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●紹介作品データ:
西村多美子
「井の頭、東京都」
1970年代初期
ヴィンテージゼラチンシルバープリント
イメージサイズ: 36.5x54.7cm
シートサイズ: 44.6x54.7cm
Ed.1
サインあり

西村多美子 Tamiko NISHIMURA(1976-)
1948年東京に生まれる。東京写真専門学院(現東京ビジュアルアーツ)で写真を学ぶ。学生時代の1968年頃アングラ劇団「状況劇場」の写真を撮る。初めての撮影は「由比正雪」で、唐十郎や麿赤児、四谷シモンなどの怪優たちに目を見張ったという。卒業前に、復帰前の沖縄へ初めての一人旅へ出る。
1969年卒業後はアルバイトや雑誌の仕事を行ない、原稿料が入るとカメラを持って旅に出掛けた。撮影地は圧倒的に北海道と東北が多いが、関東、北陸、関西と広範囲にもおよんでいる。1990年代からはヨーロッパ、キューバ、ベトナムなど海外を撮影している。

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大竹昭子 Akiko OHTAKE
1950年東京都生まれ。上智大学文学部卒。作家。1979年から81年までニューヨークに滞在し、執筆活動に入る。『眼の狩人』(新潮社、ちくま文庫)では戦後の代表的な写真家たちの肖像を強靭な筆力で描き絶賛される。都市に息づくストーリーを現実/非現実を超えたタッチで描きあげる。自らも写真を撮るが、小説、エッセイ、朗読、批評、ルポルタージュなど、特定のジャンルを軽々と飛び越えていく、その言葉のフットワークが多くの人をひきつけている。現在、トークと朗読の会「カタリココ」を多彩なゲストを招いて開催中。
主な著書:『アスファルトの犬』(住まいの図書館出版局)、『図鑑少年』(小学館)、『きみのいる生活』(文藝春秋)、『この写真がすごい2008』(朝日出版社)、『ソキョートーキョー[鼠京東京]』(ポプラ社)、『彼らが写真を手にした切実さを』(平凡社)、『日和下駄とスニーカー―東京今昔凸凹散歩』(洋泉社)、『NY1980』(赤々舎)など多数。

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