新年早々、根岸文子、永井桃子、矢口佳那、井村一巴、秋葉シスイら若い作家、それも全員女性たちからの新春メッセージをお届けしましたが、いかがでしたか。
さらに3月に個展を予定している井桁裕子さんの「私の人形制作」の連載も始まりました。
ときの忘れものは、名前の通り、物故作家や超ベテラン(高齢!)作家たちばかりではなく、キラキラぴちぴち輝いている若い世代の紹介にも今年は務めたいと思っています(乞うご期待)。
上述のメッセージを読んだ私の感想は、可能性豊かな人たちは文章もうまいなあ、ということでした。それぞれが自分の表現したい「何か」を抱えている、それを彼らなりの文章できちんと表現しようとしている、気持ちいいですね。
さて、私も負けてはいられない(なんだ?)。
新春最初の亭主お薦め作品は例によって瑛九です。
瑛九は短い生涯のうちに、油彩、水彩、版画(木版、リトグラフ、銅版)、写真、フォトデッサン、コラージュ、ガラス絵など、多種多様な表現に取り組み、膨大な作品を遺しました。
私が瑛九が凄いと思うのは(他と比べて)、メディアを変えると表現内容まで変えたことです。
通常、油彩とともに版画をやる作家は(ムンクが典型的)順序はともかく、同じモチーフ、同じテーマを取り上げることが多いのですが、瑛九はそういったことは決してしませんでした。
同じ版画でも、リトグラフと銅版では全く内容が異なります。
ましてや、油彩と同じようなことは版画ではやりませんでした。
リトグラフについて言えば、1951年に試作的に6点のモノクロリトを試みて中断し、1956年~1958年の僅か3年間(1958年は3点のみ)に152点のリトグラフを制作しました(従って瑛九のリトグラフは全部で158種類)。実質2年間で150点あまりを制作したのですから、恐るべき集中力といわねばなりません。ほぼ5日に一点のペースで制作したことになります。
今と違い、インクも紙も粗末なものしかなく、ましてや設備の整った版画工房もまだ存在しない、専門の刷り師も少ない、作ったところでそう売れるわけではない。そういう悪条件のもとでの158種類のリトグラフは、日本の版画史に輝く宝石のようなものだと、私は思います。
前口上はこれくらいにして、本日ご紹介するのは「鳥と円」、色彩のさわやかな、躍動感溢れる秀作です。

瑛九「鳥と円」
1956年 リトグラフ
46.5×30.4cm(シート:54.4×38.4cm)
限定20部(16/20) 自筆サインあり
私のランク付けでいうと、Aランクのお薦めです。
瑛九の作品について、真贋、作品の時代、価格などについてよく問合せを受けます。
特に瑛九の版画はサインが無いものが多く、初めての方は不安になるのでしょう。
私は画商として、図式的ですが、リトグラフに関して以下の基準でランクを付けています。
尚、リトグラフには「後刷り」は一切ありません。また今のところ「贋物」も出現しておりません(油彩はしょっちゅう贋作が出没しています)。ただし、瑛九自身が行なったセカンド・エディション(追い刷り)が若干あります。これについては、またの機会に論じましょう。
とにかくリトグラフに関しては没後に刷られたものは一切ありません。
ですから、買う場合に以下の基準さえ頭に入れておけば安心してコレクションできます。
瑛九のリトグラフでやっかいなのは、制作当時あまりにも売れなかったもので、亡くなったときアトリエにはサインのされていない作品が多く遺され、没後それがいろいろな形(その時々の事情)で流通してしまったことです。このことを念頭においてください。
尚、このランクはあくまで「オリジナル版画のルール」の則っての判断基準であり、内容的なものではありません。代表作『旅人』がもし出てきたらたとえ下記のDランクでも私は大枚はたいて買います!
Aランク=自筆サインと限定番号が鉛筆で記入されているもの(Ep.も含む)
Bランク=自筆サインはあるが、限定番号が記入されていないもの
Cランク=これにはいろいろあります。
1)スタンプ印(朱色)が捺されており、限定番号が鉛筆で記入されているもの
2)サインもスタンプ印もないが、裏に「瑛九作 都」というような
都夫人の裏書がされているもの
3)サインもスタンプ印もないが、限定番号のみ鉛筆で記入されているもの
または1、2、3の混合、
Dランク=サインも限定番号も無く、夫人の裏書も無いもの。つまり作品本体のみ。
これだけいろいろなパターンがあるのも珍しいといえば、珍しい。たとえ生前の自筆サインがない場合でも、没後の頒布の際にもう少し整理(統一)したスタイルで出してくれればよかったのに、と思うのは後世の後知恵で、頒布(普及)に尽力したそれぞれの人たちの努力を認めないわけにはいきません。ともあれ、瑛九のリトグラフのサインの有無に関しては上記の種々のパターンがある、しかし「後刷り」は無いし、いまのところ「贋作」もないので、作品の状態を確認して安心してコレクションしてください、というのが亭主のアドバイスです。
何より安心なのはカタログ・レゾネ『瑛九石版画総目録』が刊行されていることです(今でも入手可能)。瑛九の会の大功績といわねばなりません。
*夫人の裏書は、没後に頒布された際に、都夫人が記入したもので「都」「杉田都」「谷口都」の三通りあります。
そういう基準で今回の「鳥と円」を見てみましょう。


どうです、完璧でしょう。
瑛九のリトグラフで私たちが最も懸念するのは「色彩」です。
当時の粗悪なインク、制作から半世紀の経年による変化、褪色。それらを考慮すると、この作品は色彩の点でもAランクといえるでしょう。
瑛九ファンにはぜひとお薦めする次第です。
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
さらに3月に個展を予定している井桁裕子さんの「私の人形制作」の連載も始まりました。
ときの忘れものは、名前の通り、物故作家や超ベテラン(高齢!)作家たちばかりではなく、キラキラぴちぴち輝いている若い世代の紹介にも今年は務めたいと思っています(乞うご期待)。
上述のメッセージを読んだ私の感想は、可能性豊かな人たちは文章もうまいなあ、ということでした。それぞれが自分の表現したい「何か」を抱えている、それを彼らなりの文章できちんと表現しようとしている、気持ちいいですね。
さて、私も負けてはいられない(なんだ?)。
新春最初の亭主お薦め作品は例によって瑛九です。
瑛九は短い生涯のうちに、油彩、水彩、版画(木版、リトグラフ、銅版)、写真、フォトデッサン、コラージュ、ガラス絵など、多種多様な表現に取り組み、膨大な作品を遺しました。
私が瑛九が凄いと思うのは(他と比べて)、メディアを変えると表現内容まで変えたことです。
通常、油彩とともに版画をやる作家は(ムンクが典型的)順序はともかく、同じモチーフ、同じテーマを取り上げることが多いのですが、瑛九はそういったことは決してしませんでした。
同じ版画でも、リトグラフと銅版では全く内容が異なります。
ましてや、油彩と同じようなことは版画ではやりませんでした。
リトグラフについて言えば、1951年に試作的に6点のモノクロリトを試みて中断し、1956年~1958年の僅か3年間(1958年は3点のみ)に152点のリトグラフを制作しました(従って瑛九のリトグラフは全部で158種類)。実質2年間で150点あまりを制作したのですから、恐るべき集中力といわねばなりません。ほぼ5日に一点のペースで制作したことになります。
今と違い、インクも紙も粗末なものしかなく、ましてや設備の整った版画工房もまだ存在しない、専門の刷り師も少ない、作ったところでそう売れるわけではない。そういう悪条件のもとでの158種類のリトグラフは、日本の版画史に輝く宝石のようなものだと、私は思います。
前口上はこれくらいにして、本日ご紹介するのは「鳥と円」、色彩のさわやかな、躍動感溢れる秀作です。
瑛九「鳥と円」
1956年 リトグラフ
46.5×30.4cm(シート:54.4×38.4cm)
限定20部(16/20) 自筆サインあり
私のランク付けでいうと、Aランクのお薦めです。
瑛九の作品について、真贋、作品の時代、価格などについてよく問合せを受けます。
特に瑛九の版画はサインが無いものが多く、初めての方は不安になるのでしょう。
私は画商として、図式的ですが、リトグラフに関して以下の基準でランクを付けています。
尚、リトグラフには「後刷り」は一切ありません。また今のところ「贋物」も出現しておりません(油彩はしょっちゅう贋作が出没しています)。ただし、瑛九自身が行なったセカンド・エディション(追い刷り)が若干あります。これについては、またの機会に論じましょう。
とにかくリトグラフに関しては没後に刷られたものは一切ありません。
ですから、買う場合に以下の基準さえ頭に入れておけば安心してコレクションできます。
瑛九のリトグラフでやっかいなのは、制作当時あまりにも売れなかったもので、亡くなったときアトリエにはサインのされていない作品が多く遺され、没後それがいろいろな形(その時々の事情)で流通してしまったことです。このことを念頭においてください。
尚、このランクはあくまで「オリジナル版画のルール」の則っての判断基準であり、内容的なものではありません。代表作『旅人』がもし出てきたらたとえ下記のDランクでも私は大枚はたいて買います!
Aランク=自筆サインと限定番号が鉛筆で記入されているもの(Ep.も含む)
Bランク=自筆サインはあるが、限定番号が記入されていないもの
Cランク=これにはいろいろあります。
1)スタンプ印(朱色)が捺されており、限定番号が鉛筆で記入されているもの
2)サインもスタンプ印もないが、裏に「瑛九作 都」というような
都夫人の裏書がされているもの
3)サインもスタンプ印もないが、限定番号のみ鉛筆で記入されているもの
または1、2、3の混合、
Dランク=サインも限定番号も無く、夫人の裏書も無いもの。つまり作品本体のみ。
これだけいろいろなパターンがあるのも珍しいといえば、珍しい。たとえ生前の自筆サインがない場合でも、没後の頒布の際にもう少し整理(統一)したスタイルで出してくれればよかったのに、と思うのは後世の後知恵で、頒布(普及)に尽力したそれぞれの人たちの努力を認めないわけにはいきません。ともあれ、瑛九のリトグラフのサインの有無に関しては上記の種々のパターンがある、しかし「後刷り」は無いし、いまのところ「贋作」もないので、作品の状態を確認して安心してコレクションしてください、というのが亭主のアドバイスです。
何より安心なのはカタログ・レゾネ『瑛九石版画総目録』が刊行されていることです(今でも入手可能)。瑛九の会の大功績といわねばなりません。
*夫人の裏書は、没後に頒布された際に、都夫人が記入したもので「都」「杉田都」「谷口都」の三通りあります。
そういう基準で今回の「鳥と円」を見てみましょう。
どうです、完璧でしょう。
瑛九のリトグラフで私たちが最も懸念するのは「色彩」です。
当時の粗悪なインク、制作から半世紀の経年による変化、褪色。それらを考慮すると、この作品は色彩の点でもAランクといえるでしょう。
瑛九ファンにはぜひとお薦めする次第です。
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