山口由美のエッセイ
<ナミビア「室内の砂丘」を旅する>第2回
白地図の土地、ダイヤモンドエリアへ
私はすでにナミビアを知っていたから、砂漠のダイヤモンド鉱山の廃墟の話を聞かされたとき、直感的にどういうところであるかを理解し、行きたいと思った。予定を変更して、初めてナミビアに行った時のように。こうして、「室内の砂丘」のほとんどの作品が撮影された、2006年の尾形優と一郎の旅に私は同行したのである。
最初のナミビアで私を案内してくれた男の町、スワコプムントから大西洋岸沿いに南下すると、「室内の砂丘」の拠点となる町、ルーデリッツがある。
第一次世界大戦が終わるまで、ナミビアは、ドイツの植民地だった。沿岸のふたつの町は、ことさらにドイツ文化の影響がいまも色濃い。地ビールを売るビアホールのメニューにはソーセージやアイスバインが、朝食にはドイツ風の黒パンが並ぶ。
だが、そこはアフリカであってドイツではない。ちょうど時代のリンクするゼツェッシオンの影響を受けた建物が、アフリカの原色を纏って荒涼とした風景の中に建つ。過酷な自然の植民地は、ドイツの、さながら日本にとっての旧満州のような土地だったのかもしれない。そこにダイヤモンドが発見されたのである。
ルーデリッツに行く方法はいくつかあるが、その年、ケープタウンに用事があった私たちが選んだのは、自然のなりゆきとしてケープタウンからの定期便だった。
旅の計画を立て始めた頃から、旅行会社の担当者から、この便はすぐに満席になるからと予約をせかされていた。現在もダイヤモンド鉱山が稼動する町、オランジェムントを経由する便だったからだ。
オランジェムントで私たちは、ナミビアに入国した。独特の雰囲気が漂う白亜の空港ビル。町に入る者には、入国審査よりはるかに厳しい、ダイヤモンド会社のセキュリティーチェックがある。ダイヤモンドエリアを旅する私たちは、その後、しばしばデビアスとナミビア政府の合弁会社であるナムデブの係員に神経を尖らせることになる。
地図を見れば、ここがどれほど特別な場所であるかはすぐわかる。オランジェムントとルーデリッツを結ぶ大西洋岸、道路も何も記されていない白地図の土地が、立ち入り禁止のダイヤモンドエリアなのである。
「室内の砂丘」の舞台となったコールマンスコップ、エリザベスベイ、そしてポモマは、いすれもそのダイヤモンドエリアにある、鉱山町の廃墟である。(続く)
■山口由美(やまぐち ゆみ)
1962年神奈川県箱根町生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。旅をテーマにノンフィクションやエッセイなどを執筆。曾祖父は、箱根富士屋ホテルの創業者・山口仙之助。
著書に、『帝国ホテル・ライト館の謎』(集英社新書)、『長崎グラバー邸 父子二代』(集英社新書)、『増補版 箱根富士屋ホテル物語』(千早書房)、『旅する理由』(同)、『消えた宿泊名簿―ホテルが語る戦争の記憶―』(新潮社)等がある。

尾形一郎・尾形優
「Kolmanskop-4-1-2004」
2004年(2011年プリント)
ライトジェットプリント
イメージサイズ:40.2x32.1cm
シートサイズ:43.3x35.6cm
Ed.10 サインあり

尾形一郎・尾形優
「Kolmanskop-4-6-2004」
2004年(2011年プリント)
ライトジェットプリント
イメージサイズ:40.2x32.1cm
シートサイズ:43.3x35.6cm
Ed.10 サインあり

尾形一郎・尾形優
「Kolmanskop-4-9-2006」
2006年(2011年プリント)
ライトジェットプリント
イメージサイズ:40.2x32.1cm
シートサイズ:43.3x35.6cm
Ed.10 サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
◆ときの忘れものは、2011年5月30日[月]―6月11日[土]「ナミビア:室内の砂丘 尾形一郎 尾形優写真展」を銀座と青山の二会場で同時開催しています。
営業時間と休廊日が異なりますので、ご注意ください。
20年に亘って大型カメラを携え、世界の辺境に残された建築物を撮りつづけている尾形一郎と尾形優。 昨年好評を博したシリーズ〈ウルトラ・バロック〉に引き続き、今回は、アフリカ・ナミビアの砂漠に残された100年前の家々の痕跡を撮影したシリーズ〈室内の砂丘〉を発表します。
銀座・ギャラリーせいほうでは大作7点、南青山・ときの忘れものでは20点組の初のポートフォリオを出品します。

・作家と作品については、「尾形一郎 尾形優のエッセイ」をぜひお読みください。
・また植田実さんのエッセイ「尾形邸”タイルの家”を訪ねて」第1回、第2回、第3回もお読みください。
・会期中、尾形さんのサイン入り写真集や、雑誌を特別頒布しています。
銀座:ギャラリーせいほう
東京都中央区銀座8-10-7 電話03-3573-2468
11:00-18:00 日曜・祭日休廊
青山:ときの忘れもの
東京都港区南青山3-3-3 青山Cube101 電話03-3470-2631
12:00-19:00 会期中無休
<ナミビア「室内の砂丘」を旅する>第2回
白地図の土地、ダイヤモンドエリアへ
私はすでにナミビアを知っていたから、砂漠のダイヤモンド鉱山の廃墟の話を聞かされたとき、直感的にどういうところであるかを理解し、行きたいと思った。予定を変更して、初めてナミビアに行った時のように。こうして、「室内の砂丘」のほとんどの作品が撮影された、2006年の尾形優と一郎の旅に私は同行したのである。
最初のナミビアで私を案内してくれた男の町、スワコプムントから大西洋岸沿いに南下すると、「室内の砂丘」の拠点となる町、ルーデリッツがある。
第一次世界大戦が終わるまで、ナミビアは、ドイツの植民地だった。沿岸のふたつの町は、ことさらにドイツ文化の影響がいまも色濃い。地ビールを売るビアホールのメニューにはソーセージやアイスバインが、朝食にはドイツ風の黒パンが並ぶ。
だが、そこはアフリカであってドイツではない。ちょうど時代のリンクするゼツェッシオンの影響を受けた建物が、アフリカの原色を纏って荒涼とした風景の中に建つ。過酷な自然の植民地は、ドイツの、さながら日本にとっての旧満州のような土地だったのかもしれない。そこにダイヤモンドが発見されたのである。
ルーデリッツに行く方法はいくつかあるが、その年、ケープタウンに用事があった私たちが選んだのは、自然のなりゆきとしてケープタウンからの定期便だった。
旅の計画を立て始めた頃から、旅行会社の担当者から、この便はすぐに満席になるからと予約をせかされていた。現在もダイヤモンド鉱山が稼動する町、オランジェムントを経由する便だったからだ。
オランジェムントで私たちは、ナミビアに入国した。独特の雰囲気が漂う白亜の空港ビル。町に入る者には、入国審査よりはるかに厳しい、ダイヤモンド会社のセキュリティーチェックがある。ダイヤモンドエリアを旅する私たちは、その後、しばしばデビアスとナミビア政府の合弁会社であるナムデブの係員に神経を尖らせることになる。
地図を見れば、ここがどれほど特別な場所であるかはすぐわかる。オランジェムントとルーデリッツを結ぶ大西洋岸、道路も何も記されていない白地図の土地が、立ち入り禁止のダイヤモンドエリアなのである。
「室内の砂丘」の舞台となったコールマンスコップ、エリザベスベイ、そしてポモマは、いすれもそのダイヤモンドエリアにある、鉱山町の廃墟である。(続く)
■山口由美(やまぐち ゆみ)
1962年神奈川県箱根町生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。旅をテーマにノンフィクションやエッセイなどを執筆。曾祖父は、箱根富士屋ホテルの創業者・山口仙之助。
著書に、『帝国ホテル・ライト館の謎』(集英社新書)、『長崎グラバー邸 父子二代』(集英社新書)、『増補版 箱根富士屋ホテル物語』(千早書房)、『旅する理由』(同)、『消えた宿泊名簿―ホテルが語る戦争の記憶―』(新潮社)等がある。

尾形一郎・尾形優
「Kolmanskop-4-1-2004」
2004年(2011年プリント)
ライトジェットプリント
イメージサイズ:40.2x32.1cm
シートサイズ:43.3x35.6cm
Ed.10 サインあり

尾形一郎・尾形優
「Kolmanskop-4-6-2004」
2004年(2011年プリント)
ライトジェットプリント
イメージサイズ:40.2x32.1cm
シートサイズ:43.3x35.6cm
Ed.10 サインあり

尾形一郎・尾形優
「Kolmanskop-4-9-2006」
2006年(2011年プリント)
ライトジェットプリント
イメージサイズ:40.2x32.1cm
シートサイズ:43.3x35.6cm
Ed.10 サインあり
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◆ときの忘れものは、2011年5月30日[月]―6月11日[土]「ナミビア:室内の砂丘 尾形一郎 尾形優写真展」を銀座と青山の二会場で同時開催しています。
営業時間と休廊日が異なりますので、ご注意ください。
20年に亘って大型カメラを携え、世界の辺境に残された建築物を撮りつづけている尾形一郎と尾形優。 昨年好評を博したシリーズ〈ウルトラ・バロック〉に引き続き、今回は、アフリカ・ナミビアの砂漠に残された100年前の家々の痕跡を撮影したシリーズ〈室内の砂丘〉を発表します。
銀座・ギャラリーせいほうでは大作7点、南青山・ときの忘れものでは20点組の初のポートフォリオを出品します。

・作家と作品については、「尾形一郎 尾形優のエッセイ」をぜひお読みください。
・また植田実さんのエッセイ「尾形邸”タイルの家”を訪ねて」第1回、第2回、第3回もお読みください。
・会期中、尾形さんのサイン入り写真集や、雑誌を特別頒布しています。
銀座:ギャラリーせいほう
東京都中央区銀座8-10-7 電話03-3573-2468
11:00-18:00 日曜・祭日休廊
青山:ときの忘れもの
東京都港区南青山3-3-3 青山Cube101 電話03-3470-2631
12:00-19:00 会期中無休
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