山口由美のエッセイ
<ナミビア「室内の砂丘」を旅する>第4回
「室内の砂丘」のメッセージ
あらためて、エリザベスベイの朽ち果てた家の前に立ったハンス・シュミットさんの写真を見ると、どうにも重なってしまう風景がある。
打ち捨てられた町と封印された土地。地震と津波に襲われ、そして、福島第一原発の事故によって封印された周辺の町である。
自分の家に帰るのに宇宙服のような防護服を着る異常は、故郷に帰るのにダイヤモンド探査装置を通らなければいけない異常に重なる。巨大な富や利権に結びついていること、本来、それがなくとも人の生活が成り立つことにおいて、ダイヤモンドと原子力は共通しているのかもしれない。そして、人々は、それらを手にするために自然の条件を無視した。すなわち、地震と津波の危険のある海岸に原発を建て、砂漠の真ん中に建てた家に列車で水を運んだのである。
いま一度、「室内の砂丘」の虚構性について考えてみたい。私は、理由のひとつが、ナミビアの砂漠そのものにあると書いたが、さらなる理由は、その砂漠が室内にある、という異常にほかならない。
廃墟となり機密性を失った家に、外から風と砂が吹き込み、光が差し込んで、異常な状況を作り出す。そこにあるのは、砂漠にあるべきでないヨーロッパふうの家。ゼツェッシオンを思わせる装飾の壁紙と砂丘のコントラスト。そのありえない組み合わせが、「室内の砂丘」の虚構性の正体ではないか。
だから、人は、それを作為と思い、虚構と信じる。それを出現させたのが、過酷な自然に抗い、砂漠に住んだ、人の欲望ということになる。
自然に抗うこと。それは、20世紀以降の人類が、科学技術の発展をよりどころに疑いもしなかった考え方だ。ダイヤモンドエリアの鉱山町にも、そうした科学技術の恩恵があった。コールマンスコップには、当時、最先端の病院があり、アフリカで初めてのレントゲンが導入されていた。「室内の砂丘」の舞台となる町が生まれたのは、まさにそうした思想が台頭した時代なのである。
自然に抗おうとした人たちの家が、廃墟となり、その中に砂丘が築かれている。それが決して虚構でなく、現実である事実。その事実に何を考えるかということが、自然を制御することの不可能さに気づき始めた私たちが、いま「室内の砂丘」と対峙することの意味なのかもしれない。(完)
■山口由美(やまぐち ゆみ)
1962年神奈川県箱根町生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。旅をテーマにノンフィクションやエッセイなどを執筆。曾祖父は、箱根富士屋ホテルの創業者・山口仙之助。
著書に、『帝国ホテル・ライト館の謎』(集英社新書)、『長崎グラバー邸 父子二代』(集英社新書)、『増補版 箱根富士屋ホテル物語』(千早書房)、『旅する理由』(同)、『消えた宿泊名簿―ホテルが語る戦争の記憶―』(新潮社)等がある。

尾形一郎・尾形優
「Kolmanskop-4-18-2006」
2006年(2011年プリント)
ライトジェットプリント
イメージサイズ:40.2x32.1cm
シートサイズ:43.3x35.6cm
Ed.10 サインあり

尾形一郎・尾形優
「Kolmanskop-10-5-2006」
2006年(2011年プリント)
ライトジェットプリント
イメージサイズ:40.2x32.1cm
シートサイズ:43.3x35.6cm
Ed.10 サインあり

尾形一郎・尾形優
「Kolmanskop-17-5-2006」
2006年(2011年プリント)
ライトジェットプリント
イメージサイズ:40.2x32.1cm
シートサイズ:43.3x35.6cm
Ed.10 サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
◆銀座と青山の二会場で同時開催している「ナミビア:室内の砂丘 尾形一郎 尾形優写真展」は本日が最終日です。
銀座会場は18時まで、青山会場は19時までですので、お間違いなく。
20年に亘って大型カメラを携え、世界の辺境に残された建築物を撮りつづけている尾形一郎と尾形優。 昨年好評を博したシリーズ〈ウルトラ・バロック〉に引き続き、今回は、アフリカ・ナミビアの砂漠に残された100年前の家々の痕跡を撮影したシリーズ〈室内の砂丘〉を発表します。
銀座・ギャラリーせいほうでは大作7点、南青山・ときの忘れものでは20点組の初のポートフォリオを出品します。

・作家と作品については、「尾形一郎 尾形優のエッセイ」をぜひお読みください。
・また植田実さんのエッセイ「尾形邸”タイルの家”を訪ねて」第1回、第2回、第3回もお読みください。
・会期中、尾形さんのサイン入り写真集や、雑誌を特別頒布しています。
銀座:ギャラリーせいほう
東京都中央区銀座8-10-7 電話03-3573-2468
11:00-18:00 日曜・祭日休廊
青山:ときの忘れもの
東京都港区南青山3-3-3 青山Cube101 電話03-3470-2631
12:00-19:00 会期中無休
<ナミビア「室内の砂丘」を旅する>第4回
「室内の砂丘」のメッセージ
あらためて、エリザベスベイの朽ち果てた家の前に立ったハンス・シュミットさんの写真を見ると、どうにも重なってしまう風景がある。
打ち捨てられた町と封印された土地。地震と津波に襲われ、そして、福島第一原発の事故によって封印された周辺の町である。
自分の家に帰るのに宇宙服のような防護服を着る異常は、故郷に帰るのにダイヤモンド探査装置を通らなければいけない異常に重なる。巨大な富や利権に結びついていること、本来、それがなくとも人の生活が成り立つことにおいて、ダイヤモンドと原子力は共通しているのかもしれない。そして、人々は、それらを手にするために自然の条件を無視した。すなわち、地震と津波の危険のある海岸に原発を建て、砂漠の真ん中に建てた家に列車で水を運んだのである。
いま一度、「室内の砂丘」の虚構性について考えてみたい。私は、理由のひとつが、ナミビアの砂漠そのものにあると書いたが、さらなる理由は、その砂漠が室内にある、という異常にほかならない。
廃墟となり機密性を失った家に、外から風と砂が吹き込み、光が差し込んで、異常な状況を作り出す。そこにあるのは、砂漠にあるべきでないヨーロッパふうの家。ゼツェッシオンを思わせる装飾の壁紙と砂丘のコントラスト。そのありえない組み合わせが、「室内の砂丘」の虚構性の正体ではないか。
だから、人は、それを作為と思い、虚構と信じる。それを出現させたのが、過酷な自然に抗い、砂漠に住んだ、人の欲望ということになる。
自然に抗うこと。それは、20世紀以降の人類が、科学技術の発展をよりどころに疑いもしなかった考え方だ。ダイヤモンドエリアの鉱山町にも、そうした科学技術の恩恵があった。コールマンスコップには、当時、最先端の病院があり、アフリカで初めてのレントゲンが導入されていた。「室内の砂丘」の舞台となる町が生まれたのは、まさにそうした思想が台頭した時代なのである。
自然に抗おうとした人たちの家が、廃墟となり、その中に砂丘が築かれている。それが決して虚構でなく、現実である事実。その事実に何を考えるかということが、自然を制御することの不可能さに気づき始めた私たちが、いま「室内の砂丘」と対峙することの意味なのかもしれない。(完)
■山口由美(やまぐち ゆみ)
1962年神奈川県箱根町生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。旅をテーマにノンフィクションやエッセイなどを執筆。曾祖父は、箱根富士屋ホテルの創業者・山口仙之助。
著書に、『帝国ホテル・ライト館の謎』(集英社新書)、『長崎グラバー邸 父子二代』(集英社新書)、『増補版 箱根富士屋ホテル物語』(千早書房)、『旅する理由』(同)、『消えた宿泊名簿―ホテルが語る戦争の記憶―』(新潮社)等がある。

尾形一郎・尾形優
「Kolmanskop-4-18-2006」
2006年(2011年プリント)
ライトジェットプリント
イメージサイズ:40.2x32.1cm
シートサイズ:43.3x35.6cm
Ed.10 サインあり

尾形一郎・尾形優
「Kolmanskop-10-5-2006」
2006年(2011年プリント)
ライトジェットプリント
イメージサイズ:40.2x32.1cm
シートサイズ:43.3x35.6cm
Ed.10 サインあり

尾形一郎・尾形優
「Kolmanskop-17-5-2006」
2006年(2011年プリント)
ライトジェットプリント
イメージサイズ:40.2x32.1cm
シートサイズ:43.3x35.6cm
Ed.10 サインあり
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◆銀座と青山の二会場で同時開催している「ナミビア:室内の砂丘 尾形一郎 尾形優写真展」は本日が最終日です。
銀座会場は18時まで、青山会場は19時までですので、お間違いなく。
20年に亘って大型カメラを携え、世界の辺境に残された建築物を撮りつづけている尾形一郎と尾形優。 昨年好評を博したシリーズ〈ウルトラ・バロック〉に引き続き、今回は、アフリカ・ナミビアの砂漠に残された100年前の家々の痕跡を撮影したシリーズ〈室内の砂丘〉を発表します。
銀座・ギャラリーせいほうでは大作7点、南青山・ときの忘れものでは20点組の初のポートフォリオを出品します。

・作家と作品については、「尾形一郎 尾形優のエッセイ」をぜひお読みください。
・また植田実さんのエッセイ「尾形邸”タイルの家”を訪ねて」第1回、第2回、第3回もお読みください。
・会期中、尾形さんのサイン入り写真集や、雑誌を特別頒布しています。
銀座:ギャラリーせいほう
東京都中央区銀座8-10-7 電話03-3573-2468
11:00-18:00 日曜・祭日休廊
青山:ときの忘れもの
東京都港区南青山3-3-3 青山Cube101 電話03-3470-2631
12:00-19:00 会期中無休
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