6月11日[水]から「第25回 瑛九展 瑛九と久保貞次郎」を開催します。
ときの忘れものの第一回瑛九展は1996年3月ですが、以来毎年1~2回シリーズ企画として瑛九展を継続して開催してきました。
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25回目となる今回は瑛九の「深い理解者」(オノサト・トシノブ)であった大コレクター久保貞次郎旧蔵作品を中心に展示します。
瑛九は久保のよき助言者として北川民次はじめ多くの画家を久保に推薦しました。「無私」の心がなければこういうことはできませんね。

瑛九と時代を共にし、久保が支持した作家たちを挙げようとするとあまりに多くて一度に展示するのは困難です。
今回は北川民次オノサト・トシノブ桂ゆき磯辺行久靉嘔瀧口修造駒井哲郎細江英公泉茂池田満寿夫の10人(瑛九を加えて11人)を選びましたが、案内状をつくった後に、ニューヨークで活躍してきた木村利三郎先生の訃報が飛び込んできました。追悼の心をこめて急遽木村利三郎作品を加えることになりました。

栃木県真岡の旧家の当主だった久保先生のことを一言でいうのはとても難しい。
エスペランチスト、美術評論家、児童画教育運動のリーダー(創美)、小コレクター運動の唱道者、跡見女子短大学長、町田市立国際版画美術館初代館長、等々多彩な活動を繰り広げた久保先生ですが、その真骨頂は多くの作家を支援した大コレクターだったことにあると思います。
優れた才能、作家をみつけるときに、身近にいて久保先生の相談相手になったのが瑛九でした。
既成画壇を批判して1951年にデモクラート美術家協会を結成した瑛九のもとに集まった池田満寿夫、靉嘔、磯辺行久、細江英公、泉茂、早川良雄らの若い作家たちに久保先生は物心両面での支援を惜しみませんでした。
また、多くの作家たちに版画制作を勧め、制作を支援する一方で、版画の普及頒布にもつとめ、版画友の会など、日本のコレクター運動の中心的役 割をにないました。
美術評論家としても膨大な著作を残し、生前自らそれらを整理して、著作集「久保貞次郎・美術の世界」全12巻を刊行されました。
ご遺族の許可を得て、著作集の中から今回の出品作家について論じたものを順次ご紹介します。
先ずは「瑛九」。瑛九については優に一冊をなすほど論じているので選択に迷いますが、今回はすべて担当の尾立麗子にまかせました。
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久保貞次郎のエッセイ~瑛九(1958年執筆)

「楽天的作家を」

久保貞次郎


 ぼくはまえよりも日本の画家の作品を買うのにずっと力をいれるようになった。なぜなら、かれらが、この芸術に有害な国に住んで、骨をおって仕事をしているのが、だんだんひとごとでなくなってきたからである。外国の作家はその国のひとたちが買うだろう。しかし日本にいて、たゆまずやっている画家の作品を、ぼくたち日本人が買わないで、だれが買うだろう。
 今年になってぼくは次の作家のものを買った。北川民次、木内克、福沢一郎、川口軌外、森芳雄、ブブノワ、駒井哲郎、浜田知明、瑛九、オノサト・トシノブ、泉茂、靉嘔、利根山光人、加藤正、池田満寿夫など。――このリストのなかで特別にぼくが力をいれているのは北川、瑛九、オノサト、靉嘔の四人である。

瑛九のは油彩二十点、水彩三十点、種類のちがう版画二百点ほど買った。今年、ぼくが展覧会の費用を全部負担するから、個展をやらないかとすすめたが、かれにことわられた。理由はめんどうくさいからだという。これにはぼくも閉口した。かれは食って、わずかの制作費ができれば、個展などやらないほうが、ずっと制作のじゃまにならないでよいと語る。最近、かれは目だって社交ぎらいになった。友人のオノサトの個展があろうが、外国の作品展があろうが、五十分でこられる東京都内にやってこない。しかし製作にはあきれるほど熱中している。かれの描くアブストラクトは、あざやかで、複雑だ。ぼくはいままでかれのフォトグラム、油彩、デッサン、版画を千点くらい集めたが、さらにかれの油絵、水彩五百点くらいを手にいれたいとおもっている。しかしそのうち瑛九の心境が変わって、油彩や水彩なんかもう興味がないといいだすかもしれない。

ぼくが支持するこの四人の画家は、ひとりも東京に住んでいない。北川は愛知県の瀬戸に、瑛九は浦和、オノサトは桐生、靉嘔はニューヨークに、ぼくは栃木県に住んでいる。ぼくたちはみな田舎者である。かれらに共通なものは何だろう。明確に自分の思想を定立し、日本の空気とそれがうまくあわなくても、あまり気にしない楽天的な傾向である。こういう態度をとり続ければ、なかなか絵が売れないことはたしかだ。しかし、かれらはあわれ、頑固な楽天家である。また美術ジャーナリズムや画壇と妥協しようとしない偏狭な精神の所有者だ。かれらは反逆的である。だが反逆的でない芸術家など、かつて存在したろうか。
しかし最近ぼくはつくづく、ぼくたちの小さな努力も、暗闇に鉄砲をうつように手ごたえがないものではないかと疑いはじめた。なぜなら、ぼくが支持する画家の仕事が一般に普及したと仮定しても、それはかれらの思想が公衆にひろまり、受けいれられたとは限らないということがわかってきたからだ。日本の文化社会はあきれるほど無節操だ。一方でAを支持していながら、それなら当然他方では否定しなければすじが通らないBに対しても、同時に平気で拍手をおくる現象が、いたるところでみられるではないか。これは美術界ばかりでなく、すべてことを荒だてずにすまそうとする、日本文化独特の不誠実なやりかたである。このやりかたが、日本の社会をいつもあいまいにしてきた。これは芸術にとっておそるべき敵だ。画壇に思想を基盤として、もっと鋭い対立を作れ、これが日本の美術を前進させる原動力になる。そのためにもぼくは、おくれた思想をよりどころとしない、しかもいつもみずからあいまいにおちいるのを嫌う画家たちをたゆまず探し求め、熱心にかれらの作品を買いいれなければならない。
くぼさだじろう
(一九五八年 芸術新潮 12月号)
『久保貞次郎 美術の世界2 瑛九と仲間たち』(叢文社、1985年)より転載
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●出品作品を順次、ご紹介します。
2出品No.1)
瑛九
「三人」
1950年
フォトデッサン
55.2x45.5cm
Signed

1出品No.2)
瑛九
「(作品名不詳)」
フォトデッサン
40.8x31.9cm

瑛九_水彩600出品No.3)
瑛九
「(作品名不詳)」
1955年
水彩
27.2x24.1cm
Signed

瑛九_幸せな家庭_銅版600出品No.4)
瑛九
「幸福な家庭」
1952年
銅版(作家自刷り)
Image size: 17.2x13.4cm
Sheet size: 25.2x20.0cm

qei_147_nazo出品No.5)
瑛九
「なぞ」
1956年
銅版
Image size: 18.3x12.0cm
Sheet size: 28.0x17.7cm
Endorsed by Mrs. Q Ei

海_600_2出品No.6)
瑛九
「海」
1955年
銅版(作家自刷り)
Image size: 10.6x6.8cm
Sheet size: 19.7x13.6cm
Ed.3
Endorsed by Mrs. Q Ei

qei_151_little_bird出品No.7)
瑛九
「小さな鳥」
1954年
油彩、板
22.9x15.9cm
Signed

qei_152_work出品No.8)
瑛九
「(作品)」
1957年
油彩、板
33.6x24.3cm
Signed

qei_150_morning_table出品No.9)
瑛九
「朝の食卓」
1956年
リトグラフ
Image size: 40.0x28.0cm
Sheet size: 56.0x37.6cm
Ed.5
Signed

プロフィル_600出品No.10)
瑛九
「プロフィル」
1951年
リトグラフ
Image size: 22.0x17.0cm
Sheet size: 27.0x23.0cm
Ed.4 Signed

瑛九_昼の分析出品No.11)
瑛九
「昼の分析」
1959年
油彩
45.5x53.0cm
Signed

DSCF1605_600出品No.12)
瑛九
「黒の中の点」
1957年
油彩
Image size: 45.7x38.0cm
Frame size: 56.6x49.0cm
Staped by Sadajiro Kubo

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表紙出品No.13)
瑛九スケッチ帖
「青年の読物特輯」
装幀原画他
彩色2頁、鉛筆画4頁、鉛筆書目次他3頁
内7枚にサイン入
各24.5x17.5cm

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qei_146_croquis2_01出品No.14)
瑛九
「CARNET CROQUIS」(2)
スケッチブック
28.5x24.7cm
鉛筆サインとスタンプサインあり

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◆ときの忘れものは2014年6月11日[水]―6月28日[土]「第25回 瑛九展 瑛九と久保貞次郎」を開催します(*会期中無休)。
DM
大コレクター久保貞次郎は瑛九の良き理解者であり、瑛九は久保の良き助言者でした。
遺された久保コレクションを中心に、瑛九と時代を共にし、久保が支持した作家たちー北川民次、オノサト・トシノブ、桂ゆき、磯辺行久、靉嘔、瀧口修造、駒井哲郎、細江英公、泉茂、池田満寿夫らの油彩、水彩、オブジェ、写真、フォトデッサン、版画などを出品します。
また5月17日に死去した木村利三郎の作品を追悼の心をこめて特別展示します。

『第23回 瑛九展』カタログ『第23回 瑛九展』図録
発行日:2013年5月17日
発行:ときの忘れもの/有限会社ワタヌキ
執筆:大谷省吾(東京国立近代美術館主任研究員)
図版:約30点掲載
カラー 24ページ
25.6x18.1cm(B5判)
価格:800円(税別)
※送料別途250円

瑛九 Q Ei(1911-1960)
1911年宮崎生まれ。本名・杉田秀夫。15歳で『アトリヱ』『みづゑ』など美術雑誌に評論を執筆。36年フォトデッサン作品集『眠りの理由』を刊行。37年自由美術家協会創立に参加。既成の画壇や公募団体を批判し、51年デモクラート美術家協会を創立。靉嘔、池田満寿夫、磯辺行久、河原温、細江英公ら若い作家たちに大きな影響を与えた。油彩、フォトデッサン、版画などに挑み、独自の世界を生み出す。60年48歳で永逝。