第25回 瑛九展 瑛九と久保貞次郎」も今日と明日の二日のみ。
昨日は今回の出品作家で瑛九の薫陶を受けた細江英公先生が奥様と一緒にいらっしゃってくださいました。
ちょうど居合わせた埼玉県立近代美術館で瑛九のエキスパートだった大久保静雄先生たちと、瑛九の話で盛り上がりました。
20140626細江先生来廊
前列は細江先生夫妻。
後列左から、亭主、社長、大久保静雄先生、尾立、秋葉。

<瑛九と時代を共にし、久保貞次郎が支持した作家たち>を順次ご紹介してきましたが、今日は北川民次です。
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久保貞次郎のエッセイ~北川民次(1958年執筆)

北川民次の芸術とその魅力


久保貞次郎

一人の個性的な画家の近作展は、彼の作品の最近の傾向だけを物語るものではない。北川民次の近作個展が開かれるのは戦後はじめてであるが、彼の絵画の一貫した思想は、彼がメキシコから二十年まえに帰ってきたときと同じように、こんどの作品にもあふれている。むしろいっそう豊かになっている。いまになってひとびとは彼の二十年まえの灰色調のメキシコ風物を郷愁をこめてなつかしがっている。公衆は見なれたものを好むが、新しいいま生まれでたものにはとかく理解を示さないものだ。彼のむかしの灰色のトーンの作品にも、当時、世間はそれほど本質的には同情しなかったことを、あらためていま思いおこすべきである。
 北川民次は日本ではまれにみる動揺の精神の鼓吹者である。たえず自分のつくりあげたスタイルを打ちこわす。一度だけの変革でなく、たえざる変革を求めてやまない。一か所にとどまっていない精神。これはダイナミックな精神的エネルギーである。彼の絵画のスタイルがつぎからつぎへと変わっていくのは、この芸術家が動揺の精神をみずからの旗じるしにしているからだ。この探求力。このけんそんな態度。北川民次の芸術が、わが国では類がないほど複雑であるのは、この精神の背景があるからである。日本文化は波一つたたない静けさを最上のものと称えるかたむきがある。変革のない生活。懐疑のない人生。ただ無風な状態をねがう伝統。日本人の生活のなかに底しれず深く根づよく張っているこの感情は、近代芸術の障害物である。
 この画家は戦争中から瀬戸に移り住んで、そこで仕事をしている。しかしこんどの展観には瀬戸風景はごく少なく、数点の静物をのぞいて、メキシコに取材したものが多い。彼はこれらのメキシコをテーマにした油絵を瀬戸のアトリエでかいた。彼はなぜメキシコの人物や景色をくりかえしえがくのであろうか。作家のことばによれば、それは日本の題材がモチーフとして彼を刺激する度合が弱いからだそうだ。
 北川民次の作品は、写実的でありながら彼の個性がつよく反映している。バッタをかきシクラメンをとらえても、あきれるほど北川的である。画家が思想家であればあるほど、たとえバッタやシクラメンをえがこうとも、彼の思想がそれらのなかににじみでる。北川民次の風景、人物、静物は彼の思想がにじみでているゆえに独特である。またそのために美術愛好家が彼の絵に、気軽に近づけないようである。しかし独自な思想は容易に消え去りはしない。やがて時がたてばたつほどかがやきを増す。北川民次の絵画はなにげなくみると、無表情で粗雑だと感ちがいする。しかしじじつ彼の独創的思想は、複雑な色彩の調和による微妙なトーン、強靭な構成力となって、彼の作品にあらわれる。だから忍耐強い鑑賞者には、彼の絵画が、ある日とつぜん太陽が照り輝きだしたように、美しさが身にしみわたり、期待をこえた魅力あるものとなって迫ってくる。これこそ北川民次の芸術が日本美術史の上で、確固たる位置を要求する根拠の一つである。
くぼ さだじろう
(一九五八年 北川民次展目録 東京画廊)
『久保貞次郎 美術の世界1 北川民次』(叢文社、1984年)より転載
tamiji_01出品No.15)
北川民次
「(作品)」
1961年
水彩
19.0x12.5cm  Signed

Tamiji1962出品No.16)
北川民次
「花」
1962年
水彩
39.7x50.4cm
Signed

tamiji_02_haha-musume出品No.17)
北川民次
「母と娘」
1961年
陶板
19.0x11.0cm
Signed

tamiji_03出品No.18)
北川民次+瀧口修造
瀧口修造の詩による版画集『スフィンクス』より
「地球創造説(サボテン)」

1954年
銅版
Image size: 8.8x6.8cm
Sheet size: 29.5x48.0cm
Ed.50  Signed

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瑛九関係の文献資料コチラをご参照ください。
画廊では久保先生の著書を会期中のみの特別価格で頒布しています。

◆ときの忘れものは2014年6月11日[水]―6月28日[土]「第25回 瑛九展 瑛九と久保貞次郎」を開催しています(*会期中無休)。
DM
大コレクター久保貞次郎は瑛九の良き理解者であり、瑛九は久保の良き助言者でした。
遺された久保コレクションを中心に、瑛九と時代を共にし、久保が支持した作家たちー北川民次、オノサト・トシノブ、桂ゆき、磯辺行久、靉嘔、瀧口修造、駒井哲郎、細江英公、泉茂、池田満寿夫らの油彩、水彩、オブジェ、写真、フォトデッサン、版画などを出品します。
また5月17日に死去した木村利三郎の作品を追悼の心をこめて特別展示します。