笹沼俊樹のエッセイ「現代美術コレクターの独り言」 第16回
「超一流の画廊のしたたかさ」
『超一流の○○』という言葉の響きは実に良い。これを耳にした時、“老舗”などであると、「接客の作法は洗練されていて、扱い商品は極上、店内の雰囲気もこの上なく上品」というようなイメージを思い浮べ、大方の人は「その名以上のもの」を連想するケースが多いようだ。確かに、ニューヨークやパリで、この手の店を訪れてみると、その気配は十分に感じられる。
一方、このような“高み”に昇りつめた連中と、利害が絡むビジネスの場で、手合せをした時、言いようのない「したたかさ」を感じた事が少なくない。「ここまで、するのかよ!!」と何回も、つぶやいたことを思い出す。俗に、世界で『超一流』と言われているものには、外見ほどに、美化された甘さはない。
さらに、「これだから、この位置まで登りつめたのでは……」とさえ感じさせるものが、いささか気どった、上品でスマートな彼らの≪衣装≫の下に見え隠れしていた。人は見た目ほど、単純ではない。
エッセイの中で度々記述した超一流画廊で、実際に手合せを何回かした時、発生した事は、今でも脳裏に鮮明に残っている。
June 15, 1989〔Art-Fairで〕
Xのブースに寄った。デュビュッフェ〔1901-1985〕の最晩期に制作された三種類のシリーズの作品が展示されていた。よく売れている。この中に、際立った作品が1点あった。1984年9月17日に制作された“Lit du Tarrent Non-Lieu LI”。サイズ〔90x60〕cm。今迄に見たことのないイメージで、質のよいものだった。
「これ、価格は?」と店員にたずねると、「$125,000.-です」 聞きもしないのに、続けて、「これは予約済みです」とつぶやく。
「今、デュビュッフェはどんな状況?」
「このMireのシリーズで良い作品は、2年前の約2倍の価格になってます。デュビュッフェは、まだまだあがりますよ」
“Lit du Tarrent Non-Lieu LI”
1984
〔90x60〕cm
デュビュッフェの逝去は1985年5月だったので、なくなる8ヶ月前にこの作品を制作。今迄になかったImageで、色彩のCombinationも珍しい作品。
この翌年、このArt-Fairで意外な事に遭遇。
Xのブースは80%ぐらいがデュビュッフェの作品で埋められていた。
驚いたことに、去年、「予約済み」と言っていた“Lit du Tarrent Non Lieu LI”が、また展示されていた。「どう言うことだ」と独り言。
価格を聞くと、なんと、「$350,000.-」
去年の約3倍。あきれて、声も出ない。店員に、「Non-LieuやMireのシリーズで、並の質の作品で、いくらぐらい?」とたずねてみた。「2シリーズとも、サイズが同じですと、同価格で、現在、このサイズ〔90x60〕cmですと、$280,000.-です」
“Lit du Tarrent”に関しては、並の作品とは$70,000.-の差異をつけている。〔通常、近作の場合、あまり差異が出ない〕
このような現象がでてくると、コレクターの眼力が重要になってくる。
これを聞いた時、真にうけ「良い作品は強いな」と単純に思った。あれだけの人々が、この作品に群がっていたのだから当り前の見方だ。
1年後、再び、このブースで、この作品を眼にした時、「ハッ」とした。同時に、あの2つの言葉に“異った意味”を感じた。さらに、価格を聞いた時、「これが彼等の本性じゃないか……」と思わずつぶやいた。
マーケット分析を緻密にしている。「デュビュッフェはまだまだ上る」というkeyの動向をつかむと、そこから戦術が始まる。「良質の作品は、目一杯の高値で売るタイミングを探り、売り止め」 それを「予約済みです」と気の利いた言いまわしで表現。実に≪予約:Reserve≫という単語の使い方がうまい。「予約した人が断念した」と再展示を正統化できる。
さらに、良質の作品には、売り頃とみるや「これで買うなら売ってやる」という価格をつけてくる。「あくなき利益の追求」によって、彼等は現在の位置を築き、そして、その位置を守ってゆく。
コレクターとは因果なもの。上質な作品を入手する為には、こういうタイプの商人〔アキンド〕でも、避けるわけにはいかない。「虎穴に入らずんば、虎児を得ず」 現実を現実としてのみ込み、これに対応して、自分側の防御体制をこれ以上できない程かためて手合せをする。なんとも、痛ましいコレクターの性である。
June 15, 1994
朝10時頃、時間があったので、Xをのぞく。ソール・スタインバーグ〔米:1914-1999〕の去年目にとまった作品が売れずに展示されていた。価格は$10,000.-。サイズは〔75x55〕cmぐらい。1年前から気になっていた作品だった。「この価格は安い」と思った。作品の質も良く、全盛期に描かれたものでもある。予約した。条件も了解しあった。
この作品の技法<Stampted Drawing>を確認したかったので、翌早朝、ホテルからFAXを送った。〔紙に、1種類のパターンのスタンプを連続的に押して、イメージ〔中国の風景〕を描く。大変めずらしい作品〕
「なんとかして、知らせようと思っていたのですが……。昨日の午後、お客がスタインバーグのあの作品を予約しました。おそらく、それを買うと思います。大変申し訳ない」
〔ここでも“Reserve”と“Probably”という単語をうまく使っている〕
しかし、以前に、この画廊で「オヤ?」と思う現象に何回も遭遇していたので、冷静さを取り戻すことには時間がかからなかった。不幸中の幸いは、自分の中心的な関心の作家の作品ではなかったことだ。
後の事も考え、これを風と流すことにした。
翌年、いつものようにXに立ち寄った。
前年、スタインバーグの件で対応した女性がいたので、<体質>を見きわめるケース・スタディーだと思い、なにくわぬ顔をして、「スタインバーグのあの作品はある?」と聞いてみる。在庫をcheckして戻ってきた。「ありますわよ」と平然として一言。「またか……。去年のFAXは何だったのか?」と思った。「価格は?」と聞くと、「$25,000.-」。この時、思った。「去年、あの時、背後で何か起っていたな……」 これ以上のことは何も聞かなかった。
タピエスやチリダ、F・ベーコンなどの市場の事につき話していると、ベローが「来年、マドリードのレイナー・ソフィア美術館で、珍しい回顧展があるのですよ。誰れのだと思われますか?」 「巨匠じゃないとすると……、一体誰れだろう……」しばらく考えていると、「ソール・スタインバーグですよ」
追い打ちをかけるように、ベローがつぶやいた「スタインバーグは前の価格では、今、もう出せなくなりましたよ」
1年後のことに、ここでももうこのような反応が出ている。
超一流画廊の情報採集網のすごさ、機敏なしたたかさ、そして、「ここまで、するのかよ」と言いたくなる、あくなき利益の追求。とにかく、彼等はビジネスで、高価な作品だろうが、安価な作品だろうが、扱っているものに関しては、いささかの≪隙(スキ)≫もつくらない。
『超一流』という名は、ダテにはつかない。
(ささぬまとしき)
■笹沼俊樹 Toshiki SASANUMA(1939-)
1939年、東京生まれ。商社で東京、ニューヨークに勤務。趣味で始めた現代美術コレクションだが、独自にその手法を模索し、国内外の国公立・私立美術館等にも認められる質の高いコレクションで知られる。企画展への作品貸し出しも多い。駐在中の体験をもとにアメリカ企業のメセナ活動について論じた「メセナABC」を『美術手帖』に連載。その他、新聞・雑誌等への寄稿多数。
主な著書:『企業の文化資本』(日刊工業新聞社、1992年)、「今日のパトロン、アメリカ企業と美術」『美術手帖』(美術出版社、1985年7月号)、「メセナABC」『美術手帖』(美術出版社、1993年1月号~12月号、毎月連載)他。
※笹沼俊樹さんへの質問、今後エッセイで取り上げてもらいたい事などございましたら、コメント欄よりご連絡ください。
●書籍のご紹介
笹沼俊樹
『現代美術コレクションの楽しみ―商社マン・コレクターからのニューヨーク便り』
2013年
三元社 発行
171ページ
18.8x13.0cm
税込1,944円(税込)
※送料別途250円
舞台は、現代美術全盛のNY(ニューヨーク)。
駆け出しコレクターが摩天楼で手にしたものは…
“作品を売らない”伝説の一流画廊ピエール・マティスとのスリリングな駆け引き、リーマン・ブラザーズCEOが倒産寸前に売りに出したコレクション!? クセのある欧米コレクターから「日本美術」を買い戻すには…。ニューヨーク画商界の一記録としても貴重な前代未聞のエピソードの数々。趣味が高じて、今では国内外で認められるコレクターとなった著者がコレクションの醍醐味をお届けします。(本書帯より転載)
目次(抄):
I コレクションは病
II コレクションの基礎固め
III 「売約済みです」―ピエール・マティスの想い出
IV 従来のコレクション手法を壊し、より自由に―ジョエル・シャピロのケース
V 欧米で日本の美を追う
---------------------------
●「オノサト・トシノブ展―初期具象から晩年まで」から1980年代の版画作品をご紹介します。
出品No.77)
オノサト・トシノブ
「A.S.-13」
1982年
シルクスクリーン
Image size: 20.0x20.0cm
Ed.150 サインあり
※レゾネNo.191
出品No.78)
オノサト・トシノブ
「F-4」
1982年
シルクスクリーン
Image size: 15.0x15.0cm
Ed.200 サインあり
※レゾネNo.192
※福井オノサトの会エディション
出品No.79)
オノサト・トシノブ
「F-5」
1982年
シルクスクリーン
Image size: 15.0x15.0cm
Ed.200 サインあり
※レゾネNo.193
※福井オノサトの会エディション
出品No.80)
オノサト・トシノブ
「F-6」
1982年
シルクスクリーン
Image size: 15.0x15.0cm
Ed.200 サインあり
※レゾネNo.194
※福井オノサトの会エディション
出品No.81)
オノサト・トシノブ
「F-7」
1982年
シルクスクリーン
Image size: 10.0x10.0cm
Ed.200 サインあり
※レゾネNo.195
※福井オノサトの会エディション
出品No.82)
オノサト・トシノブ
「A.S.-14」
1983年
シルクスクリーン
Image size: 30.0x30.0cm
Ed.150 サインあり
※レゾネNo.196
出品No.83)
オノサト・トシノブ
「A.S.-17」
1984年
シルクスクリーン
Image size: 60.5x72.5cm
Ed.100 サインあり
※レゾネNo.200
出品No.84)
オノサト・トシノブ
「F-8」
1984年
シルクスクリーン
Image size: 60.5x72.5cm
Ed.100 サインあり
※レゾネNo.201
※福井オノサトの会エディション
出品No.85)
オノサト・トシノブ
「F-9」
1985年
シルクスクリーン
Image size: 22.0x27.2cm
Ed.100 サインあり
※レゾネNo.205
※福井オノサトの会エディション
出品No.86)
オノサト・トシノブ
「F-10」
1985年
シルクスクリーン
Image size: 22.0x27.2cm
Ed.100 サインあり
※レゾネNo.206
※福井オノサトの会エディション
出品No.87)
オノサト・トシノブ
「A.S.-21」
1986年
リトグラフ
Image size: 35.0x42.0cm
Ed.70 サインあり
※レゾネNo.208
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆「オノサト・トシノブ展―初期具象から晩年まで」は本日が最終日です。
夜19時まで開廊していますのでどうぞお出かけください。
1934年の長崎風景をはじめとする戦前戦後の具象作品から、1950年代のベタ丸を経て晩年までの油彩、水彩、版画をご覧いただき、オノサト・トシノブ(1912~1986)の表現の変遷をたどります。
会場が狭いので実際に展示するのは20数点ですが、作品はシートを含め92点を用意したのでお声をかけてくれればば全作品をご覧にいれます。
全92点のリストはホームページに掲載しました。
価格リストをご希望の方は、「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してメールにてお申し込みください。
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●作家と作品については亭主の駄文「オノサト・トシノブの世界」をお読みください。
「超一流の画廊のしたたかさ」
『超一流の○○』という言葉の響きは実に良い。これを耳にした時、“老舗”などであると、「接客の作法は洗練されていて、扱い商品は極上、店内の雰囲気もこの上なく上品」というようなイメージを思い浮べ、大方の人は「その名以上のもの」を連想するケースが多いようだ。確かに、ニューヨークやパリで、この手の店を訪れてみると、その気配は十分に感じられる。
一方、このような“高み”に昇りつめた連中と、利害が絡むビジネスの場で、手合せをした時、言いようのない「したたかさ」を感じた事が少なくない。「ここまで、するのかよ!!」と何回も、つぶやいたことを思い出す。俗に、世界で『超一流』と言われているものには、外見ほどに、美化された甘さはない。
さらに、「これだから、この位置まで登りつめたのでは……」とさえ感じさせるものが、いささか気どった、上品でスマートな彼らの≪衣装≫の下に見え隠れしていた。人は見た目ほど、単純ではない。
エッセイの中で度々記述した超一流画廊で、実際に手合せを何回かした時、発生した事は、今でも脳裏に鮮明に残っている。
■ ■
June 15, 1989〔Art-Fairで〕
Xのブースに寄った。デュビュッフェ〔1901-1985〕の最晩期に制作された三種類のシリーズの作品が展示されていた。よく売れている。この中に、際立った作品が1点あった。1984年9月17日に制作された“Lit du Tarrent Non-Lieu LI”。サイズ〔90x60〕cm。今迄に見たことのないイメージで、質のよいものだった。
「これ、価格は?」と店員にたずねると、「$125,000.-です」 聞きもしないのに、続けて、「これは予約済みです」とつぶやく。
「今、デュビュッフェはどんな状況?」
「このMireのシリーズで良い作品は、2年前の約2倍の価格になってます。デュビュッフェは、まだまだあがりますよ」
+
店員は、この作品のタイトルの中に示されている“Non-Lieu”のシリーズとは言わず、Mireのシリーズと言っていた。他界する8ヵ月前に、作家が紡ぎだしたこのあまりにも変ったイメージを“Mire”と判断したのかも……。それ程、この作品は特異なものだった。おそらく、このアートフェアーで、沢山の人々がこの作品に興味を示したに違いない。
“Lit du Tarrent Non-Lieu LI”1984
〔90x60〕cm
デュビュッフェの逝去は1985年5月だったので、なくなる8ヶ月前にこの作品を制作。今迄になかったImageで、色彩のCombinationも珍しい作品。
■ ■
この翌年、このArt-Fairで意外な事に遭遇。
+
June 17, 1990Xのブースは80%ぐらいがデュビュッフェの作品で埋められていた。
驚いたことに、去年、「予約済み」と言っていた“Lit du Tarrent Non Lieu LI”が、また展示されていた。「どう言うことだ」と独り言。
価格を聞くと、なんと、「$350,000.-」
去年の約3倍。あきれて、声も出ない。店員に、「Non-LieuやMireのシリーズで、並の質の作品で、いくらぐらい?」とたずねてみた。「2シリーズとも、サイズが同じですと、同価格で、現在、このサイズ〔90x60〕cmですと、$280,000.-です」
“Lit du Tarrent”に関しては、並の作品とは$70,000.-の差異をつけている。〔通常、近作の場合、あまり差異が出ない〕
このような現象がでてくると、コレクターの眼力が重要になってくる。
+
前述の1989年6月15日の日記の中にあるように、店員はXの“体質”を暗示するような言葉を2つ吐いていた。「これ予約済みです」「デュビュッフェは、まだまだ上ります」これを聞いた時、真にうけ「良い作品は強いな」と単純に思った。あれだけの人々が、この作品に群がっていたのだから当り前の見方だ。
1年後、再び、このブースで、この作品を眼にした時、「ハッ」とした。同時に、あの2つの言葉に“異った意味”を感じた。さらに、価格を聞いた時、「これが彼等の本性じゃないか……」と思わずつぶやいた。
マーケット分析を緻密にしている。「デュビュッフェはまだまだ上る」というkeyの動向をつかむと、そこから戦術が始まる。「良質の作品は、目一杯の高値で売るタイミングを探り、売り止め」 それを「予約済みです」と気の利いた言いまわしで表現。実に≪予約:Reserve≫という単語の使い方がうまい。「予約した人が断念した」と再展示を正統化できる。
さらに、良質の作品には、売り頃とみるや「これで買うなら売ってやる」という価格をつけてくる。「あくなき利益の追求」によって、彼等は現在の位置を築き、そして、その位置を守ってゆく。
コレクターとは因果なもの。上質な作品を入手する為には、こういうタイプの商人〔アキンド〕でも、避けるわけにはいかない。「虎穴に入らずんば、虎児を得ず」 現実を現実としてのみ込み、これに対応して、自分側の防御体制をこれ以上できない程かためて手合せをする。なんとも、痛ましいコレクターの性である。
■ ■
June 15, 1994
朝10時頃、時間があったので、Xをのぞく。ソール・スタインバーグ〔米:1914-1999〕の去年目にとまった作品が売れずに展示されていた。価格は$10,000.-。サイズは〔75x55〕cmぐらい。1年前から気になっていた作品だった。「この価格は安い」と思った。作品の質も良く、全盛期に描かれたものでもある。予約した。条件も了解しあった。
この作品の技法<Stampted Drawing>を確認したかったので、翌早朝、ホテルからFAXを送った。〔紙に、1種類のパターンのスタンプを連続的に押して、イメージ〔中国の風景〕を描く。大変めずらしい作品〕
+
その日のうちに、返事がホテルに届いていた。+
I wanted to let you know anyhow that we had a client yesterday in the afternoon who reserved Steinberg's that work and will probably buy it. I am very sorry !「なんとかして、知らせようと思っていたのですが……。昨日の午後、お客がスタインバーグのあの作品を予約しました。おそらく、それを買うと思います。大変申し訳ない」
〔ここでも“Reserve”と“Probably”という単語をうまく使っている〕
+
質問は全く無視。自分達の非を棚上げした非礼で、事務的な文面のことわり状だった。予約した時、互に取り決めを了承。それなのに「なぜ?」 「午前中に予約したのに、午後来た客が予約したから、それに売る」とは何? この理不尽さにあきれる。しかし、以前に、この画廊で「オヤ?」と思う現象に何回も遭遇していたので、冷静さを取り戻すことには時間がかからなかった。不幸中の幸いは、自分の中心的な関心の作家の作品ではなかったことだ。
後の事も考え、これを風と流すことにした。
翌年、いつものようにXに立ち寄った。
+
June 17, 1995前年、スタインバーグの件で対応した女性がいたので、<体質>を見きわめるケース・スタディーだと思い、なにくわぬ顔をして、「スタインバーグのあの作品はある?」と聞いてみる。在庫をcheckして戻ってきた。「ありますわよ」と平然として一言。「またか……。去年のFAXは何だったのか?」と思った。「価格は?」と聞くと、「$25,000.-」。この時、思った。「去年、あの時、背後で何か起っていたな……」 これ以上のことは何も聞かなかった。
+
出張はパリを回って戻ることにした。パリでは時間が余ったので、超一流画廊のGalerie Lelongで雑談でもと思って立ち寄った。+
June 26, 1995〔Galerie Lelong at Paris〕タピエスやチリダ、F・ベーコンなどの市場の事につき話していると、ベローが「来年、マドリードのレイナー・ソフィア美術館で、珍しい回顧展があるのですよ。誰れのだと思われますか?」 「巨匠じゃないとすると……、一体誰れだろう……」しばらく考えていると、「ソール・スタインバーグですよ」
+
「やっぱり!! あれの導火線はこれだ」と思った。ヨーロッパでは、レイナー・ソフィアで回顧展がかかった作家は、ほとんどが「価格の高騰の現象が出る」ので、画商はいつも、これを注視している。追い打ちをかけるように、ベローがつぶやいた「スタインバーグは前の価格では、今、もう出せなくなりましたよ」
1年後のことに、ここでももうこのような反応が出ている。
超一流画廊の情報採集網のすごさ、機敏なしたたかさ、そして、「ここまで、するのかよ」と言いたくなる、あくなき利益の追求。とにかく、彼等はビジネスで、高価な作品だろうが、安価な作品だろうが、扱っているものに関しては、いささかの≪隙(スキ)≫もつくらない。
『超一流』という名は、ダテにはつかない。
(ささぬまとしき)
■笹沼俊樹 Toshiki SASANUMA(1939-)
1939年、東京生まれ。商社で東京、ニューヨークに勤務。趣味で始めた現代美術コレクションだが、独自にその手法を模索し、国内外の国公立・私立美術館等にも認められる質の高いコレクションで知られる。企画展への作品貸し出しも多い。駐在中の体験をもとにアメリカ企業のメセナ活動について論じた「メセナABC」を『美術手帖』に連載。その他、新聞・雑誌等への寄稿多数。
主な著書:『企業の文化資本』(日刊工業新聞社、1992年)、「今日のパトロン、アメリカ企業と美術」『美術手帖』(美術出版社、1985年7月号)、「メセナABC」『美術手帖』(美術出版社、1993年1月号~12月号、毎月連載)他。
※笹沼俊樹さんへの質問、今後エッセイで取り上げてもらいたい事などございましたら、コメント欄よりご連絡ください。
●書籍のご紹介
笹沼俊樹『現代美術コレクションの楽しみ―商社マン・コレクターからのニューヨーク便り』
2013年
三元社 発行
171ページ
18.8x13.0cm
税込1,944円(税込)
※送料別途250円
舞台は、現代美術全盛のNY(ニューヨーク)。
駆け出しコレクターが摩天楼で手にしたものは…
“作品を売らない”伝説の一流画廊ピエール・マティスとのスリリングな駆け引き、リーマン・ブラザーズCEOが倒産寸前に売りに出したコレクション!? クセのある欧米コレクターから「日本美術」を買い戻すには…。ニューヨーク画商界の一記録としても貴重な前代未聞のエピソードの数々。趣味が高じて、今では国内外で認められるコレクターとなった著者がコレクションの醍醐味をお届けします。(本書帯より転載)
目次(抄):
I コレクションは病
II コレクションの基礎固め
III 「売約済みです」―ピエール・マティスの想い出
IV 従来のコレクション手法を壊し、より自由に―ジョエル・シャピロのケース
V 欧米で日本の美を追う
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●「オノサト・トシノブ展―初期具象から晩年まで」から1980年代の版画作品をご紹介します。
出品No.77)オノサト・トシノブ
「A.S.-13」
1982年
シルクスクリーン
Image size: 20.0x20.0cm
Ed.150 サインあり
※レゾネNo.191
出品No.78)オノサト・トシノブ
「F-4」
1982年
シルクスクリーン
Image size: 15.0x15.0cm
Ed.200 サインあり
※レゾネNo.192
※福井オノサトの会エディション
出品No.79)オノサト・トシノブ
「F-5」
1982年
シルクスクリーン
Image size: 15.0x15.0cm
Ed.200 サインあり
※レゾネNo.193
※福井オノサトの会エディション
出品No.80)オノサト・トシノブ
「F-6」
1982年
シルクスクリーン
Image size: 15.0x15.0cm
Ed.200 サインあり
※レゾネNo.194
※福井オノサトの会エディション
出品No.81)オノサト・トシノブ
「F-7」
1982年
シルクスクリーン
Image size: 10.0x10.0cm
Ed.200 サインあり
※レゾネNo.195
※福井オノサトの会エディション
出品No.82)オノサト・トシノブ
「A.S.-14」
1983年
シルクスクリーン
Image size: 30.0x30.0cm
Ed.150 サインあり
※レゾネNo.196
出品No.83)オノサト・トシノブ
「A.S.-17」
1984年
シルクスクリーン
Image size: 60.5x72.5cm
Ed.100 サインあり
※レゾネNo.200
出品No.84)オノサト・トシノブ
「F-8」
1984年
シルクスクリーン
Image size: 60.5x72.5cm
Ed.100 サインあり
※レゾネNo.201
※福井オノサトの会エディション
出品No.85)オノサト・トシノブ
「F-9」
1985年
シルクスクリーン
Image size: 22.0x27.2cm
Ed.100 サインあり
※レゾネNo.205
※福井オノサトの会エディション
出品No.86)オノサト・トシノブ
「F-10」
1985年
シルクスクリーン
Image size: 22.0x27.2cm
Ed.100 サインあり
※レゾネNo.206
※福井オノサトの会エディション
出品No.87)オノサト・トシノブ
「A.S.-21」
1986年
リトグラフ
Image size: 35.0x42.0cm
Ed.70 サインあり
※レゾネNo.208
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆「オノサト・トシノブ展―初期具象から晩年まで」は本日が最終日です。
夜19時まで開廊していますのでどうぞお出かけください。
1934年の長崎風景をはじめとする戦前戦後の具象作品から、1950年代のベタ丸を経て晩年までの油彩、水彩、版画をご覧いただき、オノサト・トシノブ(1912~1986)の表現の変遷をたどります。会場が狭いので実際に展示するのは20数点ですが、作品はシートを含め92点を用意したのでお声をかけてくれればば全作品をご覧にいれます。
全92点のリストはホームページに掲載しました。
価格リストをご希望の方は、「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してメールにてお申し込みください。
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●作家と作品については亭主の駄文「オノサト・トシノブの世界」をお読みください。
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