瀧口修造とマルセル・デュシャン(補遺2)―富山県美術館の開館 [前編]

土渕信彦


去る8月26日(土)、瀧口修造の故郷である富山に、新しい県立美術館「富山県美術館」が開館した。旧富山県立近代美術館は1981年の開館後35年間にわたって親しまれてきたが、老朽化したため2016年12月をもって閉館し、新設することになったそうである。単なる移転でないことは、名称から「近代」が外されていることからも判る。では何が異なるのだろう? 何よりも、同館が所蔵していた20世紀美術の素晴らしいコレクションや、内外のアーティストから瀧口に贈られ、没後、遺族から寄贈された貴重な作品やオブジェはどうなっているのだろう? 開館3日目の8月28日(月)に訪れ、実際に確認してきたので、以下、簡単にレポートする。

前週末から滞在していた大阪を午前7時過ぎに出発し、11時前に富山駅に到着した。新美術館は駅の北側(旧近代美術館とは反対側)の木場町に建設されており、新幹線改札口のある南口から、北口に回らなければならない。構内案内板に記載された南北自由通路は未完成とのこと。地下道を捜してやっと北口にまわる。地上に出ると、後の径路は判り易く、7~8分ほどで神通川支流沿いの道に出る。空が大きく拡がって気持ちがよい。遠くに美術館の建物も見える(図1)。対岸に渡ると運河があり、周辺がカナルパーク「富岩運河環水公園」として整備されている。クルーズ船も就航している(図2)。公園内をぶらぶら歩き、美術館に到着(駅から15分ほど)。

図1 美術館遠望図1
美術館遠望


図2 クルーズ船図2
クルーズ船(帰路に撮影)


外壁がガラス張りの瀟洒な建物だ(図3,4)。設計は内藤廣建築設計事務所。近年ではこうしたガラス張りを取り入れた美術館や、周囲に水を湛えた美術館なども増加している。確かに建物自体の佇まいは美しく、親近感や開放感も演出できるが、将来、収蔵品の維持・管理や館全体の空調などに問題が出ないか、少し心配でもある。この美術館ではエントランスに水ではなく白い石材が貼り廻らされており、照り返しが少々キツかった(図5)。自動車普及率が1世帯平均1.7台と、全国でも1・2を争う富山県では、車での来館者が大半なのだろう。だが、海外・県外からの来館者のなかには、タクシー代を節約したいバッグパッカーや学生、私のような貧乏コレクターも居ることだろう。駅からのアクセスの整備、案内板の設置、コインロッカーの増設なども含め、もう少し徒歩の来館者に対する配慮があっても良いと思う。なお、路線バスが20分に1本運行されているようなので、付記しておく。

図3 建物1図3
美術館


図4 建物2図4
美術館全景(美術館ホームページより)


図5 照り返し図5
エントランス


入口正面の受付で、知り合いの学芸員氏が在館か尋ねたが、他の県立施設に出掛けていて不在とのこと。アポなしだから仕方がない。1階には小さな展示スペース「TADギャラリー」があり(図6)、道路側のガラス壁面沿いにはミュージアム・ショップ、その向こうにカフェが置かれるが、大半のスペースは屋内駐車場に充てられている。車での来館者には便利だろう。地下フロアがないのは地盤の制約なのかもしれない。

図6 フロアマップ1階図6
1階フロアマップ(美術館ホームページより)


エスカレーターで2階に上がると、ホワイエと常設展示室1・2となる(図7)。ここには旧近代美術館から引き継いだ20世紀美術のコレクションが展示され、「開館記念展 LIFE」は奥の展示室3・4で展示されていた。旧近代美術館では2階の常設展を観ずに、1階の企画展だけで帰る来館者もいたそうなので、工夫したようだ。常設展示が「自然・風景」「肖像」などのテーマ別なのも、親しみやすさを優先したものかもしれない(図8,9)。だが、名品が揃いなのに対して小さな壁面やブースが続き、少し息苦しさを覚えたのも事実である。「20世紀美術の流れ」に沿ってゆったりと廻廊を廻る、旧近代美術館の展示が懐かしく感じられた。

図7 フロアマップ2階図7
2階フロアマップ(美術館ホームページより)


図8 常設展示図8
常設展示


図9 展示常設2図9
同上


新収蔵品としてレオナール・フジタの「二人の裸婦」(1929年。油彩、178×94.2㎝)が加えられ、作品の傍らに購入協力者や企業のリストも表示されていた。旧近代美術館のコレクションの欠落を補う作品と位置付けられているようだ。展示室を出ると、三沢厚彦の大きなシロクマが展示されている(図10)。同じポーズで記念撮影する人も見かけた。2階の屋外広場(テラス)にも小ぶりのクマが設置されている(図11)。人気コーナーとなることだろう。開館記念展については後で触れる。

図10 シロクマ図10
三沢厚彦「ANIMALS」より「クマ」


図11 屋外広場図11
屋外広場


3階に上がるとアトリエがあり、ワークショップなどに使われる。アトリエ奥の左側には、ポスターと椅子を展示する展示室5があり(図12)、右側はレストランとなる。東京日本橋の老舗洋食店が出店し、通路まで行列が続いていた。展示室5の内部には、左手にポスターが掛けられ、右手に椅子が展示されている。ガウディ・チェアなど、実際に腰かけられる椅子もある(図13,14)。右側の壁面に設けられた通路を入って、左側が展示室6となる。瀧口の遺族から寄贈された作品・オブジェなどはここに展示されている。「美術館の肝」とも言える最奥の位置だが、意識していないと見落すこともあるだろう。案内板か順路の表示が欲しいところだ。

図12 フロアマップ3階図12
3階フロアマップ


図13 展示室5図13
展示室5内部


図14 ガウディ・チェア図14
ガウディ・チェア


後編へつづく(明日掲載します)

つちぶち のぶひこ

●展覧会のご紹介
チラシ1チラシ2


チラシ3チラシ4

「富山県美術館開館記念展 Part1 生命と美の物語 LIFE - 楽園をもとめて」
(同時開催:コレクション展 I)
会期:2017年8月26日[土] ~11月5日[日]
会場:富山県美術館
時間:9:30~18:00(入館は17:30まで)
休館:水曜日(祝日を除く)、祝日の翌日 ※11月4日は臨時開館

古来より現在まで、多くの作品が「生命=LIFE」をテーマに生み出されてきました。古今東西の芸術家たちがこのテーマに関心を持ち、作品を通してその本質を明らかにしようとしてきたのは、それが私たち人間にとってもっとも身近で切実なものであったからにほかなりません。      本展は、富山県美術館(TAD)の開館記念展の第一弾として、アートの根源的なテーマである「LIFE」を「『すばらしい世界=楽園』をもとめる旅」ととらえ、「子ども」「愛」「日常」「感情」「夢」「死」「プリミティブ」「自然」の8つの章により構成し、国内外の美術館コレクションの優品を中心とした約170点を紹介するものです。ルノワールなどの印象派から、クリムト、シーレなどのウィーン世紀末美術、ピカソ、シャガールなどの20世紀のモダンアート、青木繁、下村観山などの日本近代絵画、折元立身、三沢厚彦などの現代アートまで、生命と美の深い関わりについて考察し、この富山県美術館でしか体験できない、新たなアートとの出会いを創出します。(富山県美術館HPより転載)

●今日のお勧め作品は、瀧口修造です。
20171008_takiguchi_IV_02瀧口修造
《IV-02》
1961年
紙に水彩
イメージサイズ:9.7×9.0cm
シートサイズ:12.3×9.0cm
額裏にサイン・年記あり


こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

◆イベントのご案内
10月27日(金)18時~中尾拓哉ギャラリートーク<マルセル・デュシャン、語録とチェス>
『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』刊行記念
*要予約:参加費1,000円

10月31日(火)16時~「細江英公写真展」オープニング
細江先生を囲んでのレセプションはどなたでも参加できます。

11月8日(水)18時飯沢耕太郎ギャラリートーク<細江英公の世界(仮)
*要予約:参加費1,000円

11月16日(木)18時より 植田実・今村創平ギャラリートーク<ポンピドーセンター・メス「ジャパン・ネス 1945年以降の日本における建築と都市」展をめぐって(仮)>
*要予約:参加費1,000円
ギャラリートークへの参加希望は、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記の上、メールにてお申し込みください。twitterやfacebookのメッセージでは受け付けておりません。当方からの「予約受付」の返信を以ってご予約完了となりますので、返信が無い場合は恐れ入りますがご連絡ください。
E-mail: info@tokinowasuremono.com