瓢箪(ひょうたん)からキューバ-偶然の賜物(たまもの)だったドイツ個展と写真集出版
<第4回・最終回>味わい深いキューバの詩。来場者との心の交流


<前回までのあらすじ>2013年夏のキューバ滞在の際に撮った写真とムービーが、偶然のきっかけから京都国際写真祭『KYOTO GRAPHIE KG+』の写真個展(2015年5月)、2017年11月から12月のドイツ・ミュンヘンでの写真個展、写真集出版に結びついた。国立図書館への写真集納本などのためベルリンを訪ね、写真集は旧東ベルリンエリアの写真・アート専門書店で扱われることになった。

◇素晴らしい味わいのキューバの詩
今回の展示ではミクストインスタレーションの一つとして、キューバの詩人の詩を写真布幕にテキストとしてプリントし、英訳を別に展示。なかなか知られることのないキューバの詩に、現地の人たちは、深い感銘を受けていたようだった。展示したキューバの詩の一部をご紹介する。

19<写真22>マヌエル・ナバロ・ルナ



その答えは
たそがれと夜明け
鳩と星
薔薇と泉
路上の貴重な贈物。
とげでなくて花弁
暗闇でなくて光
苦悩でなくて口づけ。

<「父の詩」マヌエル・ナバロ・ルナ 『現代キューバ詞華集』(思潮社 1972年)より>

時は今なお立っている。
アーモンドと西洋杉の樹で囲われた
重苦しい雨をはらんだ空の下
古色蒼然たる壁面の
学校の中庭に
眼がくらむ程に燃えながら
無垢なまま

<「存在」アルシデス・イズナガ 『現代キューバ詞華集』(思潮社 1972年)より>

20<写真23>ハバナの裏町(写真集『CUBA monochrome』から)



僕の目前に、午後は音なく姿をあらわす
僕は息づまる部屋にひきこもる。
午後の輝きは
木々を緑に
子供の頬を大理石の白さに
建物の対照的な色合いをあざやかにしている。
これは ほんの一瞬のこと。
木々も子供も建物も
僕の心の中では
脅える午後と一緒になってしまうのだ。

<「孤独」アルシデス・イズナガ 『現代キューバ詞華集』(思潮社 1972年)より>

わずかの疑いももたず
僕らは 生きている。

一昨日 できあがったばかりの
この陽のあたる島で
太い綱で結ばれた
太陽の色のことばの中で
僕らは 生きる。

<「僕らは生きる」ビクトル・カサウス 『現代キューバ詞華集』(思潮社 1972年)より>


◇心の奥底で通じた来場者との交流―ドイツ写真展の収穫
今回の初めての海外写真展では、さまざまな人たちと出会ったのが大きな財産だった。ドイツではほとんどの人が英語を話し、まるで英語圏にいるような錯覚におちいるほど。ギャラリーでは作品を見てくださった多くの人に声をかけ、新しい友人や知人を得ることができた。

21<写真24>写真展会場を訪れた人たち-facebookから(1)


22<写真25>写真展会場を訪れたひとたち(2)。ハンガリーから見に来てくれた大学の先生。ハンガリーの雑誌に写真展や写真集のことをレビューしてくださるとのことだった。(写真上)。


23<写真26>ゲストブックには好意的なメッセージが多数。


24<写真27>たまたま旅行中に、外に貼ってあった写真展のポスターを見て閉廊ぎりぎりに立ち寄ってくれたイスタンブールからの理系女子学生。写真集を持ち帰り、現地の友人たちに紹介してくれるとのこと。


写真展『CUBA monochrome』は、場所柄が大学街で人通りも多く、通りに面して貼ってあったポスターや、フライヤーを見て、たくさんの人たちが来場した。赤ちゃん連れの若い夫婦から年配の方、学生や大学の先生など来場者もさまざま。大型の写真布幕とムービーとキューバの詩で構成されたインスタレーションが珍しかったのか、多くの方から好意的な評価をいただいた。来場者の一人のアーティストにインタビューを試み、快く写真展の印象を率直に語ってくれた。「センシティブで琴線に触れるとても良い写真展」との言葉をいただいた。写真展の意図や写真を本当に深く感じ、理解してくれていたのがうれしかった。


心の底で通じた来場者へのインタビュー

一方、ミュンヘンにいる間に、ベルリンやパリ、ロンドンの写真関係の美術館、ギャラリー、出版社などに写真集を送ったところ、パリにあるヨーロッパ写真美術館やキューバ大使館から感謝メールが届いたのをはじめ、パリの写真美術館『LE BAL(ル・バル)』から「大変興味深いプロジェクトで、(マグナムで活躍した)館長が写真集をレビューする」というメッセージをいただいた。また、パリの美術館『JEU DE PAUME』からは「写真集を当美術館のライブラリーに収蔵する」というメッセージが届いた。

23<写真28>写真集『CUBA monochrome』は、パリにあるヨーロッパ写真美術館、写真専門美術館『LE BAL』、『ジュ・ド・ポーム国立美術館』の三つの美術館などに収蔵された。


「通底器」のように、言葉や文化、世界にいる場所は異なっても、心の奥底で、通じるものは通じる、精神的に交信できるということを、異国での写真展を通じ、改めて実感した。

偶然が偶然を呼び、実現した異国でのキューバ写真展と写真集出版。何もしなければ怠惰な日常に埋没して日々を過ごしていたかもしれない時間が、ふとした偶然から変容し人生の筋書きが書き換えられた。「偶然を必然に転化させる」(高梨豊)なにか大きな力が筆者に働きかけたのかもしれない。
「私は私の精神を偶然へ向けて舵取りする・・・」(ポール・ヴァレリー『アガート』)。何もしなければ何も生まれない。幸運の先っぽをつかんだら離さず、ひたすら目標へ向かって全力で突っ走る。今回のプロジェクトは偶然のなかに潜む必然のシグナルを逃さず、つかみ取ったことで生まれたと言ってよいだろう。

◆写真集『CUBA monochrome』(6800円)と、モノクロムービーのBlu-rayディスク(2800円)は京都のほか、東京、大阪などの一部の書店、ギャラリーで販売中。
ときの忘れもので扱っています。直接申し込みも可能(連絡先:書肆 夜の遊歩者e-mail: yorunoyuhosya@yahoo.co.jp)。詳しくは『CUBA monochrome』のfacebookサイトへ。

よるの ゆう

25■夜野 悠 Yu YORUNO
通信社記者を50代前半で早期退職後、パリを中心にカナダ、ドイツ、モロッコなど海外を中心に滞在、シュルレアリスム関係を中心に稀少書や作品などを蒐集する。2015年5月に国際写真祭『KYOTO GRAPHIE』のサテライトイベント『KG+』で、モノクロの写真・映像、キューバの詩で構成した写真展『古巴(キューバ)-モノクロームの午後』を開催。同年12月には京都写真クラブ主催の『第16回京都写真展 記憶論Ⅲ』で、『北朝鮮1987-消えゆく夢幻の風景』、2016年年12月の同展『記憶論Ⅳ』では写真とシュルレアリスムをモチーフにした写真インスタレーション『路上のVOLIERE(鳥かご)―路傍に佇む女神たち』を展示。2017年11月9日から12月3日までドイツ・ミュンヘンで写真展『CUBA monochrome』を開催。併せて写真集も出版。同年12月、京都写真展で『廃墟の時間-旧東ベルリン』を展示。2016年4月から2017年3月まで、ギャラリー『ときの忘れもの』の公式ブログにエッセイ『書斎の漂流物』を12回にわたって連載。


●本日のお勧め作品は、瀧口修造です。
20180114_takiguchi2014_I_12瀧口修造
"I-12"
インク、紙
イメージサイズ:31.3×25.5cm
シートサイズ :35.4×27.1cm
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。
21駒込内観ときの忘れものの小さな庭に彫刻家の島根紹さんの作品を2018年1月末まで屋外展示しています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。