<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第75回
(画像をクリックすると拡大します)
画面の中央からまっすぐにこちらを見つめる視線が強い。
大きなふたつの瞳は見開かれ、全神経が見ることに集中されている。
凝視する以外になにも出来ない心理状態にあるのだろう。
なぜか雌犬のように思えるが、
ここに写っているもののなかでもっとも存在感の強いのがこの顔なのは疑いようがない。
模様の付いた服を着ているために胴体が見えづらいことも手伝い、
見る側の意識は写真内の唯一の顔である彼女の顔面へと集まっていく。
もうひとつ目を引くのは犬と一緒に座っている飼い主の足である。
足は大きく組まれ、手にはタブレット型端末をもっている。
顔は端末に隠され、衣類に覆われていないむきだしの両足と片手だけが見えている。
犬の顔のちょうど真下に右足があり、左足のほうは奥に写っている右腕と並行している、
という図像的奇妙さが手足を身体から独立した別物に見せている。
そのためだろうか、はじめてこの写真を目にしたとき、犬の頭とこの手足がなんらかの繋がりを持っているように感じた。
頭は犬で、手足はニンゲン。
一瞬、そんな生き物が浮かんできたほど両者が合体して見えたのだ。
(まさか!と思ったら写真を拡大して、犬の顔と手足だけを5秒ほど凝視してください。)
ソファーにはタオルケットのようなものが敷かれている。
ご主人はさっきまでここに横になっていたのだろう。
いや、横になっていたのは犬のほうかもしれない。
クッションの下にタオルケットが挟み込まれ、一部が床に垂れている。
そのタオルケットの表情が若くはなさそうな雌犬の毛皮のたるみや毛並の手触りと重なる。
床のすり切れたカーペットもその連想に加担し、ソファーとその周辺は彼女のテリトリーなのだという確信をもつ。
この部屋は日本にあるのか。それともどこかよその国の一室なのか。
手がかりを求めようにもどこにも見当たらない。
背後の板張りの壁は無言だし、奥のパソコン・デスクも同様だ。
部屋ぜんたいに漂う無国籍な空気が、主人公はわたしよ、という彼女の主張を正当なものにしている。
この部屋に入ってきて彼女の大きな瞳に誰何されない者はいないだろう。
たじろげばたちまち怪しまれ、吠えたてられる。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●掲載写真のクレジット
© KOTAKI Yuko
●掲載写真のデータ
写真集「糸遊」より
●作家紹介
上瀧 由布子(こうたき・ゆうこ)
東京都出身。国立音楽大学音楽学部器楽学科ピアノ科卒業。ピアノ教師、小中学校音楽講師を経て
2012年秋より中村誠、小宮山桂の各氏に師事。現在 千葉県松戸市在住。
ウェブサイト: kotakiyuko.com
[個展]
2016年2月「空せ身」(エプソンイメージングギャラリー エプサイト/新宿)
2017年3月「糸遊」(銀座ニコンサロン/銀座)
●写真集のご紹介
上瀧由布子写真集『糸遊』
著者名:上瀧由布子
書名:『糸遊』
発行年月日:2019年2月21日
本体価格:3,800円
サイズ、造本仕様:A4変型、上製本
総頁数、作品点数:76、71点
発行部数:400部
編集発行人:大田通貴(蒼穹舎)
装幀:加藤勝也
印刷:株式会社サンエムカラー
●今日のお勧めは、イリナ・イオネスコです。
イリナ・イオネスコ
"Porte Doree 5"
(1998年プリント)
ゼラチンシルバープリント
14.4×9.8cm
Ed.10
サインあり
額付き
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。
*日・月・祝日は休廊。
(画像をクリックすると拡大します)画面の中央からまっすぐにこちらを見つめる視線が強い。
大きなふたつの瞳は見開かれ、全神経が見ることに集中されている。
凝視する以外になにも出来ない心理状態にあるのだろう。
なぜか雌犬のように思えるが、
ここに写っているもののなかでもっとも存在感の強いのがこの顔なのは疑いようがない。
模様の付いた服を着ているために胴体が見えづらいことも手伝い、
見る側の意識は写真内の唯一の顔である彼女の顔面へと集まっていく。
もうひとつ目を引くのは犬と一緒に座っている飼い主の足である。
足は大きく組まれ、手にはタブレット型端末をもっている。
顔は端末に隠され、衣類に覆われていないむきだしの両足と片手だけが見えている。
犬の顔のちょうど真下に右足があり、左足のほうは奥に写っている右腕と並行している、
という図像的奇妙さが手足を身体から独立した別物に見せている。
そのためだろうか、はじめてこの写真を目にしたとき、犬の頭とこの手足がなんらかの繋がりを持っているように感じた。
頭は犬で、手足はニンゲン。
一瞬、そんな生き物が浮かんできたほど両者が合体して見えたのだ。
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ソファーにはタオルケットのようなものが敷かれている。
ご主人はさっきまでここに横になっていたのだろう。
いや、横になっていたのは犬のほうかもしれない。
クッションの下にタオルケットが挟み込まれ、一部が床に垂れている。
そのタオルケットの表情が若くはなさそうな雌犬の毛皮のたるみや毛並の手触りと重なる。
床のすり切れたカーペットもその連想に加担し、ソファーとその周辺は彼女のテリトリーなのだという確信をもつ。
この部屋は日本にあるのか。それともどこかよその国の一室なのか。
手がかりを求めようにもどこにも見当たらない。
背後の板張りの壁は無言だし、奥のパソコン・デスクも同様だ。
部屋ぜんたいに漂う無国籍な空気が、主人公はわたしよ、という彼女の主張を正当なものにしている。
この部屋に入ってきて彼女の大きな瞳に誰何されない者はいないだろう。
たじろげばたちまち怪しまれ、吠えたてられる。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●掲載写真のクレジット
© KOTAKI Yuko
●掲載写真のデータ
写真集「糸遊」より
●作家紹介
上瀧 由布子(こうたき・ゆうこ)
東京都出身。国立音楽大学音楽学部器楽学科ピアノ科卒業。ピアノ教師、小中学校音楽講師を経て
2012年秋より中村誠、小宮山桂の各氏に師事。現在 千葉県松戸市在住。
ウェブサイト: kotakiyuko.com
[個展]
2016年2月「空せ身」(エプソンイメージングギャラリー エプサイト/新宿)
2017年3月「糸遊」(銀座ニコンサロン/銀座)
●写真集のご紹介
上瀧由布子写真集『糸遊』著者名:上瀧由布子
書名:『糸遊』
発行年月日:2019年2月21日
本体価格:3,800円
サイズ、造本仕様:A4変型、上製本
総頁数、作品点数:76、71点
発行部数:400部
編集発行人:大田通貴(蒼穹舎)
装幀:加藤勝也
印刷:株式会社サンエムカラー
●今日のお勧めは、イリナ・イオネスコです。
イリナ・イオネスコ"Porte Doree 5"
(1998年プリント)
ゼラチンシルバープリント
14.4×9.8cm
Ed.10
サインあり
額付き
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●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
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*日・月・祝日は休廊。
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