杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第58回
2021
新年明けましておめでとうございます。
この連載ブログも今回が第58回、始めてから5年近く経ちました。
私事になりますが、昨年はこの厳しい状況下で予定していた個展を延期せざるを得なくなりました。日本へ帰国することなくスイス国内で一年を過ごすことになりましたが、一方ではドローイングとオブジェクトをいくつか制作して、ウェブで紹介する機会を得たことは大きな一歩となりました。
現在、各国でいろいろなレベルでの行動制限はあると思います。そんな中でも、何を目標にして、そこに向かって走っていくかはその人次第。今年は一体どんな年になるのか、していくのか?こんな状況の中でも、わくわくするような楽しいことをできるだけ増やしていこうと思っています。
今回は冬休みにグラウビュンデン州のサンモリッツ (St.Moritz) へ訪れた時のことを綴ろうと思います。実は昨年も年末を過ごした、毎年恒例になりつつある行事です。
サンモリッツは僕の住んでいるクール市から電車でちょうど2時間離れた、標高1800mくらいのところにあるウィンタースポーツのメッカです。スイス初のスキーリフトがあり、冬季オリンピックも2回行われています。また、1時間程度で歩いて一周できる湖があるため、主に英国人の夏の保養地、そしてスキーリゾートとして有名になりました。
とはいえ、この冬は各国各地域で入国制限があったので、越境してくる人たちは去年に比べてだいぶ少なくなったように見えました。
僕たちは昨年に続き、友人が所有しているアパートに泊まらせてもらうことに。。
年末年始、クリスマス休暇で街のお店は空いているか閉まっているかわからない。レストランはホテルに併設されたものが宿泊客のためのみにオープンしている。とりわけクリスマス前後の時期は日用品や食料品が購入できるスーパー、駅内のお店でさえ閉まっている。
こんな状況では、湖沿いをゆっくりと散歩するに限ります笑。気温は氷点下10度近くあるものの、乾燥していてカラッと雲一つないくらいによく晴れているので、そこまで気温が低いと聞いて驚きます。雪にあたった光がキラキラと光って、眩しいくらい。。と感じているうちに、視界に違和感を感じました。なんとマスクをしていたせいで、吐く息に含まれた蒸気がマスク上部から漏れて、まつ毛を凍らせるというありえないことが起こっていたのです。

気を取り直して歩きながら湖を眺めると、雪が平原に積もったように見えます。湖が凍ってそこに雪が積もっているのです。毎年2月には、ここで馬の氷上レースが行われています。
同じように湖の周りにはポツポツと人がいるのを見かけます。ジョギングをしている人、犬を連れている人、子供をそりに乗せて引っ張っている人。。。こんなゆっくりとした時間を過ごすのは、過ごさざるを得ないのは、一体いつぶりだろう。。
自然の中に投げ出されてゆっくりと静かな風景の中にいると、自身が行動する速度も自然とゆっくりになっていくような気がします。大きなフレームの中で、自分だけがせかせかしているのも、不自然です。
思考しなければならないことも少なくなってくると、身の回りの時間の流れが、周りに合わせてゆっくりになっていく。そして普段気にもしなかったことに気づき考え始めるようになるのは不思議です。時間の流れというのは、もしかしたら自分で、周りの環境によって、受け取り方を変えることができるのかもしれない。
こんな時は決まって、普段の思考から180度反転したようなアイデアが思い浮かぶことがあるのだけれど笑。
湖をゆっくりと一周しながら、時に湖上へ降りて凍っている水面を歩いた後、友人宅へ戻って、定番のアルペンマカロニ (マカロニとジャガイモを茹でたものに、ベーコン、玉ねぎ、チーズと生クリームで作ったソースを絡め、アップルムースをかけたもの) を食べました。
ふと気づけば、スイス料理の濃い味付けにも慣れてきました。
2021年は念願の東京オリンピック。開催できるのでしょうか。
僕は延期になった個展を夏に行います。
ブログを読んでくださっている方々にお会いできることを楽しみに、日々制作をしています。
今年もよろしくお願いします。
(すぎやま こういちろう)
■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同アトリエ勤務。
2016年から同アトリエのワークショップチーフ、2017年からプロジェクトリーダー。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。”建築と社会の関係を視覚化する”メディア、アーキテクチャーフォトにて隔月13日に連載エッセイを綴っています。興味が湧いた方は合わせてご覧になってください。
●杉山幸一郎さんの連載エッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
*画廊亭主敬白
連休ですが厳しい寒さが続き、北陸を中心に記録的な大雪になるとのニュースがラジオから流れています。コロナウイルス禍に加え、雪の中で暮らす皆さんには心よりお見舞い申し上げます。
画廊では20数年前に創刊した『版画掌誌ときの忘れもの』全5号を初めて展示しています。亭主の壮大な意気込みに反し売れ行き不調で長い間眠っていたものですが、一昨8日に第1号掲載の松永伍一先生(三上誠論)の、昨9日には第2号掲載の植田実先生(磯崎新論)の論考を再録掲載しました。各号に意欲的な論考を寄せてくださった執筆者の労に報いるためにもブログで順次再録掲載しますので、お読みいただければ幸いです。
●本日のお勧め作品は『版画掌誌ときの忘れもの 第2号 磯崎新/山名文夫』 です。
建築のみならず歴史、芸術、文化への深い洞察に支えられた発言を続ける磯崎 新(b.1931)がインドを旅した折に描いたスケッチ帖の全92頁を完全収録し、グラフィックデザインの先駆者であり、資生堂化粧品を彩る優美なデザインスタイルを築き上げた山名文夫(1897-1980)を特集。
2000年刊行, B4判変型(32.3×26.2cm)、表紙シルクスクリーン刷り、本文28頁、限定=135部
磯崎新特集テキスト=植田実(建築評論家・編集者)
山名文夫特集テキスト=山口昌男(文化人類学者)、西村美香(日本近代デザイン史研究者)、渡部豁(陶芸家)
A版(限定35部)
磯崎新の新作銅版画《ファテプール・シクリ1》《ファテプール・シクリ2》《アグラの赤い城》《ファテプール・シクリ3》4点+山名文夫の木口木版画《蔵書票》1点とシルクスクリーンによるリプロダクション《(作品名不詳)》1点、計6点入り。
B版(限定100部)
磯崎新の新作銅版画《ファテプール・シクリ3》1点+山名文夫のシルクスクリーンによるリプロダクション《(作品名不詳)》1点、計2点入り。
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
◆ときの忘れものは「第2回エディション展/版画掌誌ときの忘れもの」を開催しています(予約制/WEB展)。
観覧ご希望のかたは事前に電話またはメールでご予約ください。
会期=2021年1月6日[水]—1月23日[土]*日・月・祝日休廊

『版画掌誌 ときの忘れもの』 は優れた同時代作家の紹介と、歴史の彼方に忘れ去られた作品の発掘を目指し創刊したオリジナル版画入り大型美術誌です。第1号~第5号の概要は1月6日ブログをご覧ください。
●塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」第2回を掲載しました。合わせて連載記念の特別頒布会を開催しています。
塩見允枝子先生には11月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきます。12月28日には第2回目の特別頒布会も開催しています。お気軽にお問い合わせください。
●多事多難だった昨年ですが(2020年の回顧はコチラをご覧ください)、今年も画廊空間とネット空間を往還しながら様々な企画を発信していきます。ブログは今年も年中無休です(昨年の執筆者50人をご紹介しました)。
●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。
もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
2021
新年明けましておめでとうございます。
この連載ブログも今回が第58回、始めてから5年近く経ちました。
私事になりますが、昨年はこの厳しい状況下で予定していた個展を延期せざるを得なくなりました。日本へ帰国することなくスイス国内で一年を過ごすことになりましたが、一方ではドローイングとオブジェクトをいくつか制作して、ウェブで紹介する機会を得たことは大きな一歩となりました。
現在、各国でいろいろなレベルでの行動制限はあると思います。そんな中でも、何を目標にして、そこに向かって走っていくかはその人次第。今年は一体どんな年になるのか、していくのか?こんな状況の中でも、わくわくするような楽しいことをできるだけ増やしていこうと思っています。
今回は冬休みにグラウビュンデン州のサンモリッツ (St.Moritz) へ訪れた時のことを綴ろうと思います。実は昨年も年末を過ごした、毎年恒例になりつつある行事です。
サンモリッツは僕の住んでいるクール市から電車でちょうど2時間離れた、標高1800mくらいのところにあるウィンタースポーツのメッカです。スイス初のスキーリフトがあり、冬季オリンピックも2回行われています。また、1時間程度で歩いて一周できる湖があるため、主に英国人の夏の保養地、そしてスキーリゾートとして有名になりました。
とはいえ、この冬は各国各地域で入国制限があったので、越境してくる人たちは去年に比べてだいぶ少なくなったように見えました。
僕たちは昨年に続き、友人が所有しているアパートに泊まらせてもらうことに。。
年末年始、クリスマス休暇で街のお店は空いているか閉まっているかわからない。レストランはホテルに併設されたものが宿泊客のためのみにオープンしている。とりわけクリスマス前後の時期は日用品や食料品が購入できるスーパー、駅内のお店でさえ閉まっている。
こんな状況では、湖沿いをゆっくりと散歩するに限ります笑。気温は氷点下10度近くあるものの、乾燥していてカラッと雲一つないくらいによく晴れているので、そこまで気温が低いと聞いて驚きます。雪にあたった光がキラキラと光って、眩しいくらい。。と感じているうちに、視界に違和感を感じました。なんとマスクをしていたせいで、吐く息に含まれた蒸気がマスク上部から漏れて、まつ毛を凍らせるというありえないことが起こっていたのです。

気を取り直して歩きながら湖を眺めると、雪が平原に積もったように見えます。湖が凍ってそこに雪が積もっているのです。毎年2月には、ここで馬の氷上レースが行われています。
同じように湖の周りにはポツポツと人がいるのを見かけます。ジョギングをしている人、犬を連れている人、子供をそりに乗せて引っ張っている人。。。こんなゆっくりとした時間を過ごすのは、過ごさざるを得ないのは、一体いつぶりだろう。。
自然の中に投げ出されてゆっくりと静かな風景の中にいると、自身が行動する速度も自然とゆっくりになっていくような気がします。大きなフレームの中で、自分だけがせかせかしているのも、不自然です。
思考しなければならないことも少なくなってくると、身の回りの時間の流れが、周りに合わせてゆっくりになっていく。そして普段気にもしなかったことに気づき考え始めるようになるのは不思議です。時間の流れというのは、もしかしたら自分で、周りの環境によって、受け取り方を変えることができるのかもしれない。
こんな時は決まって、普段の思考から180度反転したようなアイデアが思い浮かぶことがあるのだけれど笑。
湖をゆっくりと一周しながら、時に湖上へ降りて凍っている水面を歩いた後、友人宅へ戻って、定番のアルペンマカロニ (マカロニとジャガイモを茹でたものに、ベーコン、玉ねぎ、チーズと生クリームで作ったソースを絡め、アップルムースをかけたもの) を食べました。
ふと気づけば、スイス料理の濃い味付けにも慣れてきました。
2021年は念願の東京オリンピック。開催できるのでしょうか。
僕は延期になった個展を夏に行います。
ブログを読んでくださっている方々にお会いできることを楽しみに、日々制作をしています。
今年もよろしくお願いします。
(すぎやま こういちろう)
■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同アトリエ勤務。
2016年から同アトリエのワークショップチーフ、2017年からプロジェクトリーダー。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。”建築と社会の関係を視覚化する”メディア、アーキテクチャーフォトにて隔月13日に連載エッセイを綴っています。興味が湧いた方は合わせてご覧になってください。
●杉山幸一郎さんの連載エッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
*画廊亭主敬白
連休ですが厳しい寒さが続き、北陸を中心に記録的な大雪になるとのニュースがラジオから流れています。コロナウイルス禍に加え、雪の中で暮らす皆さんには心よりお見舞い申し上げます。
画廊では20数年前に創刊した『版画掌誌ときの忘れもの』全5号を初めて展示しています。亭主の壮大な意気込みに反し売れ行き不調で長い間眠っていたものですが、一昨8日に第1号掲載の松永伍一先生(三上誠論)の、昨9日には第2号掲載の植田実先生(磯崎新論)の論考を再録掲載しました。各号に意欲的な論考を寄せてくださった執筆者の労に報いるためにもブログで順次再録掲載しますので、お読みいただければ幸いです。
●本日のお勧め作品は『版画掌誌ときの忘れもの 第2号 磯崎新/山名文夫』 です。
建築のみならず歴史、芸術、文化への深い洞察に支えられた発言を続ける磯崎 新(b.1931)がインドを旅した折に描いたスケッチ帖の全92頁を完全収録し、グラフィックデザインの先駆者であり、資生堂化粧品を彩る優美なデザインスタイルを築き上げた山名文夫(1897-1980)を特集。
2000年刊行, B4判変型(32.3×26.2cm)、表紙シルクスクリーン刷り、本文28頁、限定=135部磯崎新特集テキスト=植田実(建築評論家・編集者)
山名文夫特集テキスト=山口昌男(文化人類学者)、西村美香(日本近代デザイン史研究者)、渡部豁(陶芸家)
A版(限定35部)
磯崎新の新作銅版画《ファテプール・シクリ1》《ファテプール・シクリ2》《アグラの赤い城》《ファテプール・シクリ3》4点+山名文夫の木口木版画《蔵書票》1点とシルクスクリーンによるリプロダクション《(作品名不詳)》1点、計6点入り。
B版(限定100部)
磯崎新の新作銅版画《ファテプール・シクリ3》1点+山名文夫のシルクスクリーンによるリプロダクション《(作品名不詳)》1点、計2点入り。
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
◆ときの忘れものは「第2回エディション展/版画掌誌ときの忘れもの」を開催しています(予約制/WEB展)。
観覧ご希望のかたは事前に電話またはメールでご予約ください。
会期=2021年1月6日[水]—1月23日[土]*日・月・祝日休廊
映像制作:WebマガジンColla:J 塩野哲也

『版画掌誌 ときの忘れもの』 は優れた同時代作家の紹介と、歴史の彼方に忘れ去られた作品の発掘を目指し創刊したオリジナル版画入り大型美術誌です。第1号~第5号の概要は1月6日ブログをご覧ください。
●塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」第2回を掲載しました。合わせて連載記念の特別頒布会を開催しています。
塩見允枝子先生には11月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきます。12月28日には第2回目の特別頒布会も開催しています。お気軽にお問い合わせください。●多事多難だった昨年ですが(2020年の回顧はコチラをご覧ください)、今年も画廊空間とネット空間を往還しながら様々な企画を発信していきます。ブログは今年も年中無休です(昨年の執筆者50人をご紹介しました)。
●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。
もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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